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再生核ヒルベルト空間

ドキュメント内 preface.pdf (ページ 42-47)

ヒルベルト空間上の有界線形作用素方程式の近似解法について、計算機による具体的な解 法の視点から解説する.

再生核の一般理論は,関数解析学の基礎であるヒルベルト空間論の初歩的な部分に含ま れる.しかし,線形写像と結び付けることによっていろいろな数学の分野との関係が生 じ,その豊かな応用は,微分方程式,積分方程式などの一般的な線形方程式の解法,ピタ ゴラスの定理の一般化,逆問題,関数の近似,サンプリングの定理,非線形変換を線形変 換との関連で捉える基本的な考え方,ヒルベルト空間達にいろいろな演算を導入する方法 等々,広範な分野に及ぶ.

他方,具体的な再生核の研究にはしばしば解析学の深い知識が要求され,深遠な研究と 結びつく.それらについて述べるには相当な準備を必要とするので,ここでは述べない.

そこで,第2節に再生核の一般理論の根本の部分を述べ,第3節で一般論の具体的な 応用を簡潔に紹介する.応用は広範に亘るので, 基本的な文献を付けてコンパクトに述べ る.しかし,複素解析における美しい成果も,一般論の基本的な応用も数理物理学者や理 工科系の研究者には想念上の成果と理解されるではないかと思われる.そこで,第4節で

Tikhonov正則化法に再生核の理論を適用して得られる最近の成果を解説する.第 5,6節

では典型的な不適切問題である熱伝導における逆問題とラプラス変換の実逆変換を求める 問題における我々の方法による解を紹介する.最後の節では再生核の理論の展望について 触れる.

これらの問題を解く鍵はE×E上で定義される複素数値関数 (2.2) K(p,q)=(h(q),h(p))H

を考えることである.R(L)でLH による像であるE上の関数の全体を表す.そこに (2.3) fR(L) = inf{fH;f = Lf}

で定義されるノルムを導入すると,このノルムから導かれる内積によって像関数空間はヒ ルベルト空間を構成する.正確に述べると,

定理1 (2.3) で R(L) に ノ ル ム が 定 義 さ れ ,ノ ル ム か ら 内 積 も 定 義 さ れ て 空 間 [R(L),(·,·)R(L)]はヒルベルト空間になる.(2.2)で定義される K(p,q)は次の性質をもつ.

(i)  任意のqEに対して, K(p,q)はpの関数としてR(L)に 属する,

(ii) 任意の関数 f ∈ R(L)と任意のqEに対して,  f(q)=(f(·),K(·,q))R(L).

ここで,(i)と(ii)を満たす関数K(p,q)はR(L)において一意に定まる. さらにLH らR(L)の上への等距離写像になるための完全条件は{h(p);pE}H において完全で あることである.

関数K(p,q)の性質(i)と(ii)は ヒルベルト空間R(L)におけるK(p,q)の再生性と呼ば れ,この関数K(p,q)を再生核という.これは(ii)で内積のなかの関数 f が内積をとっ た後にそのまま出てきているためである.このような再生核を持つヒルベルト空間を再生 核ヒルベルト空間といい,RKHS (reproducing kernel Hilbert space)と略記する.

実は再生核を持つヒルベルト空間は定理1におけるように線形写像とは無関係に二次正 定符号関数という性質((2.2)はそういう性質を持っている)を持つ核 K(p,q)自身からそ れを再生核に持つヒルベルト空間として唯一つに定まる.K(p,q)から唯一つに定まるの

HK と記すと(2.1) の像関数空間は(2.2)の関数によって唯一つに定まる再生核を持つ

ヒルベルト空間としてR(L) = HK と特徴づけられる.線形写像の像が再生核を持つヒル ベルト空間として特徴づけられる事実は再生核の理論が線形代数学のように基本的で普遍 的な数学の基礎になることを示している.この視点から定理1は次のように述べることも できる.

定理2  線形写像(2.1)におけるH の像関数空間{f(p)}(2.2)で定義されるK(p,q)を 再生核に持つヒルベルト空間HK として特徴づけられる. このとき不等式fHKfH

が成り立つ.さらに,任意の fHK に対して,次の性質を持つ唯一つのH の元 fが存 在する: E

f(p)=(f,h(p))H かつ fHK =fH.

