関数の最良近似
まず,以下,Lを再生核ヒルベルト空間HK から任意のヒルベルト空間H への有界線 形作用素とする. 次の近似問題は最小2乗近似として古くから考えられているように極め て基本的な問題である: H の任意の元dに対して
(4.1) inf
f∈HKL f −dH.
しかしながら,この問題は無限次元のヒルベルト空間の場合にはMoore-Penrose一般逆の 考えに至るが,一般逆は定理1の方法で次のように複雑な構造を持つことが分かる:
定理11 ([13])H の元dに対して,
(4.2) inf
f∈HKL f −dH = Lf˜−dH
を満たすHK の関数 f˜が存在するための完全な条件はk(p,q)= (L∗LK(·,q),L∗LK(·,p))HK を再生核に持つ 再生核ヒルベルト空間 Hkに対して,
(4.3) L∗d∈Hk
となることである. さらに,(4.2)を満たす関数 f˜が存在するとき,HK の中で最小のノル ムを持つ関数が唯一つ存在して,その関数 fdは次のように表される:
(4.4) fd(p)= (L∗d,L∗LK(·,p))Hk on E.
ここで,Lの共役作用素 L∗ は(L∗d)(p) = (L∗d,K(·,p))HK = (d,LK(·,p))H に注意する と, 与えられているd,L,K(p,q)とH で表されていることが分かる. 定理11から分かる ように再生核ヒルベルト空間上の有界線形作用素を考えると (4.1)における最良近似問 題の解の存在性をある程度具体的に論じられ,極値関数が存在する時にはその表現がきち んと与えられることが分かり,再生核の理論が近似問題において基本的な役割を果たすこ とが分かる. また再生核ヒルベルト空間上の有界線形作用素の共役作用素が具体的な表 現を持つことは重要な意味を持つ. 関数 fdが方程式L f =dにおけるMoore-Penrose一 般逆 L†dである.定理11から,Moore-Penrose一般逆はdに誤差や雑音が含まれるよう な実際的な場合には好ましくないことが分かる. そこで,Tikhonov正則化法の考えをと り入れよう.
スペクトル解析
[17]にしたがって,良く研究されている必要な部分を準備しておこう.コンパクト作用 素Lの場合には[20]を参照.
{Eλ}を 自己共役作用素L∗Lのスペクトル族とする. L∗Lが連続な逆を持つとき,
(L∗L)−1 =
1
λdEλ. このとき,Moore-Penrose一般逆(4.4)は
fd(p)=
1
λdEλL∗d.
R(L)が閉でなく,dD(L†),すなわち,L f = dがMoore-Penrose一般逆を持たないと き,α >0 をとり
fd,α(p)=
1
λ+αdEλL∗d
を定義する. このとき,d−dδH ≤δを満たすdδに対して,fd,αと fd,αδ (p)=
1
λ+αdEλL∗dδ を次のように評価できる:
定理12 D(L†)の元dに対して
(4.5) lim
α→0(L∗L+αI)−1L∗d= lim
α→0 fd,α= fd. さらに,
L fd,α−L fd,αδ H ≤δ, fd,α− fd,αδ HK ≤ δ
√α.
定理13 d−dδH ≤ δを満たすD(L†)の元 dδに対して 関数 fd,αδ は次の極値問題の一意 の解である:
(4.6) inf
f∈HK{αf2HK +dδ−L f2H}.
もしもα= α(δ)が
limδ→0α(δ)=0, lim
δ→0
δ2 α(δ) =0 を満たせば,このとき次が成り立つ:
(4.7) lim
δ→0 fd,αδ = fd = L†(d).
観測には誤差が含まれるから,このような評価式は重要である. Tikhonov正則化法における極値関数の表現
我々の関心は抽象的な表現をもつTikhonov正則化法における極値関数 fd,αや fd,αδ の具 体的な求め方である. 現在までのところ,Lがコンパクト作用素の場合のみ 極値関数の 表現が特異値分解を用いて与えられているだけで,一般の有界線形作用素の場合には上記 のような抽象的な表現が与えられているだけである.
そこで,再生核の理論を用いて一般的な場合に具体的な表現を与えよう. このために KL(·,p;α)=(L∗L+αI)−1K(·,p)
を定義し,また任意のα >0に対して,次で,内積を導入する: (4.8) (f,g)HK(L;α) = α(f,g)HK +(L f,Lg)H.
この内積でHK の関数からなる再生核ヒルベルト空間HK(L;α)をなすことが分かる. さ らに,次が言える:
定理14 ([68]) Tikhonov汎関数
(4.9) inf
f∈HK{αf2HK +d−L f2H} における極値関数 fd,α(p)はKL(p,q;α)を用いて
(4.10) fd,α(p)= (d,LKL(·,p;α))H
と表される. ここで,KL(p,q;α)はヒルベルト空間HK(L;α)の再生核で,これは正則な方 程式
(4.11) K˜(p,q;α)+ 1
α(LK˜q,LKp)H = 1
αK(p,q) の解K˜(p,q;α)として定まる. ここで,
K˜q = K˜(·,q;α)∈HK for q∈E, Kp = K(·,p) for p∈E.
(4.10)で,dが誤差や雑音を含むときには誤差評価が必要である. これについて
定理15 ([35],[25]). (4.10)において次の評価を得る:
|fd,α(p)| ≤ 1
√α
K(p,p)dH.
この定理は良い近似を得るためにはαを小さくとりたいが,それはデータの誤差dH の 関係で,制限を受けることを意味している. これは間違ったデータから真の解を得ること はできないから極めて自然なことを述べている. ここで,具体的な解法では予めαをどの くらいにとれば良いか,小さくとれる限界はどのようになるか等いろいろ難しいが,重 要な問題があっていろいろな方法が提案されている. いづれにしても,αをいくつか取っ て,対応する極値関数の様子を見ることが重要である.感覚的には,αを次第にゼロに近 づけていき,対応する極値関数がある関数に近づくさまを見て,逆にそれが乱れ出す前の αが,αの取れる限界と考えられる.([17],[20])を参照.
これらの具体的な応用,適用については参考文献を参照していただきたい. ([7,29-37,66-71]).