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電柱に管理者の許可なくポスターを張り現行犯逮捕したのだが、被疑者が指名住居を完全黙秘し、資料も全くなかった と言う事案である。しかしながら、身柄の引き受けについては受取先があり、起訴状謄本の送達や期日の出頭の確保に 関しては確約が出ていた。

この事案には二つの問題が含まれる。

①客観的には定まった住所があるものの、それが裁判所には分からない「不定」というより「不明」の場合は、定ま った住所があると言えるのか

これは被疑者が所在不明になり、刑事訴追などが出来なくなると言う観点からは同じであるから、不明の場合も1号 に該当すると言う見解が有力である。

②勾留の実質的な必要性と身柄拘束による不利益との権衡

判決は、1号に該当する事情自体は認めつつも、確実な身柄引受人があり、出頭の手だてが確保されているならば、

勾留しなくてもいいんじゃねといった裁判官の判断を尊重した。

勾留の実質的な必要性とそれによる不利益が考慮されることが分かる。やはり長期の拘束は被疑者に不利益を与える のであって、そのバランスをとれるような必要性が要求されるのである。このような判断次第では必要性がないとし て、勾留が認められないということもある。

起訴事実がきわめて軽微であるとか、健康状態に問題があるとかそういった場合が考えられる。

(3)手続

a.勾留の請求

①検察官

必ず請求は検察官によって行われなければならない。司法警察員が勾留をするというわけではない。被告人に対して のものは裁判官が職権でやるので、そもそも請求とかいらない。

②逮捕前置主義

また、逮捕前置主義として、必ず逮捕を先立たせる必要がある。

【参照】刑事訴訟法第 207 条1項

前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、

保釈については、この限りでない

前3条、つまり 204~206 条は、いずれも逮捕した被疑者に対して検察官が弁解の機会を与え、そのうえで留置の 必要がある時は裁判官に対して勾留の請求をするように定めたものである。

このようにして請求を受けた裁判官が勾留を決める以外に、刑事訴訟法上勾留は定められていない。

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③時間制限

詳細には刑訴法 203~206 条に規定されるが、法の定める時間制限がある。司法警察職員に逮捕された場合、検察官 が受け取ってから24 時間以内、かつ身柄の拘束から72 時間以内に勾留請求をするルールがあるのは前述した。

また、これにつき最初から検察官が確保した場合は、身柄拘束から48 時間以内に勾留請求しなくてはならない。

ただし、時間制限の間に公訴を提起する場合は、裁判官が職権で被告人として勾留するか決めるので特に問題がない。

これを超えてされた勾留請求は、原則として不適法なものとして却下されるが、やむを得ない事情がある場合には、

検察官は裁判官にその事由を疎明して、請求することができる。裁判官はそれを理由があると認めると、勾留する。

これは例えば天災にともなう交通通信の混乱の場合などがあげられるが、事案が複雑だとかいうような捜査側の事情 は基本的に含まれない。

④請求の方式

規則 139 条により書面が要求され、さらに 147 条の定めに従う。また、勾留の理由を認めるべき資料や、逮捕の日 時等を明らかにするべき資料として、逮捕状請求状と逮捕状などを提供しないといけない(規則 148 条)。

【参照】刑事訴訟規則 147 条

1 被疑者の勾留の請求書には、次に掲げる事項を記載しなければならない 一 被疑者の氏名、年齢、職業及び住居

二 罪名、被疑事実の要旨及び被疑者が現行犯人として逮捕された者であるときは、罪を犯したことを疑うに足り る相当な理由

三 法第六十条第一項各号に定める事由

四 検察官又は司法警察員がやむを得ない事情によつて法に定める時間の制限に従うことができなかつたときは、

その事由

五 被疑者に弁護人があるときは、その氏名

2 被疑者の年齢、職業若しくは住居、罪名又は被疑事実の要旨の記載については、これらの事項が逮捕状請求書 の記載と同一であるときは、前項の規定にかかわらず、その旨を請求書に記載すれば足りる

3 第一項の場合には、第百四十二条第二項及び第三項の規定を準用する

※規則 142 条2項、3項は、氏名が特定できないときには人相や体格で特定可能なくらい記載してね、とか職業や 住居が不明の時はその旨記載しといてね、とかそういう規定。

b.勾留質問

被疑事実を告げ、これに関する被疑者の陳述を聞いてからでないと、勾留することは出来ないという刑訴法 61 条の 定めを受けることになるが、これによって行われる質問を勾留質問と言う。

【参照】刑事訴訟法第 61 条

被告人の勾留は、被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければ、これをすることができな い。但し、被告人が逃亡した場合は、この限りでない

勾留質問は直接の裁判官への弁解の機会を与え、それにより不当あるいは不正な勾留を防ぐ意図がある。このために は被疑者が十分な弁解を行えるようにされねばならない。したがって被疑事実の告知は、十分な弁解が出来る程度に は詳しく行われなくてはならない。

被疑事実に加えて、60 条1~3号に定める事実についても告知する必要があるかについては、実務上は告知しなく てもいいという運用がなされるが、学説上はむしろこの点も告げるべきではないかという意見が多い。

