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2.1 研究開発項目① 「生活支援ロボットの安全性検証手法の研究開発」 の成果

2.1.2 成果の詳細

2.1.2.1 研究開発推進体制の構築

研究開発を円滑に推進するために、図Ⅲ.2.1.2-1 に示す体制を構築した。研究開発の内容ごとに 7 つ の WG 等を設けるとともに、「安全性検証推進ステアリングコミッティ」が研究開発項目①の研究開発 全体を管理運営している。

ロボット研究開発実施者との連携については、プロジェクトリーダーが主催する「安全性検証全体連 絡会」で、全体共通事項に関する連絡や調整、意見交換を行っているほか、個々のロボット研究開発実 施者との窓口担当者を設けて、情報交換や相互の研究開発を効率化している。また、「認証スキーム検討

WG」と「安全性検証に関する国際標準化検討 WG」ではロボット研究開発実施者をメンバーに加え、

ロボット製造者の立場からの意見をいただいている。

研究開発を進めるにあたって、本プロジェクトに参加していないロボット製造者やユーザ等の意見を 取り入れるために、ロボットビジネス推進協議会に設けられた「プロジェクト対応・企画 WG」に参加 し、安全性検証手法に関する情報交換、意見交換を行っている。

研究開発項目①の成果を国際標準に反映させるために、「安全性検証に関する国際標準化検討WG」を 通じて、日本ロボット工業会に設けられた「サービスロボット用語等標準化調査専門委員会/安全性検 証WG」に提言を行っている。

図Ⅲ.2.1.2-1 研究開発項目①の研究開発推進体制

2.1.2.2 リスクアセスメント手法の開発

(1) リスク要素の判断指標の導出に関する研究開発(担当機関:労働安全衛生総合研究所)

(a) リスクアセスメント調査

ロボット研究開発実施者(5者)に対して、対象ロボットの仕様とリスクアセスメント実施状況 の調査を行った。その結果、各社共にリスクアセスメントは取り組み済みであり、機械安全基本 規格や電気安全規格、医療機器規格を参考にしていることがわかった。また、各社共通の課題と

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・リスク要素の見積もり基準が明確でない、

・リスクの低減方策(戦略)が確定しない、

・アセスメントの終了の目安が不明、

があることがわかった。

(b) リスクアセスメントシートの作成

上記調査結果を基に、ロボットタイプ別(移動作業型、搭乗型、装着型)のリスクアセスメン トシートのひな形を作成した。特に、アセスメント品質を左右する前提条件の記述と、リスク低 減方策の適用順位、リスク低減効果が反映しやすい見積もり方法を盛り込んだ(図Ⅲ.2.1.2-2)。

また、リスクアセスメント実施者が理解しやすくするため、作成したひな形シートに対する解 説書を作成し、ひな形シートと併せてロボット研究開発実施者へ提供した。

図Ⅲ.2.1.2-2 リスクアセスメントシートひな形で採用したリスク見積もり基準と評価

(c) 典型的リスクの分析シートの作成

主に移動型ロボットに対する典型的危険源を抽出し、各々の危険源について対象となるタスク や関与する人、関連領域等の分析を加えて分類表を作成した。

(d) コンセプト検証チェックシートの作成

リスクアセスメントを柱とするロボットの安全設計戦略を明確にするため、設計コンセプトの 要件を抽出し(表Ⅲ.2.1.2-1)、これをチェックシートの形でまとめた。この作業はコンセプト検 証 WG で検討、改良を加えながら、シート使用者が自己採点できるような仕組みとし、結果は レーダーチャート(図Ⅲ.2.1.2-3)で示した。このシートを第 1 部としてロボット開発者へ提供し、

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基本的な安全設計コンセプトが確立されているかを検証した。

また、後述する「2.1.2.4 生活支援ロボットの安全性基準に関する適合性評価手法の研究開発」

と協調して、機能安全規格をベースとする第 2 部(ハードウェア編)と第 3 部(ソフトウェア 編)も続いて作成し、ロボット研究開発実施者へ提供した。

表Ⅲ.2.1.2-1 コンセプト検証自己チェックシート第1部の主要チェック項目

図Ⅲ.2.1.2-3 チェックシート第1部(設計段階)の判定結果例

(e) リスク要素の判断指標の検討

リスク要素の判断指標について、既存規格や文献調査を行い、ロボットに適用可能かを判断し た。その結果、特に危害の酷さに関する指標が少なく、存在するものであってもクリティカルな レベルや対象者が限定されるなどの課題が見つかった。

そこで、既存規格類でコンセンサスが得られている指標や予備測定済みの痛覚耐性値等を参考 に、子供を対象とする場合のスケーリングや人体部位毎の限界閾値の検討を行っている。