定理2は線形写像の像にH と等長な構造を持つ再生核ヒルベルト空間の構成方法を与 える.したがって,定理 2の適用で本質的に重要なことは,(2.2) で定義される K(p,q)

から唯一つに定まる再生核を持つヒルベルト空間をできるだけ具体的に構成することで ある.

線形写像の逆写像

線形写像(2.1) の逆写像を考えよう.解析学における多くの場合に成り立つ逆変換公式

を導くためにヒルベルト空間H HKT E上の積分で次のように表現されていると する: H = L2(T,dm),HKL2(E,dμ).(それぞれdm,dμ可測集合T,E上のdm,dμL2 可 測関数の作るヒルベルト空間.)したがって,積分変換

(2.4) f(p)=

T F(t)h(t,p)dm(t)

を考える.ここで,h(t,p)はT ×Eh(·,p)∈L2(T,dm)を満たす複素数値関数で,F FL2(T,dm).対応する再生核は

K(p,q)=

Th(t,q)h(t,p)dm(t) on E×E.

再生核ヒルベルト空間HKL2(E,dμ)のノルムでノルムが表現されている. これらの条 件の下で次を得る.

定理3  次を満たす Eの近似列{EN}N=1 がとれるとする: (a) E1E2 ⊂ · · · ⊂ · · · , (b)

N=1EN = E,(c)

EN K(p,p)(p)<∞.

そのとき, fHK が任意のN に対して

EN f(p)h(t,p)(p)∈L2(T,dm)ならば,

(2.5)

EN

f(p)h(t,p)(p)

N=1

は(2.4)に対する 定理2のFL2(T,dm)ノルムの意味で収束する.

実際に現れる関数は多くの場合,境界で複雑な振る舞いをするが,内部では滑らかなの で,定理の仮定は多くの場合に自動的に成り立ち,定理は多くの場合に適用される.逆写 像を構成することは一般に難しいが,逆変換がヒルベルト空間L2(T,dm)におけるノルム 収束の極限関数として捉えられたことは自然で面白いと思われる.

線形システムの同定

定理2において, 逆に等距離写像(線形の仮定は不要)L E 上で定義された再生核 K(p,q)を持つ再生核ヒルベルト空間HK と ヒルベルト空間H の間にあれば,等距離写像 と再生核を用いて 線形システム関数(Lの生成ベクトルと呼ばれる)

(2.6) gL(q)=LK(·,q)

で等距離写像Lの逆写像は線形写像になり,それは次のように表現できる:

定理4

(2.7) f(p)= (f, gL(p))H, for f ∈ H

に対して fHK = fH. 線形写像(2.7)は等距離写像Lの逆写像を与え,{gL(p);pE}

はH で完全である.

ここで考えられた逆写像の公式 定理3は,(2.4)のとき,積分方程式の基本形であるい わゆるフレッドホルムの第一種積分方程式において,新しい視点と解法を与える.この解 は,次の特徴を持っている.

(1) 個々の積分核によって固有に定まる像空間である再生核ヒルベルト空間HK を 用いて求められる.

(2) 一般には,もとの空間H での,ノルム収束の形で求められる.

(3) 最小ノルムを持つ fが求められる.

(4) 不適切な問題が適切な問題の形で求められる.

一般に,線形問題で,解の存在が言えないとき,解の一意性が成り立たないとき,そし て逆写像の連続性が成り立たないとき,問題は何れの場合にもアダマールの意味で不適切 であるという.そして線形写像(2.1)は不適切問題の典型的な場合とされてきた.ここで の像関数空間の特徴づけは,解の存在を保証し,定理2で述べられているように最小ノル ムを持つ逆と等距離同型写像であることは,最小ノルムをもつ解を考えれば,解の一意性 が言え,逆写像の連続性が保証されることを示している.しかし,これはあくまでも数学 的,理論的な視点であって,自然現象が線形システムとして記述されていると仮定しても 観測量は離散な有限個の点での値であることが多いので,具体的な扱いにおいては,困難 な問題に直面する.それで,逆問題における不適切問題(ill-posed problem)という研究 分野がある.特に,実際に現れる線形システムの場合には,データに誤差などが含まれる ので,数値解析的な扱いには注意が必要である.

