5-1 エネルギー政策動向、石油政策動向
フィリピンのエネルギー政策における重要な政策目標として、エネルギー省は 2012 年 12 月に発表した最新の「フィリピンエネルギー計画 2012-2030」(Philippine Energy Plan:
PEP2012-2030)において以下の 6 点を挙げている。
① エネルギーセキュリティの確保
② エネルギーアクセスの改善
③ 低炭素社会の推進
‐省エネルギーの生活への浸透
‐クリーンかつ石油代替となる燃料や技術の推進
④ 気候変動に対するエネルギー部門の適応力の確保
⑤ 地域別エネルギー計画の作成
⑥ エネルギー部門への投資促進
またこの「フィリピンエネルギー計画 2012-2030」では、国内の化石エネルギーの開発に ついて次のような計画及び生産目標が掲げられている26。
-
資源の埋蔵が期待される地域を提供するために入札を継続して行う。-
適切でクリーンな技術の利用や開発を行う(石炭液化、石炭ガス化、CBM)。-
国内資源向け価格のフレームワークを確立する。-
エネルギー資源に関する国際協力を継続する。-
資源開発のさらなる投資を促進する。表 5-1 フィリピンの国内エネルギー生産目標
2012 2015 2020 2025 2030 石炭(100 万トン) 8.33 11.12 12.59 13.03 13.31
2012-15 2016-20 2021-25 2026-30 石油(100 万 bbl) 27.73 19.53 14.77 15.94 ガス(Bcf) 585.29 747.87 1,190.85 751.73 コンデンセート(100 万 bbl) 20.99 25.61 21.44 2.75
(出所)Philippine Department of Energy (2012). Philippine Energy Plan 2012-2030.
石油の下流部門の政策については、1998 年に成立した石油下流産業規制緩和法(RA 8479:
26 詳細はフィリピン DOE の HP を参照。
37
Downstream Oil Industry Deregulation Act of 1998)によって自由化が進められている。
また同法によって石油関税 3%の設定と、ガソリンと灯油を除く製品価格自由化、備蓄義務 撤回が定められている27。なお、「フィリピンエネルギー計画 2012-2030」では、石油下流部 門に関して次のような計画が挙げられている。
-
下流部門インフラ(製油所、備蓄、販売)の開発や更新・増強を推進する。-
国家レベルでの緊急時対応計画である「National Crisis Management Manual」と 一致する緊急時準備体制を考慮した「Oil Supply Contingency Plan」を更新する(石油備蓄の増強)
-
石油価格の高騰による影響を緩和する。フィリピンでエネルギー政策全般を所管しているのが、エネルギー省(Department of Energy:DOE)である。主要な役割は、エネルギー部門における全ての計画を策定・施行・
管理し、エネルギー資源の探鉱・開発や活用、省エネルギーを推進することである。同省 の長官は Zenaida Monsada 氏(2015 年 12 月現在)である。また、DOE の監督下に置かれて いる国家電化庁(National Electrification Administration)が、地方電化プログラムを 推進しており、地方電化に係る資金手当てや電力設備の建設を行っている。この他、エネ ルギー規制委員会(Energy Regulatory Commission: ERC)が、電力市場の監視、電力料金 規制、事業許可を行い、ガス料金の規制も行っている。
5-2 石油等の化石エネルギーの需給バランス
フィリピンには石炭、天然ガス、石油、地熱といったエネルギー資源が存在するが、国 内の需要を賄うには十分ではなく、多くを輸入に依存している。2013年の一次エネルギー
国内供給
4,460
万トン(石油換算、以下同じ)に対し、国内生産は2,449
万トン、自給率は
55%となっている。国産エネルギーのうちバイオマス・廃棄物が 797
万トンと33%を占
めている。バイオマス・廃棄物の大半が民生用、特に厨房用に利用されている薪炭等の森 林資源であり、いずれは電力や
LPG、天然ガスに置き換わってゆくものと考えられる。天
然ガスは、2002年に生産を開始したMalampaya
ガス田を中心とする国産の天然ガスのみ で輸入は無い。この大半が発電用に供給されている。石炭も国内生産が374
万トンあるも のの、約半分の180
万トンが輸出され、850 万トンの石炭が輸入されている。これらは主 に発電用に供されている。2013
年の発電量を電源別に見ると、石炭が43%と最もシェアが
高く、次いで天然ガス25%、水力 13%、地熱 13%となっており、石油は 6%と低い水準に
とどまっている。27東西貿易通信社(2012)「東アジアの石油産業と石油化学工業」
同法の下、石油製品に対する関税は 3%に定められていたが、2010 年 Executive Order No.890 によって輸 入石油・製油製品に対する関税は撤廃された。
38
一方、原油の需給バランスを見ると、国内生産
75
万トンに対しほぼ同量の68
万トンが 輸出されている。従って、2013
年に製油所に投入された753
万トンのほぼ全量を輸入に依 存していることになる。また、石油製品の需要を見ると、最終消費1,224
