順次説明されていくのであった.そこでまず,『原理』初版における第
1 と第 2
の原因についての議論から,検討していくことにしたい65).3. 1
地代増大の第1 と第 2 の原因
この箇所でのマルサスの議論の内容であるが,それはリカードウの『原理』
第
32 章でのマルサス批判と関連しているように思われる.リカードウはその章
で,マルサスの地代増大の第
2
の原因についての考えを批判して,次のように 言っていた.「マルサス氏は,地代上昇の諸原因のうちに,『労働の賃金を引き下げるであろうよ うな人口の増加』をあげている.しかし,もしも労働の賃金が低下するにつれて資本の 利潤が上昇し,そして両者を合計したものが常に同一の価値を持つならば,賃金のい かなる低下も地代を引き上げることはできない,というのは,それは,生産物のうち農 業者および労働者の両者を合計したものに割り当てられるべき部分をも,またその部分 の価値をも,減少させないであろうし,またそれゆえに,地主に対してより大きな部分 をも,またより大きな価値をも,残さないだろうからである.」(Ⅰ, p.411)
リカードウが『原理』第
2
章「地代について」で述べていたように,「穀物 の価値は,なんらの地代も支払わない質の土地において,またはなんらの地代 も支払わない資本部分を用いて,その生産に投下される労働量によって左右さ64)なお初版と第2 版とでは,第1,第2 および第4 原因の文言が変更される.特に第1 および第4
原因についての文言の変更は大きい.
65)第3 節の第2−5 パラグラフにあたるが,これらのパラグラフは初版で新たに追加されたものである.
れるのである」(Ⅰ, p.74)から,賃金が低下しても,投下労働量が不変ならば穀 物の価値も不変であり,その結果として利潤が上昇することになる.すなわち,
先の引用文でリカードウは,投下労働価値論に基づく賃金利潤相反関係論の立 場から,マルサスの主張を批判していたのである66).
それでは,このようなリカードウの批判に対して,マルサスは『原理』初版 第
3
章第3
節でどのような議論を展開するのであろうか.マルサスはまず,地 代増大の第1 と第 2 の原因について次のように説明する.
「もし資本が増大して,それがある利潤率をもって普通用いられていた部門において 過剰になるならば,それは遊休資本としてとどまらないで,収益はより劣るにしても,
同じかまたは他の産業部門に用途を求めるであろうし,しかもこのことは,資本をより 肥沃度の劣った土壌に向かわせる傾向を持つであろう.
同じようにして,もし人口がそれに対する需要よりもよりすみやかに増大するなら ば,労働者はより少ない量の必需品で満足しなければならない.そして現物での労働の 費用はこうして減少するので,以前には耕作できなかった土地が耕作されるようになる であろう.」(Principles, p.161)
資本の増大は資本の過剰をもたらすことになるが,過剰になった資本は,遊 休するより,これまでよりも利潤率の低い部門に投下されることになるから,
劣等地の耕作が可能になる.また人口の増大は,実質賃金を低下させ,劣等地 の耕作を可能にする.そして,このような劣等地耕作の進展は,既耕地での地 代を増大させることになる,というのである67).
マルサスは,このように
2 つの原因を簡単に説明した後,この 2 つの原因は
相互に相殺することがあるが,それは一時的にすぎず,資本と人口の増大の過 程で,利潤と賃金が一緒に永続的に下落するとして,第4
パラグラフで次のよ66)同じような主張は,『評注』の評注72 でも述べられている.Cf.Ⅱ, pp.132-33.
67)ここでの説明は,『原理』初版と第2 版とでは,いくらかの語句の変更はあるが,ほとんど同じ内
容である.
うに言う.
「資本蓄積と人口の増大に向かっての,自然で規則的な(natural and regular)発展 において,利潤率と労働の実質賃金は一緒に永続的に下落する.これは労働の貨幣賃金 の上昇,しかし比例的上昇ではない,をともなう,穀物の貨幣価格の永続的な上昇によ って,もたらされるであろう.穀物の貨幣価格の上昇は,耕作者にとって,同じ資本量 によって得られる生産物量の減少によって相殺される.そして彼の利潤は,すべての他 の資本家のそれと同様に,同じ貨幣収入からより高い貨幣賃金を支払わなければならな いことによって,減少する.一方,生活必需品に対する労働者の支配は,穀物価格に比 して労働の価格の不十分な上昇によって,もちろん減少する.」(Principles, p.162)
すなわち,資本と人口が増加し,穀物の貨幣価格が上昇していくと,利潤率 と実質賃金の両者が下落していくというのである.利潤率の場合には,穀物価 格が上昇しても「同じ資本量によって得られる生産物量」が減少するので,収 入額は「同じ貨幣収入」であるのに対し,「より高い貨幣賃金を支払わなければ ならない」ので,差額としての利潤は減少し,利潤率は低下することになる.
