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より厚みが薄い吸着気体分子層

第 1 章 序章

1.2. 界面ナノバブル

1.2.4. より厚みが薄い吸着気体分子層

これまでの節では,半球状の形状を持つ界面ナノバブルについて紹介してきた.しかしな がら,固液界面には界面ナノバブルよりも薄く扁平な気相が吸着しており,しかも構造的特 徴の異なる数種類が存在することがAFM計測によって明らかになっている.特に1.2.4.2節 で紹介する整列層と非整列層は発見から日が浅く,真の疎水性相互作用[10,14]に代表される これまで未解明であった物理を紐解く一助になるのではないかと期待されている.この節 では,これまでの界面ナノバブルよりも厚みが薄い気相の報告例とその性質を紹介する.

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Figure 1.11 Micropancakes and nanobubble-pancake composites formed after solvent exchange method: (a) height image, (b) section of the height image, and (c) phase image of micropancakes; (d) height image, (e) section of the height image, and (f) phase image of nanobubble-pancake composites[38].

Figure 1.12 Change of micropancakes and nanobubbles as a function of time and temperature: (a) initial pancakes (P = micropancake) immediately after the displacement of ethanol with water at 31 ± 0.5 °C; (b) after 1.5 h at 31 ± 0.5 °C, P1 and P2 coalesced into a bigger micropancake, P3 (the nanobubbles on the micropancakes could move with time, for example, the one inside the dotted circle); (c) after another 1.5 h at this temperature, the pancakes are not very different from those in image b; (d) recommencement of growth of P3 if the temperature is increased to 36 ± 0.5 °C and held for 0.5 h[38].

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1.2.4.1 マイクロパンケーキ

最も有名なのはマイクロパンケーキと呼ばれる気相[17,19,20,32,36–40]で,2007年にZhang らのAFM計測によってその存在が初めて報告された[38].よく似た存在としてガスエンリ ッチメント層[78–83]があるが,マイクロパンケーキと完全に同一な存在であるかは未だに 議論が尽くされていない.マイクロパンケーキは,Figure 1.11(b)からわかるように厚みが非 常に薄く,多くの報告例でおよそ5 nm以下である.またほぼ均一な厚さを持ちながら数百 nm から数 m の広さを持つ(Figure 1.11(a, c))というその形状から,パンケーキという名を 冠している.Figure 1.11(d, f)に示すように明らかな円状の形を取ることもあれば,Figure

1.11(a, c)のように HOPG 表面のナノスケールのステップ間を埋めるように広がっているこ

ともあり,その違いの理由は未だに解明されていない.またFigure 1.11(d-f)から分かる通り,

界面ナノバブルとマイクロパンケーキが共存するような形状も報告されている.

Zhang らはまた,界面ナノバブルが乗るマイクロパンケーキの経時変化を Figure 1.12 の

ように示している.Figure 1.12(a)の取得後1.5 hが経過すると,Figure 1.12(b)に示されるよう にマイクロパンケーキP1とP2が合体して1つのマイクロパンケーキP3になる様子が観察 されている.これは,マイクロパンケーキは界面ナノバブルと異なり,三相界線の強いピニ ングが作用していないことを示している.加えて,Figure 1.12(b, c)の白破線で示されている ように,マイクロパンケーキ上のナノバブルの位置が時間変化によって明らかに変化して いる.これは,界面ナノバブルがマイクロパンケーキ上では強くピニングされていない可能 性を示唆している.また,Figure 1.12(d)に示されるように,温度を5 ℃上昇して0.5 h維持 することでマイクロパンケーキP3の面積は増加した.このように,マイクロパンケーキは 界面ナノバブルに比べて動的な挙動を示す傾向にあるため,何らかの準安定的な状態で存 在している可能性がある.その証拠にZhangらは,約13分の間にマイクロパンケーキが界 面ナノバブルへと成長したことを報告している[36].Liaoらは逆に,高速AFMでの計測中 に界面ナノバブルがマイクロパンケーキへと変形したことを報告している[32].しかしなが ら,マイクロパンケーキの研究例は界面ナノバブルに比べると明らかに数が少ない.

1.2.4.2 整列層と非整列層

近年,AFM計測のノイズ低減技術の進歩により,従来の計測手法に比べてはるかに高感 度で試料表面を計測できる周波数変調型(Frequency modulation: FM)AFM が液中で使用可能 になった.計測原理の詳細は1.3.3節で述べるが,高感度計測の恩恵によって従来のAFM計 測では観察できなかった,マイクロパンケーキよりもさらに薄い吸着気体分子層が観察で きるようになった[14–20,59].

FM計測での吸着気体分子層の最初の報告例は2012年のLuらによるものである[18].彼 らはHOPG基板を水中に浸漬し,その表面をFMモードで計測した.最初はHOPG表面が 露出していたが,次第に0.45 nmという非常に薄い厚みを持つパッチ状の層が現れ始めた.

時間の経過とともにその面積は増加し,基板の浸漬から 380分で観察領域の約 70%を覆っ

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た.また異なる種類の気体(窒素,酸素,アルゴン,二酸化炭素)で満たされたチャンバー内 で脱気水中のHOPG 表面を計測した結果,層が現れるまでの時間に明確な違いが現れた.

これらの結果から,彼らはこの層が気体分子で構成されていると予想した.Figure 1.13は窒 素に曝露された実験系で計測されたパッチ状の層のFM-AFM高さ像である.白い矢印で示 されているように,気体分子が3 方向に整列していることがわかる.彼らはこの 3方向の 整列は,HOPG基板を構成するグラファイトの結晶構造(六員環構造)に影響されていると結 論付けている.この層は整列層(Ordered gas layer)と呼ばれている.

Figure 1.13 FM-AFM image of an HOPG surface in water after exposure to nitrogen for 160 min.

Three arrows indicate the three row orientations[18].

またLuらは,窒素過飽和水と酸素過飽和水にHOPG基板を浸漬させて更なる調査を行っ た[17].その結果,HOPG上に整列層が生成され,さらにその上に厚み数 nmのマイクロパ ンケーキのように扁平であるがいびつな形状をした層が生成されたことを報告している.

またAFMのPF-QNM像(1.3.3.2節参照)によって,この層では気体分子の整列は起きていな

いことが明らかとなった.ここでは便宜上,この層の事を非整列層(Disordered gas layer)と呼 ぶ.非整列層が整列していないのは,下にある整列層がスペーサーとして働くことでHOPG 表面との相互作用が弱くなるからだと考察されている.この非整列層が上述したマイクロ パンケーキと同じものなのか,あるいはまったく異なるものなのかは,現時点では解明され ていない.本論文で得られた結果は,両者が別の性質を持つ気相であることを示している (第4章で述べる).

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