第4章 自主的自立的な価値観形成をめざす小学校社会科の内容編成の 原理
第 2 節 事実判断を調整する授業―第3学年単元「私たちの生活と商店」-
1.販売に関わる学習の課題
販売と消費活動に関わる学習は,第 3 学年単元「地域の人々の生産や販売について」である。平成 10 年度版学習指導要領では内容の取扱い(2)において「販売者の側の工夫を消費者の側の工夫と関 連付けて扱うようにする」6)とし,販売に関わる人々の行為を目的・手段の関係として子どもに認識 させる内容になっている。このような学習指導要領に準拠した教科書では,「たくさんの人がスーパー マーケットにくるための工夫」として「商品の陳列や表示を工夫している」「新鮮な商品を提供してい る」「安売りをしている」「産地や生産者がわかるように表示をしている」「大きな駐車場がある」等の 事実を見学やインタビューを通して調べ,消費者の品揃え,鮮度,値段,立地条件,食の安全に関わ るニーズに関連付けて理解させる内容となっている。確かに,販売に関わる仕事は地域の消費生活を 支えており,地域の人々もまた,そのときどきのニーズに合わせて店を上手に利用している。しかし ながら,一方では,大型スーパーの進出による地域商店の衰退,それによる買い物弱者の顕在化,主 に小規模小売店でみられるフェイストゥーフェイスの販売の減少による地域の人間関係の希薄化など さまざまな問題を抱えている。このような社会問題を自らに関わる問題として認識し,「地域にとって よい商業環境とはどのようなものか」考えるためには,販売の工夫の背後にある販売者の意図を相対 化し,社会生活にどのような影響を与えるのかという観点から,吟味していくことが必要となろう。
岡崎誠司の開発した単元「社会変動の視点を重視した小学校地域学習の単元開発―3年生単元『商 店のある町-空き店舗問題―』の場合―」7)では,獲得した商業立地についての一般的説明的知識を もとに,「もしもスーパーを立てるとするとどこですか。広島市地図をみて考えましょう」と問い,利 益のあがる立地条件をもつ土地を選ばせる活動を取り入れていた。同じように,「どこに店をつくるべ きか」を問う授業であっても,「集客率の高い場所に店をつくるべきである」という「効率性」を重視 する判断に基づくのではなく,「みんなにとってよりよい町をつくる」という視点から商業立地につい て考える授業を志向し,第 3 学年単元「私たちの生活と商店」を設定した。
小売業においては,従来の生産者―卸業者―小売店という市場取引による分業制ではなく,生産機 能,販売機能,そして調達機能を企業に内部化する組織内取引や,企業間が情報を共有し製品やサー ビスの流れを共同で管理することにより,顧客のニーズに合わせたフレキシブルな商品供給を実現す る系列取引など,さまざまな業態があらわれはじめている。これらの経営業態は,消費者の欲求・要 求に適う商品を,適切な数量,適切な価格,適切なタイミング等で提供するための企業活動(マーチ ャンダイジング=MD)を行うために組織されたものと言えよう。本単元においては,スーパーマーケ ットとコンビニエンスストアという2つの小売店を比較・分析することで,それぞれの小売店の,消 費者のニーズに合わせた品揃えやサービス,店舗施設等の工夫,すなわち MD の背後にある意図を明ら かにし,「駅のある町」である三保三隅駅周辺につくるならコンビニエンスストアがよいかスーパーマ ーケットがよいか評価させることで,自分たちの生活に与える影響や意義について考えさせる授業を 構成した。
2.単元「私たちの生活と商店」の構成原理
販売に関わる学習は,「販売者の事実判断の分析過程」と「販売者の事実判断の吟味過程」から構成 した。「販売者の事実判断」とは,利潤確保を目的とした販売者の MD に関わる判断を指す。単元計画 を示したものが資料9である。第 3 学年単元「わたしたちの町三隅」と同様に,事実認識と価値認識
