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プロジェクトマネジメントに関する知識移転

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 36-39)

3. 先行研究の検討

3.3 プロジェクトマネジメントに関する知識移転

本研究では、リスク知識を対象とした知識移転に取り組むが、知識移転の考え方は他の 知識を対象とした知識移転が参考となる。そこで、一般的な知識移転に対する先行研究に ついて整理する。

3.3.1 知識移転の必要性

プロジェクト活動は「状況認識→意思決定→行為」の連続であり、意思決定の際には不 確実性の高い状況下で適切な選択を行う必要がある。このような状況下において意思決定 を行うリーダーに必要な要件として、賢慮(フロネシス)と呼ばれる「倫理の思慮分別を

がある。一般論として、顧客が受容していない開発方針でプロジェクトを推進することはリスクが高いこ とを認識しているものの、”自分に限っては大丈夫”という評価を行ってしまう場合がある。この背景とし て、パッケージの開発方針で進めなければ失注してしまうという背景やなどから、受注するためにはどう いうストーリーが成り立たなければならないと考え、自分に都合の悪い情報を無意識のうちに無視してし まうというロジックである。

33 厳密にいうと、知識を作り出すプロジェクトの関係者がこの時点で組織にとって有益な知識を所有して いない可能性もある。

潜在的な知識の所有者であると言える。当事者は、事実情報をもとに本人なりの文脈理解により意味解釈 を行い知識を創出している。しかしながら、本来の失敗原因を認知バイアスにより誤認識している可能性 もあり、その場合知識移転をしたとしても組織にとって有益な知識になり得ない。

もって、その都度の文脈で最適な判断・行為ができる実践的知恵(高質の暗黙知)」を兼 ね備えていることが重要と言われている[野中 05][野中 07]。

フロネシスを伴ったリーダシップを実践するには、プロジェクトマネジメントの知識体系

であるPMBOKのような知識体系だけでなく、実践の成功/失敗の経験を通じて得られた知

見から学び、活かすことが重要となる[Lenard 05]。

人間工学ではヒューマンエラーを「達成しようとした目標から、意図せずに逸脱するこ ととなった、期待に反した人間の行動」とある[行待 04]。ヒューマンエラーを引き起こす 要因がヒューマンファクタであるが、意思決定のミスはヒューマンファクタに大きく関連 する。

畑村は過去の失敗から学ぶことの重要性を述べており「失敗学」という概念を提唱して

いる34[畑村 00]。中尾は過去の失敗から類似性に気付くことができれば失敗は予測できると

している[中尾 05]。失敗学や人間工学の定義を踏まえると、プロジェクトマネジメントに おける失敗は「プロジェクトにおいて設定した目的を達成できなかったこと」と定義する ことができる。失敗学の概念に基づくと、失敗プロジェクトを分析した上で、任意の状況・

文脈において実施すべき施策の指針や組織プロセスの問題点を洗い出し失敗知識として蓄 積しておくことで、将来のマネジメントミスを防ぐための有益な情報源に成り得ると考え られる。

3.3.2 プロジェクトマネジメントに関する知識

プロジェクトマネジメントに関する知識はPMBOKのようなプロジェクトマネジメント 業務の知識体系だけでなく、様々な種類の知識がある。例えば、PMBOKではプロジェクト 終了後に作成するプロジェクト完了報告書の中で「問題と対策」「良かった点」「反省点」

を纏めることを推奨している[PMI 13]。また、Royerはプロジェクト完了時に残すべきリス クに関するリスク項目として「顧客関連リスク」「契約リスク」「要求事項のリスク」「プ ロジェクトチームの業務経験リスク」「プロジェクトマネジメントのリスク」「作業見積 りのリスク」「プロジェクトの制約条件によるリスク」「成果物の複雑性や規模によるリ スク」「請負業者のリスク」を挙げている[Royer 01]。

青島・延岡は、プロジェクトの推進に必要な知識として「プロジェクト知識」という概 念を提唱している[青島・延岡97] 。プロジェクト知識は「システム知識」「過程知識」と

「製品・技術」「組織」の掛け算の4象限に分類でき、それぞれの象限における知識継承 の難しさを示した[青島 98]。この中で、自動車産業での実証研究の結果からプロジェクト 知識の継承のためにプロジェクト間の人的移転と複数のプロジェクトのオーバーラップが 有効であることを示している。

プロジェクトに関する知識のパターン化に関する研究も存在する。Coplienは、ソフトウ ェア開発プロジェクトを成功に導くためのノウハウをパターンとして整理し体系化してい る[Coplien 98]。パターンは、プロセスに関するものと組織に関するものの計42パターンに 分類され、「問題」「コンテキスト」「影響する事柄」「解決策」「結果として生じるコ ンテキスト」「論理的根拠」の情報項目で整理されている。また、井庭はプロジェクトの 推進パターンを「背景」「問題」「解決」「サポート」「関連図」の情報項目で整理した 47件からなるパターンマップを構築した[古市 07][湯村 08]。パターンマップでは、メイン パターン(汎用性の高い基本パターン)とメンタルパターン(思考的側面からプロジェク トを推進するパターン)、メソッドパターン(手法的側面からプロジェクトを推進するパ

