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第 5 章 投与開始前のスクリーニング 53 MTX 投与開始前に,関節リウマチ(RA)活動性評価ならびに MTX の副作 用の危険因子の評価に必要な問診と診察,末梢血検査,赤沈,一般生化学 検査,免疫血清学的検査,胸部 X 線検査に加え,肝炎ウイルスと結核のス クリーニング検査を実施する.

MTX 投与開始前の検査として,禁忌や慎重投与の項目の有無,副作用の危険因 子など MTX 投与が適正か否かの判断,RA 活動性や予後の把握に必要な検査に加 えて,投与後の有効性や副作用のモニタリングに必要な検査項目もチェックする.

3 肝炎ウイルス検査

免疫抑制・化学療法施行中あるいは施行後に,HBウイルス(HBV)が再増殖(再 活性化)し,B型肝炎が発症し,一部は劇症化する症例が報告されている.MTXにお いても治療と関連したHBVキャリアあるいはHBV既往感染者のB型肝炎(劇症化)

による死亡例が市販後,集積されている2-4).リウマトレックス

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適正使用情報Vol.20 によれば,MTXと因果関係が否定できないB型肝炎,劇症肝炎,肝不全,肝障害な どの副作用が発現した症例のうち,B型肝炎,HBVキャリア(疑いを含む)が確認で きた症例が41例みられた.このなかで,投与前HBV抗原検査が行われていた11例 のうち,陰性だった6例が投与後にHBs抗原が陽性化し,B型肝炎が発症していた4)

MTX 投与前,投与中は「免疫抑制・化学療法により発症する B 型肝炎対策ガイ ドライン(参考文献 5 の図 8 を参照)」に従いHBV に関するスクリーニングとモニ タリングを行い,消化器内科専門医と連携しながら,慎重に対応する.

肝炎ウイルスのスクリーニング検査として,HBs 抗原,HCV 抗体を必ずチェッ クする.まず HBs 抗原を測定して,HBV キャリアかどうか確認する.HBV キャ リアであれば,核酸アナログ製剤の投与が必要になるので,MTX 投与前に消化器 内科専門医にコンサルトする.HBs 抗原陰性の場合には,高感度の測定法を用い て HBc 抗体および HBs 抗体を測定して,既往感染者かどうか確認する2).HBc 抗

■表 9 開始時スクリーニング検査

血液検査

すべての患者

末梢血検査(白血球分画,MCV を含む),赤沈,CRP

生化学検査(AST,ALT,ALP,LDH,アルブミン,血糖,Cr,

BUN,IgG,IgM,IgA)

HBs 抗原,HCV 抗体,IGRA/ ツベルクリン反応検査

⇒ HBs 抗原陰性 HBs 抗体,HBc 抗体

※いずれかの抗体陽性なら HBV-DNA 測定

⇒ HBs 抗原陽性 HBe 抗原,HBe 抗体,HBV-DNA

尿検査 すべての患者 蛋白,糖,ウロビリノーゲン,尿沈渣

肺疾患関連検査

すべての患者 胸部X線検査(正面,側面)

間質性肺炎や呼吸器

合併症が疑われる場合 経皮的酸素飽和度(SpO2),胸部 HRCT,間質性肺炎血清マーカー

(KL-6/SP-D),β -D- グルカン,抗 MAC-GPL IgA 抗体測定を考慮 IGRA:インターフェロンγ遊離試験,MAC:Mycobacterium avium complex,GPL:glycopeptidolipid

第 5 章 投与開始前のスクリーニング 55 体あるいは HBs 抗体のいずれかあるいは両者が陽性の場合は,HBV-DNA を 1 〜 3 カ月ごと測定する(表 9).HBs 抗体単独陽性例でワクチン接種既往者に対して はその限りでない.HBV-DNA が 2.1 log copies/mL 以上になったら,MTX は中 止せず消化器内科専門医にコンサルトし,核酸アナログ製剤の投与を考慮する.

厚生労働省研究班の前向き研究の報告では,リウマチ性疾患に対する免疫抑制 療法による既往感染者からの再活性化が 121 例中 6 例にみられたが,再活性化の 時期はいずれも治療開始後 6 カ月以内であった6).したがって,MTX 治療開始後,

少なくとも 6 カ月間は,月 1 回の HBV-DNA 量のモニタリングが望ましい.6 カ月 後以降は,治療内容を考慮して間隔および期間を検討するが,6 カ月以降の再活性 化の報告7)もあることを念頭に置く.

4 結核検査

結核に関する問診,胸部 X 線検査,インターフェロンγ遊離試験(interferon gamma release assay:IGRA)またはツベルクリン反応検査を行い,適宜,胸部 CT 検査を行うことにより結核感染の有無を確認する(表 9).IGRA として,クォ ンティフェロン

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TB ゴールド(QFT-3G)と T スポット

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.TB(T-SPOT)が保 険適用になっている.日本結核病学会予防委員会の見解では,QFT-3G とT-SPOT の診断特性に大きな違いはなく,適用も基本的に同様と考えられている8)

以下の①〜⑤のいずれかに該当し総合的に潜在性結核感染症(latent tubercu-losis infection:LTBI)が疑われる場合には,原則として MTX 開始前に適切な抗 結核薬を投与する.LTBI の治療については日本結核病学会予防委員会・治療委員 会より指針が示されているので参考にする9)

① 胸部画像検査で陳旧性結核に合致するか推定される陰影を有する患者.

② 結核の治療歴(肺外結核を含む)を有する患者.

