第 4 章 WBAN チャネルモデル構築
4.2 パスロスモデル
測定結果より S21 のデータを用いて距離と周波数に対するアンテナ間のパスの入出力関係 を表現したグラフを示す。横軸に距離[log10([mm])]または周波数[log10([MHz])]、縦軸に S21[dB]を示す。距離に対して表現したグラフを距離特性、周波数に対して表現したものを周 波数特性と呼ぶ。また距離と周波数の両方とS21を用いて表現する距離-周波数特性を示し、3 つのパスロスモデルを構築し評価する。
S21とは測定したアンテナ間の出力と入力を比で表現した値[dB]であり、パスロスを表すパ ラメータと見ることができる。
4.2.1 パスロスモデル式
距離や周波数の増減によるパスロスの変化を示すモデルをパスロスモデル[25]と呼び、その 式を下記に示す。各項目におけるパスロスモデルをグラフ上に示した。
d:送信アンテナと受信アンテナの距離を示す。
f:各周波数帯域の中心周波数を示す a,b:傾斜係数
c:切片係数
チャネルモデル構築では、周波数を固定して距離の増減によるパスロスの変化を表現する距 離特性と距離を固定して周波数の増減によるパスロスの変化を表現する周波数特性を 1 次方 程式でモデル化する。さらに距離と周波数の両方の変数を用いてパスロスの変化を表現した 距離-周波数特性を近似平面でモデル化し、構築した3つのモデルを評価する。
4.2.2 電波暗室における距離特性
距離特性を求める際、周波数を固定したため、式4-1は次のように簡略化できる。
図4.1から図4.4に電波暗室における周波数毎の距離特性を示す。丸で示した実測値と実測 値から求めた近似直線をグラフに示す。
𝑃𝐿 𝑑, 𝑓 [𝑑𝐵] = 𝑎 × 𝑙𝑜𝑔10 𝑑 + 𝑏 × 𝑙𝑜𝑔10 𝑓 + 𝑐 (式4-1)
𝑃𝐿 𝑑 [𝑑𝐵] = 𝑎 × 𝑙𝑜𝑔10 𝑑 + 𝑐 (式4-2)
27
実測値のプロットの丸1個は各測定位置における平均値である。各測定位置で10回測定を 行っており、測定値を距離で表現していることから、各距離で10個のプロットが一つの集合 となっている。また距離特性では測定位置が10箇所あるので10つの集合がグラフに示され ている。
近似直線は実測値より最小二乗法を用いて計算機シミュレーションによって算出し、グラフ 上にプロットした。
最小二乗法の一次方程式への適用について説明する。
実測値を下記のように示す。
d:距離[mm]
s:S21[dB]
ここで式4-2に適用することを考える。
及び は次の式で求めることができる。
𝑑, 𝑠 = 𝑑1, 𝑠1 , 𝑑2, 𝑠2 , ⋯ , 𝑑𝑛, 𝑠𝑛
𝑃𝐿 𝑑 [𝑑𝐵] = 𝑎 × 𝑙𝑜𝑔10 𝑑 + 𝑐
𝑎 𝑐
𝑎 =𝑛 𝑛𝑘=1𝑑𝑘𝑠𝑘− 𝑛𝑘=1𝑑𝑘 𝑛𝑘=1𝑠𝑘 𝑛 𝑛𝑘=1𝑠𝑘2− 𝑛𝑘=1𝑠𝑘 2
𝑐 = 𝑛𝑘=1𝑑𝑘2 𝑛𝑘=1𝑠𝑘− 𝑛𝑘=1𝑑𝑘𝑠𝑘 𝑛𝑘=1𝑑𝑘 𝑛 𝑛𝑘=1𝑠𝑘2− 𝑛𝑘=1𝑠𝑘 2
(式4-3)
(式4-4)
(式4-5)
28
2 2.2 2.4 2.6 2.8 3
-80 -60 -40 -20 0
2 2.2 2.4 2.6 2.8 3
-80 -60 -40 -20 0
図4.1 400MHz帯の距離特性(電波暗室)
図4.2 600MHz帯の距離特性(電波暗室)
距離 [log10(距離[mm])]
距離 [log10(距離[mm])]
S21[dB] S21[dB]
PL(d)[dB]=-33.69×log10(d)+52.14
PL(d)[dB]=-46.91×log10(d)+81.92 ○: 実測値
―: 近似直線
○: 実測値
―: 近似直線
29
2 2.2 2.4 2.6 2.8 3
-80 -60 -40 -20 0
2 2.2 2.4 2.6 2.8 3
-80 -60 -40 -20 0
図4.3 900MHz帯の距離特性(電波暗室)
図4.4 2400MHz帯の距離特性(電波暗室)
距離 [log10(距離[mm])]
距離 [log10(距離[mm])]
S21[dB] S21[dB]
アンテナ位置G の測定データ
※アンテナ位置Gの 測定データは解析 から除いた。
PL(d)[dB]=-57.28×log10(d)+100.43
PL(d)[dB]=-47.26×log10(d)+66.48 ○: 実測値
―: 近似直線
○: 実測値
―: 近似直線
30
4.2.3 電波暗室における距離特性の考察
電波暗室における測定では、全ての周波数帯において距離に対してパスロスが増大する特性 を確認した。一般的な伝搬特性と同じ傾向を示した。また求めた近似直線に対して実測値が密 集しており、変動が非常に小さいことを確認した。
900MHz 帯アンテナ位置 G の測定データについて、この位置における他の周波数帯の測定
結果と比較して規則性が大きく異なった。この状況は解析を行ったことにより確認した。測定 実施中にはその値の正確性を確認できないため、測定をやり直すことなどの対応はできなかっ た。アンテナ位置 G の値が近似直線よりも大きく異なった原因として、アンテナを移動した 際にケーブルとアンテナのコネクタ部の接続が適切に行われていなかったことが考えられる。
ケーブルが高周波対応の低損失ケーブルであり、ねじれや曲げに強く自由度の低いものであり、
