第 2 章 関連研究
2.4 歩行認証の問題点とその要因
2.4.2 加速度センサにおける精度低下の要因
表1-2に示したとおり従来研究では加速度センサを用いた認証法が多数を占めている.し かしながら単独のセンサのみで高い精度を達成した研究は存在していない.認証精度向上 のために加速度センサ固有の問題について説明する.
要因4 端末装着位置の違いによる歩行動作測定加速度の変化
円運動を計測する際,加速度は運動の中心からの距離に比例した値が測定される.つま り,加速度センサで完全に同一の円運動を計測した場合であっても,2つのセンサの運動の 中心からの位置が異なる場合は測定される信号の大きさが,対応する時間において等しい 値にならないことになる.歩行動作も股関節を中心とした円運動と考えることができるこ とから,測定位置の距離に起因する振幅値の差に対応できる認証法が必要となる.
歩行動作認証において,ズボンポケット,つまり大腿部上部に固定したセンサは脚に一 体化して回転運動を測定する.歩行動作を単純な円運動とした場合,図2-6に示した軸方向 に,加速度センサと角速度センサを取り付けた際の各軸の加速度と角速度の関係は以下の 式で計算される.
センサX軸
𝑎𝑋= 𝑟𝑑𝜃 𝑑𝑡
2
(3.1)
50 センサZ軸
𝑎𝑍= 𝑟𝑑2𝜃
𝑑𝑡2 (3.2)
センサY軸については,股関節を中心とした角度をφ,鉛直方向との角度をαとする円 錐運動の加速度を検出すると仮定する.
センサY軸
𝑎𝑌= 𝑟 sin 𝛼𝑑𝜑2
𝑑𝑡 (3.3)
検出される加速度は,共通の値である股関節からの距離𝑟に比例した値となる.したがっ て,股関節からの距離に,測定される値は𝑟に影響を受けると考えられる.
測定デバイスの位置のずれは,以下のことが原因で発生すると考えられる.
使用に伴う端末出し入れによる端末装着位置の変化
ズボンポケットなど弱い端末保持力に起因する,歩行動作に伴う端末位置のずれ
高精度な認証法を実現するためには,この問題に対応可能な認証手法が必要になると考 えられる.センサの位置のずれについて,運動の中心距離に言及している歩行認証の研究 は存在していないが,以下の手法がこの問題へ対応している可能性が考えられる.
認証に使用する各信号から,その信号の平均値を減ずる手法[82]
振幅を1~-1の範囲に正規化する手法[77]
正規化相互相関を基にした類似度計算手法[77]
装着位置の変化による振幅の変化は距離の比例となる.したがって直流成分のみが増加 するのではないことから,単純に平均値を減ずる手法では本人同士の信号であっても差が 生じ,この問題に対応することが出来ない.
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振幅を正規化することは有効と考えられるが,歩行動作信号は準周期信号である.した がって,同じ距離にセンサが装着されていても,その準周期信号中の最大振幅値や最小振 幅値を含めた全ての振幅値は,その歩行ごとに独立した変化をすると予想される.したが って,振幅最大値や最小値のような特定の振幅値のみに注目した正規化方法では,同一人 物の各準周期信号を信号全体としてみた時に類似性の高い信号に正規化出来ない可能性が あり,手法としては不十分である.
正規化相互相関については,類似度計算を行うためにはテンプレート信号と認証用の信 号の周期の長さを同一にする必要がある.この問題に対応するため,従来研究では線形に 信号を伸縮することで周期の長さを同一にしていたが,高い認証精度を達成することはで きていなかった.歩行動作は両脚の運動が相互に関係するため,その信号の変化は線形に 生じるとは限らないと考えられる.正規化相互相関そのものは加速度の測定位置の違いに 対応できる手法と推測されるが,類似度計算のための非線形な信号の変化に対するマッチ ング手法が導入できないため,この課題に対応する手法としては十分ではない.
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図2-6 歩行運動を単純化した動作モデル
𝑎 𝑎 𝑋 𝜃
センサ
𝜑 𝑎
𝑟
𝛼
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