第 4 章 :構造強度の初期計画
4.2 全体強度検討の流れ
一般に,船舶は浮いている場合は剛体的な特性が強く,その強度は船体にとって最も 厳しい状態を想定して設定されているので,疲労強度の確認をする場合は別として,全 体強度の設定では海域の波浪データは必要がない.しかし海洋構造物の場合は設置海域 の波浪条件に応じて必要強度が設定される.注意すべきことは,最も激しい波浪状態が 最も厳しい応力状態を発生させるとは限らないことである.即ち海洋構造物の大きさや 形状特性それぞれに応じて最も危険な波浪が存在することがあるからである.それを設 計波と称しており,特に半潜水式海洋構造物の場合が顕著である.もはや剛体としては 扱えない規模の大型浮体の場合も流力弾性応答という現象が発生し,設計波が存在する 場合がある.従って大型浮体の場合はそこの海域で発生する最大波高に耐えるだけでな く,さらに設計波の有無を確認して強度を設定する必要がある.
大型浮体の設計波の有無を確認する解析手法がいわゆる弾性応答解析と称するがそ の手順がメガフロート技術研究の成果である「超大型浮体式構造物,技術基準案・同解 説」8)に示されているので下図に示す.
出典:(財)沿岸開発技術研究センターメガフロート技術研究組合,超大型浮体式構造物「技術基準案・同 解説」
図4.2 弾性構造体の設計フロー(案)8)
なお,このフローは第2 章の基本計画フローの中の「A7」と「S0」を合わせて表現
•ユニット(製作単位となる浮体)サイズ、分割数の検討
•隔壁配置の検討
•大骨(防撓材)配置(配置スペース)の検討
•小骨(防撓材)配置(配置スペース)の検討
•板厚計算式,小骨の断面性能計算式
•板,小骨の座屈強度計算式
設計荷重 (静荷重+動荷重)
設計条件(海象)設定
初期板厚,防撓材の寸法設定
固定荷重,積載荷重,変形荷重 の設定
格子モデル又はCOARSE MESHを用いたFEMによる 全体解析
平坦度の確認
構造,区画,バラスト配置,
浮体剛性(深さ)調整
静的 変位 断面力
水圧
各部の動的断 面力の設計最 大期待値
全体強度評価
曲げモーメント,剪断力等の断面力に対する一般部 (甲板,底板縦桁構造等)の強度評価を行う。
応力の組合せ:応力,座屈強度,疲労強度 (疲労限界状態)の評価 荷重の組合せ:部分安全係数法等による強度評価
主要目,構造配置,
部材寸法の決定
終局強度限界状態における強度の確認 クラス2の自然環境荷重に対する強度確認
一部損傷後の強度確認
事故等による一部損傷後の強度確認
設計完了
局部/部分構造の強度評価
部分構造に対する詳細FEM解析による重要構造物の詳細解析
•局部的大荷重作用部(係留装置取合部,連絡橋支承下)
•構造不連続箇所
•内部空間利用部大(開口部)
•その他 浮体G/A
深さ分布 重量分布 水深分布 初期主要目,構造配置/寸法の設定
局部部材(板,小骨)の寸法設定
全体強度の検討
静的荷重に対する解析 波浪荷重に対する解析
(応答解析)
各波方向に対する波周期を変えたシリーズ 計算(浮体平面形状,防波堤,水深変化,剛 性分布,浮体深さ分布影響を含む)
弾性応答プログラム
統計処理 不規則波中応答計算プログラム
動的 変位 加速度 断面力 変動水圧
A長期予測値 又は
B短期予測値(1000波最大値等)
初期主要目,構造配置,部材 寸法の設定使用限界状態に対する強度解析/評価
終局強度限界状態 及び一部損傷後の 強度確認
図4.3 初期計画における全体強度検討の流れ
上記の目的は,無駄のない合理的な構造を見出すことであるが,実際の実行では気の 遠くなる程多くのケースを検討せねばならない.しかし最も危険な波浪(設計波)を見 つけることができれば,それ以降の設計展開はその状態に絞って検討を進めることがで きるので効率的に進めることができると思われる.
