Ⅰ.台湾市場における日本食のニーズ
日本食の外食店舗は日系企業の経営によるものと、非日系企業の経営によるものがある。以 下は両方を含む日本外食産業へのニーズを整理したものである。
1.日本食の外食単価
価格設定について、台湾に進出している日系外食企業へヒアリングした。多くの日系外食企業 は、現地の日本駐在員を主なターゲットにするのではなく、現地住民を取り込むという営業戦略 にあるため、価格設定は現地の消費事情にあわせて行われている。近年、台湾の消費力は非 常に高くなり、日系外食企業の店頭価格は日本の店頭価格と大きな格差がない現状にある。
以下に、モスバーガーと日系寿司屋の店頭価格を示すので、台湾における外食価格として参 考願いたい。(1 元=約 3.5 円)
台湾摩斯漢堡(モスバーガー)店頭販売価格
シーフードライスバーガー 70元 焼肉ライスバーガー 65元 生姜焼きライスバーガー 60元 金平ライスバーガー 60元 モスチーズバーガー 70元 モスバーガー 65元 ホットチキンバーガー 65元
日系寿司屋(玄海)の店頭価格
なお、平均客単価は下表のようになっている。
(表6−1)日系外食企業の客単価
平均客単価 企 業
台湾元 日本円換算(円) イタリア料理外食レストラン 270-280 945-980
バーガー店 130 455
ファミリレストラン 250 875
寿司屋 昼 300、夜 1,200 昼 1,050、夜 4,200
トンカツ屋 300 1,050
※換算レート:1 元=3.5 円
出所:日系企業へのヒアリングによる
2.日本食への認識、主要消費者層
台湾では消費生活の近代化、洋風化とともに、日本の消費文化への親近性も増している。長 い歴史の中で独自の「日本式」食文化が定着したのとは別に、現代日本風の消費文化が若年層 を中心に評価されて、日常消費生活の中に取り込まれていく傾向にある。
最近は街の中に寿司店が増えている。今の台湾人は、日本料理に対して、懐石料理、松花堂 弁当よりも、刺身・寿司文化が浸透している。特に中高所得者層においてその傾向が著しい。な お台湾で刺身・寿司文化に火をつけたのは、30 年前に地元の業者により開店された「争鮮回転
今日のすすめ(時価)
真鯛刺身または煮付け 1,500元 かさご煮 380元 あゆ塩焼き 250元 いか刺身 360元 かわはぎ刺身 300元 トロさんま塩焼 320元 いか丸焼 600元 ぶり刺身 400元 生赤貝 380元 つぶ貝つまみ 150元 珍味3点セット 280元
寿司」である。現在台湾内 100 店舗を展開している。一方、「本場の味」を志向する台湾人も増え ており、これらの人々は本物の日本料理を求め、日経の寿司店を選択する傾向もみられる。
また、台湾は南国であるため懐石などの季節料理には敏感とはいえないが、最近、鍋料理な どは流行しており、一部で季節性を求めるようになってきている傾向がある。
日本食レストランの来店者の大半は台湾人となっていることは特筆すべき点である。また、料 理の内容も従来の加工的な日本食である「てんぷら」、「ヤキトリ」などから、日本の伝統的な素 材や調理法に対する関心が高まっている。
健康志向の高まりに伴い、日本食は中高所得層にかなり支持が拡大している。特にサラリーマ ンを中心とした中流階層の消費者増が近年目立っている。
日本食店舗の経営者も、非日系料理職人や関連企業が増加しており、日本食市場に厚みが 出てきている。
3.日本食の供給店舗
台湾における日本食の外食店舗は、日本で有名なシェフの店が数多く存在しており、個店ベ ースでの出店も増えつつある。一方チェーン展開においては、最大手のモスバーガー以外に、10 店舗以下の展開に留まってはいるが進出している企業も多々ある。
Ⅱ.日本企業が進出する際の留意点
1.日本側の理念をいかに守るのか
日本と台湾の文化の違いを明確に認識しておくことが重要である。日本食の調理法は、日本の オリジナルを離れ、台湾人の嗜好にあった形へ変化している。一方で、日本の味をもとめる顧客 も多い。このため、台湾の現地の味に調合することだけではなく、日本の風味をそのままに客に 提供することも検討すべきであろう。
2.移動手段の違いと商圏の見極め
日本の商圏は駅周辺に広がっているのに対して、台湾はバイク移動が多いため、駅周辺が商 圏とはならず、バイクが通るところはすべて商圏となる。このため台湾の商圏は幅が広く、集客 力のある場所が分散している。
店舗の立地を決める際に、車やバイクの移動時に見つけられる「目線」を重視しなければなら ない。
台湾の交通風景
3.フランチャイズ展開
日本の外食企業は、直営店を出しながら、店舗の大部分はフランチャイズで展開するケース バイクが多い街 店舗の前でもバイクがスラリ
