第 3 章 :レッド・クラウド・インディアン・スクールへ
第3節 :保留地ミッション・スクールの役割
3-1:レッド・クラウド・インディアン・スクールの特徴
レッド・クラウド校は2012年の9月の時点で、幼稚園から高校まで400人の生徒を抱え ており、高校には内部からの進学率が40%、外部からの進学率が60%から成る200人が通 学している。内訳は女子94名、男子106名、うち白人が1人、交換留学生が3人在籍して いる73。幼稚園から高校までの一貫教育を実施できることは、一貫した教育方針を貫けるこ とであり、学校によって個々の教育方針を持つ公立学校にはないメリットとなっている。高 校入学には最低 GPA1.70 以上の学力が必要とあるが、それ以外に 9 年生で算数・読解
(reading)・国語(language arts)の試験を行っている。成績の基準をクリアーする条件 に加えて、生徒間における不良行為の影響を考慮して、素行が最も重視された上で入学許可 が下りるようになっている74。
安全で快適な学校生活を保障する為に、様々な禁止事項が設けられており、その中には喧 嘩、窃盗、いじめやハラスメント、スタッフへの脅迫や暴行、麻薬・アルコールやたばこの 使用も含まれており、通学に関しては最低限のドレス・コードも定められている。違反者に 対しては段階的に罰則を課すものであるが、安全で快適な学校生活を壊すような危険行為 を行った者には、即刻退校処分が下される75。実数は確認できないが、時に退学者が出るこ ともあり、レッド・クラウド校を退学後に公立学校へ転校して行く者もいるが、レッド・ク ラウド校を退学させられた者は、公立学校でも卒業するのは難しいと言われている76。パイ ン・リッジ保留地での高校卒業率は70%であることから、こうした退学者が30%にも達し ていることになる。失業者が 80%に達している保留地では、こうした退学者の行く場はな く、ギャング化の問題も生じている77。麻薬や銃の持ち込みによって諸問題が発生している アメリカの高校にあって、レッド・クラウド校では細かい校則を設定し、生徒の行動を重視 することで、学校で余計な問題に巻き込まれずに、勉強に集中できるような環境を提供しよ うと努めている。
アメリカの高校では、GPAの平均が 3.0と言われていることから、レッド・クラウド校 が入学の際に要求している最低ラインのGPA1.70は、かなり低い設定である78。これによ っても、パイン・リッジ保留地全体の学力が低いことは明らかである。しかし大学への進学
73 前出、アルベルタ・イーグルへのインタビュー、2012年9月12日。
74 レッド・クラウド校校長、ジョージ・ワイゼンバーグ神父(Fr. George Winzenburg)
へのインタビュー、2012年9月12日。
75 Red Cloud High School:Student Hand Book2012-2013, op.cit., pp.36-43.
76 前出、ジェイミー・ビーハンへのインタビュー、2010年10月12日。
77 Red Cloud Indisn School HP, Resevation, <https://www.redcloudschool.org>
(2017年2月10日)
78 What’s the Average High School GPA? <https://blog/prescholar.com/whats-the-average-high-school-gpa> (2017年1月30日)
Red Cloud High School:Student Hand Book2012-2013, op.cit., p.12.
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を視野に入れているレッド・クラウド校では、真面目な生徒であれば、在学中に生徒の能力 を伸ばすことが可能であるという観点から教育を行っている。その成長はNASAの人工衛 星プロジェクト(NASA’s THEMIS Project)の参加校への選出や、国際科学博覧会(National
Science Fair)での三年連続の一位獲得といった成果に示されている79。また在学中のボラ
ンティア活動やインターン・シップへの参加など、生徒に様々な経験を積ませることも奨励 されている。
授業は月曜から金曜まで昼食をはさんだ7時限制で、1週間に35時限を履修することに なっている。7時45分始業14時55分終業の通常の時間割に加えて、クラブ活動やミサに 参加する生徒用の時間割がある。また必要や状況に応じて、始業時間は同じだが12時半終 業、13時半に終業、また1時間遅れの8時45分始業、2時間遅れの9時45分始業、とい った7種類の時間割が設定されている80。少人数制であるレッド・クラウド校では、こうし た細かい対応に応じることも可能で、生徒たちは自分の生活環境や状況に応じて、時間割を 選択することが可能となっている。
卒業後に関しては、学校側は100%大学進学を理想としているが、実際のところ、その目 標に達するのはなかなか難しい。しかしレッド・クラウド校は、卒業生を高卒の学歴で終わ らせることなく、進学、もしくは入隊を強く勧めている。保留地で唯一高等教育を提供して いる存在としては部族大学があるが、同じ保留地内にあっても部族大学とは何の連携も取 っていない81。保留地を離れることによって、今までとは異なる生活環境を体験し、部族以 外の様々な人たちとの出会いを通じて、広い視野を持った人材の育成を図るべく、学校側は 卒業生に保留地の外へ出ることを推奨している。2012 年度は 98%が大学進学、2%が軍隊 や職業学校へ進み、前年2011年には57人がデューク大学(Duke University)などの大学 への進学を果たしている。以前は入隊を進めていたが、現在はビル・ゲイツ財団やトヨタ USA 財団などの財団や企業からの奨学金、ホレイショ・アルジャー協会(Horatio Alger Association)や各大学からの奨学金、カトリック関連協会からの奨学金など、様々な奨学 金が提供されており、それらを利用できるようになっている82。また学生時代の活動実績に よって、学業において優秀な成績を収めた学生に与えられるアカデミック奨学金(Academic
Scholarship)、スポーツにおいて優れた結果を残した学生に与えられるアスレティック奨学
金(Athletic Scholarship)、部活動やボランティア活動において目覚ましいリーダー・シッ プを発揮した学生に与えられるリーダー・シップ奨学金(Leader Ship Scholarship)など もあり、いくつかの奨学金を得ることで進学を果たしている83。また入隊に関しては、部族
