2005年11月16日
7 マルチコア 2つ以上のプロセッサコアを1つのパッケージに集積したプロセッサ。コア数増加による性能向上の 他、キャッシュメモリの共有等により性能向上を実現できる。
(1)プロセッサ内部の多様な高速処理方式
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4.3 時間精度の誤差発生理由
このようなプロセッサの多様な高速化手法は、各マイコンベンダのノウハウでもあり、その制御方式は必ず しも公開されていない。従って、ツールベンダがマイコンのマニュアルなど開示された仕様のみでは実マイコ ンの挙動に完全一致する仮想マイコンを開発することは実質困難である。
一方で、マイコンベンダが多様な高速化手法を全てモデル化した仮想マイコンを開発&提供することは、マ イコン設計データ(RTL)の提供と等価であり、モデル開発工数が増大する。またシミュレーション速度が得ら れず、アプリケーションの開発や評価に適さない。
このため、仮想マイコンではある想定した条件下での処理時間を用いており、実マイコンでの動作時間と仮 想マイコンの動作時間に違いが発生する。
各高速化手法で発生する誤差の例を以下に示す。
No.
高速化手法 誤差要因1
パイプライン制御 パイプラインハザード、パイプラインストール発生の有無による処理時間の相違。2
キャッシュメモリ キャッシュヒット、ミスヒットでの処理時間の相違。3
スーパースカラ 複数命令によるデータや資源(バス、メモリ等)の競合有無による処理時間の相違。4
分岐予測 命令分岐予測によるパイプラインへの先行投機の有無による処理時間の相違。5
命令先行読み出しバッファ プロセッサが要求した命令データと、先行読み出しした命令データが一致した場合と、命令デー タが要求と異なり再読出しを行った場合の処理時間の相違。6
内部バス制御方式 バスの競合による処理時間の相違。7
マルチコア 複数プロセッサによるデータや資源(バス、メモリ等)の競合有無による処理時間の相違。All Rights Reserved by 仮想マイコン応用推進協議会/vECU-MBD WG
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4.3 時間精度の誤差発生理由
周辺との入出力や、複数マイコン間の通信などでは、使用クロックが別であり、当該プロセッサのクロックと は非同期のタイミングで送受信が行われる。
例えば、CAN通信はマイコン間では非同期のタイミング要素があり、データ送受信タイミングに、ばらつきが 発生する。
また、アナログ回路では素子特性のばらつきにより、データ受信タイミングにばらつきが発生する。
以上のようなタイミングばらつきは、実ECUにおいて発生する。
一方で、仮想ECUシミュレータにおいては、非同期やアナログ回路も値を一意的に決めれば、シミュレータ 上の挙動としてはタイミングばらつきは発生せず、入力条件が同一であれば同一の挙動結果を得られる。
しかし、実機との時間精度という観点では、非同期部位やアナログ回路の特性はある想定した値を用いる ので、タイミングを実ECUと完全に一致させることは保証困難である。
(2)非同期やアナログ回路によるタイミングばらつき
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4.4 時間精度の分類定義(ATAL)
仮想ECUシミュレータの導入においては、その時間精度について、開発工数・費用および納 期や、実行速度とのトレードオフを考慮する必要がある。
要件分析の節でも記述したが、要求される時間精度は、ユースケースによっていくつかに分 類される。
しかし、時間精度の分類について、共通的な定義が従来なかったため、ユーザとツールベン ダとの間で認識合わせが困難という課題があった。
本節では、時間精度の分類を定義する。この検討においては、自動車制御分野向けのユー
スケースを念頭に定義付けを行った。
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4.4 時間精度の分類定義(ATAL)
シミュレーション時間精度の定義
ATAL
Automotive Timing Accuracy Level
シミュレータの実行時間の精度を分類するためのレベル。
車載制御システムのシミュレーション用途の視点で分類されている。
以下の3レベルが定義される。
備考:上記定義はvECU-MBD WG合議結果による。本WGで審議の結果、この表に示す用語を使用することにした。
主な用途 備考:トレードオフ
レベル 定義および説明 ソフト
機能検証
ソフト 性能評価
ATAL-3
誤差5%以内。バス調停やパイプライン制御をモデ ル化することでプロセッサクロックサイクル数をあ る程度厳密に模擬。
○ ○
ATAL-2
