(1929年頃)
アメリカにおいてエリミネーターが市場に現われたのは 1922年頃であった。当時の受信機は主として受話器使用の 単球再生式であり,放送局は小電力で数も少なかったから 受信機の感度を十分取る必要があり,エリミネーターの設計も困難であったら しい。
第91図
第92図
サーキットは第91図に示すように冷陰 極の整流管を使用し,平滑コンデンサは 電解であったが,今日の電解コンデンサと は月とスッポンほどの違いがあった。A 電源もB電源より抵抗で落して使用した。
このA,Bエリミネーターは故障続出 して実用には遠く,ジャンクの山をきず いたという話が伝わつている。
第92図に示す広告は「AIEE」誌1926 年2月号の裏表紙に掲載されたもので,当 時のエリミネーターの形状をよく現わし ている1),一方,日本においてエリミネー ターが問題になり出したのは1929年頃か らである。「無線と実験」1929年(昭和4 年)1月号にはつぎのような記事が掲載 されている。筆者名はK生となっている。
ACセットの将来
本誌が創刊号を出した大正十三年の五月頃,既に中野の陸軍通信学校では
1)この整流管はたとえば
レーセオン B型 AC入力 275V DC出力 130〜150V 60mA
〃 BH型 〃 350V 〃 150〜250V 125mA
〃 BA型 〃 350V 〃 150〜250V 350mA
であった。
ACを電源とする受信機を研究試作して居つた。今から考へると
すこぶ
頗 る容易な 事柄のやうに見えるが,当時放送局も無い日本の状態で,此の種の研究を進 めてゐたと云ふのは誠に奇とすべきである。
や は り
矢張其の頃,今三田無線をやつ てゐる茨木氏は,そのアメリカ帰りのフレッシュな頭で,DC電源を交流か ら得る方法として,
ねつでんつい
熱電堆による熱電流の利用法を考案し,電灯線のACで ヒーターを熱して之で
ねつでんつい
熱電堆を働かさうとしたが,当時和製の球は,
あたか
恰 も 自動車のヘッドライトの
ごと
如く
ほと
殆んど一アンペアも
くら
喰ふので,
ねつでんつい
熱電堆は
お
惜しい
かな
哉不成功であつた。三田無線のバタリー〔バッテリー〕レスは其の頃から研 究を始めて居たものであつた。「無線と実験」に初めてAB電池の代りにAC 電源を使用する方法を掲載されたのは,たしか谷村功氏のが最初であらうと 思ふ。同氏のは本誌第二巻の第三,四号,即ち大正十四年の一月号及二月号 に出ているが,当時余り世人が注意しなかつたのは不思議な事であつた。我 が国でAエリミネーター及びBエリミネーターを初めて売出したのは,多分
「ラジオバッター」といふ名称で,東京精電機が売出したのが最初であらう。
AもBも交流で働くといふので甚だ便利であつたが,地方へ持つて行くと雑 音がひどくて実用にならぬといふのが,当時の一大欠点であった…(中略)…
現在我国で実用しているACセット,
第93図
即ちABエリミネーター付受信機は,
すべ
凡 て交流音と訳されているハムを持つて いて,吾人の耳には雑音に聞こえるが,
ラヂオ商では,雑音ではない,ハムであ ると威張つている。そのゴーと聞こえ るハムが,遠方の局を受ける場合は随
分邪魔になる。つまり現代に於てもACセットは近い放送局,最大二,三百 マイル以下にのみ実用されるが,それ以上の遠方の局を受けるのには甚だそ のハム公が邪魔になる。
しか
然らば将来のACセットは
ど
何うなるか。之から本文 なのである。
RCAでは二二六,二二七といふ交流専用の球を作つた。又最近は二二四 といふスクリンドヴァルブの交流用球を作つた。現時アメリカでは,ニュー トロでもスーパーでも皆是等の交流球を用ひてゐる。
もっと
尤 もこのヒーター型の球の話は前に記した
ねつでんつい
熱電堆応用の当時から,アメリ カの各ラボラトリの噂話に聞かされてはあつたのであるが。…(中略)…故 に将来のACセットは
い か
如何なる土地に普及するか,放送局を中心として,
い か
如何 なる範囲に限定せられるかといふことも考慮の中に入れて置くことが必要で ある。かう考へて来ると,将来のACセットは,
すこぶ
頗 る高級のものに進んで行 く傾向があるので,現在クリスタルセットで聞いてゐる程度の処は,将来と いへども現在のACセット以上を望まぬであらう。将来のACセットが,一 定範囲内のブル〔ジョア〕階級により多くの可能性があるといふことは,云ひ かへれば将来のACセットは,現在の高級セット六球以上の需要程度ではな からうか。
ただ
但し,現在ACセットでハムを聞かされてゐる者も,三年も経て ば大概はハムに聞き飽きるであらうから,其の後のACセットは,相当高級 品でも需要が多くなるであらう。又其頃になれば,AC用六球スーパー附属 品付で百円内外で出来る時代も出現するであらうから,さうなればスーパー 様様も,
