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信頼関係の形成パターン

ドキュメント内 里親制度の長期的動態と 展望 (ページ 145-149)

第6章 里親委託をめぐる状況は変わったのか

3. インタビュー結果の分析と考察

4.1. 信頼関係の形成パターン

以上の結果から,福祉司の里親に対する信頼感をもたらす要因は,子どもに熱意を持っ て養育するといった子育てへの誠実さ,および養育の悩みを開示するといった里親の福祉 司への信頼感の表明であった.一方,里親の福祉司に対する信頼感をもたらす要因は,養

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育上の問題に福祉司またはその代替機関が即応してくれること(Xさんの事例),福祉司が 里親に対して心理的なケアを提供してくれること,養育責任を共有し,子どものニーズの 充足に主体的に努めてくれること,であった.養育上の問題や子どものニーズといった手 段的な問題としては,子どもの進路相談(Qさんの事例),実親との関わり(Rさん・Sさ ん・Tさんの事例),実親の探索と情報の提供(Qさんの事例)といったことがらが示され た.心理的ケアは,里親の身になってその苦労を理解してくれること(Qさん・Rさんの 事例),里親の努力に対して評価をしてくれること(Rさんの事例)が相当した.

里親が福祉司に信頼を寄せると,福祉司も里親を信頼する.どちらが先かは確定しえな いが,インタビューの結果では福祉司の対応によって里親が福祉司を信頼し,信頼の結果 として養育の悩みが開示され,そのことで福祉司が里親を信頼する,という信頼関係の確 立過程が垣間見えた.

また,里親が委託された子どもを誠実に,熱意を持って養育していることが福祉司に実 感されると,そのことは,福祉司から里親への信頼を生み出していた.福祉司が信頼を寄 せる里親には,子どもの委託も行われやすい(Vさんの事例).支援体制が充分ではない現 況においては,里親への信頼が子どもの委託を決定する重要な一因となっているのである.

4.2. ニーズ,サポートと信頼関係

先行研究においては,里親は,手段的・表出的ニーズを抱えており,そうしたニーズに 見合う支援を福祉司が行うことが重要であると指摘されてきた.とりわけ,里親が悩みを 開示できることが里親の負担を軽減する効果を持つことを,ほとんどの研究が指摘してい た.これらの事実は本章の調査でも確認することができた.しかし,里親は,それ以上に 福祉司との子どもに関する情報の共有がより重要であると考えているようだった(Q さ ん・Rさんの事例).具体的には,進路相談(Qさんの事例),子どもと実親との関係性(R さん・Sさん・Tさんの事例),実親についての情報探索・情報提供(Qさんの事例)とい った情報の共有および支援である.

この点について,櫻井(1997)は,里親の支援として,「福祉司が取って代わって里子を 育てることではなくて,里親が里子を育てやすいように福祉司が寄り添っていくこと(櫻

井 1997:83)」を強調する.福祉司が養育の前面に出ることは,里親の主体的な取り組み

や動機付けを低下させてしまう危険性があるからだ.こうして先行研究は総じて「里親の 悩みを聞く」に代表される後方支援が重要な支援であることを指摘する.しかし,これら

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の重要性は否定されるものではないが,これまでの研究ではこうした後方支援があまりに も強調されすぎていたように思われる.そのために,福祉司と子どもとの関係は,福祉司 と里親に匹敵するくらい重要な関係であることに,あまり注意が払われてこなかったので はないだろうか.

4.3 福祉司の役割

本章においては,里親自身が,子どもの養育責任を児童相談所の福祉司にも協働して担 ってほしいと考えていることが示された.里親家庭にすべての責任を帰属させるのではな く,里親家庭外の福祉司もその養育責任を協働して担っていくという,より新しい,複数 の関係者がケアを行う開放的な養育が必要となってきていると考えられる.

