(1925年)
1925年(大正14年)3月22日,東京放送局仮放送開始当 日の放送で後藤総裁は次のように演説した。
…(前略)…現に新電気の利用は刻々に進歩を告げて居ります。故に当局の取 締の余りに苛烈なるは甚だ望ましからぬことであるが,之と同時に政府をし て其の監督に奔命せしめるといふことは,一層好ましからざる話である。又 吾々は電気知識の普及上
いわゆる
所謂アマチュアーの増加を大いに歓迎します。
しろうと
素人 製の機械が,往々
くろうと
玄人の製品よりも佳良
か
且つ安価なる事実をも見落してはな らない。従つて機械及其材料製作並に之を設備する者の親切を主とし,
しか
而も 是等の場合に於ても深く心を用ゆべきは各人の倫理的自覚であります。
こと
殊に 電力の利用は経済と保安,即ち社会共同の安寧福祉を妨害してはならないと いふ点であります。無論当業者は商業道徳を厳守して益々製品の精良さと低 廉とに努力すべきであり,アマチュアー諸君も亦取締の寛大なるに乗じて混 乱の弊を醸してはならない。…(後略)…
第37図
雑誌に出るラジオ閣係の記事も,放送開始により新し いファンがふえたため再出発の状態となった。
今まではよほどの物好きでないといじらなかったラジ オも,小中学生のファンまで持つに至ったのであった。
「日本少年」「伸びて行く」などの少年雑誌が毎号ラジ オ記事を掲載していたのもこの項である。科学雑誌とし では,前年(大正13年)10月創刊された「子供の科学|
に毎号原田〔三夫〕先生が執筆されていた。また婦人雑 誌の「主婦の友」にもラジオ部ができ,今井紀氏がしば らくの間製作記事を連載された。つぎに示すのは「科学
画報」1925年(大正14年)8月号に掲載されたもので,筆者は宮里良保氏である。
面白いコイルを使った鉱石検波受信機の作り方(第38図)
第38図 第39図
鉱石検波受信機にいろいろの作り方や配線の仕方があつて,一番どの方式 を採つて作つた方がより有効に受信出来るかといふ問題は,大分熱心なアマ チュアを悩ましている。こゝに述べる鉱石検波受信機は,各捲数の異なつた 三つのコイルを組合せて力強く受信出来るものである。…(中略)…
しか
然る後,厚さ五分の一
インチ
吋 ,幅八分の五
インチ
吋 の真鍮板を一方の長さ七
インチ
吋 の 所で直角に曲げ,写真(第38図)のやうにその一方は床板へ,他の一方は パネルヘ
ね じ
螺子で止める。
上の方のコイルは直径四
インチ
吋 のファイバー(厚紙に加工したもの)か,蓄 音器の四
インチ
吋 半の古レコードかを十三個の放射状型に切り抜き,それへ二重 綿巻二十二番銅線を六十回捲く。捲く時に捲き始めは七,八
インチ
吋 余しておい て,内側から各割目の上と下へ交互に組むやうにして捲き上げて行き,一番 捲終りは小さい錐で孔をあけて通し,そこへ固く止める。
そして図の如く,どつちかの腕(割目の突出した所)の所だけ,
やすり
鑢 をか けて被覆をはいで裸にして置く。
この出来上つたコイルを真鍮板の上へ小さい真鍮
ね じ
螺子で止める。この止め る時にコイルと真鍮板との間と,
ね じ
螺子の上側には,ファイバーかエボナイト
の坐金を入れた方がよい。このコイルの裸にした所は,普通の円筒コイルに 於ける耳と同じ作用をするもので,普通スヰッチ・レバーを
しゅうどう
摺 動 する代りに,
ワイバー・アームといふものを用ゐる。このワイバー・アームといふのは長 さ三
インチ
吋 四分の一,幅十六分の三
インチ
吋 の尖の方を次第に細く作り,そのアーム の一端は真鍮板の上に
ね じ
螺子止めする。
そしてアームに穴をあけ,十八番の二重綿巻線にゴム管をかぶせてアー ムの孔に通し,線の先端は裸にして曲げる。その線の他端は空中線のバイ ンディング・ポストの後方ヘハンダでつける。このアームの先の裸の部分を,
コイルの裸線になつた部分の一本一本の上に接触させて置きかえる事によつ て,波長を合す事になる。下の方のコイルは,ミシンに使ふやうな大型の絲 捲きを二つに切つて,その凸縁のぐるりに十九個の孔をあけ,その孔へ太い 釘を差込んで,二重綿捲二十二番線をこの枠の釘と釘の間に一つ置き又は二 つ置きに編むやうにして捲く。捲き始めは五,六
インチ
吋 残しておいて,十回捲い たらその端を八,九
インチ
吋 残して線を切る。そして別の捲き口の針金で六十回 捲きのコイルを捲き始め,矢張り線端は数
インチ
吋 余してやり,六十回捲き終つ たなら緩まぬやうに止めてから一尺ばかり
よ ゆ う
