5. 出力運転中の発電用原子炉の事象についての深層防護に対する影響の評価
5.2 付加的要因の考慮
特定の状況は、深層防護の異なる層に同時に影響を与える可能性があり、それらは、結果的に、付 加的要因と見なすことになる。この付加的要因により、ある事象を、前述のガイダンスから得られた 評価値の1つ上のレベルと評価しなければならないことを正当化することができる。
このような役割を果たす主な付加的要因は以下の通りである。
− 共通要因故障
− 手順上の不備
− 安全文化の問題
これらの付加的要因を考慮しなければ、それ自体、安全上重要ではなくても、付加的要因によりレ ベル1と評価することができる。
これらの要素による基本評価値の格上げを行う際には、以下の側面を考慮する必要がある。
(1) すべての付加的要因を考慮して、事象の評価値を1つだけ引き上げることができる。
(2) 上記の要因のいくつかは既に基本評価値に含まれているかもしれない(例えば共通要因故障な ど)。したがって、こうした故障が二重にカウントされないように注意することが重要である。
(3) 事象に対しをレベル3 を超えて引き上げることはできない。深層防護に対するこの上限レベル
は、他にもう1件の事象(「予期される」起因事象または更なる機器故障のどちらか)が起こっ ていれば事故が発生していた状況にのみ適用すべきである。
5.2.1 共通要因故障
共通要因故障は、単一の特定事象又は原因の結果として多くの装置又は機器がその機能を果たすこ とに失敗することである。とりわけ、この故障は、同じ安全機能を果たすことを目的とする多重性を 有する機器又は装置の故障を引き起こす可能性がある。これは、安全機能全体の信頼性が予想を大き く下回る可能性があることを意味する。したがって、ある機器に影響を及ぼす事象によって他の類似 の機器に影響を与える潜在的な共通要因故障が明らかになった場合、その事象の苛酷さは、機器の偶 発故障に伴う事象よりも高くなる。
情報の欠如又は誤解を招く情報によって、幾つかの系統を作動させるにあたり困難さが生じるよう な事象についても、共通要因故障に基づく評価値の格上げの対象として考慮することができる。
5.2.2 手順上の不備
手順が不適切であったために、深層防護の幾つかの層に対する影響が同時に発生するかもしれない。
したがってこのような手順上の不備も、基本評価値の格上げに対する理由となり得る。
この例には以下が含まれる。
− 事象に対処するために運転員に与えられた誤った又は不適切な指示。(例えば、これは、1979 年にスリーマイル島の事故の際に発生した。安全注入が作動した場合において運転員が使用する ことになっていた手順は、加圧器の気相における冷却材喪失という特殊な状況において適切なも のではなかった。)
− 通常の手順では発見されない異常や試験間隔をはるかに超える系統/設備の利用不能により明 らかとなったサーベランス計画の欠陥。
5.2.3 安全文化の問題
安全文化は、「全てに優先して、防護と安全の問題が、その重要性に相応しい注意を集めることを 確保する組織及び個人の特性と態度を集約したもの」として定義されている。良好な安全文化は異常 な事象の防止に役立つが、その一方で安全文化の欠如は、運転員が設計の想定に沿わない方法で行動 するという結果を招きかねない。したがって、安全文化は、深層防護の一部として考慮しなければな
安全文化の問題による評価値の格上げに価値を見出すため、その事象を安全文化の問題を有する実 際の指標と考えなければならない。
5.2.3.1. 運転制限条件の違反
安全文化の問題に関して最も容易に定められた指標の1つは、運転制限条件の違反である。
運転制限条件(OL&C)では、原子炉の運転が安全要件の範囲内に維持されるよう、安全系の最低 限の作動性を示している。これには限られた時間内における安全系のアベイラビリティ(利用可能性)
が低下した状態での運転も含まれる。ほとんどの国において、運転制限条件は技術仕様に含まれてい る。更に運転制限条件が満たされない場合には、復旧のために許容される時間及び適切な代替措置状 態を含め、取るべき対応が技術仕様に記載されている。
系統のアベイラビリティがカテゴリB[訳注:「運転制限条件以内」]に対して定められた値を下回っ ていることが分ったが(例えばルーチンテスト後)、原子炉は技術仕様に従って安全な状態に移行さ れている場合、5.1.3 節および5.1.4 節で述べられた通りにその事象を評価すべきであるが、技術仕 様の要件に従っているため、その基本評価値を引き上げることはすべきでない。
安全機能の作動性がカテゴリB[訳注:「運転制限条件以内」]に対して定義された範囲内にあるが、
運転員が(技術仕様に定められる)許容時間を超えてそのアベイラビリテイ状態に保持した場合、基 本評価値はレベル0であるが、安全文化の問題により、評価値をレベル1 に引き上げるべきである。
同様に、運転員がプラントのアベイラビリティを運転制限条件から外れるように導く意図的な対応 を取った場合、安全文化の問題による当該事象の基本評価値の格上げについて検討すべきである。
正式な運転制限条件に加えて、一部の国では、機器の長期的な安全に関係する制限など更なる要求 を技術仕様に取り入れている。 こうした制限値を短時間超えた事象については、評価尺度未満/レ ベル0がより適切となるかもしれない。
5.2.3.2. その他の安全文化の問題
安全文化問題に関する指標の他の例には以下のものがある:
− 単一事象に起因した法定年間線量限度を超える公衆の被ばく;
− 法定年間線量限度を超える放射線作業従事者または公衆の累積被ばく;
− 環境への放出、汚染の拡大、あるいは線量管理システムの故障を含む、放射性物質に対する適切 な管理維持の失敗;
− 最初の事象後、教訓が得られたこと、又は是正措置が講じられたことを確実にするため、運転員 が十分注意を払わなかったことによる[訳注:注意を払うべきところを払わなかったことによる もの]事象の繰り返し。
本ガイダンスの趣旨は長期にわたる詳細な評価を開始するためではなく、事象の評価を行う者が迅 速に判断できるかどうか検討するためであることを留意することが重要である。事象発生後すぐに、
安全文化によって、その事象の評価値を引き上げるべきか否かを判断することは往々にして難しい。
このような場合、その時点で判明しているものに基づき暫定的な評価値を提示すべきであり、その後、
詳細な調査で得られた安全文化に関係する追加情報を、最終評価で考慮することができる。