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北九州地域のクラスター形成に向けた現状と課題(吉村英俊、德永篤司)

ドキュメント内 JGR1894_10987.pdf (ページ 164-188)

― 産学連携体制の充実強化の視点から ―

吉村英俊、德永篤司

はじめに

地域経済の発展を図るためには、今後成長が期待できる新たなアンカー産業を創出育成するとと もに、当該産業分野及び地域を代表するリーディング企業を育成し、さらにこれらリーディング企 業が牽引力となって地域企業群の全体の底上げを促進することが期待される。そのためには未知な るモノに果敢に挑戦する中小企業やベンチャー企業が次々と興る環境づくりが不可欠であり、産学 官のパートナーシップによるイノベーションとインキュベーションがインタラクティブに繰り広げ られる新事業創出促進体制を構築し、充実強化していかなければならない。

そこで今回、まず北九州市の産業を取り巻く現状を確認し、産業振興の方向性を示す。次に本市 の学術研究機関の集積と活動状況について産学連携の視点から現状を把握し、課題について考察す る。なお、これまでの多くの検討は理工系を対象に言及されてきたが、筆者は企業が事業化を図る においては、研究開発は事業化プロセスのひとつに過ぎず、計画立案から生産・販売、資金調達、

人材育成など、経営の視点から総合的に検討しなければならないと考えており、今回社会科学系の 学術研究機関についても、同様に集積及び活動状況を産学連携の視点から現状と課題について検討 する。最後にこれらの結果をもとに、北九州地域のクラスター形成を成しうるための産学連携の充 実強化のあり方について方向性を示す。

Ⅰ. 北九州市産業の現状と産業振興の方向性

1. 北九州市の産業を取り巻く現状

⑴ 産業構造の変化

1901年の官営八幡製鉄所の操業を機に、四大工業地帯のひとつとして、わが国の近代化を牽引し てきた北九州市の産業の現状を産業構造の変化から見てみたい。

まず、産業全体を生産額で見たとき、1987年及び2002年ともに北九州市の構成比は全国平均と概 ね同じにしている。趨勢においても全国平均と同様に、第二次産業が減少し、第三次産業が増加す るといった産業のサービス化が進展している。このように構成比を見る限りでは、全国と差異があ るようにはみられないものの、伸び率を見てみると、とくに第二次産業が15年もの間にマイナス成 長と化し、第三次産業においても伸張しているものの、その伸び率は全国の半分ほどに止まってい る。(表1‑1)

次に、製造業に着目すると、本市の特徴である鉄鋼や化学といった基礎素材型産業が構成比にお いて未だ2/3を占有しており、全国平均(1/3)を大きく上回っている。近年、自動車や半導体といっ

た加工組立型産業が北部九州を中心に立地してきていることもあって、当分野のウエイトが増加

(19.9%→25.0%)し、産業構造の転換が進展しているが、全国平均(45.7%)に比べれば、その 割合は半分ほどしかない。なお、構成比では1割と少ないものの食料品や繊維、印刷といった生活関 連型産業の製造品等出荷額がこの15年の間に半減している。(表1‑2)

表1‑1 産業構造の変化

1987年(昭和62年) 2002年(平成14年)

伸び率

(%)

構成比増減 (ポイント) 生産額

(億円)

構成比

(%)

生産額

(億円)

構成比

(%)

全 産 業 32,824 100.0 38,422 100.0 17.1 ‑ 第一次産業 271 0.8 60 0.2 ▲77.9 ▲0.6 北九州市 第二次産業 12,516 38.1 10,619 27.6 ▲15.2 ▲10.6 第三次産業 20,037 61.0 27,743 72.2 38.5 11.2 全 産 業 3,654,295 100.0 5,270,298 100.0 44.2 ‑ 第一次産業 99,147 2.7 69,730 1.3 ▲29.7 ▲1.4 全 国 第二次産業 1,299,692 35.6 1,406,557 26.7 8.2 ▲8.9 第三次産業 2,255,456 61.7 3,794,011 72.0 68.2 10.3 出典;『北九州市における産業構造の推移』北九州市産業学術振興局産業学術政策部産学政策課、2004年5月

