3.4 DEA(Data Envelopment Analysis)による分析結果
3.4.1 入力指向包絡モデルによる分析
調査期間中の看護師勤務者数、超過勤務時間の総数、周辺業務の割合、総入院患者数の基 本統計量を表3-3に示す。また、入出力変数間の相関係数を表3-4に示す。各変数間に強い 相関は認められず、変数の妥当性は担保していると判断した。
表3-3 基本統計量 看護師勤務者数
(延べ勤務者数)
超過勤務時間の 総数
周辺業務の 割合
総入院患者数
最大値 128 180時間45分 50.9% 313
最小値 87 28時間15分 39.2% 166
平均 110.75 93時間45分 44.8% 278.6
標準偏差 10.11 47時間45分 3.4% 37.97
表3-4 変数間の相関 看護師勤務者数
(延べ勤務者数)
超過勤務時間の 総数
周辺業務の 割合
総入院患者数 看護師勤務者数
(延べ勤務者数)
1 0.4145 -0.6410 0.3581
超過勤務時間の 総数
0.4145 1 -0.4448 0.1654
周辺業務の 割合
-0.6410 -0.4448 1 -0.2831
総入院患者数 0.3581 0.1654 -0.2831 1
38
入力指向BCC包絡モデル(BCC-I)による分析では、16病棟(DMU)のうち、9病棟は効率 値1であり、効率的フロンティア上に存在していた(図3-1)。
図3-1 DMUごとの効率値
他方、非効率的 DMUであるDMU-Gは、DMU-HとDMU-Pを参照集合として改善す ることで効率的フロンティアに近づくことができる。同様にDMU-Qは、DMU-Hと DMU-Pを参照集合とし、DMU-L、DMU-Aと DMU-Bは、DMU-C、DMU-H、DMU-Pの3個 を参照集合とし、DMU-IはDMU-H、DMU-K、DMU-Nを参照集合とすることで効率的フ ロンティアに近づくことができる。さらに、DMU-DもDMU-E、DMU-H、DMU-Kを参 照集合として改善案を検討できる。このように、効率的フロンティア上のDMU-Hは6個、
DMU-Pは4個、DMU-C、DMU-Kは3個、DMU-E、DMU-Nは2個の非効率的DMUの 参照集合となっていた(表3-5)。そこで、最も多く参照集合となっていたDMU-Hと、 DMU-H を目指すことで効率的になる非効率な DMU-G、DMU-L、DMU-D、DMU-B を比較し た。その結果、看護師の勤務者数は DMU-H と同程度まで削減することが必要である。さ
らに、DMU-G、DMU-D、DMU-Bは超過勤務時間の大幅な削減が必要であった。多くの場
合、超過勤務の理由として挙げられるのは、「記録」業務であるが、先ほどの3つのDMU に関しても、DMU-H と比較して「記録」業務の占める割合が高かった(表3-6)。つまり、
周辺業務の 1 つである「記録」業務の方法や手順等の見直しが効率性を上げるために必要 と言える。DMU-G、DMU-D、DMU-Bは、他の DMUと比較すると長期入院になる患者 を多く受け入れる病棟でもあるため、通常の記録も多くなることが想定できる。したがって、
39
必要な記録が簡便に記載できるような記録方法の標準化や、電子カルテシステムの機能改 善が必要と考える。
次に、DMU-N を最も効率的フロンティアに近づくために目標点としている DMU-Q、
DMU-IとDMU-Nで比較した。DMU-QとDMU-Iは、他のDMUよりも超過勤務時間が
少ない。また、効率的フロンティアを目指す上では、入力変数である勤務看護師数、超過勤 務時間、周辺業務の割合共に、多くの削減を必要としていない。しかし、周辺業務の中でも
「患者移送」については、DMU-Nよりも割合が高くなっている。特に、DMU-Qと DMU-Iは病棟外への患者移送数が多い病棟でもあり、看護師以外の職種による患者移送も行って いるものの、十分な業務移管までには至っていないことが考えられる。急性期病院に入院す る患者の場合、移動の際に看護師の付き添いが必要となる患者も多く、適切な判断が求めら れる。したがって、看護師以外の職種でも移送可能と判断できる患者の基準を再度明確化し、
業務移管を進めていくことが重要である。
次に DMU-Cを参照集合とする DMU-A と比較した。DMU-Aは、超過勤務時間の短縮
が必要だが、周辺業務の割合は効率的な DMU-C と比較しても割合は同程度であった。そ こで、看護業務全体を3つの区分(療養上の世話、診療の補助、周辺業務)に分けた場合で比 較した。その結果、DMU-Aは「療養上の世話」に分類される業務の割合が高かった。 DMU-Aでは、退院後の生活に必要な様々な患者教育や患者指導が行われる。患者の理解度に応じ た説明が必要となり、そのため時間を要する場合も多く、勤務時間内に必要な業務を終了す ることができず超過勤務が多く発生していることが考えられた。したがって、必要な業務が 時間内に実施できるために業務スケジューリングの見直しと、必要に応じて業務の前倒し 等を検討できるような病棟内のシステムが必要であると考える。
40
