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バックグラウンドの時間スペクトラムの導出

ドキュメント内 π + e + ν e (ページ 51-54)

5 T1 カウンターのダブルパルス分解能から生じるバックグラウ ンド

セクション2.3.3でも述べたように、崩壊した陽電子のタイミングはT1カウンターから作ら れる。オールドミューオンから崩壊した陽電子がT1·T2カウンターを通ってカロリメータに計測 された後、π+→µ+→e過程から放出された陽電子がT1カウンターにヒットした場合、この事象 はT1カウンターのパイルアップカット(セクション3.2.3)により取り除かれる(5.1左図)。と ころが、T1カウンターのダブルパルス分解能は有限であるため、2つの粒子が非常に近い時間で T1カウンターにヒットした時(つまりパイルアップ事象、図5.1右図)、この事象は取り除くこと ができずに受け入れられてしまう。なお、T1カウンターのダブルパルス分解能を∆Treso とする (実際のT1カウンターのダブルパルス分解能は15 ns程である)。陽電子のパイルアップによって EN aI+ECsI50 MeVの閾値を超えてしまうとこの事象はバックグラウンドとなる。

5.1 左図:T1カウンターでのパイルアップの概念図。 右図:ダブルパルス分解能∆Treso にパイルアップが起こると、その事象は受け入れられる。

この事象が起こる確率はεπµ¯νµνe(t)×επµe(t)に比例するので、ミューオンの寿命の約半分 の指数関数で落ちていく時間分布となる。つまり、この事象は高エネルギー領域でゆがみを与える 成分となる。また、π+→µ+→e過程から放出された陽電子が先にT1·T2カウンターを通ったとき も同様にミューオンの寿命の半分で下がる指数関数分布となるので、これも揺らぎの成分となる。

なお、この時に時間スペクトラムに用いられるのは図5.1にあるような最初の波形の時間である。

ンターが完全なダブルパルス分解能(∆Treso = 0 ns)をもっている場合はT1カウンターで2 の粒子が接近したタイミングでヒットした場合でも完全に識別することができる。しかし実際は

∆Tresoという有限のダブルパルス分解能をもつため、y =x±∆Treso の領域ではT1カウンター でのパイルアップ事象が受け入れられてしまうことになる。

5.2 2つの粒子がT1カウンターにヒットしたときの概念図。縦軸yはオールドミューオン から崩壊した陽電子が、横軸xπ+µ+e+過程からの陽電子がT1カウンターにヒットす る時間である。関数y=xとその上下にy=x±∆Tresoを載せる。

図5.2y > x領域はオールドミューオンから崩壊した陽電子が先にT1カウンターにヒットす ること、y < x領域は先にT1カウンターにヒットするのはπ+→µ+→e+過程から放出された陽 電子であることを意味する。

前述のように、f(x)g(y)とのパイルアップ事象が起こる確率はf(x)×g(y)に比例する。最 初にT1カウンターにヒットした陽電子の時間をtとすると、y > x領域(つまり、オールドミュー オンが先に崩壊する場合)の時間スペクトラムFU(t)は一般に

FU(t) =f(t)

t+∆Treso

t

g(y)dy (5.1)

となる。ところで、π+→µ+→e+ 事象はt > 0 でないと起きない事象であるので、図5.3より FU(t)

FU(t) =





0 t <−∆Treso

f(t)∫t+∆Treso

0 g(y)dy ∆Treso< t <0 f(t)∫t+∆Treso

t g(y)dy t >0

(5.2)

となる。

5.3 左図:t <∆Treso。この領域ではバックグラウンドは発生しない。 中図:∆Treso<

t <0。この領域では0t+∆Treso(斜線部)で起こる。 右図:t >0。この領域では∆Treso<

t <0。この領域ではtt+ ∆Treso(斜線部)で起こる。 なお、3つの図の横軸は全て陽電子が T1カウンターにヒットした時間tを示す。

一方、y < x領域(つまり、π+→µ+→e+が先に起こる場合)の時間分布FL(t)は一般に FL(t) =g(t)

t+∆Treso

t

f(x)dx (5.3)

となる。パイオンはt <0には存在しないので、同様にFL(t) FL(t) =

{0 t <0

g(t)t+∆Treso

t f(x)dx t >0 (5.4)

となる。これらより、T1カウンターの有限な時間分解能により生じるパイルアップによるバック グラウンドの時間分布F(t)

F(t) =FU(t) +FL(t)

=f(t)

t+∆Treso

t

g(y)dy+g(t)

t+∆Treso

t

f(x)dx (5.5)

となり、f(t)を式(4.1)g(t)を式(2.2)に直してtによる場合分けを行うと

FU(t) =













0 t <−∆Treso

exp(τµt ) τµ

t+∆Treso

0

exp(τµy )exp(τπy )

τµτπ dy ∆Treso< t <0

exp(τµt ) τµ

t+∆Treso

t

exp(τµy )exp(τπy ) τµτπ dy +exp(

t

τµ)exp(τπt ) τµτπ

t+∆Treso

0

exp(τµx )

τµ dx t >0

(5.6)

となる。

ドキュメント内 π + e + ν e (ページ 51-54)

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