表1‑2 製造業にみる産業構造の変化 1987年(昭和62年) 2002年(平成14年)

伸び率

(%)

構成比増減 (ポイント) 製造品出荷額等

(億円)

構成比

(%)

製造品出荷額等

(億円)

構成比

(%)

全 産 業 22,094 100.0 15,605 100.0 ▲29.4 ‑ 基礎素材型 14,608 66.1 9,850 63.1 ▲32.6 ▲3.0 北九州市 加工組立型 4,388 19.9 3,895 25.0 ▲11.2 5.1 生活関連型 3,098 14.0 1,636 10.5 ▲47.2 ▲3.5 全 産 業 2,535,153 100.0 2,693,618 100.0 6.3 ‑ 基礎素材型 961,158 37.9 926,864 34.4 ▲3.6 ▲3.5 全 国 加工組立型 1,037,539 40.9 1,230,660 45.7 18.6 4.8 生活関連型 536,456 21.2 536,094 19.9 ▲0.1 ▲1.3 出典;『北九州市における産業構造の推移』北九州市産業学術振興局産業学術政策部産学政策課、2004年5月

⑵ 高齢化の進展

地域経済の停滞は、急速な高齢化の進展といった形で表れている。本市においては、工業都市と して反映していた時期は高齢化率が全国平均を下回っていたが、1985年を機に全国平均を上回り、

現在5人に1人が65歳以上の高齢者となっている(図1‑1)。なお、高齢化率は政令指定都市の中で 最も高い。また、75歳以上の後期高齢者についても、20年前の1985年に4万人だったものが、2000 年には7.8万人と倍増し、さらに2005年には9.9万に増え、人口の1割を占めるまでになると予想さ れている。

しかし一方、本市においてはこの高齢化が進んでいることを単にマイナス要因としてだけ捉える のではなく、高齢者を対象にしたビジネスのチャンスが多くあるとプラスに考えることが重要であ

る。わが国全体が高齢化していくことは明示のことであり、そこで本市が他に先駆けて高齢化に対 応した地域づくりを行い、さらに福祉ビジネスを創出育成するといった機会に恵まれていると考え るべきである。

⑶ 産業都市としての地位

以上の本市産業経済の停滞の現状は、製造品出荷額等のシェアにも顕著に表れている。

まず、対全国シェアを見てみると、市制発足当時(1963年)、約2%あったシェアが徐々に低下し、

1987年には0.85%、概ね人口の対全国シェアまで下がり、その後1999年には0.67%、2002年には 0.58%まで低下している。次に、同様に県内のシェアを見てみると、市制発足当時は約60%あり、

名実ともに工業都市として君臨していたが、その後減少し、1987年には35.2%、1999年には26.0%

と1/4まで落ち込んでいる。このように、かつて四大工業地帯として、わが国の近代化を牽引してき た北九州市であるが、今やその面影はない。

出典;北九州市保健福祉局ホームページ、www.city.kitakyushu.jp/ hoken/

図1‑1 高齢化率の推移

図1‑2 対全国シェア 図1‑3 県内シェア 出典;『北九州市における産業構造の推移』

北九州市産業学術振興局産学政策課、2004年5月

出典;『国際テクノロジー都市の実現に向けて』

吉村英俊、2003年6月

都市の活力(元気度)を測る指標のひとつに「開廃業率」がある。本市においては、開業率が1970 年代初頭の約8%をピークに徐々に減少し、1990年代初頭には3%前半まで落ち込み、その後やや 上昇したものの、現在4%後半にある。一方、廃業率は1970年代初頭の2.7%から徐々に上昇し、1980 年代半ばには開業率を上回り、現在5%半ばにある。なお、全国平均は1999年から2001年の間で開 業率が3.8%、廃業率が4.2%となっており、本市同様に開廃業率の逆転が起こっている。ここで問 題なのは開廃業率が逆転し、雇用の機会が減っていることと、開廃業率の水準が欧米の10〜20%に 比べ低く、活性化されていないことである。