万トンに発電用 の消費108
万トンを加えた1,332
万トンの需要に対して国内の生産は739
万トン、55%に 過ぎず781
万トンの輸入が行われている。最終消費のうち運輸部門は845
万トン、69%を 占めており、産業用の消費は128
万トン、10%に過ぎない。表 5-2 フィリピン・エネルギーバランス表(2013 年、単位:石油換算万トン)
(出所)IEA、Energy Balances of Non-OECD Countries 2015 を基に作成
表 5-3 フィリピン・一次エネルギー供給の推移
(出所)IEA、Energy Balances of Non-OECD Countries 2015 を基に作成
エネルギ ー源 A B C D E F G H I
部門 原油 石油
製品
水力・
原子力 電力 石炭・
コークス ガス 地熱・
新エネ他 廃棄物 バ イオマス 合計
1国内生産 75 0 86 0 374 291 826 797 2,449
2輸入 737 781 0 0 850 0 0 18 2,385
3輸出 -68 -63 0 0 -180 0 0 0 -310
4国際バ ンカー 0 -126 0 0 0 0 0 0 -126
5在庫変動 -5 22 0 0 45 0 0 1 63
6一次エネルギ ー国内供給 738 614 86 0 1,089 291 826 816 4,460
7電力生産 0 -108 -86 647 -844 -273 -826 -8 -1,498
8石油精製 -753 739 0 0 0 0 0 0 -15
9その他転換 0 0 0 0 -9 0 0 -200 -209
10自家消費・ ロス -22 -9 0 -118 0 -11 0 0 -160
11品種転換・ 統計誤差 38 -12 0 0 -23 0 0 0 3
12最終エネルギ ー計 0 1,224 0 530 214 6 0 608 2,582
13 産業 0 128 0 178 214 6 0 163 689
鉄鋼 0 9 0 36 22 0 0 0 67
化学・ 石油化学 0 11 0 11 0 0 0 0 23
非鉄金属 0 0 0 0 0 0 0 0 0
非金属 0 18 0 14 167 0 0 0 198
輸送機械 0 0 0 0 0 0 0 0 0
機械 0 10 0 45 0 0 0 0 54
鉱業 0 28 0 6 0 0 0 1 34
食料・ タバコ 0 32 0 33 8 0 0 161 233
紙パ・ 印刷 0 1 0 10 7 0 0 0 18
木材・ 木製品 0 1 0 4 0 0 0 0 5
建設 0 10 0 2 0 0 0 0 12
繊維・ 皮革 0 1 0 14 11 0 0 0 25
その他 0 7 0 5 0 6 0 1 20
14 民生 0 200 0 335 0 0 0 413 948
家庭部門 0 88 0 177 0 0 0 379 644
業務部門 0 112 0 157 0 0 0 34 304
15 運輸 0 845 0 1 0 0 0 31 878
国内航空輸送 0 43 0 0 0 0 0 0 43
道路輸送 0 739 0 0 0 0 0 31 770
鉄道輸送 0 0 0 1 0 0 0 0 1
国内海上輸送 0 63 0 0 0 0 0 1 64
16 農林水産 0 19 0 16 0 0 0 0 35
農業・ 林業 0 3 0 14 0 0 0 0 18
水産業 0 16 0 2 0 0 0 0 18
17 非エネルギ ー消費 0 31 0 0 0 0 0 0 31
一次 エネルギ ー
供給
エネルギ ー 転換・
自家消費
最終 エネルギ ー
消費
1990 2000 2013 1990 2000 2013 1990-2000 2000-2013 1990-2013
石炭 153 516 1,089 5.3% 12.9% 24.4% 13.0% 5.9% 8.9%
石油 1,084 1,605 1,352 37.8% 40.1% 30.3% 4.0% -1.3% 1.0%
天然ガス 0 1 291 0.0% 0.0% 6.5% 56.0%
原子力 0 0 0 0.0% 0.0% 0.0%
水力 52 67 86 1.8% 1.7% 1.9% 2.6% 1.9% 2.2%
再生可能エネルギー他 1,582 1,810 1,642 55.1% 45.3% 36.8% 1.4% -0.7% 0.2%
2,871 3,999 4,460 100.0% 100.0% 100.0% 3.4% 0.8% 1.9%
シェア % 年平均伸び率 %
一次エネルギー供給 万TOE
合計
39
表 5-4 フィリピン・電源別発電量(2013 年、単位:GWH)
(出所)IEA、Energy Balances of Non-OECD Countries 2015 を基に作成
5-3 各国主要エネルギー企業(上流・中流等)の概況及び動向
フィリピンの上流部門では、国営石油会社 Philippine National Oil Company(PNOC)(子 会社 PNOC Exploration Corporation(PNOC-EC))が主要企業であり、外資と提携をして開発 プロジェクトを進めている。主要な石油鉱区は、Malampaya ガス田の下に発見された Malampaya 鉱区であり、ガス随伴油としてフィリピン最大の原油生産をしている。下流部門 では、1998 年 3 月の石油産業下流部門規制緩和法施行後、国内市場は自由化され、フィリ ピン民族資本の Petron の他、PTT、Petronas、Total など多くの外資・民間企業が石油製品 市場に参入している。
