8-1 エネルギー政策動向、石油政策動向
マレーシアのエネルギー政策における基本方針は、「国家エネルギー政策基本方針
(National Energy Policy)」に規定されており、持続的な経済成長を維持していくため、
安定的で廉価なエネルギー資源を国内市場へ供給するとしている。そのため、マレーシア 政府はエネルギー政策に関するガイドラインとして、下記の 3 点を掲げている。
① エネルギーの供給: 国内のエネルギー資源(化石燃料及び再生可能エネルギー)の 開発や国内外でのエネルギー供給の多様化を通して、適切、確実、安価なエネルギー の供給を実現する。
② エネルギーの有効利用: エネルギーの有効利用を促進し、エネルギー消費の無駄遣 いや非生産的なパターンを軽減する。
③ 環境保護: エネルギーの生産、輸送、転換、消費の各段階において環境に対する負 荷を最小化する。
2010 年 6 月に発表された「第 10 次マレーシア計画(10th Malaysia Plan 2011-2015)」
では、環境・社会的考慮と共に、エネルギーセキュリティ及び経済効率性が重視されてい る。政府は、同計画の下で「新エネルギー政策(New Energy Policy)」を発表し、前述の 国家エネルギー政策基本方針で掲げた基本方針を達成するために、下記の 5 項目を主要戦 略として位置づけている。
① 信頼できるエネルギー供給の確保・管理を主導
-
石炭や LNG の輸入と共に、代替エネルギー(特に水力)の開発-
運輸部門において、2011 年にバイオ燃料混合の義務化開始-
マレーシア半島におけるエネルギー供給を確保するため、新規石炭火力発電所の開 発:超臨界石炭火力発電技術採用に向けた調査-
原子力エネルギーの開発② 省エネルギーの推進
-
機器の最小エネルギー消費効率基準(MEPS)の設定やグリーン技術の開発を含む「省 エネルギーマスタープラン」(Energy Efficiency Master Plan)の作成-
エネルギー効率的な高付加価値産業の推進③ 市場価格に基づいたエネルギー価格の採用
-
エネルギー補助金の削減、2015 年までに市場価格導入の達成-
電力部門・非電力部門のガス価格の 6 ヶ月毎の見直し④ ガバナンスの改善(生産性・効率性の改善)
-
ガスの自由化促進(Third Party Access の導入、規制価格の段階的廃止)60 -
電力産業の構造改革⑤ 様々な基盤となる構造改革
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価格制度、供給・需要マネジメント、新しい管理システム等マレーシアの上流部門のエネルギー開発政策は、「Petroleum Development Act」(1974 年)
によって規定されている。同法の下、マレーシア国営石油会社である Petronas(Petroliam Nasional Berhad)は43、マレーシア国家の石油・ガス政策を遂行する事業体として、国内の 石油・ガス資源の保有権と精製・石油化学分野における製造・販売権を付与されており、石 油・ガスの探鉱・開発・生産から精製・販売・トレーディングなど広範囲なビジネス活動を展 開している。
マレーシアは石油純輸出国ではあるが、可採年数が低下傾向を辿っており純輸入国に転 じる可能性が出ている。そのため、マレーシア政府は、石油およびガス資源の寿命延長を 目的に策定した「National Depletion Policy」(1980 年)に基づいて生産を抑制する(上 限 65 万 b/d)とともに、探鉱・開発への外資参入を促進し国内資源の新たな開発を目指し ている。その外資導入を促す一環として、生産物分与契約(Production Sharing Contract:
PSC)の条件緩和などが図られている。
2010 年 11 月、マレーシア政府は、国内石油・ガス生産や限界的な油田の開発を推進する ため、「Petroleum Income Tax Act」を改定し、新たな優遇税制を導入することを決定した。
対象となるのは、石油・ガス開発における増進回収法(Enhanced Oil Recovery)および高 温高圧法(High Pressure and High Temperature)といった技術、石油・ガス事業に関連し たインフラ整備などで、所得から資本支出の 60~100%を控除する。また、限界的な油田開 発事業について、石油事業所得税率を現行の 38%から 25%まで引き下げるほか、限界的な油 田から生産された原油に対する輸出税の免除、減価償却期間の 10 年から 5 年への短縮など を適用することとした44。
マ レ ー シ ア の エ ネ ル ギ ー 政 策 は 、 最 高 決 定 機 関 で あ る 首 相 府 ( Prime Minister's Department)直轄組織の1つである経済企画院(Economic Planning Unit:EPU)のエネル ギー部門が所管している。同部門は以下のような主要な役割を担っている45。
-
エネルギー分野の持続的な開発のための戦略および政策の策定-
ガス・石油産業の開発促進-
エネルギーの品質、供給コスト、安全の保証-
省エネルギーおよび再生可能エネルギーの促進43 Petronas は、「Companies Act of 1965」に基づき、1974 年 8 月 17 日に設立された。
