5.2 手法の説明
5.2.1 不鮮明画像と鮮明画像の明度と彩度の特徴
そこで本手法では、ヒストグラム拡張を基本として、明度と彩度それぞれに適したコントラスト 改善を行う。図68に提案手法のコントラスト改善の概念を示す。拡張倍率は色空間全体で一律で はなく、各色の密集度合いから各色に適した拡張倍率を推定する。本手法では、明度と彩度でヒス トグラム拡張処理を別々に行う事と、各色をクラスタリングによってクラスタ分類し、各クラスタ でヒストグラム拡張処理を行う事で、偽色を抑制する。コントラスト改善処理において、偽色が 発生する原因は彩度の過強調にある。そこで、コントラスト改善処理を明度と彩度に分ける事で、
明度のコントラスト改善効果を高めたまま彩度のコントラスト改善効果を過度にしない様に調節 する。また、低彩度の画素はさまざまな色相を持っているが、これらの画素は低彩度なので、画像 上では似た灰色に見えて色相の違いは視認しづらい。高彩度の画素は強調が不要である。よって、
一律に彩度を強調してしまうと、大きな低彩度領域中に、周辺と色相が異なる画素が目立ち、高彩 度領域は過度な色となる。特に低彩度領域の中で周辺と色相が異なる画素の過強調は、偽色発生の 原因の1つである。画像中には白色や黒色等の無彩色対象物も存在するため、低彩度画素だからと いって必ずしも彩度を強調すれば良いという訳ではない。そこでクラスタリングによって、原画像 の各画素を強調するクラスタと抑制するクラスタに分ける。ヒストグラム拡張を各クラスタで独立 に行い、各クラスタに適した拡張倍率を設定して偽色を抑制する。
図 68: ヒストグラム拡張例
本手法の流れを説明する。まず画像を明度と彩度に分解する。L*a*b*色空間を用いて画像をL*
とa*b*平面に分ける。次に、2種類のクラスタリングを行う。1つは、L*ヒストグラムの形の複
雑さでクラスタリングする(図68(a)上段)。図68(a)の点線はL*クラスタの分割点で、黒点線は
拡大するL*クラスタ、赤点線は縮小するL*クラスタを表す。黒点線で囲んだ拡大するL*クラス
タは黒矩形で、赤点線で囲んだ縮小するL*クラスタは赤矩形で示す。黒矩形のクラスタはピーク を持つため不鮮明な色のクラスタ、赤矩形のクラスタは平坦なヒストグラムのため鮮明な色のクラ スタと言える。全ての画素は、拡大するL*クラスタか縮小するL*クラスタに割り当てられる。L*
軸の範囲を超えてヒストグラム拡張はできないため、鮮明なL*クラスタを縮小する事で、不鮮明
なL*クラスタのコントラスト改善効果を高める。もう1つは、L*a*b*色空間の画素値でクラスタ
リングする。最後に、ヒストグラム拡張によりコントラストを改善する。L*のコントラストを大 幅に改善するために、各L*クラスタを拡張しても互いに重ならない位置へ再配置する(図68(a)下 段)。不鮮明な画像のヒストグラムは、画素が特定の色に集中し、特徴空間中でクラスタが作成さ れない範囲が広くなる。例えば、図68(a)上段では、ヒストグラムの両端にはデータが存在せず、
その箇所はクラスタがない空きスペースとなる。本手法ではこの空きスペースをヒストグラム拡張 において有効に利用する。図68(a)下段の様にL*クラスタを再配置する事によって、L*のヒスト グラム全体に空きスペースを分散させて各黒点線のL*クラスタの拡大率を高める。a*b*のコント ラストは、L*a*b*のクラスタリングで作成した各クラスタの代表点と各画素の色差を広げる事で 改善する(図68(b))。図69に提案手法の流れ図を示す。
図69: 提案手法3の流れ
5.2.2 2つのクラスタリング
色分布の偏りに沿って、各色で最適なヒストグラム拡張の倍率を推定するために、L*とL*a*b*
の2種類のクラスタリングを行う。
L*のクラスタリングでは、ヒストグラム形状の複雑な箇所と平坦な箇所を分離するために、累 積ヒストグラムを等分割し、密集したL*クラスタを統合する。累積値で等分割すると、ヒストグ ラムの形が山となる箇所でL*クラスタが密集し、平坦な箇所でL*クラスタが散らばる。等分割に よって平坦なL*クラスタを作成し、山となる箇所で密集したL*クラスタを統合して複雑なL*ク ラスタを作成する。
L*a*b*のクラスタリングでは、一般的なNearestNeighbor(NN)法を行う。NN法とは、分類カ テゴリを予め用意して、各入力データと最も類似するデータを含むカテゴリに各入力データを分類 する手法である。用意する分類カテゴリを構成するデータを初期シードと呼ぶ。初期シードは、原 画像から「50」画素をランダムにサンプリングし、その中から色が類似するサンプリング画素を棄 却し、残った画素で構成した。ここで、色の類似はL*a*b*色空間のユークリッド距離で色差「30」
未満とした。入力データと最も類似する分類カテゴリのデータの距離が閾値を超えている場合は、
入力データを初期シードとして新たに分類クラスタを作成する。閾値より小さい場合は、該当する 分類クラスタに入力データを分類して、その入力データを分類カテゴリのシードに追加する。閾値 が小さいとクラスタが過分割されて処理時間はかかるが偽色の原因にはならない。閾値が大きいと 他の色特徴のクラスタと過統合されて後のヒストグラム拡張の際に偽色発生の原因となる。本手法 で使用した閾値(thN N)は実験的に「20」とした。
NN法において、クラスタが類似する色の画素を吸収すると、その吸収した色差の分だけクラス タを大きくする。L*については色特徴だけでなくヒストグラム形状で分割したいが、NN法では ピーク箇所と平坦箇所にある画素の色が類似していると分離できず過統合される。そのため本手法
ではL*のクラスタリングにNN法を使用しない。