DMUScoreDataProjectionDiff.(%)DataProjectionDiff.(%)DataProjectionDiff.(%)DataProjectionDiff.(%) C19999075:20:0075:20:0000.466730.4667302892890C1 E1105105048:15:0048:15:0000.443030.4430303013010E1 F1100100028:15:0028:15:0000.508960.5089602802800F1 H11111110115:30:00115:30:0000.396640.3966402972970H1 J1104103.9970.00329:15:0029:15:0000.497530.4975302772770J0.999 K11281280106:15:00106:15:0000.391750.3917503133130K1 M1108108057:15:0057:14:5900.478240.478230.0013083080M1 N1115114.9990.00170:15:0070:14:580.0010.413860.413860.0012882880N1 P18786.99930.00152:00:0051:59:580.0010.478990.478990.0011661660P1 G0.9742113110.082.584180:45:00113:04:0237.4460.41040.399792.584291291.9810.337H0.962P0.038 Q0.9741119111.8645.99665:45:0064:02:502.590.435770.424482.592962960E0.435K0.094N0.471 L0.9548114108.8534.515115:45:00108:41:256.0990.427170.407884.5152932930C0.134H0.843P0.022 A0.9395109102.4046.052176:00:0088:40:1349.6190.468520.440176.0522782780C0.486H0.399P0.115 I0.9281126116.9457.18691:50:0085:14:017.1860.437930.406467.186200294.58347.292H0.17K0.202N0.628 B0.9225114105.1677.748163:20:0097:53:5040.0630.459730.424117.7482802800C0.258H0.628P0.114 D0.9163120109.9628.365124:20:0087:00:3430.0190.453270.415358.3653003000E0.412H0.504K0.084 総入院患者数周辺業務超過勤務時間看護師の勤務人数 (期間中の総勤務者数)参照集合
表3-5BCC-Iモデルによる解析結果
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ABCDEFGHIJKLMNPQ 記録23.4%19.1%26.3%25.3%22.9%23.0%18.1%16.5%21.7%24.5%16.5%19.9%23.0%18.4%23.6%20.8% 看護師間の報告・連絡6.7%9.1%5.2%4.6%6.1%6.2%9.1%8.7%6.6%5.3%5.3%5.3%5.2%5.9%5.8%4.3% 情報収集4.5%4.9%4.1%3.4%4.2%6.5%2.9%4.1%3.7%4.3%4.7%6.1%4.8%4.8%3.2%5.5% 管理業務2.7%4.6%3.2%3.1%3.3%4.2%2.9%3.6%4.8%5.4%2.7%3.3%6.1%3.4%2.7%4.7% 事務業務0.1%0.2%0.4%1.5%0.6%0.7%0.2%0.1%0.5%0.7%1.4%0.2%0.6%0.7%1.1%1.5% 薬剤管理0.3%0.4%0.2%0.5%0.4%0.4%0.1%0.3%0.3%0.3%0.5%0.4%0.5%0.6%1.0%0.2% 医療器具 材料取り扱い0.6%0.6%0.2%0.2%0.7%1.2%0.5%0.4%0.2%0.2%0.2%0.3%0.7%0.3%0.9%0.1% 看護職員の指導0.8%1.0%0.9%0.6%0.5%1.5%0.4%0.5%1.3%0.7%0.6%0.6%0.3%1.6%0.8%1.6% 身の回りの世話0.7%1.0%0.6%0.6%0.7%0.8%0.8%1.0%1.1%1.4%1.3%0.8%0.6%0.8%0.8%1.4% 入退院時の世話3.3%1.3%2.6%2.2%2.1%1.7%1.5%1.4%1.5%2.7%1.8%1.7%2.7%0.9%0.7%1.8% 病室外の環境整備0.1%0.4%0.7%0.2%0.5%0.5%0.6%0.1%0.2%0.9%0.2%0.1%0.8%0.3%0.7%0.1% 物品管理0.3%0.3%0.2%0.4%0.5%0.5%0.2%0.5%0.3%0.5%0.2%0.3%0.4%0.2%0.6%0.1% 患者移送3.2%1.0%1.3%4.7%1.1%1.2%2.8%3.0%3.4%2.6%1.3%0.9%2.0%1.2%0.5%1.9% ベッド移床0.4%0.8%0.4%0.7%0.4%0.3%1.0%0.5%0.3%0.2%0.6%0.5%0.1%0.5%0.3%0.3% 電話による連絡0.2%0.4%0.3%0.3%0.3%0.3%0.2%0.3%0.1%0.5%0.4%0.2%0.2%0.6%0.3%0.1% 病棟外への連絡0.4%0.4%0.2%0.3%0.3%0.5%0.1%0.5%0.1%0.3%0.4%0.2%0.1%0.2%0.3%0.3% 患者・家族との連絡0.3%0.5%0.3%0.5%0.3%0.3%0.1%0.2%0.5%0.3%0.5%0.4%0.3%0.4%0.2%0.3% メッセンジャー業務0.4%0.2%0.1%0.1%0.1%0.0%0.1%0.0%0.0%0.0%0.0%0.3%0.0%0.2%0.1%0.0% ベッド作成0.1%0.0%0.1%0.2%0.1%0.2%0.3%0.3%0.1%0.1%0.3%0.4%0.1%0.2%0.1%0.2% 病床管理1.1%0.5%0.0%0.5%0.2%1.7%0.8%0.3%0.3%1.0%1.0%1.3%1.2%0.7%0.1%1.1% 学生の指導0.0%0.0%0.2%0.0%0.0%0.0%0.3%0.1%0.1%0.1%0.1%0.1%0.1%0.6%0.1%0.1% クラーク業務 (その他)0.0%0.0%0.0%0.0%0.0%0.0%0.3%0.3%0.1%0.3%0.2%0.1%0.0%0.3%0.0%0.1% 死亡時の対応0.3%0.4%0.3%0.0%0.0%0.1%0.4%0.0%0.0%0.0%0.0%0.1%0.0%0.0%0.0%0.1% ボランティア0.0%0.0%0.1%0.0%0.0%0.0%0.0%0.0%0.0%0.0%0.1%0.0%0.0%0.0%0.0%0.0%
