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第1節 観光客と住民の意識の相違を考える意味

司馬遼太郎の『竜馬がゆく(全8巻)』(1963-1966)により,坂本龍馬が高知市出身 の人物として全国的に知られる契機となり,高知市だけでなく高知県を代表する観光資 源の1つとなった。司馬の作品発表以前も,坂本龍馬は高知市の観光資源の1つではあ ったものの,今日ほど地域や全国に知られていなかった。これは,先述した『高知県の 歴史』(2001)に述べられており,さらに『高知市の案内』(1961)の市内観光地で,坂 本龍馬の名前を確認することができないことから明らかである。その一方,坂本龍馬が 観光面で著名になったため,他の県出身の人物や観光施設等が県外観光客はもとより地 域住民に知られていないことが考えられる。

2010年に放映された「龍馬伝」の場合,全国的に知られている坂本龍馬という人物を 主役に据え,さらに,高速道路休日割引制度も誘客に拍車をかけた。このため,山内家 を主役とした「功名が辻」(2006)放映時よりも誘客が容易であった。しかし,高速道路 休日割引制度が終了し,インフラ整備はなされていない。また,大河ドラマ放映前から 周知されていた坂本龍馬を取り扱った「龍馬伝」(2010)の場合,大きく地域に影響を与 えた地域影響型でもない。このため,高知県が継続的に誘客を行うためには「イベント・

施設・まちづくり型」であると考える。

深見(2010)は,観光を成り立たせるためには観光客,観光資本(産業),観光対象(資 源)に加え,地域住民が重要であり,観光客を迎える側(地域住民)にとって,自らが 暮らすまちのもつ特質を知ることが不可欠であると述べている。筆者は,第 5章および 第6章のアンケート調査や聞き取り調査の結果を利用し,深見(2009)の呈する「自ら が暮らすまちのもつ特質」に高知市のもつ観光資源を「住民が利用する,観光客に勧め る観光施設等」および「高知市観光の主な魅力」,「誘客が見込める観光活動」を当ては め,観光客が実際訪れた観光施設等との違いを考察していく。

しかし,長年当地に在住している地域住民は,当地のもつ観光資源が生活の一部とな っており,それらが観光資源となると考えない場合がある。高知市の場合は事例として

「よさこい祭り」があげられる。現在では全国的に知られている「よさこい祭り」は,

北海道から高知県を訪れていた大学生が見て,北海道でも行いたいと考えた。そして「よ さこいソーラン祭り」が北海道で催されたことにより,「よさこい祭り」が全国的に知ら れるようになった。このことによる弊害(「よさこい祭り」発祥の地が北海道であるとい う考え等)もあるが,現在,高知市は多くの観光客を集客することとなっており,さら に高知県外でも開催されている。

このため,住民が気付かない観光客から見た高知市のもつ観光資源とは何なのかを考 える必要がある。したがって,高知市がもつ資源とは何かを考えていくため,年齢の偏 りはあるものの高知大学の学生を対象とした。大学生を対象とした理由は,大学生の多 くは高知市外または県外から訪れ,多くの学生は,現在高知市内に居住しており,観光 客と住民双方の意見を持つと考えたためである。

この一方,高知市で生まれ育った住民の意見も必要である。このことから,高知市の

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観光を主として学習している高知県立伊野商業高等学校国際観光科の生徒を対象にアン ケート調査を行った。また,年齢の偏りを解消するために,一般住民に対して聞き取り 調査を実施した。

第 1 章で述べたように,大河ドラマを利用した観光は一過性である場合が多い。しか し,大河ドラマ放映を契機として観光客数が増加した地域もある。その地域では,イン フラ整備や大河ドラマ放映時につくられたイベント、大河ドラマ以前から行われていた まちづくりが観光客に受け入れられている。

イベントやまちづくりが成功し,観光などに継続活用されていくには,地域住民と観 光客双方が「利益」を実感しなければならない。そして,その「利益」には心理的価値 が含まれており,経済的利益に限られるものではないと佐々木(2003)は述べる。

ここで重要となってくるのは,舞台地(観光地)を訪れる観光客ではなく,地域住民 の考えや意見である。イベントやまちづくり事業は,地域住民が中心となって行うもの であり,それらに興味を持ち観光客は訪れる。しかし,イベントやまちづくり事業は,

地域住民が力を注いでも認知されるきっかけがなければ,観光客増加は見込めない。大 河ドラマは,イベントやまちづくり事業行っている舞台地を知る景気となる。大河ドラ マ放映期間中は,舞台地の広報活動を行ってもらっていると同じである。しかし,それ を継続的な集客に結び付けていくためには,大河ドラマで著名となった人物だけでなく,

その他の観光活動が重要になる。

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第2節 大学生の意識

1.調査目的と方法・内容

本調査は,高知市の観光に対する大学生の意識を明らかにするために,高知大学 の学 生に対してアンケート調査を実施した。

場 所:高知大学 朝倉キャンパス 実施日:2010年9月~10月末日 方 法:配布方式によるアンケート

内 容:後掲の高知市観光に関する大学生のアンケート調査票のとおり

2.集計結果

高知市の観光に対する大学生のアンケート調査では,148 人からの回答を得た。集計 結果を整理すると表6-1とおりである。

表 6-1 高知市の観光に対する大学生のアンケート調査結果(1)