( マ マ )
付で,二球や三球のセットは,子供の玩具となることであらう。
しか
然 し,之がともすると現在でさヘセットは電池用の方へ大いに発展しやうとし ている。それは四極管や五極管の出現であるが,他方又フヰリップスの
ごと
如く 極少量の電流で働く球もあるので,今後の電池用セット発達の前途も大いに 有望なわけである。…(後略)…
第94図
当時第94図に示すように201AのGとPを結んで整 流管に使用するという特許があり,メーカー間では大 さわぎを演じたが,われわれアマチュアにはまったく 無関係であった。しかし201Aの整流管は,ライフが短 かく内部抵抗も多く効率はきわめて不良であった。第 95図は米国クロスレー(CROSLEY)会社の5球式直 流受信機に付加したエリミネーターである。
回路は第91図に似たもので,真空管のフィラメント は直列にして加熱した。
一方,第96図に示すように1928年12月に226が売 り出されたが,227は舶来品のみで価格も高くアマチュ アには入手困難であった。窮した方法として201Aまた
第95図 第96図
は226のプレート検波が試みられた。グリッドバイアスを深くして,フィラメン トの交流点火の影響を少なくしようとしたのであるが,やはりハムは取り切れず 実用的でなかった。第97図,第98図は「無線と実験」1930年(昭和5年)1月 号に掲載されたものである。
このような事情で227が十分市場に現われるまでは,201Aまたは226の鉱石検 波2球レフレックスが全盛をきわめた。
第97図 第98図
ラジオといえば2球レフの時代がしばらくの間つづいたのであった。一例とし て「無線と実験」1930年(昭和5年)2月号につぎのような製作記事が掲載され ている。筆者は丸山恭正氏である。
家庭向 交流受信機の作リ方
…前略…◇家庭向受信機の特徴
ばんきん
輓近,電燈設備は益々発達し全国津々浦々 の小村迄,光の恵みを与へて居るのであります。
いわ
況んや昼夜電燈の用ひらる ゝ各都市に於ては,ラヂオ受信機のA,B,C電池の代用として之を用ふるは,
経済的見地より観て当然の帰結でありませう。又従来の電池を用ふる方法に 於ては,
ま
先づ蓄電池の充電がかなり厄介であり,B乾電池の消耗にも
すこぶ
頗 る弱 らせらるゝ
ばか
許りでなく,
も
若し稀硫酸を畳や衣服にこぼしますると,何時の間 にか大穴が出来ると云ふ様な蓄電池による損害も亦考へなければならないの であります。更にB乾電池に至つては製品の良否等外観ではなかなか判断し 難く,従つて甚だしい不良品になりますと,僅か半月位使用している内にガ ラガラといふ雑音が遠慮なく拡声機より洩れて,素人の方には大故障が起っ たのではあるまいかと
すく
尠なからず心配せらるゝ方もありますが,
あに
豈
はか
計らんや 之はB乾電池の急激に消耗しつゝある事が其の原因であつたなど,
かえすがえす
却 々 一 通りの苦労ではありません。
か よ う
斯様に考へて参りますと,一般家庭用としては 断然「エリミネーター式に限る」と断定して
さしつかえ
差 支 へありますまい。
◇組立上の回路選定 「エリミネーター」受信機と云ひましても,其回路 に幾通りもありますが,今回述べまするのは始めて手を染めらるゝ方にでも 比較的容易に製作も出来,又相当遠距離用としての目的にも叶ひ,或は近距
第99図
離の場合,小さいアンテナを用ひて聴取の出来る様な装置として最も代表的 な回路高周波一段,クリスタル検波,レフレックスによる低周波一段及低周 波二段増幅エリミネーターを推した次第であります。
◇使用部分品は良品を選べ 回路は決定しましたが,使用部分品が悪いも のでありますと,折角の組立上の努力も水泡に帰する事がありますから充分 注意すべきであります。左に本機組立に要する全部の部分品及材料を示しま せう。
木箱 一段箱の場合……奥行の深いもの
(イ) 二段箱の場合……下部電源の楽に這入るもの
(ロ) エボナイトパネル二枚(本機にはラクトロイドと称するものを用ひた が絶縁も良く体裁も優美であった)
(ハ) 底板 二枚
(二) コイル 三
インチ
吋 半スパイダーコイル枠 二枚 二
インチ
吋 半スパイダーコイル枠 三枚
BS二十四番二重絹巻線四〇米,立金具一個,
(ホ) バリコン 大型十三枚のもの二個
(へ) ダイヤル 二個
(ト) クリスタル 固定鉱石 一個
(チ) ソケット ベークライト製UXソケット 三個
(リ) トランス 一対五,一対三,オーデオトランス 各一個(ミツワ電気 ゴールウヰング)
(ヌ) チョークコイル 三十ヘンリー低周波チョークコイル 一個(屋井の ブリウバンド)
(ル) ポテンションメーター 六オーム 一個
(ヲ) レオスタット 二十オーム抵抗器 一個
(ワ) 単式ジャック 一個
(カ) 電源変圧器 二二六用 一個(放電コンパニー製TKS)