餘猶をとつて切り取る。このやう にして十回捲きコイルと,下側の六十回捲きコイルとは一つの型の中に出来 て,そして次に縫い針に丈夫な木綿を通して,コイルの各網目の間を縫ひ止 め,堅固に縛つて置いてからテーブルの上にコイルを静かに置いて,釘を一 本づつ抜き去る。出来ることならば,この出来上つたコイルをラックの中に つけて乾かしてから用ゐた方がよい。この出来上つたコイルを,写真に示す やうに床板の上に立てゝ取付る。この取付る時は細い丈夫な竹針を床板に二 三本立てて,これにコイルを差せばよい。受話器コンデンサー(容量〇・〇
〇〇二五MFD)はフォーン・バインディングポストの後にすぐ取付る。上の
方のコイルの捲き始めの線端は下の十回捲きコイルの捲き始めの線端と継ぎ,
十回捲きコイルの捲き終りの線は,接地のバインディング・ポストの所へ結 んでハンダをつける。下の方の六十回捲きコイルの捲き始めは,ヴァレーブ ル・コンデンサーの固定部の極を経て受話器のポストに到り,他端,即ち捲 き終りはヴァレーブル・コンデンサーの回転部極の鉱石検波器の対極(針)の 方へ継ぎ,検波器の鉱石の方の極は残つた方の受話器のポストヘつなぎ,こ れで配線を終る。
この記事は翻訳のように思われるのがよく消化してあり,回路も合理的である。
ローデングコイルを入れたことは1次インピーダンスが下がり,ステップアップ に有利である。著者も当時製作したが非常によく聞こえたことを記憶している。
当時はスピーカが高価で手が出なかったのでいろいろな代用方法が考えられた。
これは「科学画報」同年7月号に掲載されたもので,筆者は同じく宮里良保氏で ある。
誰にも出来る拡声器の作り方 受話器を耳に当てると両耳用であれ
第40図
ば最大二人がせいぜいで,
も
若し四五人 も家族が居る所では受話器の奪い合い がないとも限らぬ。さうかといふて拡 声器を買入るとなると,増幅装置や何 にかで百円近くも費用がかさむやうに なつて,失礼だが貧棒〔貧乏〕人には 到底出来ない。そこで増幅装置もやら ずに又拡声器も買はずに,家族四五人 は裕に聞こえる拡声器の作り方が二三 ある。
受話器四個の取付け方 拡声器を用 ひないで,一台の受信機で四人位の人 が受話器を各々耳に当てて聞くには,中 図に示すやうに,エボナイトの細いパ
ネルにビハインドポストを四個取付け,各極へ各々受話器を継ぎ,真中の二 極即ち右側の受話器+極と左側の受話器−極とを連結する。そして両端の 極を受信機のビハインドポストの各極に継げばよい。両耳のもの二組取付け れば四人までは仲よく聞く事が出来る。
しか
然し幾分声量がおちる事は止む得な いだろう。
一文も要せぬ茶碗の拡声器 大きなドンブリでもよいし,又コーヒー茶碗 の大型(紅茶用)のものでもよいから,成る
べ
可く底のまるくなつたものを選 び,底の方へ箸を切つて井型に棚を作つて,その上に図で示すやうに受話器
を一個伏せて置くと,これで立派な拡声器の働きをするから面白い。この装 置を座敷の真中に置いて受話して見ると,鉱石検波受信機であれば確にその 周囲で四・五人は完全に聞く事が出来るし,また単球式受信機であれば,祐 に六・七人は満足に聞く事が出来る。試に低周波二段,高周波一段拡大装置 のもので実験して見たら,六畳座敷一ぱいに聞えて,隣室の人々にまで明瞭 に聞こえて居た。音の反響を巧に利用したに過ぎない。
蓄音器廃物利用の拡声器 一個五十円だの百円だ
第41図
のと云ふ高価な拡声器の内部の構造はどんなものか といふと,片耳の受話器と蓄音器の針を差す所の音響 板とを組合せた誠に簡単な仕掛けになつて居る。だ から今ある受話器と蓄音器の音響板さへあれば,訳 なく誰にでも作る事が出来る。先づ受話器の音響板 の中央に,鋼鉄針金をリベットし,今一つ蓄音器の音 響板の針を差す所に,図に示すやうに横桿と
しゅうどうし
摺動子 を取付て,この二つを思い思いの方法で
ちょうつがい
蝶 番 仕掛
けにする。そしてこの二つが今の方法で組合されたら,これを木の小箱かブ リキ函の中に固定して封じ込み,上の方へ蓄音器のラッパか,手製のボール 紙のラッパを取付ければ,これで完全に立派な拡声器が出来上つて高価なも のと同じやうな働きをする。この二つを組合せば何故拡声されるかと云へ ば,受話器の音響板の振動数が
ちょうつがい
蝶 番 の所を支点として働く
て こ
挺子作用によつ て,蓄音器のサウンド・ボックスの音響板の振動を増大せしめ,その結果発 生音は大きく聞こえるやうになる。
また前記の浜田氏著「無線電話の製作と其実験」p.137には「音声発音器」と題 して,第41図のように受話器にホラ貝をマウントする方法が示されている。一 方,第42図に示すように,受話器に聴診器のようなゴム管を取り付けて多人数 で聞く方法も考案され,商品が現われた。
鉱石受信機はアマチュアに手頃であったから,つぎからつぎへと種々な回路が 発表された。バイアス電圧を加える方法もその一つであった。
つぎに示すのは「科学画報」1925年(大正14年)10月号に掲載されたもので,
筆者は宮里良保氏である。