が多い。これに対して、台湾で展開する日系外食企業は、直営店を中心に展開している。たとえ フランチャイズを行う場合でも、従業員への「のれん分け」のような形の展開が一般的である。
外食産業では、店舗を急速に拡大しブランドを確立できる有効手法のひとつとして、フランチャ イズの展開が有効と考えられている。日系外食企業が台湾に進出する時に、カルチャーの違い などから、サイズ、味、焼き具合などの調理法からホールのサービスまで、日本と同じように料理 やサービスを提供できるローカル企業を見つけることは非常に困難である。そのため、直営店の 形態を選択する日系企業がほとんどである。
更に直営店でも現地の従業員の教育で難しい点は、モチベーションを保ちながら同じ仕事を 続けさせることである。管理者が少し目を離せばマニュアル通りには仕事をしなくなるという問題 が、どこの企業でも抱えているようである。
4.人材確保
台湾のスタッフは日本のような定着性がない。条件のいいところがあればすぐ移っていくという のが一般的な考え方である。会社側もスカウトという行為をよく行う。
台湾の外食企業においては、人材面においては以下のような課題が残されている。
①外食店舗の従業員に対するサービス意識の向上
②よい人材の長期確保
③人材の育成
また、労働者保護意識は近年ますます高まり、従業員がより高い報酬を求め、その他の業種 へとシフトしつつあり、外食産業では時間帯パート制度を導入したり、雇用の多様化を図っている が、依然として人材不足している。
近年、人材の不足の対処法として、人力を代替する自動化の導入が進められている。たとえば、
ホールのメニューの受注情報システム、POS システムである。ただし、多くの外食店舗は中小経 営であるため、資金がなく導入店舗は限られている。またコードの標準化も行われず、政府にお
(図6−1)失業率
5.商品開発・メニューの多様化
日本と同様に台湾における外食店舗の展開にあたっては、「おいしさ」、「安心」、「安全」、「健 康」にこだわった商品の提供が求められる。ただし、日本のようにカロリー表示、産地表示を行う 外食企業はまだ少ない。
同じ食材でも日本と同じ味を出すことは難しい。その原因のひとつに「水」がある。日本は「軟 水」、台湾は「硬水」といった根本的な違いがあることを認識しなければならない。
また、台湾の日本食は「日本人向け」を超え、日常食として拡大・多様化している。台湾の消費 者、特に若者は新しいものを好む傾向がある。またインターネットの普及と海外旅行者の増加に より食に対する情報が早く取り入れられるようになったため、新メニューに対する期待感も高い。
ある日系外食企業は2ヶ月サイクルで商品開発を行い、メニューの更新によって顧客に付加価 値を提供している。
なお、台湾の食文化は中華料理の影響を受け、1店舗に入れば魚、肉、野菜などなんでも食べ られるとの特徴から、日本のカレー専門店のように、少ないメニューだけの専門店展開は、台湾 ではまだ始まったばかりである。そのため、外食専門店が台湾市場で普及するにはもう少し時間 がかかると考えられる。
5.0%
4.4% 4.1%
0.0%
1.0%
2.0%
3.0%
4.0%
5.0%
6.0%
2003年 2004年 2005年
6.日本本社と現地会社との意思疎通
現地経営者にとって対応すべき課題は台湾の中だけではない。日本の本社との円滑なコミュ ニケーションも悩ましい問題である。
日本本社(特に上層部)に現地ビジネスに精通している人がいればよいのであるが、大半は
「現地任せ」にもかかわらず、日本のスタンダードを無理に押し付けることがよくある。日本の常 識で「できるだろう」と簡単に言われても、想像できない苦労を伴うのが現実である。
本社で前任者がよき理解者になってくれればよいが、「私のときにはそんな問題はなかった」と いうことをよく聞く。海外のビジネスの前提は変化することを常に意識しなければならない。現地 責任者が本社に出張して報告するだけではなく、本社からも定期的に現地に出向いて状況を把 握してなければ、気付かない打ちに双方のギャップが大きくなってしまう。
本社と現地子会社との責任と権限を明確にする必要がある。本社は現地の子会社に対して何 を求めているのかをはっきり整理する必要がある。また、現地企業へ権限と責任をセットに委譲 することは大切であろう。
ある日系外食企業は台湾での収益を台湾事業の安定化と拡大に投資させ、投資回収を後に 回した。また、現地に派遣した責任者に充分に権限委譲した。こうした施策によって現地の責任 者は現地実態にあわせた経営で成功を収めた。さらに台湾での成功経験を中国大陸へと生か すという展開につなげている。