第3節で述べるように一般論の応用は現在までは定理1から3の応用が多いが,それら と同等の位置を占める定理4は結果と原因の等長な関係から(2.6)におけるように線形 システムを定める方法を与えており,線形システム関数がグリーン関数と結び付けられる 場合には,因果律を支配している法則を定める方法を与える.したがって,再生核空間は 線形写像の像の成す空間と解せるから, 基本的なモデルとして基本的な再生核空間を与え て,いろいろな法則を求める広い研究分野がある.

再生核空間の基本性質

ヒルベルト空間の枠内で線形写像を考えると,像関数空間は再生核を持つヒルベルト空 間になることをみてきた.そこで,再生核を持つヒルベルト空間の基本的な性質をみてお こう.次の定理は再生核を持つ空間が良い関数空間であることを述べている([79]). 

定理5 E上の関数{f(p)}からなるヒルベルト空間Hにおいて,再生核 が存在するため の必要十分条件は,任意のqE対して, ff(q)がH上有界線形汎関数になることで

ある.特に,関数列{fn} f HK で収束していれば,関数列は普通の意味で E上点ご とに収束する.さらにK(p,p)が有界であるEの部分集合上でこの収束は一様である.

E × E 上の複素数値関数 k(p,q) は次の性質を持つとき E 上の二次正定符号関数と 言われる: E 上の有限個の点を除いてゼロとなる E 上の任意の関数 X(p) に対して p,qX(p)X(q)k(p,q)≥0.

再生核K(p,q)はE上の二次正定符号関数であるが,この事実の逆が重要である.

定理6 E上の任意の二次正定符号関数K(p,q)に対して,それを再生核に持つヒルベル ト空間HK が唯一つ存在する.

再生核の具体的な構成方法を知ることは基本的な問題である.

定理7 E 上の関数からなるヒルベルト空間 H が再生核 K(p,q) を持てば,それは H の任意の完全正規直交基底 {vj(p)}j によって  E × E 上絶対収束の意味で K(p,q) = jvj(p)vj(q)と表される.

HK の完全正規直交基底 はHK の線形独立な関数族からグラム-シュミットの直交化で 構成される. この意味で再生核は計算可能な関数である.この考えで多くの領域上の基本 的な関数を再生核を用いて表現する試みが沢山なされている.これがスタンフォード大学 を中心に研究されてきた複素解析学における再生核の理論(核関数の理論)である.

再生核空間の生成

集合E上の二次正定符号関数 K(p,q)に対して, K(p,q)を再生核に持つ再生核ヒルベル ト空間HK が唯一つ存在する.原理的には,正定符号関数族の間の関係に対して対応する 再生核ヒルベルト空間の間の関係を問題にすることができる.ここでは二次正定符号関数 の制限,和,積によって得られる正定符号関数に対応する再生核ヒルベルト空間ともとの 再生核ヒルベルト空間の間の関係をみておこう.

集合 E 上の二次正定符号関数 K(p,q) と E の任意の部分集合 E1 に対して, E1 × E1

への制限 K(1)(p,q) = K(p,q) E

1E1 上もちろん二次正定符号関数である.よって制限 K(1)(p,q)に対して,再生核K(1)(p,q)を持つ再生核ヒルベルト空間HK(1) が唯一つ存在す る.このとき HK(1)HK の間の関係は次で与えられる.

定理8  任意の関数 f(1)HK(1)HK の関数 f の制限 f(1) = f E

1 で,そのHK(1) におけ

るノルムはf(1)HK(1) =min

fHK; f E

1 = f(1), fHK

で与えられる.

次にE上の二次正定符号関数K(1)(p,q)とK(2)(p,q)に対して, E×E上の関数として の和 K(p,q)= K(1)(p,q)+K(2)(p,q)はまたE 上の二次正定符号関数である.これに対応 する再生核ヒルベルト空間HK,HK(1) およびHK(2) の間の関係は次で与えられる.

ドキュメント内 preface.pdf (ページ 42-47)