概 要
1) リスクアセスメントに関する研究開発
■ 安全評価機開発に向けたリスクアセスメントの実施
既存のロボティックベッド(プロト機)のリスクアセスメントを行うとともに、その結果をベ ースに、安全評価機の開発に向けたリスクアセスメントを行った。具体的には、使用条 件/設計要求事項の整理、システム構成の確定、ハザード抽出、許容リスク水準の決 定、リスク見積/評価、3ステップメソッドに基づく安全方策の検討を行った。また、これ らの結果を開発中の各安全技術の仕様にフィードバックした。
また、ロボティックベッドは既存の電動ケアベッドと電動車いすを融合し、ロボット化し たものである。そこで、安全方策としては、既存の電動ケアベッド/電動車いすの JIS 規格(JIS T 9254/JIS T 9203)の安全の考え方をベースに対策を行った。ただし、ロ ボティックベッド特有の合体/分離動作は、既存の電動ケアベッドや電動車いすには ない動作である。そこで、これらの動作から発生する可能性のあるリスクに対しては、
安全機能を設計し、リスク低減を行った。
実施したリスクアセスメントの概要を図Ⅲ.2.2-3 に示す。
■ 安全評価機の開発
リスクアセスメント結果に基づき、安全評価機の仕様策定および開発を行った。安全 評価機には、「操縦 IF/操縦支援技術」や「ロボットシステム自己診断技術」、「動的動 作経路生成技術」の研究開発項目にて開発した安全関連技術の一部を導入した。
ハザードチェックリスト 使用条件
システム構成 設計要求事項
リスクアセスメントシート
図Ⅲ.2.2-3:安全評価機開発に向けたリスクアセスメント(概要)
2) 操縦IF/操縦支援技術、動的動作経路生成技術の研究開発
■ 自然な障害物回避手法の開発
(関連特許出願:国内1件)従来、障害物との衝突を回避する制御手法として、障害物までの距離と方向を検知し、
障害物から遠ざかる方向に、障害物までの距離に反比例した仮想的な斥力(以下、仮 想斥力と呼ぶ)を生成し、操作力に合成することにより、障害物との衝突を回避する制御 手法が提案されていた。しかしながら、全方向移動ロボットにこのような制御手法をその まま適用した場合には、操作した方向と実際に動作する方向が異なるため、操作者によ っては操作に違和感や不安感を抱いてしまう場合があった。そこで、本研究開発では、
操作した方向と実際に動作する方向の差異を小さくして、操作者の違和感や不安感を 軽減する制御手法を開発した。開発した制御手法の概要を図Ⅲ.2.2-4 に示す。
■ 扉通過が可能な障害物回避手法の開発
(関連特許出願:国内1件)従来、上記で説明したような仮想斥力を用いた制御手法をベースにした障害物回避 を検討してきた。この制御手法では、車いすの全方向の障害物が検出できるようにセン サを配置し、全方向からの障害物に対して障害物回避動作を行っていた。しかしながら、
このような制御手法をそのまま適用した場合には、車いすが通過可能な扉を通過しよう としても、仮想斥力の影響で扉の通過ができなくなるという問題が発生した。そこで、本 研究開発では、操作した方向に細長く伸び、操作力の大きさに比例した長さのサーチ 領域を生成し、この領域に存在する障害物だけを回避すべき障害物と判断して回避動 作を行う障害物回避制御手法を開発した。この制御手法を用いることにより、仮想斥力 の影響で扉が通過できないといったことを防ぐことができる。開発した制御手法の概要を 図Ⅲ.2.2-5 に示す。
障害物
(a)従来手法 (b)提案手法 図Ⅲ.2.2-4 自然な障害物回避手法の概要
3) 安全変形/動作技術の研究開発
■ 挟み込み検知センサの試作評価
(関連特許出願:国内 2 件)柔軟導電体とメッシュ状の絶縁体からなる形状柔軟性を備えた挟み込みセンサの 評価試作を行った。開発した挟み込み検知センサの基本構成を図Ⅲ.2.2-6 に示す。
