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「…代用監獄たる留置場にするかは、検察官の意見を参酌し、拘置所の物的、人的施設能力、交通の便否のほか、捜査 上の必要性、被疑者または被告人の利益等を比較衡量したうえ、裁判官の裁量によって決定すべき…」

◎監獄法改正作業

そんななかで法制審議会が 1976 年に諮問され、「監獄法改正の骨子となる要綱」が 1980 年に答申された。

【参照】監獄法改正の骨子となる要綱(抜粋) 108 刑事留置場

(1) 警視庁若しくは道府県警察本部又は警察署に附属する留置場は、被勾留者を収容するため、刑事施設に代えて 用いることができること。

110 その他

改正法の実施に当たり、特に次に掲げる事項について配慮すること。

(1) [略]

(2) 関係当局は、将来、できる限り被勾留者の必要に応じることができるよう、刑事施設の増設及び収容能力の増 強に努めて、被勾留者を刑事留置場に収容する例を漸次少なくすること。

これを受けて「刑事施設法案」が出来たのだが、代用監獄を減らそうと言う方向にはいかず、同時にでた「留置施設 法案」が代用監獄を認める感じだったので批判されまくり成立しなかったのであった。

転機となったのは、名古屋で受刑者が起こした事件であり、2006 年に刑事収容施設及び被収容者の処遇に関する法 律が立法され、懸案の監獄法が全面改正されたのである。しかし代替収容に対しては有識者会議を設置して検討し、

さきに見たように現行法でも存続をさせるということになった。立法上のごたごたはいったん終結するが、その運用 等、勾留の場所を廻った問題はそのまま残されることとなったのであった。

d.若干の検討

★設備的な実情を踏まえると、代用監獄の存在に頼らざるを得ない面がある。しかしあくまで勾留の目的が「逃亡・

罪証隠滅」の防止にある点を没却するような、過度に捜査の必要性を強調する運用は避けねばならない。

現状では拘置所の数は、決して十分ではない。現在拘置所はその名前のものが8施設、拘置支所と言う名称のものが 103 施設、ほかに刑務所の中の拘置部がある程度である。

対して警察留置所は全国に約1200 か所ある。警察留置所はいろんなところにくまなくあるのに対し、拘置所は立地 も悪い。これも前提にすると、存続の結論には一定の合理性があるのも否めない。都市部に拘置するほうが、被疑者 サイドの負担軽減にもつながるのも事実である。しかし、代替監獄問題において、捜査の必要性を過度に強調するの はいただけない。やはり、何か積極的に捜査の便宜を図るためではなく、逃亡防止と罪証隠滅のためにあるのがこの

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制度だからである。とりわけ、被疑者取調べの必要性だけを強調して、警察拘置所での拘束を認めようとする理論は、

被疑者の黙秘権を保障する刑事訴訟法の立場と相いれるのか疑わしいところがある。

新しくできた法律は、留置施設について其の管理運営の適正さを確保するためのいくつかの措置を定める。具体的に は国家公安委員会に質問出来たり、有識者からなる留置施設視察制度、意見普請制度を設けたりしている。さしあた りは警察留置施設に勾留することの問題点に対しては個別的な運営で対処しつづける必要があるだろう。

勾留の場所については拘置所と警察留置所の両者がともに考えられ、やはりどちらかが原則だとするのには無理があ る。しかし、警察留置所を勾留場所とすることによる弊害が生じやすい具体的事情がある場合は確かにある。否認を し続け、証拠もあまりないようなときには配慮が必要であろう。

◎運用上の工夫

【参照】浦和地決平成 3 年 8 月 27 日・判タ 784 号 270 頁

「被疑者を身近な警察の留置場に勾留することは、被疑者の身柄を拘置所に置くよりも、接見・差入れ等の点で被疑者の 利益になる場合が多いこと、その方が取調べにも便宜であること、拘置所の収用人員に限りがあることなどを考慮して、

実務上多く行なわれているが、勾留場所として代用監獄を利用することは、……他方において、種種の重大な人権侵害 をもたらすおそれがあること等にかんがみ、特に、被疑者が、被疑事実を強く否認していたり、黙秘する態度を明らかにし ている事案においては、慎重な対応が求められて然るべきである」

「ところで、本件は、埼玉県議会議員候補者であった被疑者が、自己の講演会の支部長に対し、買収資金として金 30 万 円を供与したという事案であるところ、本件においては、被疑者は、金員の趣旨について強く争い、捜査機関に対する供 述を拒否する態度を明らかにしているのであって、このような被疑者の身柄を、全面的に捜査機関の管理下に置き、長 時間の取調べを許容するときは、その黙秘権を侵害する不当な取調べが行なわれる事態を防止することができず、相 当でない」

「……そうすると、被疑者の勾留場所を朝霞警察署留置場とした原裁判は、これを拘置所ないし拘置支所としなかった点 で不当であり、取消しを免れない」

被疑者の様態について考慮がなされていることに注意しよう。

(5)勾留の期間 勾留の期間については、刑訴法 208 条 1 項を参照しよう。

【参照】刑事訴訟法第 208 条 1 項

前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検 察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない

勾留の請求をした日から10 日以内に公訴を提起しない限りは、釈放しないといけないと書いてある。この起算点に 注意しよう。これは現実に勾留状が執行された日ではなく、「請求」した日である。これは初日を算入し、休日も算 入するやさしい制度。