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をわけてとらえることが困難な中学年段階において,「価値吟味過程」において獲得した価値判断基準 をもとに他の事例について評価し,反省する学習活動は困難であると考え,「価値分析過程」のみを授 業過程に組み込んだ。「販売者の事実判断の分析過程」は「価値分析過程」の①社会的事象および社会 的判断についての事実認識,②事実認識の背後にある価値判断の明確化にあたる。地域の小売店の品 ぞろえ,価格,サービスを表に可視化し,比較・分析することで,小売店のコンセプトの背後にある 意図を明らかにするものである。「販売者の事実判断の吟味過程」は③価値判断がもたらす社会生活へ の影響の分析,④価値判断の相対化にあたる。小売店の立地の考察を通して,当該小売店が住民の生 活に与える影響や意義を分析することで MD の背後にある事実判断を批判的に吟味しようとするもの である。
(1)販売者の事実判断の分析過程
「販売者の事実判断の分析過程」は A-①「消費行動の分析による課題設定」A-②「小売店に関わる 事実認識」A-③「販売者の事実判断の相対化」の3つの段階で構成した。
A-①「消費行動に分析による課題設定」は,家庭での買い物調査の結果をグラフや表に表し,地域 の消費動向を明らかにすることで,「買い物」についての課題を設定する段階である。いわば消費者の 視点から小売活動を分析するものである。具体的には「よくいくお店」「よく買うもの」「そのお店に いく理由」について調査する。そして「なぜそのお店がよく利用されるのか」という課題を設定し,
課題に対する予想を立てる。A-②「小売店に関わる事実認識」は小売店の品揃え,価格,サービス等に ついての情報をもとに,当該小売店の MD の特徴を明らかにする段階である。①で立てた課題と予想に したがって調査活動の観点を決め,商品の品揃え,配置,値段,サービス,バックヤードの様子など 小売店の販売の工夫についての情報を収集する。その際に,同じ観点にそって(牛乳の種類の数,牛 乳の値段,牛乳の配置場所,野菜の種類,産地,値段等)2つの小売店の情報を収集することがポイン トとなる。同じ観点にそって集めた情報を比較・分析することで,販売の視点から当該小売店の MD の 特徴を明らかにする。A-③「販売者の事実判断の相対化」は,A-②の事実認識をもとにそれぞれの小 売店の販売の工夫の背後にある意図を明らかにし相対化する段階である。それぞれの小売店の工夫と 消費者の願いを関連づけることで,その売り方の特徴を確認する。それぞれの小売店の特徴の違いを 認識した上で,「大切にしていることは何か」と問うことで,販売者の事実判断を相対化できると考え る。
(2)販売者の事実判断の吟味過程
「販売者の事実判断の吟味過程」は,複数の小売店の店づくりの意図の比較や,他者との意見交流 を通して,消費に関わる自らの判断基準の反省や調整を行う過程である。B-①「小売店がもたらす社 会生活への影響の分析」,B-②「販売者の事実判断に対する自分なりの評価」,B-③「他者の判断との 比較による評価の再調整」,B-④「最終的な評価」の四段階で構成した。B-①「小売店がもたらす社会 生活への影響の分析」段階では,Aの段階で分析した販売者の事実判断の社会的意味や意義ついて認 識する。当該の意図に基づく販売の工夫が町やそこに住む人にどのような影響をもたらしてきたのか,
分析するものである。B-②「販売者の事実判断に対する自分なりの評価」の段階は,B-①の認識を踏 まえ小売店の立地について考えることを通して,小売店の事実判断に対する子ども自身の評価を促す ものである。コンビニエンスストアは消費者の急場のニーズを満たすために多頻度小口配送,および その都度的な柔軟な生産と販売,消費者のニーズに合わせた商品開発をベースにした業態である。地 域商店は毎日の生活に必要な商品を,安定的に手に入れたいという地域の消費者の願いを受け,主に 地域において発展してきた業態である。地区の北側に位置する駅の利用客をターゲットとするならコ
