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4)治療後の注意点

4 感染症(ウイルス性肝炎を除く)

第 9 章 副作用への対応 75 以上の割合が高かった1)

MTX の長期安全性を検討したsystematic literature review16)では,3 年以上の MTX 治療を受けた患者の8.3 %が重篤感染症を発症し,そのうちの79 %が最初の 2 年間に発現したと報告された.一方,わが国の集計では,感染症が死亡の主な原 因と考えられた 107 例のうち,感染症発現までの MTX 投与期間が 2 年以上の患者 は 44.6 %,発現時の MTX 投与量が 8 mg/ 週以上の患者は 31.2 %を占めた1).ま た,特定使用成績調査による 8 mg/ 週を超える MTX 開始後の感染症については,

開始から 24 週間に 47 症例(58 件),25 週から 52 週までに 9 症例(12 件)の重篤 な感染症が報告されている.24 週までの主な重篤な感染症は,肺炎 13 件,ニュー モシスチス肺炎 5 件,尿路感染 3 件であった1).したがって,MTX 投与期間の長 短にかかわらず感染症に注意して患者を観察し,特に,長期投与患者においては MTX による免疫抑制および,加齢・合併症による生理機能の低下による感染症リ スクの増大の可能性を考慮する必要がある.

必ずしも重篤にはならないがRA 患者における比較的頻度が高い感染症として帯 状疱疹が知られている.観察開始時の生物学的製剤使用率が 3 %の日本の大規模 コホート研究における帯状疱疹の粗発現率は 12.1/1,000 患者年であり,ベースラ インでのMTX 使用は帯状疱疹発症の有意なリスク因子であった(ハザード比 1.38,

■図 7  MTX 治療中に合併した感 染症① ニューモシスチス 肺炎

胸部単純X線写真(A)では,肺門から広 がるびまん性のすりガラス陰影を認める.

胸部 CT(B)では,両側肺野内側に斑状 すりガラス陰影が多発している.

β -D- グルカン 157 pg/dL (和歌山県立 医科大学 藤井隆夫先生提供).

A B

9章

95 %信頼区間 1.08-1.77)17)

罹病期間 1 年未満の MTX-naïve RA 患者に対して,MTX を 16 mg/ 週まで急速 に増量し,プラセボまたはセルトリズマブペゴルを併用した C-OPERA 試験では,

52 週間の観察期間中にプラセボ+ MTX 群の 14 例(8.9 %)に重篤な有害事象を 認め,7 例(4.5 %)に重篤な感染症を認めた.その内訳はニューモシスチス肺炎 2 例,細菌性肺炎・肺炎・マイコプラズマ肺炎 4 例,急性腎盂腎炎 1 例であった18)

1)危険因子

① 高齢,既存肺疾患,関節外症状,糖尿病,副腎皮質ステロイド使用,過去の 3 年以内の重篤な感染症はRA 患者における共通した感染リスク因子である19,20)

■図 8 MTX 治療中に合併した感染症② 肺クリプトコッカス症

MTX 12 mg/週,プレドニゾロン4 mg/日内服中,定期的胸部X線検査で左下肺野の浸潤影を指摘された.自 覚症状はない.胸部CT検査で左下肺野に空洞を伴う不整形な結節影をみとめる(東海大学 鈴木康夫先生提供).

第 9 章 副作用への対応 77

② 慢性呼吸器感染症(副鼻腔炎 ,慢性気管支炎など),歯周病などの慢性感染症 合併.

③ 腎機能障害1):腎障害を有する患者では,MTX の血中濃度が上昇し,骨髄障 害による感染症合併をきたしやすくなる.

④ 骨髄障害1)

⑤ 日和見感染症既往(肺結核,ニューモシスチス肺炎,サイトメガロウイルス感 染症など).

2)予防対策

① 活動性の感染症がある場合は,その治療を先行して行い,開始前に治癒を確認 する.

② 65 歳以上の高齢者では肺炎球菌ワクチンを接種する.

③ インフルエンザワクチンを毎年接種する.

④ 活動性結核が否定できない場合には呼吸器専門医,感染症専門医へのコンサル トを考慮する.なお以下のいずれかに該当し,総合的に潜在性結核が疑われる 患者には,原則として MTX 開始前に適切な抗結核薬を投与する.

❶ 胸部画像検査で陳旧性結核に合致するか推定される陰影を有する患者.

❷ 結核の治療歴(肺外結核を含む)を有する患者.

❸ 画像検査やIGRA,ツベルクリン反応検査により,潜在性結核が強く疑われる患者.

❹ 結核患者との濃厚接触歴を有する患者.

⑤ 年齢・病歴・合併症・胸部画像所見・副腎皮質ステロイド使用量・末梢血リン パ球数などから総合的にニューモシスチス肺炎の発症リスクが高いと判断され る症例には,ST 合剤(1 錠または 1 g/ 日,連日あるいは,2 錠または 2 g/ 日,

週 3 回)による化学予防を考慮する.ST 合剤が使用できない場合には,ペンタ ミジン・イセチオン酸塩吸入,またはアトバコン内用懸濁液の使用を考慮する.

⑥ 症状および画像から非結核性抗酸菌症(図 9)が疑われる場合には,喀痰検査,

HRCT 検査,抗 MAC-GPL IgA 抗体(キャピリア

®

MAC 抗体 ELISA)を測定 し,必要に応じて呼吸器専門医などにコンサルトする.

⑦ 生ワクチン(水痘・帯状疱疹,風疹,流行性耳下腺炎などのワクチン)は,免 疫抑制療法中は投与しない.

9章

3)発生時の対処方法

① ただちに MTX を中止し,適切な医療機関に対応を依頼する.

② 病原体の同定を進め,適切な抗菌薬,抗真菌薬,抗ウイルス薬などによる治療 を行う.必要に応じて,感染症専門医などにコンサルトする.

③ ニューモシスチス肺炎の治療には ST 合剤を 1 回 3 〜 4 錠(3 〜 4 g),1 日 3 回 投与する(Ccr < 30 mL/ 分の腎機能障害がある場合は半量を目安とする).治 療期間は 2 週間を目安にする.呼吸不全(室内気で PaO2< 70 Torr)の場合は 高用量ステロイドを短期間併用する.ST 合剤による副作用が発現した場合は,

ペンタミジン点滴静注,アトバコン内用懸濁液を考慮する.

A1

A2

B1

B2

C1

C2

■図 9 MTX 治療中に合併した感染症③ 非結核性抗酸菌症

A) 胸部単純 X 線検査で右中肺野の小粒状影(A1 )を認めた.胸部 CT 検査では右中葉と左舌区に気管支拡張と小葉中 心性結節影をみとめる(A2).

B) 胸部単純 X 線検査で右中下肺野の小粒状影と気管支拡張,左下肺野に淡い浸潤影を認める(B1).胸部 CT 検査では右 中葉と左下葉に気管支拡張と気管支壁肥厚,小結節影と浸潤影を認める(B2).喀痰培養で M. avium 陽性.

C) 胸部単純X 線写真で左中肺野の粒状影,右上〜中肺野の気管支拡張と散在する粒状影を認める(C1).胸部CT写真では 右下葉背側の粒状影,空洞形成,左上葉の小葉中心性結節影,空洞形成を認める(C2).喀痰検査M. avium PCR陽性.

(東海大学 鈴木康夫先生提供)

第 9 章 副作用への対応 79