測定毎に専用のトルクレンチで締めていたが緩んだ可能性があったと推測する。
4.2.4 模擬病室における距離特性
図4.5から図4.8に模擬病室における周波数毎の距離特性を示す。丸で示した実測値と実測 値から求めた近似直線をグラフに示す。
グラフの表現方法と最小二乗法による近似直線の算出法は4.2.2で説明した内容と同じであ る。
2 2.2 2.4 2.6 2.8 3
-80 -60 -40 -20 0
図4.5 400MHz帯の距離特性(模擬病室)
距離 [log10(距離[mm])]
S21[dB]
PL(d)[dB]=-21.08×log10(d)+21.32 ○: 実測値
―: 近似直線
31
2 2.2 2.4 2.6 2.8 3
-80 -60 -40 -20 0
2 2.2 2.4 2.6 2.8 3
-80 -60 -40 -20 0
図4.6 600MHz帯の距離特性(模擬病室)
距離 [log10(距離[mm])]
S21[dB]
図4.7 900MHz帯の距離特性(模擬病室)
距離 [log10(距離[mm])]
S21[dB]
PL(d)[dB]=-21.97×log10(d)+14.23
PL(d)[dB]=-24.17×log10(d)+22.38 ○: 実測値
―: 近似直線
○: 実測値
―: 近似直線
32
4.2.5 模擬病室における距離特性の考察
模擬病室における距離特性は電波暗室環境の傾向と同じく、全ての周波数帯域において、距 離の増加に伴い、パスロスが増大する結果を示し、一般的な電波伝搬特性と同じ傾向を確認し た。しかし、電波暗室とは異なり実測値の変動が大きいため、近似直線と実測値との差が大き くなるデータ多く存在した。それにより近似直線の傾きが電波暗室の近似直線の傾きよりも小 さくなっていることを確認した。
2 2.2 2.4 2.6 2.8 3
-80 -60 -40 -20 0
図4.8 2400MHz帯の距離特性(模擬病室)
距離 [log10(距離[mm])]
S21[dB]
PL(d)[dB]=-8.61×log10(d)-22.31 ○: 実測値
―: 近似直線
33
4.2.6 電波暗室における周波数特性
周波数特性を求める際、距離を固定したため、式4-1は次のように簡略化できる。
図4.9から図4.18に電波暗室における測定位置毎の周波数特性を示す。丸で示した実測値と 実測値から求めた近似直線をグラフに示す。
実測値のプロットの丸1個は各周波数帯における平均値である。各周波数帯で10回測定を 行っており、測定値を距離で表現していることから、各周波数で10個のプロットが一つの集 合となっている。また周波数特性では周波数帯が 4帯域あるので4 つの集合がグラフに示さ れている。
近似直線は実測値より最小二乗法を用いて計算機シミュレーションによって算出し、グラフ 上にプロットした。最小二乗法による近似直線の算出法は4.2.2で説明した内容と同じである。
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
周波数 [log10(周波数[MHz])]
S21[dB]
図4.9 アンテナ位置A (AO)の周波数特性(電波暗室)
PL(f)[dB]=-20.04×log10(f)+12.76
𝑃𝐿 𝑓 [𝑑𝐵] = 𝑏 × 𝑙𝑜𝑔10 𝑓 + 𝑐 (式4-6)
○: 実測値
―: 近似直線
34
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
S21[dB] S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.10 アンテナ位置A(AP)の周波数特性(電波暗室)
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.11 アンテナ位置Bの周波数特性(電波暗室)
PL(f)[dB]=-27.45×log10(f)+34.78
PL(f)[dB]=-19.12×log10(f)+12.10
○: 実測値
―: 近似直線
○: 実測値
―: 近似直線
35
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.12 アンテナ位置Cの周波数特性(電波暗室)
S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.13 アンテナ位置Dの周波数特性(電波暗室)
PL(f)[dB]=-33.75×log10(f)+41.66
PL(f)[dB]=-32.46×log10(f)+42.34
○: 実測値
―: 近似直線
○: 実測値
―: 近似直線
36
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.14 アンテナ位置Eの周波数特性(電波暗室)
S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.15 アンテナ位置Fの周波数特性(電波暗室)
PL(f)[dB]=-28.61×log10(f)+25.53
PL(f)[dB]=-23.64×log10(f)+25.48
○: 実測値
―: 近似直線
○: 実測値
―: 近似直線
