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一般座標変換不変性への序章

ドキュメント内 yokou 最近の更新履歴 理論物理学教程の道 (ページ 36-39)

局所繰り込み群方程式は繰り込み群の親玉みたいなものでして、その一般的な性質がわ かれば任意の場の理論に対して非常に強いことが言えるはずなのですが、その全貌につい ては未だ完全には理解されていません。実際のところは、摂動論的に「繰り込み可能な理 論」に対しての、いわゆるパワーカウンティングに基づいた解析がなされているだけと言 う段階です。36以下で議論したい局所繰り込み群の無撞着(無矛盾性)条件は、(繰り込 み可能・不可能を問わずにすべての結合定数を議論する)ウィルソン・ポルチンスキー的 な汎関数繰り込み群に対しても成り立ちますが、実用上はパワーカウンティングをもとに した(ある意味簡略化された)局所繰り込み群で議論されているのが現状です。

前節で、局所繰り込み群演算子

Dσ =

∫ ddx

( 2σγµν

δ δγµν

+BI(σ, gI) δ δgI

)

(2.26) を導入しました。理論が局所繰り込み群変換で不変であるとは

DσF[γµν, gI] = 0 (2.27)

意味するのでした。もちろん、この式の中に出てくる局所繰り込み群のベータ関数は理論 を決めたら(原理上)計算できるものですが、闇雲に計算する前にどのような性質を持っ ていないといけないのか?と考えるのは大切です。往々にして計算は間違えるものですの で。実際、適当な局所繰り込み群のベータ関数を持ってくると局所繰り込み群方程式はそ れ自体が矛盾してしまいます。

まず、局所繰り込み群は可換(半)群を作ります。37可換と言うのは、まず局所スケー ル変換 σ(x) を行って、それから後で σ(x)˜ を行うのと、まず局所スケール変換 σ(x)˜ を 行って、それから後で σ(x) を行ってもその効果は同じだと言うことです。つまり、局所 繰り込み群演算子は交換関係

[Dσ,D˜σ] = 0 (2.28)

36例えば、[17][18][19]などを参照。パワーカウンティングとは摂動論を起点にして、紫外領域の対数的な 発散のみを処理する繰り込み群の処方です。

37もちろん、局所繰り込み群変換を近似的に計算している場合は、その近似の範囲内でと言う意味です。

を満たします。この方程式は一見自明に見えますが、局所繰り込み群のベータ関数の構造 に強い制限を与えていることがわかります。

例えば、前節で1次元イジング模型の局所繰り込み群変換のベータ関数にスケール変換 パラメタの微分∂xσ や ✷σ に依存する項もなければいけないと言いました。実際、(2.28) を (2.25) から計算してあげますと、一般にはσ∂˜ µσ−σ∂µσ˜ に比例する項が現れます。こ の項が消えるためには、∂xσ や ✷σ に依存する項がうまい係数で存在しないと局所繰り 込み群変換が可換半群を作らないわけです。

もうひとつ大事な点として、局所繰り込み群変換を行う際に、d次元の一般座標変換性 を保つようにすると言うことが挙げられます。もともと、分配汎関数は d 次元の一般座 標変換に対して不変であることを要請しました。つまり、任意のベクトル場 v に対して

Dv =

d4x(Dµvν +Dνvµ) δ δγµν

(2.29) と、一般座標変換の無限小生成子Dv を定義してあげると、(他の結合定数が定数gI(x) = const であるとして)

DvF = 0 (2.30)

となります。シュヴィンガー作用原理によると、分配汎関数の変分は対応する演算子の期 待値を計算することと同じなわけですが、計量に対応する演算子は、エネルギー・運動量 テンソル Tµν なので、一般座標変換不変性の要求は

DµTµν = 0 (2.31)

とエネルギー・運動量テンソルの保存則を意味します。この保存則を相関関数の中で具体 的に書き直した式を、ウォード・高橋恒等式と呼ぶこともあります。今、局所繰り込み群 変換が d 次元の一般座標変換を保つようにするためには

[Dσ,Dv] = 0 (2.32)

を要請します。これは、演算子の繰り込みの言葉では、局所繰り込み群変換はエネルギー・

運動量テンソルの保存則と矛盾しないと言うことを意味します。38

38もしエネルギー・運動量テンソルが繰り込まれなければはこの要請が自動的に満たされます。しかし、

エネルギー・運動量テンソルが繰り込まれても保存則と矛盾しない場合と言うのも、例えば、4次元のλϕ4 理論のように存在して構いません。

さて、ここまでは局所繰り込み群変換の無矛盾性が要請する自然な枠組みを議論してき たわけですが、ここから今まで得られてきた式の天下り的な解釈を考えてみます。まず、d 次元の統計模型の局所繰り込み群変換を考えてきたわけですが、繰り込み群変換のスケー ルを新しい座標z ∼µ−1 とみなします。そこで、唐突ですが、d次元空間上の統計模型の 分配汎関数Z[gI(x), γµν(x)]を、d+ 1次元時空で定義された(量子)重力理論の(ユーク リッド化した宇宙の)「波動関数」だと思います。一般に、波動関数の引数としては、理 論の力学変数になるわけですが、今の場合、d次元の統計模型の結合定数 gI(x) や、d次 元空間の計量γµν(x)になっていて、それが繰り込み群変換に伴って、z方向に「時間」発 展しているとみなしたいわけです。

この z方向への波動関数の時間発展は任意と言うわけではなく、いくつかの拘束条件に 縛られています。それが、局所繰り込み群方程式 (2.27) です。この局所繰り込み群方程 式は、z方向の一般座標変換に対して宇宙の波動関数が不変であること、つまり、正準量 子重力理論でいう「ハミルトニアン拘束条件」あるいはウィーラー・ドウィット方程式に 相当していると思うことができます。

H|Ψ⟩= 0 (2.33)

同じような意味で、分配汎関数が d次元の一般座標変換で不変であるべしと言う要請、

(2.32) は、「運動量拘束条件」に相当しています。

Pµ|Ψ⟩= 0 (2.34)

これは、(見る人が見れば)d 次元の局所繰り込み群と d+ 1 次元の(量子)重力理論が 深くかかわっているのではないか?と思わせるのに十分な構造をしています。

よく知られているように d+ 1次元の(量子)重力理論は拘束系なのですが、拘束条件 が無矛盾であるためには、拘束条件の間に無矛盾性条件が満たされていなければなりませ ん。この無矛盾性条件が先ほど議論した、(局所)繰り込み群方程式の無矛盾方程式に対 応しているわけです。つまり、

[H,H] = [H,Pµ] = [Pµ,Pν] = 0 (2.35) となります。

しかし、局所繰り込み群方程式を量子重力理論の運動方程式と見なすにはまだ少しギャッ プがあります。と言うのは量子重力理論には拘束条件だけでなく、力学的な方程式も含ま れているはずです。しかし、(2.27) や (2.32) は力学的な方程式ではありません。ハミル トニアンの中身も独特な構造をしています。と言うのは、汎関数微分演算子 δgδI を量子力 学のアナロジーから一般化された運動量と思い、繰り込み群のベータ関数 BI = dlogdgIz を 一般化された速度と見なすと、H = ˙qIpI となるわけですが、いわゆる「ポテンシャル項」

が存在しないのはなぜでしょうか?そして、正準運動方程式、あるいはハイゼンベルグ方 程式はどこから導かれるのでしょうか?どうやら、このあたりがホログラフィーを理解す る鍵になりそうです。

ドキュメント内 yokou 最近の更新履歴 理論物理学教程の道 (ページ 36-39)

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