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共形不変性と c 定理

ドキュメント内 yokou 最近の更新履歴 理論物理学教程の道 (ページ 39-49)

しかし、局所繰り込み群方程式を量子重力理論の運動方程式と見なすにはまだ少しギャッ プがあります。と言うのは量子重力理論には拘束条件だけでなく、力学的な方程式も含ま れているはずです。しかし、(2.27) や (2.32) は力学的な方程式ではありません。ハミル トニアンの中身も独特な構造をしています。と言うのは、汎関数微分演算子 δgδI を量子力 学のアナロジーから一般化された運動量と思い、繰り込み群のベータ関数 BI = dlogdgIz を 一般化された速度と見なすと、H = ˙qIpI となるわけですが、いわゆる「ポテンシャル項」

が存在しないのはなぜでしょうか?そして、正準運動方程式、あるいはハイゼンベルグ方 程式はどこから導かれるのでしょうか?どうやら、このあたりがホログラフィーを理解す る鍵になりそうです。

ド空間 γµν = δµν に取りますと、ズミノーが示したように [20]、得られたユークリッド 空間上での場の理論・統計模型は、ユークリッド対称性とスケール対称性をさらに拡大し た SO(d+ 1,1) の共形対称性を持つことがわかります。39つまり、トレースレスなエネ ルギー・運動量テンソルを使って、保存する特殊共形変換の生成カレント

JµK = [ρνx2−2xνσxσ)]Tνµ (2.38) を作ることができ、特殊共形変換

xµ →x˜µ = xµ−ρµx2

1−2ρµxµ2x2 (2.39) を生成します。エネルギー・運動量テンソルが(対称で)トレースレスであると言う仮定 の下で、∂µJµK = 0 になることを確かめてみてください。参考のために代数を書いてお くと

[D, Kµ] =−iKµ, [D, Pµ] =iPµ

[Kµ, Pν] = 2iδµνD−2iMµν

[Kµ, Mνρ] =i(δµνKρ−δµρKν) [Pρ, Mµν] = i(δµνPρ−δµρPν)

[Mµν, Mρσ] =i[δνρMµσµσMνρ−δµρMνσ −δνσMµρ] (2.40) となります。この共形対称性はスケール変換不変性に比べて非常に強力な性質を持って いて、臨界指数などに大きな制限を与えることが知られています。

一方で、普通の意味の繰り込み群変換では、σ が定数なので、大域的な繰り込み群の固 定点は「必ずしも」σ の微分に依存する繰り込み群のベータ関数が消えることを要求しま せん。つまり、

ddx√γσTµµ = 0 (2.41)

が σ が定数の時に成り立てばよいという条件は、Tµµ =DµJµ となるJµ が存在すればよ いと言う弱い条件しか導かないからです。40そのため、大域的な繰り込み群の固定点は定

39d= 2の時はさらに群が拡大してビラソロ代数という無限次元の対称性を持ちます。

40このJµのことをビリアルカレントと呼びます。この名前は、自由スカラー場の場合に、このカレント が力学で出てくる「ビリアル」と言う量pq に似た表式を取ることに由来します。

数のスケール変換では不変ですが、共形対称性を必ずしも持ちません。実際、上記の代 数 (2.4) で、Pµ, Mµν, D だけ取ってきても閉じた代数を作ります。それにもかかわらず、

大域的な繰り込み群の固定点は多くの場合に局所繰り込み群の固定点でもあり、共形対称 性を持っていると言うことが知られています。このスケール変換不変性と共形変換不変性 の関係に関しては近年活発に研究されています(総合報告として [21] を参照してくださ い)。41

共形対称性は SO(d+ 1,1) と同型ですが、これは d+ 1次元反ドジッター空間のアイ ソメトリーでもあります。これが、d次元の共形場理論があった時に、d+ 1次元の反ド ジッター空間を考えようとするホログラフィーの動機になります。前節の最後で考えた宇 宙の波動関数の言葉では、d+ 1次元反ドジッター空間に対応する宇宙の波動関数は自然 に SO(d+ 1,1) の共形対称性に対する不変性を持つからです。