44 East & West Report、2010 年 12 月 6 日。
45 経済産業省「平成 23 年度民活インフラ案件形成等調査 マレーシア・太陽光発電事業調査報告書」
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-
エネルギー開発に関わるプログラムの実施と評価この他、エネルギー・環境技術・水省(The Ministry of Energy, Green Technology and Water:MEGTW)は、マレーシアにおける電力供給、方針および戦略を策定する責任省庁で ある。2015 年 12 月時点の大臣は Maximus Johnity Ongkili 氏であり、同省の主な役割は以 下の通りである。
-
エネルギー、水、環境技術に係る政策、法的な枠組み、規制などの策定-
国家開発目標に沿った目標の設定-
効率的なマネージメントシステムとモニタリングシステムの開発エネルギー委員会(Energy Commission)は、電力供給法(Electricity Supply Laws)、
ガス供給法(Gas Supply Laws)等に基づいて、電力供給産業やガス供給産業などのエネル ギー部門に対する規制を行い、マレーシアにおけるすべてのエネルギー供給活動を監督し、
エネルギー諸法を施行する責任を負っている。
持続可能エネルギー開発庁(Sustainable Energy Development Authority:SEDA)は、
再生可能エネルギーの開発を先導し、固定価格買取制度(Feed-In-Tariff)の実施を管理 しており、天然資源・環境省(Ministry of Natural Resources and Environment:NRE)
は、主に天然資源管理、環境保護・管理、土地調査の管理及び地図作成業務の責務を負い、
石炭政策も所管している。原子力庁(ANM, 英文は Malaysia Nuclear Agency)は、マレー シアの原子力研究・開発を行っている。科学技術革新省(Ministry of Science, Technology
& Innovation, MOSTI)の管轄下にある。
8-2 石油等の化石エネルギーの需給バランス
マレーシアは天然ガス、石油が豊富に存在し、石炭もわずかではあるが生産されている。
国内生産が国内供給を上回るエネルギー自給国である。森林資源も豊富であり、パーム油 はバイオディーゼルとして輸出されるほか、国内の輸送用燃料としても導入されている。
2013 年における石炭の生産量は 182 万トン(石油換算トン、以下同じ)であるが、この 7 倍以上に相当する 1,391 万トンが輸入されており、多くが発電用に利用されている。天然 ガスの生産量は 5,817 万トン、うち 49%に相当する 2,858 万トンが輸出される一方で 855 万トンの輸入が行われている。天然ガスの需要を見ると、最終消費 1,201 万トンと発電用 1,662 万トンを合わせて 2,863 万トンが消費されており、発電用のシェアは 58%となって いる。天然ガスの最終消費を見ると民生用はわずかであり、多くが石油化学等の非エネル ギー消費に、また輸送用燃料としても 29 万トンが利用されている。
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表 8-1 マレーシア・エネルギーバランス表(2013 年、単位:石油換算万トン)
(出所)IEA、Energy Balances of Non-OECD Countries 2015 を基に作成
表 8-2 マレーシア・一次エネルギー供給の推移
(出所)IEA、Energy Balances of Non-OECD Countries 2015 を基に作成
エネルギ ー源 A B C D E F G H I
部門 原油 石油
製品
水力・
原子力 電力 石炭・
コークス ガス 地熱・
新エネ他 廃棄物 バ イオマス 合計
1国内生産 2,972 0 91 0 182 5,817 1 400 9,463
2輸入 917 1,939 0 2 1,391 855 0 0 5,104
3輸出 -1,083 -1,198 0 0 -33 -2,858 0 -20 -5,193
4国際バ ンカー 0 -335 0 0 0 0 0 0 -335
5在庫変動 53 -172 0 0 -11 0 0 -11 -141
6一次エネルギ ー国内供給 2,859 234 91 2 1,530 3,813 1 369 8,898
7電力生産 0 -104 -91 1,190 -1,353 -1,662 -1 -40 -2,060
8石油精製 -2,668 2,474 0 0 0 0 0 0 -194
9その他転換 63 0 0 0 0 -114 0 -132 -183
10自家消費・ ロス -50 -22 0 -96 0 -836 0 0 -1,005
11品種転換・ 統計誤差 -203 178 0 0 -23 0 0 0 -49
12最終エネルギ ー計 0 2,760 0 1,095 154 1,201 0 197 5,407
13 産業 0 407 0 517 154 449 0 0 1,526