表3-6DMU別の周辺業務の項目別割合
42
図3-2 DMU-CとDMU-Aの業務区分割合の比較
入力指向CCR包絡モデルを用いた解析では、効率値1を示すDMUは、16部署中5部 署だった(図3-3)。
図3-3 CCR-Iモデルによる効率値の比較
CCR-Iモデルで効率的フロンティア上にあるDMUのうち、DMU-Eは11個、DMU-H
は5個、DMU-CとDMU-Kは3個、DMU-Fは1個の非効率的DMUの参照集合となっ ていた。そこで、参照集合となった数が最も多いDMU-E
と、DMU-M、DMU-N、DMU-Q、DMU-A、DMU-B、DMU-Pとを比較した(表3-7)。
43
DMUScoreDataProjectionDiff.(%)DataProjectionDiff.(%)DataProjectionDiff.(%)DataProjectionDiff.(%) C19999075:20:0075:20:0000.466730.4667302892890C1 E1105105048:15:0048:15:0000.443030.4430303013010E1 F1100100028:15:0028:15:0000.508960.5089602802800F1 H11111110115:30:00115:30:0000.396640.3966402972970H1 K11281280106:15:00106:15:0000.391750.3917503133130K1 J0.997610498.75635.04229:15:0029:10:460.2410.497530.496330.2412772770E0.069F0.915 M0.9906108106.9830.94257:15:0056:42:390.9420.478240.46383.0193083080C0.253E0.78 N0.9609115107.6236.41570:15:0067:30:033.9130.413860.397673.9132882880E0.561K0.38 G0.9563113108.0594.372180:45:00106:45:2240.9370.41040.392454.3722912910E0.093H0.885 Q0.9563119108.4318.88165:45:0062:52:264.3740.435770.416714.3742962960E0.697K0.275 L0.9425114107.4425.753115:45:0095:00:2217.9210.427170.40265.7532932930E0.275H0.708 D0.9138120109.6518.624124:20:0093:59:2824.4040.453270.414188.6243003000E0.33H0.676 A0.887110996.693911.29176:00:0049:05:0772.1110.468520.4156311.292782780C0.156E0.774 B0.873611499.591512.639163:20:0062:28:5861.7450.459730.4016212.6392802800E0.674H0.259 P0.66018757.424633.99552:00:0034:19:2233.9950.478990.2553346.6951661660C0.266E0.296 I0.610512676.925238.94891:50:0056:03:5738.9480.437930.2673638.9482002000E0.235H0.058K0.358 総入院患者数 参照集合看護師の勤務人数 (期間中の総勤務者数)超過勤務時間周辺業務
表3-7CCR-Iモデルにおける解析結果
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この場合、効率値が低くなるほど大幅に勤務看護師数と周辺業務の割合を削減すること が必要となる。しかし、病棟の特性上DMU-PとDMU-Iはこれ以上の看護師数の削減は現 実的ではない。ところが、DMU-AはDMU-Eは、類似の特性を持つ病棟であるため、 DMU-E程度までの超過勤務時間の削減は実現可能であると考える。そのためには、周辺業務の割 合を圧縮できるような業務整理が必要と考える。
現実的に超過勤務時間の縮減を目指すならば、佐藤60が指摘するように、「労働時間の長
さは、(1)業務量=要員マンパワー×労働時間のアンバランスを基本式としつつ、(2)仕事の管
理様式、(3)管理者の行動と意識、(4)社員の行動と意識などの変数から影響がある」ことを 考慮していく必要がある。特に、要員マンパワーは、人数×スキルレベルに分解できる61こ とから、経験年数のばらつきや専門性の高い業務を実践できる看護師自体の不足なども考 慮する必要がある。
次に、DMU-Hと効率的フロンティア上で最も近い参照集合とするDMU-G、DMU-L、
DMU-Dを比較した。その結果、特にDMU-Dは、周辺業務の割合を削減することが必要で
あるが、その中でも「記録」業務の割合がDMU-Hよりも10%以上高いため、「記録」業務 の見直しを中心に業務改善を行うことが必要である。