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事実判断を相対化する授業-第3学年単元「わたしたちの町,三隅」

第4章 自主的自立的な価値観形成をめざす小学校社会科の内容編成の 原理

第1節 事実判断を相対化する授業-第3学年単元「わたしたちの町,三隅」

1.自主的自立的価値観形成からみた小学校地域学習の問題点

小学校において社会科の学習は第 3 学年からはじまる。3 年生のはじめの社会科単元は「自分たち の住んでいる身近な地域や市(区,町,村)の観察・調査」1),すなわち「町探検」である。小学校学 習指導要領社会科編ではその目的を「身近な地域や市の様子は,場所によって違いがあることを具体 的に考えるようにすること」2)としている。「場所による違い」とは地形的な条件と社会的な条件によ るものである。

本単元では特にこの社会的条件を,「何を重視するか」という事実判断をもとに分析,吟味すること で,子どもの生活空間である地域を相対化してとらえさせようとするものである。日常生活の様々な 場面において私たちは,「便利さ」や「安全」などの判断基準をもとに望ましい社会のありかたについ て意思決定を行い,制度や行動を制御している。このような一定の事実判断に基づき,道路,公共施 設,商業施設等の各要素が関連付けられ,構成されているのが町である。地域性を規定する法則をと らえさせようとする授業は一般的ではないものの,優れた授業実践はすでになされてきた。しかしな がら,社会的条件を事実判断の相違から認識することで,地域の景観を相対的にとらえさせようとす る授業は実践例が少ない。岡崎誠司が開発した単元「社会変動の視点を重視した小学校地域学習の単 元開発―3年生単元『商店のある町-空き店舗問題―』の場合―」3)の分析から,概念探求を目的と した「身近な地域の観察・調査」の学習の問題点について明らかにする。

岡崎は「地域社会は安定した、静的な構造ではない。社会が変動しているからこそ様々な社会問題 がおこる。社会は動的な側面をもつ社会過程である」と主張し,「社会の変化に主体的に対応できる子 どもを育てるには社会変動の視点から社会科学習を進める必要がある」として授業設計を行っている

4)。内容構成を表したものが図 15 である。実際の単元は「空き店舗問題」を取り上げ,各地区におけ る商業施設,交通,公共機関の分布や位置を調査することを通してその要因を追求させるものとなっ ている。岡崎の開発した授業は,子どもに「空き店舗問題」の要因である「都市中心部の居住人口の 移動・減少」「急速なモータリゼーションの進展」という法則性を認識させ,地域のありようを相対的 にとらえさせている点で秀逸している。岡崎はそれぞれの地区の営業店舗数と種類(衣料品店,食料 品店,食堂,その他),廃業店舗数,人通りの数を調査させたうえで調査結果を分析・吟味し,商業の 視点からそれぞれ(皆実町商店街,アップルタウン・本通り,郊外)の地域性を明らかにしている。

さらにそれぞれの地域性について比較・分析することで,「都市中心部の居住人口の移動・減少」「急 速なモータリゼーションの進展」という社会変動を認識させるものとなっている。しかしながら,子 どもの開かれた価値観形成の面から考察すると,岡崎の授業案には次のような問題点が指摘できる。

岡崎は終末部で「もしもスーパーを立てるとするとどこですか。広島市地図をみて考えましょう」と 問い,獲得した商業立地についての知識を活用して,利益のあがる立地条件をもつ土地を選ばせる活 動を取り入れている。これは既存の「集客率の高い場所に店をつくるべきである」という「効率性」

を重視する判断を無批判に受容させるものになってはいないだろうか。そうではなく空き店舗問題の 生じる原因となっている判断基準の是非について,それと相反する,例えば「公平性」という判断基 準からも吟味させ,消費者として,または地域社会の一員としていかに行動すべきか考えさせるべき

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⑥公的問題の解決 ⑤公的問題の認識 ④公的問題の原因 ③経済的視点からの分析 ②構成要素の分析 ①地域の観察・調査

【図 15 単元「商店のある町―空店舗問題―」の内容構成】5)