実は上記の共形対称性の議論では一点、不正確な点がありました。と言うのは、今、す べての結合定数に対して繰り込み群のベータ関数がゼロになると仮定しましたが、局所的 な宇宙項の部分は理論の相関関数に全体の因子、および普遍的でない相関関数にしか寄与 しないので繰り込み群のベータ関数がゼロになっている必要はありません。このような、

宇宙項以外の局所繰り込み群のベータ関数は消えるけれども、宇宙項の局所繰り込みが残 る状況のことを、「共形アノマリーがある」と言います。背景計量以外の場所依存性がな い場合に、このことを式で書くと

ddxσγµν

δ

δγµνF[γµν,Λ] =

ddxσA[γµν] δ

δΛF[γµν,Λ] (2.42) となります。1次元イジング模型では、cを使いましたが、ここでは、宇宙項の雰囲気を 出すために、Λ としています。ここでA[γµν]は宇宙項に対する局所繰り込み群のベータ 関数関数でその形はヴェス・ズミノー無撞着条件などから大きな制限を受けています。た とえば2次元では、

A[γµν] = c2R (2.43)

4次元では、(普遍的でない部分✷R を除いて)

A[γµν] = a4Euler−c4Weyl2 (2.44)

41相対論的な場の理論でスケール不変であるけれど共形変換で不変でない例として、5次元以上の自由な マックスウェル理論があります[22]。

などとなっています。ここで、Euler =R2µνρσ−4R2µν+R2は、4次元のオイラー密度、ま た、Weyl2 =R2µνρσ −2R2µν+ 13R2は4次元のワイルテンソルの2乗です。

ヴェス・ズミノー無撞着条件を簡単に説明しますと、前節で、局所繰り込み群変換が可 換でなければいけないと説明しましたが、共形アノマリーがある場合は、

Dσ

ddx√

γσA[γ˜ µν] = D˜σ

ddx√

γσA[γµν] (2.45)

と言うことが要請されます。この条件が非自明であることを見るためには、たとえば、

(2.44) に独立な R2 の項が加わっていると、(他の結合定数に対する)繰り込み群のベー

タ関数が消えていると言う条件の下では (2.45) が満たされず、局所繰り込み群変換が可 換になりません。つまり、共形アノマリーには、独立なR2 項が存在しないと言うことが 結論できます。

この章の前半では、宇宙項の繰り込みにはあまり興味がないと言いましたが、実は、こ の係数 c2 と a4 には非常に重要な物理的な意味があります。ザモロジコフによると、c2

は2次元共形場理論のセントラルチャージと同定され、(適当な仮定の下で)繰り込み群 の流れに沿って、常に単調減少すると言うことが示されました[14]。また、ザモロジコフ の結果は80年代後半ですが、近年、4次元の場の理論に対して、繰り込み群でつながっ ている2つの局所繰り込み群固定点で (c4ではなくて)a4 を比較すると、やはり必ず繰 り込み群の流れに沿って減少していると言うことが示されました [15]。つまり、c2 や a4

は場の理論・統計模型の自由度を勘定していて、(局所)繰り込み群が系の粗視化を実行 し非可逆であるということを証明しているわけです。これらの結果は、まとめて c 定理 と呼ばれることが多いですが、42場の理論と繰り込み群の普遍的な構造を表している画期 的な成果です。

42本当は、c4a4の記号を交換すべきでしたが、今となっては手遅れです。4次元の結果をa定理と呼 ぶこともあります。また、c4 a4をセントラルチャージと呼ぶことも多いのですが、アノマリーと対称性 の代数の中心拡大が関係するのは2次元だけですので、この呼び方も誤解を呼ぶことが多いようです。

3 局所繰り込み群からアインシュタイン方程式へ

初日には反ドジッター空間上での微分方程式を、繰り込み群による漸近解析と結びつ け、一方で、2日目には局所繰り込み群とその方程式を調べてきました。「繰り込み群」

と言う名前がどちらにも表れることからもわかる通り、両者はよく似ています。そこで、

最終日の目標は、この「似ている」と言うことを「本質的に同じである」ところまで高め たいと思います。特に、マルダセナ予想と言われる AdS/CFT 対応がどのような形で導 かれるであろうか?その道筋を議論していきたいと思います。標語的にいえば、「d次元 の場の理論の繰り込み群方程式からd+ 1次元のアインシュタイン方程式を導出する」と 言うことになります。