79 Wirth, op.cit., p.173.
80 Red Cloud High School:Student Hand Book2012-2013, op.cit., pp.18-19.
81 前出、ジェームス・ワイゼンバーグ神父へのインタビュー。(2012年9月12日)
82 ホレイショ・アルジャーは、19世紀にアメリカン・ドリームの実現を描いた大衆向け の三文小説(Dime Novel)を130編以上も発表した作家。彼の死後、1947年に協会 が設立され、若者に奨学金を提供している。
83 前出、ジェイミー・ビーハンへのインタビュー。(2010年10月12日)
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社会では兵士への尊敬の念が強いことに加えて、大学の奨学金、生活費、ボーナスの給与、
国内外の基地への派遣の機会もあることから、現在でも卒業後の選択肢の一つとなってい る。このようにレッド・クラウド校を経由して、保留地の外での経験を積む機会に恵まれる ことは、保留地に住む若い先住民にとって、一種の特権でもある。
少人数制であるレッド・クラウド校では、教職員、生徒、卒業生が共に親密な関係を築い ており、卒業後の進路に関しては、教師や卒業生が協力体制を敷いている。生徒の適正や将 来の夢に沿って進学先についてアドバイスを行うのは教師の役目であり、在学している大 学の事情や自らの体験を伝えるのは卒業生の役目である。生徒たちにとって教師はロール・
モデルの一つであり、教師になることを希望している卒業生や、実際に教師となってレッ ド・クラウド校に戻ってくる卒業生もいる。
また 教職員の 他に、ボラン ティアや 貧困地域で の 教育援助 を行うアメリ コープ ス
(Americorps)といった外部からの協力も得ている。アメリコープスは有償のボランティ アで、レッド・クラウド・ボランティア・プログラムの一環として、1979年から制度化さ れている。ボランティアは保留地を含むアメリカ全土から集まっており、教師、司書、コー チ、支援スタッフ、バス運転手など、様々な職種に就いて学校業務を助けている84。こうし たボランティアの活動は校内に大きな影響と刺激を与え、生徒に多様な質の高い教育をも たらしていると学校側は評価している85。特に生徒たちの勉強と関わる学生ボランティアは、
やるべき業務の多さと自身の勉強の両立など辛いことも多いが、その辛さを乗り越えるこ とで自信が身に付き、生徒たちの成長を感じることによって達成感を感じられる仕事だと 捉えられている。その達成感に惹かれて、ボランティアとして働いていた者がボランティ ア・プログラムのコーディネーターとして、また院生時代に新入生の英語を教えていた者が 教師としてレッド・クラウド校に戻り、現在レッド・クラウド校に勤務している者もいる86。 また生徒にとっては、自分たちと年齢の近い学生ボランティアの存在は、相談しやすい先輩 であると同時に、生徒の模範としてロール・モデルにもなることから、単なる学校の手助け としてだけではない好影響を生徒に及ぼしている。ボランティア学生たちは、彼らが持つ情 報や知識を生徒たちと共有しながら、生徒たちに夢をもたせ、その夢を実現できるような手 助けを行っている。このような保留地の外からの援助の手は、教育現場での助けになると同 時に、生徒たちに新鮮な刺激をもたらし、保留地の外との世界を繋ぐ架け橋にもなっている。
在学生と年齢も近い学生ボランティアは、在学生にとって身近な存在であり、保留地外への 進学の関心にも繋がっている。レッド・クラウド校では、卒業後の進路も含め、保留地に留 まらない人間関係を通じて広い視野を構築し、様々な経験を積めるような機会を生徒たち に提供しようとしている。
そして保留地外に進学し、保留地を離れた学生には、3年間にわたりメールや電話、時に
84 Red Cloud Indian School HP, Honors Volunteer Faculty, (2016年9月18日)
85 前出、アルベルタ・イーグルへのインタビュー、2010年10月12日。
86 Red Cloud Indian School HP, Honors Volunteer Faculty, op.cit., (2016年9月18日)