だが,現況では,福祉司のこうした対応は限られた人的・時間的資源ゆえに困難であり,

役割過重を生み出す.本章では,子どもへの支援において,福祉司が業務の範囲を超えて 尽力することで,里親と福祉司との間に信頼関係が生じることが報告された(Q さん・R さんの事例).しかし,そうした福祉司の献身によってのみ,信頼関係が支えられるとすれ ば,それは福祉司にあまりにも多くの負担を強いるものといえる.

福祉司が,通常の業務の範囲内で里親と子どものニーズに応え,子どもの養育責任を里 親と共有するために,考えられうる制度的な解決策は,(1)地域との協働による養育,(2)

福祉司の異動を減じること,(3)里親専任の福祉司の増員であろう.

(1)の地域との協働による養育は,里親養育を支えていく支援体制として,近年その必 要性が叫ばれている.たとえば,宮島(2010)は,里親への支援はソーシャルワーカーが ひとりで担うのではなく,地域や専門職と連携し,多職種的なチームを作る必要があるこ とを力説する.また,渡邊(2010b)も市区町村単位でのチームワークが重要だと述べる.

また,今回の調査においても,他機関の協力により,里親の不安を和らげ得ることが示唆 された(Xさんの事例).地域に里親を理解し,支援する機関が多いほど,里親は子どもの 養育を行いやすくなり,子どもの成長にとってもプラスになると考えられる.また,多く のサポートを得ることで,サポートが常に利用可能であるという認識は増すだろう.

しかしながら,福祉司の業務の負担を軽減するにせよ,里親に関わるすべての資源を有 効に活用し,里親と信頼関係を形成し,子どもを支援する,その中核となるのは現況にお いては,福祉司である.(2)福祉司の異動を減じること,(3)里親専任の福祉司の増員,

については本研究でもたびたび触れてきた.福祉司の異動が多く,1人の福祉司が長期間,

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同じ里親家庭に関わることが難しいために,里親との信頼関係を築くことが困難であるこ とは,今回のインタビュー調査でもほとんどすべての対象者が指摘していた.また,現状 において,福祉司は,役割期待に応えるために,業務時間外の時間帯に支援業務を行わな ければならないことも多い.これらの点を考慮すれば,里親専任の福祉司を複数配置する 必要があると考えられる.

加えて,子どもの養育責任を里親と共有するために,福祉司は子どもの置かれている状 況や変化についての情報を常に把握している必要がある.里親は子どものふだんの様子を 福祉司に伝えることによって,このニーズに応えることができる.そして,子ども自身も 福祉司が自分に対して果たしている役割を知る必要があるだろう.2000年以降の里親委託 の増加は,こうした制度的な変化を伴ったものではない.こうした制度の導入こそ里親委 託の質的な変化と言いうるものであり,その積極的な導入が待たれる.

4.4. 福祉司と里親の信頼関係に寄与する要因

総じて,里親と福祉司との信頼関係の形成に寄与する要因は,里親にも福祉司にもそれ ぞれ存在した.その最大公約数を述べるならば,それは,福祉司・里親双方が子どもの養 育に熱意と責任感をもつことである.その責任感とは,子どもの福祉の実現を常に考えて いることに他ならない.

里親と福祉司の信頼関係の形成は,質の高い里親養育の実現のために重要であると考え られる.しかし,そのために,福祉司が通常の業務の範囲を超えた勤務を要求されること になってしまうなら,そのこと自体が,信頼関係の形成を妨げている一要因になってしま う.調査では,現況において,多くの場合,十分な支援の体制がないために,「質の高い」

里親への「偏った委託」とならざるを得ないという側面が語られていた.それを解決する ためには,里親専任福祉司の複数配置や異動の制限,また地域との連携などが考えられた.

以上に提示したような制度的な環境の導入をもって,里親委託をめぐる質的変化ととら えることは十分可能だろう.こうした制度的な環境を整備することなく,里親委託率だけ を上昇させることはむしろ望ましいこととは言えない.2000年以降の里親委託をめぐる変 化はこのように評価されるべきである.

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第9章 里親委託の展開に向けて

第1章において,以下の4つのリサーチクエスチョンを提示した.

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