Hawkingはブラックホールの近くの電磁場に量子力学を適用し,ブラックホールはエネルギーを連続的に
放射していることを示した.これに対する初等的な もっともらしい議論 を与えよう.場の量子論によれ ば,真空では光子対(エネルギー±E)が対生成し,エネルギー保存則を破る.しかしこれは∆t=ℏ/(2∆E) 以下の短い時間の後に対消滅するため,エネルギー保存則は大きなスケールでは厳密に成り立っている.さ て,一方がE(≥0),他方が−Eのエネルギーを持つ光子対が地平面のすぐ外側で作られると,負エネルギー 光子は時間ℏ/(2E)が経つ前に地平面の中に入る可能性がある.このとき負エネルギー光子はいったん地平面 の中に入ると自由に伝播することができ,正エネルギー光子は無限遠に逃げられる.これがブラックホールか らの輻射を成す.
• 負エネルギー光子が地平面内を自由に伝播できること 簡単のためにSchwarzschildメトリックを考える.
地平面内を光子が伝播できるためには,地平面内r <2M の観測者 U⃗ = (0, Ur,0,0)
(
U⃗ ·U⃗ =−1 ⇒ Ur=− (2M
r −1 )1/2)
が観測する光子のエネルギー
−⃗p·U⃗ =− (2M
r −1 )−1/2
pr が正,したがってpr<0でなければならない.
ところが動径方向に運動するゼロ角運動量L= 0の光子に対してE=±prなので(式(11.12)参照), この条件pr<0はE〔Schwarzschild座標におけるエネルギー−p0〕の符号に制約を与えない.
よってE <0の光子は地平面内を自由に伝播できる.
• ブラックホールの放射する光子のエネルギー
はじめ地表面付近r= 2M;ε(ε >0)に瞬間的に静止していた観測者 U⃗ = (U0,0,0,0),
(
U⃗ ·U⃗ =−g00U02=−1 ⇒ −U0= (
− 1 g00
)1/2
= (
1−2M r
)1/2
≃( ε 2M
)1/2)
が地平面に落下する固有時間は∆τ≃2(2M ε)1/2なので,この系に対する光子のエネルギーは E = ℏ
∆τ = ℏ
2(2M ε)−1/2 である.
これを−⃗p·U⃗ =−g00p0U0と等置すると,光子の軌道上の保存エネルギー,
したがって無限遠にとどいたときに測定されるエネルギー〔Schwarzschild座標におけるエネルギー〕は E≡ −p0= h
8πM となる.
これはブラックホールを温度
T = h
8πkM (k: Boltzmann定数) の黒体としたときの黒体放射に特徴的なスペクトルとよく合っている.
• Penrose過程との違い Hawking過程は
– エルゴ領域を持たないブラックホールでも起こる – 不安定的な暴走を起こさない
という点でPenrose過程と異なる.
• ブラックホールの輻射率は,
地平面の表面積 A= 16πM2 (式(11.85)でa= 0とおく), ブラックホールの温度 T = h
8πkM に対してAT4に比例するので,これはM−2に比例する.
よって dMdt ∼M−2であり,ここからブラックホールの寿命はτ ∼M3となる.
これが宇宙の年齢1010に収まるには,ブラックホールの質量はM ≲1012kgでなければならない.
これは太陽質量(∼1030kg)に比べて小さいけれど,
宇宙のごく初期には1012kgのブラックホールができる可能性がある.
1012kgのブラックホールの温度は1011Kで〔T = 8πkMh 〕主にγ線を放出する.
しかし観測されるγ線バーストは,ブラックホールの蒸発によるものと考えるには明るすぎる.
• Hawkingの議論は光子の伝播が時空を変化させないことを仮定しており,
典型的な光子のエネルギーEに対してE≪M が満たされるときにのみ正しい.
• 重力と熱力学の統一
Schwarzschildブラックホールに対して
質量M はそのエネルギーE,TH =ℏ/(8πkM)はその温度なので,
A= 16πM2, ∴dM = ℏ 8πkMd
(kA 4ℏ
)
はS=kA/4ℏをエントロピーSとする解釈の下で,熱力学第一法則 dE=THdS
を表す.
このときHawkingの面積定理 dAdt ≥0は熱力学第二法則dSdt ≥0と見なせる.
• ブラックホールからの輻射は,地平面の形成の際に,
古典的な描像では消し去られた情報を運ぶことができるかもしれない.
11.5 について
■系の落下時間(11.100),(11.101)について 式(11.59):dτ= ˜ dr
E2−1+2Mr に一定値E˜2= 1−2M2M+εを代入す ると,式(11.100):
∆τ =−
∫ 2M 2M+ε
( dr
2M
r −2M2M+ε)1/2
を得る.この積分は
∆τ =
(2M +ε 2M
)1/2∫ 2M+ε 2M
r1/2dr (2M +ε−r)1/2
=2
(2M+ε 2M
)1/2∫ √ε 0
(2M+ε−X2)1/2dX (X≡(2M+ε−r)1/2)
=2{1 +O(ε)}{(2M ε)1/2+O(ε3/2)}
=2(2M ε)1/2+O(ε3/2) : (11.101) と評価できる.
■「揺らぎの時間ℏ/E」(p.428,l.2)について ℏ/2
E となっていない.因子1/2の違いは結論(11.104)の数係 数に影響する.
■Eの式(11.104)について E=E ·−1U0 ·−g100 において E = ℏ
2
√ 1
2M ε, 1
−U0 =
√2M
ε , 1
−g00 = 1− 2M
2M+ε ≃ ε 2M である.
■「ブラックホールからの輻射率は,AT4に比例する」(p.429,l.15〜16)について T4の温度依存性は,黒 体放射に関するStefan-Boltzmannの法則による.
■蒸発の最後の瞬間に放出されるエネルギー(11.110) について τ0 = 1010yr, M0 = 1012kg とすると式 (11.108)の比例係数は
τ=τ0
M3 M03 と定まるので(式(11.109)),
M = ( τ
τ0/M03 )1/3
=
( (3×107)−1yr 1010yr/103×12kg3
)1/3
∼106kg を得る.これにc2= (3×108m/2)2をかけてエネルギーに換算すれば1023J程度となる.
■「ℏ/(8πkM)はその温度だから」(p.431,l.7)について これは式(11.105):T =h/(8πkM)のhをℏに置 き換えたものである.
p.453 下から 9 行目
𝑟 𝜙
𝑣
2− 𝑥
2+ 𝑦
2+ 𝑧
2= 𝑅
2(𝑡
0)
𝑥, 𝑦, 𝑧 𝑤
パーセク