③ 画像検査やIGRA,ツベルクリン反応検査により,潜在性結核が強く疑われる患者.

④ 結核患者との濃厚接触歴を有する患者.

⑤ 活動性結核が否定できない場合には,呼吸器専門医または感染症専門医に相談 することが望ましい.

5章

5 肺疾患関連検査(画像検査など)

胸部 X 線(正面,側面)を必ずチェックする.治療開始前に間質性肺炎,感染 症の有無を把握するのと同時に,治療中に呼吸器合併症が発生した場合に比較す るのに有用である.間質性肺炎や呼吸器合併症が疑われる場合は,胸部の聴診を 行い,経皮的酸素飽和度(SpO2),胸部高分解能 CT(HRCT)撮影および間質性 肺炎血清マーカー(KL-6,SP-D など)やβ -D- グルカンの測定を考慮する.

非結核性抗酸菌症〔non-tuberculous mycobacterium(NTM)感染症〕が疑 われる場合(p.78 図 9),M. avium と M. intracellulare (Mycobacterium avium complex:MAC)に関しては,血清抗 MAC-GPL IgA 抗体(キャピリア

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MAC 抗

体 ELISA)が保険収載されており,補助的診断に役立つ場合がある10,11)(表 9).

1) Köttgen A, et al : New loci associated with kidney function and chronic kidney disease. Nat Genet, 42 : 376-384, 2010

2 ) Ito S, et al : Development of fulminant hepatitis B (precore variant mutant type) after the dis-continuation of low-dose methotrexate therapy in a rheumatoid arthritis patient. Arthritis Rheum, 44 : 339-342, 2001

3 ) Hagiyama H, et al : Fulminant hepatitis in an asymptomatic chronic carrier of hepatitis B virus mutant after withdrawal of low-dose methotrexate therapy for rheumatoid arthritis.

Clin Exp Rheumatol, 22 : 375-376, 2004

4 ) 3. B型肝炎について.「リウマトレックス

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適正使用情報 Vol.20」,pp.18-20,ファイザー株式会 社,2014 年 5 月

5 ) 6.その他の病態への対応 6-3.HBV 再活性化.「B 型肝炎治療ガイドライン(第 2.2 版)」(日本肝 臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会 / 編),pp.65-77,2016 年5月

6 )持田智,他:免疫抑制薬,抗悪性腫瘍薬によるB 型肝炎ウイルス再活性化の実態解明と対策法の確立 : 平成 23 年度研究成果報告書 : 厚生労働科学研究費補助金肝炎等克服緊急対策研究事業,2012 7 ) 持田智,他:免疫抑制療法分科会 全体研究(平成 25 年度).「がん化学療法および免疫抑制療法中

のB 型肝炎ウイルス再活性化予防対策法の確立を目指したウイルス要因と宿主要因の包括的研究 平 成 25 年度 総括・分担研究報告書」,pp.7-15,2014

8 ) 日本結核病学会予防委員会:インターフェロンγ遊離試験使用指針.Kekkaku,89:717-725,2014 9 ) 日本結核病学会予防委員会・治療委員会:潜在性結核感染症治療指針.Kekkaku,88:497-512,2013 10)Watanabe M, et al : Serodiagnosis of Mycobacterium avium-complex pulmonary disease with

an enzyme immunoassay kit that detects anti-glycopeptidolipid core antigen IgA antibodies in patients with rheumatoid arthritis. Mod Rheumatol, 21 : 144-149, 2011

11)北田清悟,前倉亮治:MAC 症の研究・臨床の最前線 3.MAC 症診断における血清診断法(妥当性 と臨床データ).Kekkaku,87:433-448,2012

References

第 6 章 投与中のモニタリング 57 MTX 投与開始後 ,安全性と有効性のモニタリングのために定期的な身体 評価と関節評価および検査を行う.一般検査は MTX 開始後あるいは増量 後 ,6 カ月以内は 2 〜 4 週ごとに行うのが望ましい.項目として,末梢血 検査(白血球分画,MCV を含む),赤沈,CRP,生化学検査(AST,ALT,

ALP,アルブミン,血糖,Cr,BUN)および尿一般検査を実施する.投与 量が決まり,有効性と安全性が確認された後は,4 〜 12 週ごとに検査を施 行する.胸部 X 線検査は年 1 回施行する.有効性の判定には,関節リウマ チの疾患活動性と関節画像の両者による評価が望ましい.

1 安全性モニタリング

安全性モニタリングで重要なのは,重篤になりやすい副作用と頻度が高い副作 用への対応である.骨髄抑制,薬剤性肺障害,重症感染症,リンパ増殖性疾患は,

本邦のMTX 服用患者における重篤な副作用の四大症状であり,厳重な監視が必要 である1)(表 10).

MTX の投与開始後または増量後 6 カ月程度は,2 〜 4 週ごとに血液検査〔末梢 血(白血球分画,MCV を含む),赤沈,CRP,AST,ALT,ALP,アルブミン,血 糖,Cr,BUN〕および検尿を行う.MTX の投与量が一定となり,有効性,安全性 に問題がなければ検査間隔は 4 〜 12 週間ごとでも可能であるが,腎機能障害など 副作用危険因子があれば,より短い間隔で検査する2)

末梢血検査では白血球分画をチェックすることにより,好中球減少や感染症危 険因子としてのリンパ球減少をモニタリングできる.MCV の高値あるいは短期的 な上昇は葉酸欠乏を示唆し,骨髄障害の前兆である場合がある3)

推奨