34 失敗学では、失敗の種類として「1.織り込み済み(ある程度の損害やデメリットは承知済み)の失敗」

「2.果敢なトライアルの結果しての失敗」「3.回避可能なヒューマンエラーによる失敗」に分類している。

1,2は「許される失敗」であり、3は「許されない失敗」である。プロジェクトの成功率を高めるという観 点では、3を防ぐことが重要となる。

ターン)に分類されており、計画時や実践時などプロジェクト状況ごとに分類している。

Coplienや井庭のパターン集はパターン・ランゲージの概念を用いている[Alexander77]。

Risingは、プロジェクトの振り返り分析で抽出した知見をパターンとして形式知化し、共

有することが組織能力の向上に有効であるとして、パターンのテンプレートに振り返り分 析で得られた「過去の事例」を取り入れている[Rising 03]。

岡田・西川は、企業で取り組んでいるプロジェクトマネジメント業務の仕組みから得ら れた知見をプロジェクトマネジメント業務ナレッジとして抽出し、事業部門横断的に蓄 積・共有する活動を行っている[岡田 08][西川 10]。Kerznerは、企業におけるプロジェク トマネジメント業務に関するベストプラクティスを纏めている[Kerzner 14]。

また、プロジェクトマネジメントに限っていないが、畑村は失敗の原因、行動、結果を 分類して体系化した「失敗まんだら」と、それに基づいて失敗に至る脈絡を記述する「シ ナリオ」という表現法を開発し、機械、材料、化学物質・プラント、建設の4分野で約1,000 件のデータを搭載した。また、「失敗百選」として失敗事例の中から国内外の典型的な事 例を100例程度取り上げ読みやすく記述している35。なお、失敗は「事象」「経過」「原因」

「対処」「総括」「知識化」の6項目で整理しされている36[畑村 96]。

3.3.3 知識移転の手法

知識移転の手法は大きく「事例の共有」「振り返り」「現場での活用支援」に分けられ る。

3.3.3.1 プロジェクトの振り返り

主に、プロジェクト完了後に、プロジェクトを通して得られた知見を整理するために行 うものである。ポストプロジェクトレビュー(PPR)とも呼ばれ、プロジェクトを評価し たうえでプロジェクトとして学ぶべき内容を整理し、知見を残す取り組みである37

Collierは、ソフトウェア開発プロジェクトにおいて5段階からなるPPR手法とともに、

PPRによって分析した結果の活用法を提案している[Collier 96]。PPRについては、Lillyは 企業へのインタビュー結果をもとに有効なレビュープロセスやレビューのタイミングにつ いて言及している[Lilly 03]。また、PPRに関する7手法の比較結果から、Shindlerは組織の プロセスの中にPPRを埋め込むことやファシリテータの存在が、PPRを用いた組織学習の 成功に寄与していることを示唆している[Schindler 03]。なお、PPRやPPRの活用を組織的 に行っている取り組みも報告されている[Lawrence 05]。

3.3.3.2 事例の共有

3.3.2のような事例やパターンを組織的に共有するものである38。プロジェクト開始前や

推進時にプロジェクト特性やプロジェクト状況などをもとに今後起こりうるリスク識別・

対策のための調査や、推進中の問題発生時に解決策を策定する際などに用いることができ

35 失敗知識データベースは、独立行政法人科学技術振興機構(JST)が運営する事業として行っていたが、

平成233月末でサービスは終了している。なお、サービス終了後も、失敗百選は畑村創造工学研究所の ホームページ(http://www.sozogaku.com/fkd/lis/hyaku_lis.html)にて公開している。

36 JSTが運用していた失敗知識データベースでは、29項目からなる情報で失敗事例を整理していた。

37 組織によってプロジェクトの振り返り目的が異なる。プロジェクトの成功/失敗原因を分析し組織として 共有すべきリスクに関する知識の獲得を目的にするなど焦点を絞って行う場合や、幅広く見る場合などが ある。これは、蓄積した知識をどのように活用するのかという観点によって異なる。

38 組織的にプロジェクトの振り返りを行う場合、その活動自体が事例共有の場であるが、振り返りの場に 参加していない場合は知識移転を行えない。特に、進行中のプロジェクトにおけるプロジェクトマネジャ ーはなかなか振り返りの場に参加できない。その意味で、事例の共有は重要である。

39。中尾は、失敗知識データベースを利用した対策立案手法について考察している[中尾 05]。

事例の共有方法については、ケースメソッドやストーリーテリングなどの方法もある。

ケースメソッドは、プロジェクトで起きた出来事や状況、および人間の行動を記述したケ ースを用い、疑似体験を通して判断力や問題解決力を身につけるための方法論である[小樽

商大04]。また、ストーリーテリングは、伝えたい思いやコンセプトを想起させる印象的な

体験談やエピソードなどの「物語」を通して読み手に印象付ける方法である。また、Kleiner が「ラーニングヒストリー」と呼ぶストーリーテリングに基づく組織的学習法を提案して いる[Kleiner 97]。

3.3.3.3 現場での活用支援

Leonard and Swapは経験的知識(deep smart)継承するためにはコーチングと指導のも

とで実際に経験するプロセスが重要であると指摘している[Leonard 05]。Leonard and Swapは起業に関する知識を対象として、「具体的な指導」「コーチのノウハウのチェック リスト化」「ストーリーテリングによる体験談」「ソクラテスメソッド(質問に対する対 話の中での教育)」「実践を通じた学習(指導のもとでの経験)」からなるコーチング手 法を提案している。

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