(f) 今後の予定

リスクアセスメントシートについては、新しいタイプのロボットに合わせたひな形を検討する 予定である。さらに、これらのロボットを対象とした典型的リスク分析も行う。

コンセプト検証自己チェックシートについては、新しいロボットの構造や機能に対しても適用 可能かを検討し、必要であれば改良を加える。

リスク要素の判断指標については、類似機器で利用されている情報をさらに調査するとともに、

試験方法の開発において得られる情報を反映できるようにする。

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(2) リスク低減手段の最適配置手法の開発(担当機関:労働安全衛生総合研究所)

(a) リスク低減方策分類表の作成

試験対象のロボットで使用されている保護方策を中心に、ロボット用リスク低減方策について、

対象危険源やリスク低減効果を分析し、分類表を作成した(表Ⅲ.2.1.2-2)。特に、機械的危険源 については、詳細に分析を加えて、設計段階における本質的方策と後付けとなるリスク低減方策 に分類するとともに、参考となる基準値も追記した。これにより、ロボット類似機構や類似機器 の判断規範を引用することができ、リスク低減の目安とすることができる。

表Ⅲ.2.1.2-2 危険源に対応するリスク低減方策の分類抜粋(機械的危険源に対して)

(b) リスク低減方策の選択方法の検討

リスクアセスメントの結果、リスク低減方策が必要となった場合、これらの方策を合理的に選 択、適用する手順をとる。そのため、危険源から危害に至るプロセス(図Ⅲ.2.1.2-4)の上流から 順に対応可能な方策を整理し、各方策のリスク低減効果を位置付けた。また、制御システムが安 全関連部となる場合に、この適用順位について検討を加えた。

以上の検討結果は、前記の「(1) リスク要素の判断指標の導出に関する研究開発」のリスクアセ スメントシートひな形の再リスク評価シートに反映している。

(c) 今後の予定

リスク低減方策分類表は、新しいタイプのロボットに使用される方策を含めて拡充し、分析す る予定である。また、マニピュレータタイプのロボットについて、特に機械的危険源に対するリ スク低減方策の効果検証を行いながら、適用順位と妥当性を確認する。

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図Ⅲ.2.1.2-4 危害に至るプロセスと対応するリスク低減方策(優先度の決定)

(3) リスク評価用シミュレーション環境の研究開発(担当機関:産業技術総合研究所)

(a) 背景と目標

本研究開発項目ではシナリオベースのリスクアセスメントに必要な想定事故シミュレーション 環境を構築する。

リスクアセスメントとはハザードの同定とリスクの見積りを含む安全性の評価のプロセスであ る。シナリオベースのリスクアセスメント手法には What-If 分析などが知られているが、生活支 援ロボットに関しては過去に事故を経験していないために、事故シナリオの理解を共有するため の実例が得られない。そこで本研究開発項目では生活支援ロボットのリスクアセスメントに資す る想定事故のシミュレーション環境を専門家の予見に基づいて構築することを目指す。

想定事故シミュレーション環境は汎用三次元ロボットシミュレータの仮想空間に構築されるロ ボットモデル、環境モデルと挙動モデルの組み合わせからなる。専門家による事故の予見はヒア リング調査によって抽出する。これらをロボット研究開発実施者の 4 種類の生活支援ロボットに ついて構築し、このデータを認証機関および一般生活支援ロボット開発者に提供する。

What-If分析とは、事故の初期条件を様々に設定してその影響を考察する分析法である。ロボッ

トの移動速度や形状のさまざまなバリエーションを考えて最もリスクが少ないロボット設計を行 うことなどが考えられるが、事故のシナリオについて共通の認識がないままディスカッションを 進めると収束しないおそれがある。

(b) 事故シナリオの分析

平成21年度に各ロボット研究開発実施者に対してリスクアセスメントのヒアリング調査が2回 行われた。ここで各実施者が想定する事故シナリオ、またはロボット固有のハザードが調査され た。この調査結果から、4 タイプのロボットにそれぞれ共通する典型的な事故シナリオの抽出を 行った。抽出したロボットの事故シナリオの一例を表Ⅲ.2.1.2-3に示す。

表Ⅲ.2.1.2-3 想定事故シナリオの例 ロボットタイプ 移動作業型(自律が中心)生活支援ロボット

原因 会社員がオフィスフロアの廊下をあわてて走っている。同フロアで作動する 清掃ロボットは地上60cm程度の大きさである。

結果 会社員は見通しの悪い廊下の曲がり角で清掃ロボットと出くわすが、小さい ロボットが視界に入るのが遅れ、回避が間に合わない。ロボットにつまずい て転倒し、怪我をする。

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