【参照】刑事訴訟法第 60 条1項

裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これ を勾留することができる

一 被告人が定まつた住居を有しないとき

二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき 三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき

また、勾留質問を行う場所については規定がなく、古い判例において警察署でのそれを合憲認定したものもある。し かし、現に身柄を留置されているような心理的圧迫のある場所は、あまり適当とは言えないように思える。勾留は裁 判の前提として行われるのだし、さらには心理的にも自由を確保するためにも、裁判所の庁舎内で行うべきだとされ、

今日の実務もそのように運用される。この陳述は不利にも有利にも勾留の資料になるし、これについては勾留質問調 書が作成される。これは勾留が認められた場合には検察官に送付される(規則 150 条)ため、のちに証拠とされる危険 もある。取調べとは異なり、弁解調書の手続きであるところから、法律上は黙秘権は告知されなくてもよいとされる が、その実質からはやはり告知が必要だと思われるし、実務の運用もそうしている。

37 c.勾留の裁判

裁判官は勾留請求の適法性と、それと勾留の理由・必要を判断することになる。提出資料や質問では分からないと言 うときには、事実の取調べを行うこともできる。勾留請求が適法で、勾留の理由必要が認められるときには 64 条と 規則の 70 条の規定に従い勾留状を出す。

【参照】刑事訴訟法第 64 条

1 勾引状又は勾留状には、被告人の氏名及び住居、罪名、公訴事実の要旨、引致すべき場所又は勾留すべき刑事 施設、有効期間及びその期間経過後は執行に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに 発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判長又は受命裁判官が、これに記名押印しなければな らない

2 被告人の氏名が明らかでないときは、人相、体格その他被告人を特定するに足りる事項で被告人を指示するこ とができる

3 被告人の住居が明らかでないときは、これを記載することを要しない

【参照】刑事訴訟規則第 70 条

勾留状には、法第六十四条に規定する事項の外、法第六十条第一項各号に定める事由を記載しなければならない 地味にさっきの「60 条1項各号の告知」の必要性が重視されているあたりがイケメンである。

不適法だ、あるいは理由必要がないとされると、勾留請求を却下し、被疑者の釈放を命じることになる。勾留状を発 付するなどの裁判に不服がある時には、検察側も被疑者側も、その取消や変更を求めて所定の裁判所に対して 439 条に定める準抗告(後述)が可能である。

勾留状が出ると、その運用は検察官の指揮に従ってなされる(70 条)。被疑者に勾留状を提示した上で直接に勾留す る場所に引致することになる。

(4)勾留の場所 勾留の場所に関しては非常に大きな問題があった。これは被疑者に対しての我が国の刑事司法の在り方、そして監獄 法改正と言う立法問題と絡んでいた。ただ、最近は監獄法も改正されたし取調べの在り方の規制としてもっと直接的 に録画録音が言われるようになり、ちょっと議論が下火になっている。

a.問題の所在

★代用監獄として、特に起訴前の被疑者については警察留置所で勾留が行われる実務が定着しており、適正手続の観 点からは非常に問題視されていた。

さっき載せた刑事訴訟法第 64 条(前頁参照)には「勾留すべき刑事施設」という言葉が使われている。

ここから、勾留する場所は刑事施設であり、そしてどこに勾留するのかについては裁判官が令状において指定するこ とになっていると分かる。では刑事施設とは何かと言うことになるが、これについては刑事収容施設及び被収容者の 処遇に関する法律の3条が定めるように、基本的に拘置所が想定されている。

【参照】刑事収容施設及び被容疑者の処遇に関する法律第3条

刑事施設は、次に掲げる者を収容し、これらの者に対し必要な処遇を行う施設とする。

一 懲役、禁錮又は拘留の刑の執行のため拘置される者

二 刑事訴訟法の規定により、逮捕された者であって、留置されるもの 三 刑事訴訟法の規定により勾留される者

四 死刑の言渡しを受けて拘置される者

五 前各号に掲げる者のほか、法令の規定により刑事施設に収容すべきこととされる者及び収容することができ ることとされる者

しかし、同法の 15 条は、一定の重大犯罪者を除き、「刑事施設に収容することに代えて、留置施設に留置することが できる」ということを定めている。刑事訴訟法の規定により勾留されるものと言うのは、今言った代替収容の対象と なるので、具体的には警察留置場が代用刑事施設として勾留に用いることができることになる。

結局、警察の施設に収容することができてしまうのである。同じような制度が、かつての監獄法のもとでもとられて いて、これが監獄法との関係で問題になった。

平成 17 年改正前の法律の規定では、刑訴法 64 条に拘引状・勾留状に記載する事項として「勾留すべき監獄」とい う規定がおかれ、これについて監獄法1条 3 項が「警察官署ニ附属スル留置場ハ之ヲ監獄ニ代用スルコトヲ得」と定 めていたのである。まさにこれによって警察留置所は代用監獄と言われた。

勾留場所の運用の実情を見ると、被告人の拘留は拘置所で行われることが多かったものの、起訴前の被疑者の勾留に は警察留置所がめっちゃつかわれていた。こいつを廃止しろだのなんだのという議論が盛んだったわけである。