一方賃金については,穀物価格の上昇率は貨幣賃金の上昇率よりも大きいので,
「生活必需品に対する労働者の支配」,すなわち穀物賃金は低下することになる というのである.したがってここでは,利潤減少については価格タームで考え るが,賃金の低下については穀物タームで考えられていることになる68).
それに対して,次の第
5 パラグラフでは,
「しかし,穀物と労働の貨幣価格に おけるこの正確な,そして規則的な上昇は,利潤の下落にとって必要ではない」(Principles, p.162)として,賃金と利潤との同時的な下落を,穀物タームで説明 する.まず,なぜ穀物価格の上昇の結果として説明した賃金と利潤の同時的下
68)穀物タームで考えた場合に賃金は減少するかもしれないが,価格タームで考えると,マルサス自 身も「労働の価格の不十分な上昇」と述べているように,賃金は上昇している.したがって,価格 タームのみで賃金と利潤の変動を考えると,賃金が上昇するのに対し利潤率は低下することになり,
まさにリカードウが想定している場合と同じになる.
落を,穀物価格の上昇抜きに説明するかであるが,その点について,マルサス は上の引用文のあとに次のように言っている.
「実際それは,一国が受けるあらゆる変化の下で,貨幣が同じ価値を維持するとき にのみ,ここで述べたような規則的なやり方で起きるのみである,そしてそれは,リカ ードウ氏の想定によると,決して起こらないと言ってもよいような場合である.69)」
(Principles, p.163)
すなわち,貨幣の価値は常に変動しているために,貨幣賃金の上昇と言って も,その間に貨幣の価値が変動した場合には,それは単に名目的なものであり,
先にマルサスが想定したような賃金と利潤の下落を伴わないことになる.そこ で,穀物価格の上昇を前提しないで,議論を展開する必要があるというのであ る70).そして,上の引用文に続けて,同じパラグラフでマルサスは次のように 言う.
「貨幣価値のどのような変化の下においても,利潤は疑いもなく下落し,そして地 代は分離されるであろう.最も規則的な,そして永続的な利潤の下落にとって必要な もののすべては(そしてこれについて,リカードウ氏は私に同意するであろう),資本 の一定量によって獲得された全生産物の価値のより大きな割合が,労働によって吸収 されねばならないということだけである.土地では,これは,労働によって吸収される 部分の比例的な減少をともなわない,同じ資本によって獲得される生産物の減少によっ てもたらされる,そしてそれは,労働者の実質賃金の減少と同時に,より少ない利潤 をもたらす.しかし,もし,土地に用いられた資本によって得られた生活必需品のより 小さな量が,資本家と労働者の両者に供給するのに十分だとすると,耕作の費用は減 少し,よりやせた土地が賃金と利潤の新しい率で耕作され,そして地代は以前から耕
69)この引用文の全部は,第2 版で削除されている.
70)しかし,貨幣の価値を一定として議論を進めればよいだけであるから,ここでのマルサスの理由 は,あまり説得力がないように思われる.問題なのは,なぜこのような無理な理由を挙げてまで,
マルサスは穀物タームによる議論を展開しようとしたかである.
作されていた土地で上昇するであろうことは,明らかである.」(Principles, pp.162-63)
マルサスは,先の第
4
パラグラフと違って,もっぱら穀物タームで議論を展 開している.ここでの議論によると,同じ資本によって生産される穀物量が減 少し,それに対し穀物賃金も減少するが,その減少の割合は生産量より少なく,その結果,利潤は減少する.そして穀物タームではかった賃金と利潤の両者が 減少しているから,耕作費用は減少していることになり,したがって,以前の 賃金と利潤とのもとでは耕作されなかったような劣等地の耕作が可能になり,
これまで耕作されていた土地では地代が発生することになる,というのである.
したがってマルサスは,まず穀物価格が上昇した場合に賃金と利潤が低下す ることを説明し,次に,穀物価格が一定と想定した場合にも利潤と賃金が低下 することを説明するという,いわば
2
重に説明しているのである.なぜマルサ スがこのような説明方法をとったかが,当然疑問になってくるであろう.先に述べたように,ここでの議論の目的は,リカードウの批判に対して反批 判することであった.そしてマルサスは,この第
5
パラグラフに付けられた脚 注では,リカードウを直接批判しているのである.そこで,今の疑問に対する 解決の糸口を探すために,次にその脚注を検討することにしたい.その脚注でマルサスは,先に引用したリカードウの「賃金のいかなる低下も 地代を引き上げることはできない……減少させないであろうし」(Ⅰ, p.411)と いう文章を引用した後,次のように言っている.
「しかし私は尋ねるであろう,アメリカ人の高い実質賃金はどこへ行ったのか? 利 潤へか? それとも地代へか? もし労働者が永続的に,1 日