※だが、これを実際にカレンダーとか見てやらせると間違える人続出。是非確認しよう。

◎勾留期間の延長と再延長

刑訴法 208 条 2 項により、やむをえない事情のときに検察官の請求により期間を延長することができる。

延長は検察官の請求によること、そして延長には勾留の理由・必要が継続しているほかに、やむを得ない事由がある ことを認めてもらう必要があることなどに注意。

【参照】刑事訴訟法第 208 条2項

裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。

この期間の延長は、通じて十日を超えることができない

止むを得ないと言えるためには、捜査継続をしないと、①起訴不起訴の事件処理ができない、②10 日の捜査では足 りなかった、③拘留期間の延長により事件処理が可能になること、の3つが必要であるとされる。これにつき、回数 の制限はないのだが、通算して10 日を超えることはできない。3日ずつ刻んで行くことなどはありうる。

また、刑訴法 208 条の 2 により、さらに一定の罪に関しては検察官の請求により 10 日の延長の後にさらに再延長が 可能である。やむをえない事情がある場合にのみこれは許される。期間は通算して 5 日を超えることができない。

【参照】刑事訴訟法第 208 条の2

裁判官は、刑法第二編第二章 乃至第四章 又は第八章 の罪にあたる事件については、検察官の請求により、前条 第二項の規定により延長された期間を更に延長することができる。この期間の延長は、通じて五日を超えることが できない

◎勾留期間の短縮

勾留の期間について議論されるのは、勾留期間を 10 日間より短く限定することはできるかどうかである。

40 教材 52 事件(昭和 40 年 8 月 14 日:大阪地裁)

事案は省略されたが、まあ勾留期間に関係することくらいわかるだろうからいいだろう。

結論から言えば、「短くすることはできない」ということになった。実務も現在はそれに習う。

対して学説は、短い期間を定めた勾留もできてしかるべきだというが、まあ現行法制では文言からすると否定的であ るように思える。208 条1項は、一律に 10 日以内と言うことしか言っていないし、また、勾留状の記載事項(64 条) を見てみても、記載事項に勾留の期間が含まれない。ここからは、法が一律に定めた法定期間であるようにも見える。

さらに、裁判所が 10 日よりも短い勾留できないというのは、逆に言えば 10 日勾留するに足らない奴は勾留されな いと言う自制的な役目も持つ。

但し、勾留を取消すことはできるわけで、それとのバランスからは期間を短くすることができてもおかしくはない。

これは勾留取消権の事前行使として可能なことではないだろうか。また 52 事件は、読みようによっては調査に関わ ってなかった裁判官が判断したのがおかしいとかそういうことを重視していただけにも読めなくもない事案だった ようであり、実務慣行とは異なった扱い方も、理屈の上では十分に成り立ちうるように思えるとのこと。

(6)勾留からの解放 ここからは、自由を得るための手段を少し見ていくことにしよう。

a.勾留理由開示

当事者あるいは利害関係人は、刑訴法 82 条の規定により勾留理由を開示させることができる。これは憲法 34 条か らくる規定であり、何人も正当な理由が無ければ拘禁されないし、要求があれば公開の法廷で理由が示されなくては ならないとされていることによる。被疑者の勾留は、拘禁に当るということは以前述べた通りである。

勾留状発付においては必ず勾留質問があり、被疑事実を告知される。勾留状の執行の際には被疑事実を記載した勾留 状が提示される。しかしそれだけでは不十分であるとされ、長い勾留機関における事情変更を考慮することも出来な いと困る。よって、長期の身柄拘束である拘禁には憲法 34 条が保護を与えており、82 条はそれを具体化するのであ る。

その際 83 条により公開の法廷で、84 条によりそこでは理由を告げる必要がある。請求者や被疑者弁護人は意見を述 べることもできる。ただし、相当と認めるときには意見の陳述に代えて、書面を差し出すべきと伝える旨規定される。

もちろんこれは釈放義務などにはつながらないが、裁判官の慎重な手続き運営にも向かうし、必要がないと思われる ときには準抗告や取り消しを求めて訴えることもできるし、この点で勾留からの解放にリンクしている。

b.勾留の取消し

①87 条による取消し

刑訴法 87 条にあるように、勾留期間の満期前でも、必要があれば請求又は職権に由って裁判官は勾留を取消す。こ の時には、「検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しく は兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない(87 条)」とされる。

②91 条による取消し

また、勾留期間が不当に長くなった場合には 91 条にあるように勾留取消請求権が認められるので、請求権者から取 り消し請求があった場合には、裁判官は取り消し又は請求却下の判断をしないといけないことになる。この判断に対 しては、準抗告によって不服の申し立てが可能である。この「不当に長い」というのはあくまで単なる時間的な概念 ではなく、事案の性質や態様、審判の難易、被告人の健康状態など諸般の事情を考慮した上で総合的に判断されるも のである。ちなみに、91 条が準用する 88 条は、「勾留されている被告人又はその弁護人、法定代理人、保佐人、配 偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹は、保釈の請求をすることができる」としている。

請求権を有する者として、87 条は検察官を含むが、91 条は含まない。これは立法ミスではないかとの指摘もなされ ている。ただ個人的には、勾留の理由などの判断は勾留に当り検察官も行っているわけで信頼がある以上検察官の指 摘にも意義があるが、「不当に長い」かどうかはもっぱら検察の判断すべきことではないという意識が働いているの ではないかと思ったりする。ごめん話きいてなかったここ。

c.勾留の執行停止

刑訴法 95 条に規定があるように、裁判官が適当と認めるときは、被疑者を親族等に委託し又は住居制限等を課しな がらだが、勾留を執行停止することが認められる。執行停止は裁判官の裁量次第であり、被疑者等に請求権が与えら れていない。応答義務はない。

たとえば医療所の必要や近親者の葬儀、就職や卒業等の試験がある場合に、執行停止は用いられることになる。