皆実町商店街の 取組=楽しみ空 間の創出・コミ ュニケーション の場の形成

空 き 店 舗 の 発 生 増

皆実町商店街

(近隣型商店 街)の来客数の 減少

郊外へ人口が移 動する=都市中 心部の居住人口 の減少

地価が高い 交通の便が良く 店舗・会社・学校 が集中的に立地 する。

若い消費者は車 等で地元外・都 心へ買い物に出 かける。

アップルタウ ン・本通りには,

必ずほしいもの がある。

アップルタウ ン・本通りには,

駐車場・駐輪場 がある。

アップルタウ ン・本通りには、

バス・路面電車 論戦に立地して いる。

地域性・広域型 商店街は集客力 のある施設が集 中立地してい る。

地域性・広域型 商店街は,幅の 広い道路の近く に立地してい る。

若い消費者は車 で郊外へ買い物 に出かける。

郊外の大型店に やSCには魅力 的な施設が集中 立地する。

郊外では,山を けずって,住宅 の開発が進んで いる。

郊外の大型店や SCには広い道 路・広い駐車場 がある。

郊外の森林・田 畑であった土地 は,地価が安い。

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このような地域学習の反省から,本研究では町探検を通して場所による町の景観の違いに気づき,

その理由を事実判断の違いから分析することで,地域を構成する社会的条件を相対化する地域学習を 提案する。

2.単元「わたしたちの町,三隅」の構成原理

社会制度やシステムの背後には,「何が望ましい状態か」という意識的,あるいは無意識的な判断が 存在する。例えば前述した岡崎の授業では,「商業活動を活性化させることがよい」あるいは「効率性 を重視すべきである」という判断が当該の地域を発展させ,あるいは衰退させてきたことがわかる。

しかしながら近年ではコンパクトシティの取組のように「そこに住む市民にとってよりよいまちとは どのようなものか」という視点から,まちづくりが見直され始めている。そこで本研究では,地域性 を規定する事実判断を相対化する学習活動を取り入れる。判断とはある一定の論理・基準などに従っ て,意思決定を行うことである。事実判断とは,「~すれば~であろう」という一定の解釈に基づく判 断をさす。本研究で提案する授業は,地域の景観の背後にある事実判断を分析する「地域性の分析過 程」と,当該の事実判断の社会的な意味や意義を分析した上で,それを吟味する「事実判断の吟味過 程」から構成した。

空間的に比較・分析する授業は「価値分析過程」と「価値吟味過程」から構成されるが,身近な地 域の観察・調査を行う授業は,小学校社会科において子どもが初めて学習する単元である。具体的な 事物や体験から,知識を習得するこの段階においては,「価値吟味過程」において獲得した価値判断基 準をもとに他の事例について評価し,価値を反省,吟味する学習活動は困難であると考え,「価値分析 過程」のみを授業過程に組み込んだ。「地域性の分析過程」は「価値分析過程」の①社会的事象および 社会的判断についての事実認識,②事実認識の背後にある価値判断の明確化にあたる。「事実判断の吟 味過程」は③価値判断がもたらす社会生活への影響の分析,④価値判断の相対化からなる。

(1)地域性の分析過程

「地域性の分析過程」は,地域の観察・調査の結果を地図に可視化し,景観の構成要素の関連を分 析することで,地域性を規定する判断を明らかにするものである。A-①「地域性の可視化による課題 設定」A-②「地域性に関わる事実認識」A-③「地域性の背後にある事実判断の認識」の3つの段階で 構成される。

A-①「地域性の可視化による課題設定」は,地域の観察・調査の結果を地図に表し,地域の構成要 素の位置や分布を明らかにすることで,地域性について課題を持つ段階である。複数の地域を見学す れば,子どもはその景観の違いに気づくことはできるであろう。しかしながら「なぜそのように異な っているのか」について追求するには,地域の構成要素を地図に表し,可視化する必要がある。そこか ら子どもたちは「なぜ駅や道路の周りに店が集中しているのか」等の課題を持つことができるであろ う。A-②「地域性に関わる事実認識」は地域の構成要素間の連関を明らかにすることで,地域性を規 定する法則を明らかにする段階である。地域の主要構成要素の位置や分布に着目し,経済的あるいは 社会的視点からその法則を明らかにするものである。A-③「地域性の背後にある社会的判断の認識」

は,A-②の事実認識をもとにその背後にある事実判断を明らかにする段階である。地域性の違いを可 視化し,その法則性を認識した上で,「何を大切にしていると言えるか」と問うことで,それぞれの地 域性の背後にある事実判断を明確にできると考える。

(2)事実判断の吟味過程

「事実判断の吟味過程」は,複数の地域性の背後にある事実判断の比較や,他者との意見交流を通し