誤差15%以内。各命令毎、アクセス先毎、平均実行 サイクル数設定等によりプロセッサクロックサイク ル数をラフに推定して模擬。
○ ○
ATAL-1
誤差最大値保証せず。全命令一律に1プロセッサ クロックサイクル等で模擬。時間指定されたタイマ 割込みやイベント発生のタイミングは保証するが、
プロセッサ命令実行時間精度は保証しない。
○
×
時間 精度
開発工数
開発費用 実行時間
高
低
大
小
長
短
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4.4 時間精度の分類定義(ATAL)
【補足】
TLM(SystemC TLM-2.0)で規定されるシミュレーション時間精度の分類定義との関連を以下に示す。
レベル 定義および説明
ATAL-3
誤差5%以内。バス調停やパイプライン制御をモデル化することでプロセッサク ロックサイクル数をある程度厳密に模 擬。
ATAL-2
誤差15%以内。各命令毎、アクセス先毎、平均実行サイクル数設定等によりプ ロセッサクロックサイクル数をラフに推 定して模擬。
ATAL-1
誤差最大値保証せず。全命令一律に1プロセッサクロックサイクル等で模擬。
時間指定されたタイマ割込みやイベント 発生のタイミングは保証するが、プロセ ッサ命令実行時間精度は保証しない。
車載制御用途での時間精度の分類定義
レベル 定義および説明
AT Approximately-timed
別名、cycle-accurate
マイコン内部アーキテクチャの性能調査 に十分な精度
LT Loosely-timed
O/S起動とマルチコアシステム実行の
ための十分なタイミング精度各トランザクションは開始と終了の2つ のタイミング・ポイントを持つ
TLM(SystemC TLM-2.0)で規定される シミュレーション時間精度の分類定義
・ATとATAL-3とは、同等の精度
・LTは、ATAL-2とATAL-1との間の精度
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4.5 時間精度の評価方法
◆基本的考え方
時間精度の評価方法の基本的考え方を以下に示す。
• プロセッサ命令実行の時間精度を評価
• 標準テストベンチ(何本か流す)の範囲で評価
• 標準テストベンチで実行した場合、誤差何%と言う評価
• 評価のリファレンスは実機による測定(マイコンのタイマー活用)
(リファレンスの別案として設計データRTLのシミュレーションも考えられるが、
シミュレーション時間が大きく現実的ではない)
◆標準推奨テストベンチ
以下のテストベンチを標準推奨する。
EEMBC-Automotive
同テストベンチは、自動車などのアプリケーション分野におけるマイコンの性能 評価に用いられているベンチマークテストプログラムである。.
http://www.eembc.org/benchmark/automotive_sl.php
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4.5 時間精度の評価方法
【参考】 標準推奨テストベンチ選定の理由
(1)方式案として、以下の2案を考慮した。
案1: 従来のテストベンチのいずれかを選定する
⇒選定候補: EEMBC-Automotive
(現状、最も一般的なテストベンチである)案2: 本WGで、ユースケースのモデルから新たなテストベンチを開発する
たとえば、実証実験で活用の「パワーウインドウシステムモデル」から抜粋する
同モデルをターゲットマイコン用に作成し、少なくとも以下の3種の負荷率を評価する
①基盤ソフト部(含む入出力ドライバ)、②アプリソフト部(浮動小数点)、③アプリソフト部(固定小数点)
(2)両案の比較を以下に示す。総合評価の結果、案1: EEMBC-Automotiveを標準推奨とした。
方式 案1:従来のテストベンチ
EEMBC-Automotive
案2:ユースケースのモデルから新たなテストベン チを開発
仮想マイコンでの測定容 易性
○ ○
実マイコン(ターゲットボ ード)での測定容易性
○
×
(プラントモデルと連動させるのは困難)
標準化 ○
(国際標準的なテストベンチといえる)
×
(国際標準的なテストベンチ用モデルは知られて いない)
ユースケースとの親和 性
△
性能評価のためのベンチマークであり、
実際のアプリソフトではない
○
ユースケースのモデルから生成されるので、実際 のアプリソフトには近いと考えられる
総合評価 ○ ⇒標準推奨 △
(3)ただし、標準推奨テストベンチ(EEMBC-Automotive)でも以下の課題は残る。
a. I/O系の時間精度は評価されない、b DMAやマルチコアなどによるバス競合負荷は評価されない
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