例えば,一般の海象では最大波浪は波周期も長くなり,下図のような傾向があるが,
6) 弾性応答解析(2)
波浪観測データから得られ た最大波高と周波数を適用 し,Mx,My,変位等の算定
8) 設置海域での最大波浪状態での弾 性応答応力σx,σyの算定,必要なZ の見直し⇒1)に戻る
10) 弾性応答応力と静的応力を重ね合 わせてミーゼス応力を算定,構造 安全性評価.必要なら1)&2)の見 直しを行い,全体を再計算する
11) 実際の運用状態で最も危険な,
積載状態と波浪の組合せを見出し 浮体運用マニュアルに反映させる 3) 設置海域の波浪状態の把握
(波浪観測データの入手または海 象関係資料から最大波高と波周期 の把握)
2) 全体の構造断面 係数Zの算定 1) 局部部材の設定
7) 共振周波数での波高に対 し,弾性応答応力σx,σyの 算定,必要ならZの見直し
⇒1)に戻る
9) 想定される種々の積載状態 での静的構造応力の算定
(NASTTRANが便利と思 われる)
4) 浮体の特性距離,特性波数 等の全体の弾性特性を把握
5) 弾性応答解析(1)
(Mx,My,変位等の周波数 応答関数を求め,共振周波 数の存在を確認)
⇒波状態の把握
図4.4 最大波高と波周期の関係
即ち,ある海域での最大波高H2では波周期がT2とすると,通常では(H2,T2)の状態で 構造安全性を確認するが,弾性応答を示す浮体の波浪応答は,波周期T1で共振状態が 発生し,曲げモーメントが(H2,T2)点より大きくなることが有り得るので丁寧な確認作 業が必要である.特に積載重量が大きく変化する石炭浮体では各積載状態で応答関数を 求めて確認する必要がある.
また,上記のフローで重要なことは全体構造応力が過大で,仮定された断面係数Zで は安全性を満足していないときは,局部材寸法と配置を見直し,新しいZを求める必要 があることである.第2章でのべたように,Zが変化すると弾性応答状態も変化するの
で,5&6)を新しい条件で再計算をやる必要がある.即ち安全性を満足するまで繰り返
しが必要であり初期計画といえども弾性応答計算は何度も実行せねばならない.従って 初期計画には出来るだけ簡便な解析ツールが必要となり本論文ではその目的に叶う当 大学で開発された弾性応答プログラムを使用している.
メガ研究では多くの弾性応答解析プログラムが開発されたが,初期計画ではどんなプ ログラムを使用すべきは別途検討と整理が必要と思われる.
なお,初期計画が終わって実際の構造計画が始まったら,図4.3内の10)で得られた 最終的な曲げモーメントをベースに,全体強度検討とは別に局部構造解析を行い局部材 寸法と配置の再確認を行い,詳細な構造モデルを使って構造解析を行うのが構造計画の 最初のステップである.
最大波高と波周期の関係 H2
最大波高
H1
波周期
T1 T2
4.2.1 局部材の設定
局部材の寸法設定は,多くの実績と長い歴史を持つ船体構造(板壁構造)をモデルと して検討する.
1)例えば船底外板については,最も標準的なパネルを設定し,喫水や浮体運動により 発生する最大水深に対してもそのパネルに亀裂や座屈が発生しないように部材寸 法と補剛材などの配置を決定する.また浮体空港の滑走路については,航空機の輪 荷重に対して同じ考えで寸法と配置を決定する.
2)浮体外部側壁は最大波高での波圧に耐える必要がる.
3)また,バラストタンクがある場合は最大水頭について同じ考えで部材を設定する.
バラストタンクにはバラスト水の出し入れが容易なように空気抜き管が装備され その管頭は上甲板上に設置される.そこまでバラスト水が溢れる場合もあるので,
想定されるタンク底部への圧力はタンクの上端部からの圧力とは限らないので注 意を要する.石炭浮体の検討で実例を示す.
4)更に,大型浮体を建造する場合は,まず浮体をドック等で建造可能な小さいユニッ トに分割して建造し,最後に洋上でユニット同士を接合して完成させることが想定 される.その場合ユニットは海上を曳航して集合させるので,曳航中の強度を保持 せねばならない.そこでユニットを箱型バージと見做し,NK規則のバージ規則を 準用して局部材を設定することができる.医療浮体の項で実例を示す.
4.2.2 全体強度算定
全体強度の算定については,石炭浮体については MSC/NASTRAN による波も考慮 した準静的な解析と4.2で述べた弾性応答解析プログラムによる動的解析を行い,比較 評価を実施した.
MSC/NASTRANを使ったのは現在多くの構造解析で使用されており,比較的扱いが
容易であると考えたからであるが,後章で詳述するが,結果としては弾性応答が顕著な 浮体では誤差が大きいことが判明した.
大型浮体では初期計画の段階でも弾性応答解析プログラムが必要であることが明ら かになったのは浮体の計画法の確立のために大きな意義がある.
なお,医療浮体については主要目が小さいので弾性応答が発生する可能性は小さいと 思われるが,平面積に比べ構造深さが小さく,弾性変形も予想される確認のため石炭浮 体と同様な弾性応答解析も実施した.
初期計画における構造強度検討はそれ自身のアウトプットも重要であるが,その過程 で課題や問題点を抽出しておくと,そのプロジェクトが実現した場合,基本計画,詳細 設計をどのように進めるかを決める場合に大いに参考になり,効率的なプロジェクトの 進行に役立つと思われる.