ANNRI is open to users, Call for Proposals: Twice a year
5.2 中性子エネルギー分布への補正
この節では、測定環境の影響を考慮した補正を適用する。適用した補正は、測定系の不感 時間の影響、J-PARC MLF BL04の中性子ビーム強度の影響の 2つである。これらの補正 方法とその結果について、以下で説明する。
5.2.1 測定系の不感時間に関する補正
不感時間の影響は反応断面積の大きいs波共鳴ピークに現れており、非対称度を導出する 際に積分値を少なく見積もることになる。このため、不感時間によって失った共鳴イベント の補完が必要となる。ここでは、不感時間の影響を受けて失ったイベントの補完方法と、そ れによる中性子共鳴分布への補正に関して説明する。
第3章の測定回路の節で説明したように、測定系の不感時間を見積もるためにパルサーが 設置されている。これはGe検出器から得られるγ 線の信号と同様に扱うことができ、中性 子共鳴イベントと同様に中性子飛行時間(TOF)分布を定義できる*1。パルサー信号の波高 はGe検出器から得られるγ 線のパルス信号の波高よりも十分に高く設定してあり、Ge検出 器から得られるγ線イベントとは区別して取り扱うことができる。
パルサー信号は、中性子ビームが標的核に入射するタイミングとは独立に発生する。この ため、パルサーイベントのTOFは時間によらずランダムであり、TOF分布は理想的には全 領域で平坦な分布になる。しかし、測定系の不感時間が長いと、Ge検出器に入射するγ 線 量が多い程不感時間の影響を受ける。そのため、標的核種によっては、共鳴エネルギー付近 でTOF分布に凹みが見られる。J-PARC MLF BL04で測定したIn(n, γ)については、パル サーによるイベントのみでのTOF分布は図5.5(a)のように得られる。3000 µs以上で平坦 な分布になっているのに対し、3000 µs以下の領域では不感時間の影響を受け、分布に凹み が見られている。スケーラーに記録されたパルサーの計数値と測定データ中のパルサーの全 イベント数の比を取ることにより、In(n, γ)反応での不感時間は全測定時間の64.3%と得ら れた。図5.5(b)は、注目するs波p波の干渉領域(中性子エネルギー5 eV - 10 eV)につい て拡大したパルサーイベントのTOF分布を、式(5.1)を用いて便宜上の中性子エネルギー分 布にしたものである。s波領域(9.07 eV)ではパルサーイベントが完全に失われていること が確認できる。
不感時間補正の結果として、図5.6の中性子共鳴分布が得られる。図5.6は、不感時間補 正を適用する前(斜線)と適用した後(点)の比較を示している。s 波共鳴の裾野部分にお いて、不感時間によって失われたイベントの補完が確認できる。図5.5(b)より、s波共鳴の
*1実際には中性子飛行時間とは関係がなく、中性子ビームが発生してからパルサー信号が発生するまでの時間差 であるが、本論文では便宜上TOF分布とする。
5.2 中性子エネルギー分布への補正 47 ピーク領域に相当する8 eV - 9 eVの中性子エネルギー領域に関しては、不感時間によって パルサーのイベントが完全に失われており、s波共鳴のピークを復元できない。しかし、非対 称度を導出する際に使用する領域はp波周囲のみであり、この領域を使用しない。そのため、
非対称度に影響はなく、ここでは考慮しない。
µs]
TOF [
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500
events
1 10 102
103
TOF (Pulser)
(a) パルサーイベントに関してイベント選別したTOF 分布
Neutron Energy[eV]
5 5.5 6 6.5 7 7.5 8 8.5 9 9.5 10
events
1 10 102
Neutron Energy (Pulser)
(b) パルサーイベントに関してイベント選別した中性子 エネルギー分布(解析に使用する中性子共鳴領域につい て拡大)
図5.5 パルサーイベントに関してイベント選別した(a)TOF分布と(b)中性子エネルギー分布。
Neutron Energy[eV]
6 6.2 6.4 6.6 6.8 7 7.2 7.4
events
10 102
103
Neutron Resonance
Before DeadTime Correction
After DeadTime Correction
図5.6 不感時間補正後の中性子共鳴分布。全Ge検出器で取得したイベントを合計して 記した。斜線領域(青)は不感時間補正を施す前の中性子共鳴分布であり、点領域(赤)は 不感時間補正後の中性子共鳴分布である。横軸は中性子エネルギー[eV]を示し、縦軸はイ ベント数を示す。
48 第5章 In(n, γ)反応の解析
5.2.2 中性子ビーム強度に関する補正
J-PARC MLF BL04の中性子ビーム強度は、中性子エネルギーに依存する形で図5.7のよ
うに得られる[22]。これは検出器群の試料位置にホウ素(B)ターゲットを置き、10B(n, αγ)7Li 反応を測定することで得られた。10B(n, αγ)7Li 反応から放出されるγ 線の内、478 keVの ピークでイベント選別してTOF分布を得る。このTOF分布を式(5.1)を用いて中性子エネ ルギー分布に焼きなおすことで、図5.7が得られる。
図5.8は10Bの断面積を示す。10BはO(1) eVの領域に共鳴ピークを持たないために前節 で述べたような不感時間の影響は無く、図5.7を用いたビーム強度の補正が可能である。
図5.7より、中性子エネルギーが低い程、ビーム強度が増加する傾向が確認できる。
中性子エネルギーが低いほどビーム強度が高いために、測定データは低中性子エネルギー
ほど(n, γ)反応数が多くなっている。これは非対称度に対して低エネルギー側の積分値を多
く見積もってしまう要因となる。このために、図5.6に対して、図5.7の各中性子エネルギー でのビーム強度で除算することによって、ビーム強度の補正を適用した。
neutron energy[eV]
−2
10 10−1 1 10 102 103
neutron intensity(n/eV/cm2/shot)
10 102
103
104
105
106
107
BL04 flux
図 5.7 J-PARC MLF BL04の中性子ビーム強度の中性子エネルギー依存性。横軸は
中性子エネルギー[eV]を示し、縦軸は中性子ビーム1束の 1 cm2あたりの中性子強度 [n/eV/cm2/shot]を示す。