鉄鋼 0 0 0 0 0 0 0 0 0
化学・ 石油化学 0 0 0 0 0 0 0 0 0
非鉄金属 0 0 0 0 0 0 0 0 0
非金属 0 0 0 0 0 0 0 0 0
輸送機械 0 0 0 0 0 0 0 0 0
機械 0 0 0 0 0 0 0 0 0
鉱業 0 0 0 0 0 0 0 0 0
食料・ タバコ 0 0 0 0 0 0 0 0 0
紙パ・ 印刷 0 0 0 0 0 0 0 0 0
木材・ 木製品 0 0 0 0 0 0 0 0 0
建設 0 0 0 0 0 0 0 0 0
繊維・ 皮革 0 0 0 0 0 0 0 0 0
その他 0 407 0 517 154 449 0 0 1,526
14 民生 0 165 0 573 0 2 0 179 919
家庭部門 0 74 0 226 0 0 0 179 479
業務部門 0 92 0 347 0 2 0 0 441
15 運輸 0 1,886 0 2 0 29 0 19 1,936
国内航空輸送 0 0 0 0 0 0 0 0 0
道路輸送 0 1,880 0 0 0 29 0 19 1,928
鉄道輸送 0 0 0 2 0 0 0 0 2
パイプライン輸送 0 0 0 0 0 0 0 0 0
国内海上輸送 0 6 0 0 0 0 0 0 6
その他 0 0 0 0 0 0 0 0 0
16 農林水産 0 102 0 3 0 0 0 0 105
農業・ 林業 0 1 0 3 0 0 0 0 4
水産業 0 101 0 0 0 0 0 0 101
その他 0 0 0 0 0 0 0 0 0
17 非エネルギ ー消費 0 200 0 0 0 721 0 0 922
一次 エネルギ ー
供給
エネルギ ー 転換・
自家消費
最終 エネルギ ー
消費
1990 2000 2013 1990 2000 2013 1990-2000 2000-2013 1990-2013
石炭 136 231 1,530 6.1% 4.7% 17.2% 5.5% 15.7% 11.1%
石油 1,135 1,909 3,092 51.2% 38.6% 34.8% 5.3% 3.8% 4.5%
天然ガス 680 2,472 3,813 30.7% 49.9% 42.9% 13.8% 3.4% 7.8%
原子力 0 0 0 0.0% 0.0% 0.0%
水力 34 60 91 1.5% 1.2% 1.0% 5.7% 3.3% 4.3%
再生可能エネルギー他 232 278 371 10.4% 5.6% 4.2% 1.9% 2.2% 2.1%
2,216 4,950 8,898 100.0% 100.0% 100.0% 8.4% 4.6% 6.2%
シェア % 年平均伸び率 %
合計
一次エネルギー供給 万TOE
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表 8-3 マレーシア・電源別発電量(2013 年、単位:GWH)
(出所)IEA、Energy Balances of Non-OECD Countries 2015 を基に作成
マレーシアにおける 2013 年における石油生産量は 2,972 万トンであるが、このうち 36%、
1,083 万トンが輸出され、逆に 917 万トンの輸入が行われている。2,668 万トンが国内で精 製処理され、2,474 万トンの石油製品が生産されているが、石油製品の需要は最終消費量 2,760 万トンと発電用 104 万トンを合わせた 2,864 万トンで、国内生産だけでは不足する。
このため 1,939 万トンの輸入が行われているが、逆に 1,198 万トンが輸出されており、石 油事業者の輸出志向がうかがえる。石油製品の需要のほとんどが運輸部門であり、最終消 費 2,760 万トンの 68%を占めている。
8-3 各国主要エネルギー企業(上流・中流等)の概況及び動向
マレーシアの上流部門は Petronas Carigali が担当し、外資企業が探鉱・開発活動を行う には、同社との間で生産物分与契約(PSC)またはリスクサービス契約(RSC:マージナル 油ガス田の場合)を締結する必要がある。現在、マレーシアで探鉱・開発プロジェクトを 進めている主な外資企業は、Shell、ExxonMobil、Murphy Oil 等である。日本企業では、JX 日鉱日石開発がオペレーターとして SK10 鉱区の開発や SK333 鉱区および Sabah 州沖合大水 深ブロック R 等で探鉱を行っているほか、国際石油開発帝石(INPEX)が Sabah 州沖合大水 深ブロック S をオペレーターとして開発に向けた作業を実施している。
国内小売分野では Petronas の子会社 Petronas Dagangan Bhd が石油製品、LPG、潤滑油 の販売を行っている。なお、小売分野では Petronas Dagangan Bhd 以外にも、Shell、 Caltex が参入している。
発電電力量 GW H
2013年
シェア%石炭
53,372 38.6
石油
5,339 3.9
天然ガス
67,761 49.0
原子力
0 0.0
水力
10,586 7.7
地熱
0 0.0
太陽光
141 0.1
可燃再生エネルギ ー
1,149 0.8
熱
0 0.0
合計