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第 3 章 界面ナノバブルのピニング

3.2. 三相界線に働く力

Youngの式(1.1)から分かる通り,マクロスケールの接触角は三相界線上に働く表面張力の

水平方向の釣り合いで示すことができる.また,この式はナノスケールでも適用できること が報告されている[115].しかしながら,実際の三相界線には表面張力以外の力も作用して おり,それらが接触角の値を変化させることは大いにあり得る.この節では三相界線上に働 く線張力(Line tension)とピニングについて説明する.

3.2.1. 線張力

Youngの式(1.1)は2次元における表面張力の釣り合いを表す式であるが,実際の三相界線

はFigure 3.1に示すように3次元であり,フットプリント半径rを持つ円として存在してい

る.マクロスケールでは,フットプリント半径が十分に大きければ三相界線は直線としてみ なすことができる.一方,フットプリント半径が小さければ三相界線は曲率を持つことにな る.したがって,三相界線の円周方向に分子間力の不釣り合いが生じ,その合力として円の 中心方向に線張力と呼ばれる力が働く.この線張力τを考慮して拡張されたYoungの式は式 (3.1)で表される.

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𝛾 = 𝛾 + 𝛾 cos 𝜃 − (3.1)

この式からも分かる通り,フットプリント半径が小さくなるにしたがって分子間力の不釣 り合いは大きくなるため,気泡が小さいほど線張力の影響は大きく表れる.また,式(3.1)を 変形すると式(3.2)

cos 𝜃 = cos 𝜃 − (3.2)

が得られる.𝜃 は Young の式(1.1)によって得られるマクロスケールの接触角である.この 式(3.2)を用いると,𝜃 が既知であれば,実験で得られたマイクロスケールの接触角の三角関 数cos 𝜃とフットプリント半径の逆数 をそれぞれ軸としてプロットすることで,線張力の 値を見積もることができる.

この線張力の値は,基板や溶液の種類によって大きく変化することが報告されている [116].線張力の値の多くは液滴によって調査されているが,界面ナノバブルを用いた計測 もいくつか報告されている.Yang らはシリコン基板上にトリメチルクロロシランの自己組 織化膜を形成し,その上の界面ナノバブルに働く線張力は−3 × 10 Nであると報告して いる[50].Kamedaらは純水中のシリコン(1 0 0)表面の窒素ナノバブルとブタンナノ液滴を計 測し,線張力はそれぞれ5 × 10 N,− 8.6 × 10 Nであると報告している[117].Kameda らはまた,金(1 1 1)表面の界面ナノバブルについては,液相が水,水/エタノール混合溶液の 場合でそれぞれ5 × 10 N,− 2 × 10 Nであり,界面ナノバブルの大きさが変化するこ とで線張力の符号が変化すると結論付けている[47].

これらの先行研究から,界面ナノバブルの線張力の絶対値はおよそ10 Nから10 N のオーダーであることがわかる.したがって,液相が純水(72 mN/m)であるとすると,少な くともフットプリント半径が1 m以上では線張力はほぼ無視できることになる.しかしな がら,界面ナノバブルはフットプリント半径が4 mある場合でもマクロスケールに比べて 極端に大きな接触角を示すことが報告されている[30].したがって,界面ナノバブルの特異 な接触角は線張力に由来するものではないと考えるのが自然である.実際に,現行の理論で は線張力の存在を考慮せずに界面ナノバブルの接触角を説明できている[84,88].

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Figure 3.1 Schematic drawing of line tension working on a three-phase contact line of a surface bubble.

This tension is attributed to the imbalance of intermolecular force along the contact line and thus depends on the curvature of footprint radius.

3.2.2. ピニング

Youngの式(1.1)によると,液滴や気泡の接触角はその系の構成物質(固体・気体・液体)の

組み合わせで一意的に決定するはずである.しかしながら,例えば液滴が乗った基板をゆっ くりと傾けると,その液滴はすぐには動き始めず,接触角は斜面の下側では大きく,上側で は小さくなる.これは固相-気相-液相の三相が重なりあう線(三相界線)が固体表面上の特 定の位置で固定されているからであり,この固定現象のことをピニング(Pinning)という.ピ ニング現象は,たとえば基板表面の欠陥や不純物,あるいは局所的な濡れ性の変化など,固 体表面の構造的あるいは化学的な不均一(Heterogeneity)によって生じる[118,119].しかしな がら,それらの因子がピニングをどの程度引き起こすかという定量的な見積もりは達成さ れておらず,したがって今のところピニングのモデリングやその任意な制御には至ってい ない.

マクロスケールでは,ピニングは接触角ヒステリシス(Contact angle hysteresis: CAH)とい うパラメータによって間接的に評価されることが多い.CAH は,三相界線が液相側から気 相側に濡れ広がるときの接触角(前進接触角)と気相側から液相側に乾きあがるときの接触 角(後退接触角)の差で与えられる.この CAH は液滴の移動しやすさを意味しており,例え ば印刷業におけるインクの転写[120]や凝縮伝熱における安定した液滴の離脱[121]など,工 業分野においてよく用いられている.これは,マクロスケールでのCAH計測は比較的容易 であるため工業的な指標として取り入れやすいからである.

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ピニングが強く働くような基板上では三相界線が動きづらくなるため CAH は大きくな り,弱く働く場合ではCAHは小さくなる.したがって,CAHの評価はピニングの間接的な 評価と同義である.しかしながら,界面ナノバブルの三相界線が前進・後退する際の接触角 を測る術は未だに存在しないため,CAHによる界面ナノバブルのピニングの評価は難しい.

そのため,界面ナノバブルのピニングの評価には異なる手法を用いる必要がある.