一度、ホログラフィーの構成を導く、あるいは頭越しに認めてしまえば、重力理論を用 いた場の理論の解析はマルダセナの論文 [23] が10000以上の引用数があるように、

いくらでもできます。もちろん、それらを一つ一つ解説していくのは今回の講義の趣旨で はありません。ただ、その一例として、おそらく講義では議論する時間はないと思います が、このサマースクールのもうひとつのお題である「エンタングルメント」について、局 所繰り込み群的な見方からいわゆる「笠・高柳の公式」がどのように理解されるか、最後 に少しだけコメントしたいと思います。

3.1 ラージ N 極限と量子的な局所繰り込み群

これまで d次元の統計模型・場の理論に対する局所繰り込み群は、d+ 1次元空間での 結合「定数」の変化を支配しているように見えると言うことを見てきました。特に、局所 繰り込み群方程式は分配汎関数が(空間に依存する)スケール変換に対して不変であると 言う要請から、一種の一般座標変換不変性と見なせるのでは?と言う議論を2日目に行い ました。

しかし、d+ 1次元の力学と言う観点からは、局所繰り込み群だけでは不十分にも思え ます。と言うのは、局所繰り込み群変換をd+ 1次元の運動方程式と見たてた時に、空間 依存性を持った結合定数に対するゲルマン・ロウ方程式

δσgI =BI(σ, gJ)

=σBI(0)(gJ) +∂µσ∂µgKBI(1)K(gJ) +σ∂µgKµgLBI(2)KL(gJ) +· · · (3.1) は d+ 1 次元の方向、つまり繰り込み群の方向 σの増分に対して基本的に1階であるか らです。これは、繰り込み群変換が、与えられた結合定数から決定論的に決まっていると 言うことを意味しています。一方で、普通の相対論的な運動方程式は反ドジッター空間で 2階の運動方程式になります。初日に反ドジッター空間上での2階の運動方程式を局所繰 り込み群方程式に似た形に書き直す方法を議論しましたが、そのメカニズムがどのように して場の理論から自動的に出てくるか?と言うのがここでの1つの疑問になります。さら に、超弦理論で議論されている AdS/CFT 対応をご存知の方は、一般の場の理論に対し ては、古典的な重力理論ではなく量子重力理論が対応するはずだと思うはずです。しかる に、局所繰り込み群方程式は決定論的なのはなぜか?と言うのも大きな疑問です。

これらの困難を回避するために、ホログラフィーではラージ N 極限と言う魔法を使 います。以下では、一般的な場の理論ではなく、ラージ N 展開を持つ場の理論に限っ て話を展開します。ラージ N 展開を持つ場の理論とは、基本的に、場が N × N の 大きな行列で表されるような(ゲージ)理論で、その理論に出てくる局所演算子が行 列のトレースの数で分類されるような理論です。43N × N の行列に値を取る演算子、

A(x), B(x), C(x)などがあったとして TrA(x),TrA2(x),Tr(ABC)(x) などをシングルト レース演算子、TrATrB(x),TrATr(BC)(x)などをダブルトレース演算子などと呼びます。

この分類で著しいのは、N → ∞ の極限で、マルチトレース演算子は、シングルトレー ス演算子の「積」と見なしてよいということです。44

TrXTrA(x) = lim

yx: TrA(y)TrA(x) : +O(1

N) (3.2)

特に、マルチトレース演算子のスケール次元は、簡単な加法性

∆(TrATrB(x)) = ∆(TrA(x)) + ∆(TrB(x)) +O(1

N) (3.3)

を満たします。

43行列型のラージN理論に対して、ベクトル型のラージN理論、例えばO(N)模型なども存在します。

それらについてもここで考えている議論を(最小の変更で)適用することができます。[25]を例えばご覧く ださい。

44より正確には、一点関数をゼロにするために、正規積と言うのを定義する必要がありますが、今回の講 義ではあまり重要ではありません。

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