5-4 原油及び石油製品需要、輸出入、輸入依存度の推移と今後の見通し
フィリピンにおける石油製品の国内需要は 2000 年の 1,508 万トンから 2013 年には 1,332 万トンに減少しており、2000 年~2013 年の年平均伸び率では▲1.0%となっている。2013 年の石油消費量を油種別のシェアで見ると 49%を軽油、23%をガソリンが占めており、 他 に重油 13%、LPG 9%、ジェット燃料油 3%となっている。2000~2013 年の年平均伸び率で は、軽油 1.0%、ガソリン 0.9%、重油▲7.0%、LPG 0.4%、ジェット燃料油 2.3%で輸送 用燃料油の伸びが著しい。重油の消費は 2000 年の 430 万トンから 2013 年には 166 万トン に大きく減少しているが、これは重油の主な用途である発電用が天然ガスと石炭に転換が 進んだことによる影響が大きい。因みに重油を除く石油製品の伸び率は 0.6%と低い水準で はあるが増加傾向にある。
発電電力量 GW H
2013年
シ ェア %石炭
32,081 42.6
石油
4,491 6.0
天然ガス
18,791 25.0
原子力
0 0.0
水力
10,019 13.3
地熱
9,605 12.8
太陽光
67 0.1
可燃再生エネルギ ー
212 0.3
熱
0 0.0
合計
75,266 100.0
40
図 5-1 フィリピンの石油製品需給バランス(単位:石油換算百万トン)
(出所)IEA、Energy Balances of Non-OECD Countries 2015 を基に作成
図 5-2 フィリピンの石油製品需要の推移(単位:石油換算百万トン)
(出所)IEA、Energy Balances of Non-OECD Countries 2015 を基に作成
石油製品の生産は、2000 年の 1,480 万トンから 2013 年には 730 万トンへと半減している が、これには Caltex Philippines が採算性の悪化を理由に San Pascual 製油所(Batangas、
8.65 万 b/d)を 2003 年 9 月に閉鎖したことによる精製能力の減少が大きく影響している。
フィリピンは 1998 年の「Downstream Oil Industry Deregulation Act(石油産業下流部門 規制緩和法)」成立に伴い Oil Price Stabilization Fund (OPSF)による政府の製品価格 統制が廃止された。政府は、原油と石油製品について関税を同率の 3%としたが、製油所を 持たない輸入業者は ASEAN Free Trade Area Agreement によりゼロ関税の製品を輸入した ことから製油所の採算性が悪化した。その後、原油についても 2010 年 6 月の大統領令 890 により関税が廃止されている。
0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0 18.0 20.0
1980 1985 1990 1995 2000 2005 2013
MTOE
国内消費 生産 輸入
輸出(含、国際バンカー)
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
1980 1985 1990 1995 2000 2005 2013
MTOE
その他 LPG ナフサ 重油 ジェット燃料油 灯油 軽油 ガソリン
41
図 5-3 フィリピンの石油製品生産の推移(単位:石油換算百万トン)
(出所)IEA、Energy Balances of Non-OECD Countries 2015 を基に作成
2013 年には 781 万トンの石油製品の輸入が行われており、その輸入の伸び率は 2000 年~
2013 年の年平均で 7.6%と極めて高い値となっている。この製品輸入のうち、軽油が 45%、
ガソリンが 23%、ジェット燃料油が 12%、LPG が 11%を占めている。2000 年~2013 年の 年平均伸び率で見るとそれぞれ軽油 10%、ガソリン 8%、ジェット燃料油 16%、LPG 1.5%
となっている。LPG の輸入量の伸びが鈍化傾向にあるが、これは前述の通り LPG の需要の伸 びが 0.4%程度にとどまっていることを反映したものと見られる。モータリゼーションの進 展に伴い、今後も軽油、ガソリンの輸入量は拡大が見込まれる。
図 5-4 フィリピンの石油製品輸入の推移(単位:石油換算百万トン)
(出所)IEA、Energy Balances of Non-OECD Countries 2015 を基に作成 0
2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
1980 1985 1990 1995 2000 2005 2013
MTOE
その他 LPG ナフサ 重油
ジェット燃料油 灯油
軽油 ガソリン
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
1980 1985 1990 1995 2000 2005 2013
MTOE その他 LPG ナフサ ジェット燃料油 灯油 軽油 ガソリン 重油