開発した挟み込み検知センサの基本性能評価を行った結果、試作したセンサは人体 等の柔軟体に対して高感度の特性を有し、指等の挟み込み検知に有効性が高いこと が確認できた。
(a)従来手法 (b)提案手法 図Ⅲ.2.2-5 扉通過が可能な障害物回避手法の概要
◆センサ構成
◆検知イメージ
メッシュ構造を変更し、曲面対応性を向上
導電布 メッシュ 導電スポンジ
指
硬い異物
指(柔軟物)による接触時 異物(硬質)による接触時
弾性体直列接続時の剛性 低下を応用し、指等の柔軟 物に対して感度が高いセン サとして構成
導電布 メッシュ(絶縁体) 導電スポンジ
物体の接触によ る導電布と導電 スポンジの短絡 を検知
図Ⅲ.2.2-6 挟み込み検知センサの概要
4) ロボットシステム自己診断技術の研究開発
■ サービスロボット/機能安全規格調査
サービスロボット安全規格 ISO13482 や機能安全規格 IEC61508、IEC62061、
ISO13849 等の安全規格動向の調査および、機能安全に関する技術検討会に参加し て関連規格への具体的な対応を検討するとともに、体制構築に向けた準備を開始し た。
■ 自己診断ロボットコントローラの開発
拡張性・省配線性に優れ、自己診断機能を有する安全性・信頼性の高い分散型ロ ボットコントローラを開発した。開発したコントローラの単体機能評価を行うとともに、安 全評価機に搭載し、安定して動作することを確認した。
■ 安全機能設計
リスクアセスメント結果に基づき、安全評価機の安全関連部を決定し、安全機能の 具体設計を行った。
5) 機能/システムユーザビリティの研究開発
■ システム評価
(1) 専門職を対象とした試用評価実験
ターゲットユーザを確定するために、医療/リハ専門職を対象として、ロボティック ベッド(プロト機)を用いた試用評価実験及びインタビューを行った。エスノグラフィー を基にした質的分析を行い、ターゲットユーザ像と機能要件を抽出し、安全評価機 の仕様に反映した。試用評価実験の様子を図Ⅲ.2.2-7 (a)に示す。
(a)専門職評価実験 (b)ターゲットユーザ評価実験 図Ⅲ.2.2-7 試用評価実験の様子
(2) ターゲットユーザを対象とした試用評価実験
上記評価実験から抽出されたユーザ像に基づいてロボティックベッドのターゲット となりうる障害当事者を選定し、試用とインタビューから成る評価実験を実施した。試 用時の行動解析とインタビュー分析から、利用者の身体状況や実生活場面での利 用に関する問題点を抽出し、追加/改善すべき機能要件として整理した。試用評価 実験の様子を図Ⅲ.2.2-7(b)に示す。
■ 安全性・ユーザビリティ向上
(1) 姿勢ずれに関する研究
仰臥位-椅座位変形時の姿勢ずれを定量化し、変形動作最適化検討を行なった。
また、スライディングシートを用いた摩擦低減により、ロボティックベッドの変形時の姿 勢ずれを防止する方法を提案し、原理確認を行った。この方法により、ロボティック ベッドの変形時に姿勢のずれを防止できることを確認するとともに、電動ベッドに応 用することで、腹圧上昇の防止にも効果があることを確認した。
(2) うつ熱防止のための抜熱システムの開発
車いすに搭載可能な体温冷却システムを提案/設計/試作した。 過去の文献を 参考に仕様を策定し、普通型電動車いすに搭載可能なペルチェシステムの試作を 完了した。
6) 安全環境センシング技術の研究開発
■ 基本システム構想&評価実験の実施
(関連特許/意匠出願:国内2件/3件)ロボット移動時にロボットの死角等から現れる人や障害物を事前に検知することで、
ロボット単体では困難な出会い頭衝突等の防止を支援するシステムを構想した。基本 システムの構想イメージを
図
Ⅲ.2.2.8 に示す。人検知 通知通知 人検知
ロボットは検知 データ受信により 減速
利用者から見えな い通行人との衝突 を事前に検知して ロボットに通知