2. 産業振興の方向性

⑴ 産業振興の基本的方向

国際テクノロジー都市を標榜する北九州市は、第三次産業及び行政機関が集積する福岡市と共生 して第四の都市圏を形成し、東アジア経済圏をリードしていくことが期待されている。そのため、

今後とも「モノづくりのまち」として、独自性を発揮することが基本的な方向であると考えられる。

そこでまず、モノづくりのまちとしての特徴について考えてみたい。強み(Strength)について は、次のように整理することができる。

① 高度な技術及び技能をもった中小企業が集積

② 福岡県及び周辺地域に自動車産業が集積

トヨタ、日産、ダイハツ(大分県中津市)、マツダ(山口県防府市)等

③ アジアに近接した国際レベルの港湾機能

響灘ハブポート(2005年3月一部開港予定)、新北九州空港(2006年3月開港予定)

④ 本州及び東・西九州を結節する物流拠点機能

東九州自動車道(2006年3月開業予定)によりさらに強化

⑤ 理工系を中心とする知的インフラの集積

出典;『国際テクノロジー都市の実現に向けて』吉村英俊、2003年6月 図1‑4 開廃業率の推移

学術研究都市、九州工業大学、福岡県工業技術センター等

⑥ 良質な工場団地や企業遊休地が広く存在

一方、弱み(Weakness)については、次のように整理することができる。

① 特定の取引先に依存する、いわゆる下請け型企業が多い

② 企業集積が機械・電気・素材系に偏っており、今後成長が期待されるバイオ系の集積が薄い

③ 物流インフラが有機的に使われていない

④ 社会科学系の知的インフラが薄い

実践的な人材育成機能(ビジネススクール、ロースクール)及びシンクタンク機能が弱い

⑤ 市内の需要が少ない

とくに情報関連企業の受注先は7〜8割が市外

このような特徴を踏まえた上で、モノづくりのまちとしての特異性と厚みを増すために、具体的 な戦略方針として、次の3つが必要である。(次項⑵〜⑷において背景等を言及)

① 今後成長が期待できる「新しいアンカー産業の創出育成」

② 地域中小企業の新事業展開や新分野進出を励起し、「地域中小企業の自立」と「リーディング企 業の育成」

③ ベンチャー企業の育成」

これらを実現するためにはテクノロジーイノベーションとこれに基づくビジネスインキュベー ションがインタラクティブに繰り広げられなければならず、そのための環境・風土づくりが必要で ある。つまり、産学官の緊密なパートナーシップによる総合的な「新事業創出促進体制の充実強化」

を図らねばならない。

⑵ 新しいアンカー産業の創出育成

基礎素材型産業から加工組立型産業への転換が図られているとはいえ、そのスピードは遅い。未 だ基礎素材型産業が地域産業の中核(表1‑2、製造品等出荷額の構成比;北九州63.1%、全国34.4%)

であることは否めない。今後、基礎素材型産業はアジア諸国等の台頭などにより、ますます競争が 激化することは明らかであり、優れた技術を備えた新製品の開発や抜本的な生産技術の開発がない 限り、競争優位に立つことはできず、その成長はあまり期待できない。

そのため、産学官一体となって北九州地域の企業がこれまで蓄積してきた技術的優位性(強み)

や地域内外のニーズ(機会)、さらには弱み・脅威を的確に掴み、基礎素材型産業に代わる「新しい アンカー産業」に積極的に進出する必要があり、このことにより、既存中小企業の新規事業展開に 向けた受け皿(マーケット)の確保、ベンチャー企業の創出、国内外からの投資(企業誘致)など を促進しなければならない。

なお、北九州市においては、これまで「福祉産業」「環境産業」「情報産業」を重点分野として位

ドキュメント内 JGR1894_10987.pdf (ページ 164-188)