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ンビニエンスストアを,南側の住宅地の住民に配慮するなら地域のスーパーマーケットが適当であろ う。駅の集客を増やすことと,そこに住む人の生活をより便利にすることのどちらが地域にとってよ りよいのか,小売店の利益だけでなく,どちらが地区の住民によってよい選択と言えるのか,考えさ せることがねらいとなる。B-③「他者の評価との比較による評価の再調整」の段階では,クラスの他 の子どもの選択と自らの選択を比較し,吟味することで,B-②の評価を見直す。以上の段階を経て,
最後に B-④で最終的な評価を行う。
小売店のMDの背後にある利潤を目的とした事実判断について認識し,地域生活にもたらす影響を 小売店の立地についての考察から分析,吟味することで,消費生活についての多様な判断基準を形成 できるものと考える。
3.第3学年単元「私たちの生活と商店」の開発
(1)単元設定の理由
小売業の過剰が顕在化している現在,「商品を並べれば売れる」時代は終わり,商品の受け手である 消費者は,価格か品質か,時間か,または環境に配慮する姿勢か,という自分の生活スタイルに合わ せた基準で店選びをするようになった。そのため小売業においては,消費者獲得のための売り方が多 様化しつつある。消費者の意向にそって商品の配給の仕方が違えば,売価も品揃えも違ってくる時代 に突入したのである8)。よって「主に販売に携わる人々の様々な工夫や努力」もこうした視点から捉 えなおす必要がある。
例えば,コンビニエンスストアは顧客の短時間でよい買い物をしたいというニーズを受けて生まれ た業態である。消費者の急場のニーズを満たすために多頻度小口配送,およびその都度的な柔軟な生 産と販売,消費者のニーズに合わせた商品開発をベースにする。そのため製造者・流通業者・販売者 の間に情報とコンセプトの共有があり,相互に協力して生産・流通・販売に当たっている。しかし基 本はやはり大量発注・大量販売を基礎とするチェーンストアであるので,地域に適応した品揃えの面 では規制される面があるのは否めない。また惣菜・弁当についても味が画一化,同質化され,地域独 自の味が追求されることは難しい。
ジャスコ,イズミ,トライアルをはじめとする大型スーパーマーケットは顧客の,よい品物を適正 な価格で買いたいというニーズ,ワンストップショッピングのニーズを受けて生まれた業態である。
消費者の,価値ある商品をリーズナブルな価格で手に入れたいというニーズを満たすためにコスト削 減による低価格と大量販売をビジネスシステムとする。販売者がバイイングパワーを背景に生産・流 通を統合する取引形態をとっている。しかしチェーンストアによる画一化された店舗設備,商品の質,
価格,サービスは,地域固有の景観や生活を激変させる可能性がある。また,大型スーパーの進出の 結果,地域の小規模小売店が衰退し,買い物弱者を生じさせる,という問題も指摘されている。
地域商店は毎日の生活に必要な商品を,安定的に手に入れたいという地域の消費者の願いを受け,
主に地域において発展してきた業態である。地域の消費者の安定的な商品購入のニーズを満たすこと を目的とする。柔軟な商品供給を果たすために,生産者―卸―小売は,比較的自由度の高い取引を行 っている。しかし,商品が生産者から第1次卸,第2次卸,運送会社等々多くの取次業者を経由すること から,商品にかかる経費が過重となり,商品の価格が高くなるという問題点もある。
本単元では,三隅町に2店舗あるコンビニエンスストアと,地域密着型のスーパーマーケットを教 材としてとりあげる。それぞれの小売店の店舗の工夫,品ぞろえ,値段,サービスについての情報を 取集し,比較・分析することによって,消費者に合わせた工夫の違いを読み取らせる。そしてそれぞ