(単位:人)

問 性別 学年 出身地

回 答 区 分

男 性 女

性 無 回 答

1 年 生

2 年 生

3 年 生

4 年 生

無 回 答

高 知 県

徳 島 県

兵 庫 県

愛 媛 県

鳥 取 県

岡 山 県

香 川 県

広 島 県 合

80 67 1 85 24 31 6 2 25 16 15 12 6 6 6 5 質

問 出身地

回 答 区 分

大 阪 府

長 崎 県

宮 崎 県

鹿 児 島 県

沖 縄 県

愛 知 県

京 都 府

北 海 道

茨 城 県

神 奈 川 県

長 野 県

岐 阜 県

静 岡 県

三 重 県

奈 良 県

島 根 県

計 4 4 4 4 4 3 3 2 2 2 2 2 2 2 2 2 回

答 区 分

福 岡 県

大 分 県

埼 玉 県

東 京 都

新 潟 県

石 川 県

福 井 県

和 歌 山 県

山 口 県

熊 本 県

無 回 答 合

計 2 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1

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表 6-1 高知市の観光に対する大学生のアンケート調査結果(2)

(単位:人)

問 高知市の観光施設等の訪問者数(複数回答)

回 答 区 分

桂 浜

高 知 市 立 龍 馬 の 生 ま れ た ま ち 記 念 館

高 知 県 立 美 術 館

高 知 県 立 文 学 館

高 知 県 立 坂 本 龍 馬 記 念 館

高 知 県 立 牧 野 植 物 園

桂 浜 水 族 館

高 知 市 立 自 由 民 権 記 念 館

は り ま や 橋

横 山 隆 一 記 念 ま ん が 館

日 曜 市

高 知 城

そ の 他

計 124 13 40 9 23 34 47 32 135 11 92 109 9 質

問 高知市の観光施設等の再来訪希望(複数回答)

回 答 区 分

桂 浜

高 知 市 立 龍 馬 の 生 ま れ た ま ち 記 念 館

高 知 県 立 美 術 館

高 知 県 立 文 学 館

高 知 県 立 坂 本 龍 馬 記 念 館

高 知 県 立 牧 野 植 物 園

桂 浜 水 族 館

高 知 市 立 自 由 民 権 記 念 館

は り ま や 橋

横 山 隆 一 記 念 ま ん が 館

日 曜 市

高 知 城

そ の 他

計 92 6 23 1 3 23 22 7 39 3 53 58 9

問 観光客に勧めたい観光施設等(複数回答)

回 答 区 分

桂 浜

高 知 市 立 龍 馬 の 生 ま れ た ま ち 記 念 館

高 知 県 立 美 術 館

高 知 県 立 文 学 館

高 知 県 立 坂 本 龍 馬 記 念 館

高 知 県 立 牧 野 植 物 園

桂 浜 水 族 館

高 知 市 立 自 由 民 権 記 念 館

は り ま や 橋

横 山 隆 一 記 念 ま ん が 館

日 曜 市

高 知 城

そ の 他

計 77 6 6 1 11 21 12 4 28 2 54 41 7

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表 6-1 高知市の観光に対する大学生のアンケート調査結果(3)

(単位:人)

問 高知市観光の主な魅力(複数回答) 誘客が見込める観光活動(複数回答)

回 答 区 分

山 海 川 地 域 住 民 の 人 柄

歴 史

・ 文 化

食 べ 物

町 並 み 景 観

そ の 他

歴 史 観 光

近 代 文 化 観 光

農 山 村 観 光

漁 村 観 光

伝 統 文 化 観 光

食 文 化 観 光

そ の 他

計 45 60 57 39 63 75 12 5 53 27 26 37 94 87 9

【誘客が見込める歓光活動の概念】

歴史観光…………郷土出身の人物,市の歴史,文化財など細かい指定はしていない。

近代文化観光……高知県は高知市だけでなく多くの漫画家を輩出している県であり,高 知県および高知市行政はこれに注目し観光誘客を行っている。このた め,近代文化では漫画・アニメを例にあげた。

農山村観光………農業体験,ハイキングなど主に農村,山村を中心とした体験ができる 観光とした。

漁村観光…………地引網,ホエールウォッチングなどを例にあげ,主に漁村や海辺で体 験ができる観光とした。

伝統文化観光……よさこい祭りや地域の祭りを例にあげた。今回のアンケート調査では 参加型・見物型の指定はしていない。

食文化観光………その地域の食べ物を目的に訪れる観光とし,例として皿鉢料理,鰹の たたき,芋ケンピ,アイスクリンをあげた。

質 問

龍馬伝放映による 観光客増加の感覚

放映終了後の 観光客数の継続性

龍馬伝関連イベント・

施設の継続性

回 答 区 分

は い

い い え

無 回 答

は い

い い え

無 回 答

い い え

無 回 答

計 142 5 1 17 130 1 67 76 5