37
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.16 アンテナ位置Gの周波数特性(電波暗室)
S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.17 アンテナ位置Hの周波数特性(電波暗室)
PL(f)[dB]=-34.13×log10(f)+67.22
PL(f)[dB]=-22.55×log10(f)+38.08
○: 実測値
―: 近似直線
○: 実測値
―: 近似直線 900MHz帯の
測定データ
※900MHz帯の 測定データは 解析から除いた。
38
4.2.7 電波暗室における周波数特性の考察
電波暗室における測定では、周波数の増加に対してパスロスが増大する特性を確認した。一 般的な伝搬特性と同じ傾向を示した。また求めた近似直線に対して実測値が密集しており、周 波数に対して変動が非常に小さいことを確認した。
アンテナ位置Gにおける900MHz帯の測定データは、4.2.3節で説明した理由により解析で 扱わないこととした。
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.18 アンテナ位置Iの周波数特性(電波暗室)
PL(f)[dB]=-19.81×log10(f)+26.86 ○: 実測値
―: 近似直線
39
4.2.8 模擬病室における周波数特性
図4.19から図4.28に模擬病室における測定位置毎の周波数特性示す。丸で示した実測値と 実測値から求めた近似直線をグラフに示す。
グラフの表現方法は4.2.4節で説明した内容と同じであり、また最小二乗法による近似直線 の算出法についても4.2.2節で説明した内容と同じである。
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.19 アンテナ位置A(AO)の周波数特性(模擬病室)
PL(f)[dB]=-7.55×log10(f)-21.75 ○: 実測値
―: 近似直線
40
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.20 アンテナ位置A(AP)の周波数特性(模擬病室)
S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.21 アンテナ位置Bの周波数特性(模擬病室)
PL(f)[dB]=-12.58×log10(f)-5.69
PL(f)[dB]=-0.66×log10(f)-41.68 ○: 実測値
―: 近似直線
○: 実測値
―: 近似直線
41
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.22 アンテナ位置Cの周波数特性(模擬病室)
S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.23 アンテナ位置Dの周波数特性(模擬病室)
PL(f)[dB]=-0.32×log10(f)-44.57
PL(f)[dB]=-22.85×log10(f)+28.38 ○: 実測値
―: 近似直線
○: 実測値
―: 近似直線
42
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.24 アンテナ位置Eの周波数特性(模擬病室)
S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.25 アンテナ位置Fの周波数特性(模擬病室)
PL(f)[dB]=-1.78×log10(f)-38.60
PL(f)[dB]=-14.03×log10(f)-3.44 ○: 実測値
―: 近似直線
○: 実測値
―: 近似直線
43
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.26 アンテナ位置Gの周波数特性(模擬病室)
S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.27 アンテナ位置Hの周波数特性(模擬病室)
PL(f)[dB]=-15.13×log10(f)+8.99
PL(f)[dB]=-14.05×log10(f)+9.73 ○: 実測値
―: 近似直線
○: 実測値
―: 近似直線
44
4.2.9 模擬病室における周波数特性の考察
模擬病室における測定では、電波暗室での測定結果と同様に周波数増加に対してパスロスが 増大する特性を確認した。一般的な伝搬特性と同じ傾向を示した。電波暗室との相違点として 近似直線の傾きが小さい傾向にあった。これは模擬病室における床や天井、壁面からの反射な どの影響により変動が大きくなったため、電波暗室の測定結果ほど周波数の増加に対してパス ロスの増加が顕著ではなかった。
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
-80 -60 -40 -20 0
S21[dB]
周波数 [log10(周波数[MHz])]
図4.28 アンテナ位置Iの周波数特性(模擬病室)
PL(f)[dB]=-30.66×log10(f)+60.11 ○: 実測値
―: 近似直線