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ドイツにおけるジェンダーギャップ縮小に見る女性運動の影響

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だが「新しい女性運動」はそれとは一線を画した。学生や若いインテリ層を担い手とする組織化され ていない女性たちの運動であり,性別役割観を根本から見直し,社会の構造自体の変革を目指した。「新 しい女性運動」は,最初に刑法堕胎罪に対する闘いに取り組んだが,70年代の初めまで中絶は闇で行 うしかなかった。ドイツの女性たちにとってこの問題は,自身の人生を決定する程の大きな影響を及 ぼす問題であったため,これが女性運動を全国的に大きく発展させていくことになった。現在,カウ ンセリング義務付きで,中絶は可能にはなったが,現在もまだこの闘いは終わっておらず,それも運 動を継続している理由のひとつであろう。

日本においても第二波フェミニズム運動の流れを汲むウーマン・リブ運動は存在したし,その後も 女性による社会への働きかけは続けられてきている。それではなぜジェンダーギャップ指数の順位に 大きな差が出るほど,ドイツと日本では社会的な女性の状況が異なるのだろうか。そこには日本の女 性運動の定着度や社会的な認識度の差が存在する。それが顕著に表れているのはメディアへの露出度 であると解する。日本ではそもそもウーマン・リブ運動自体が当時の大手メディアによる,一部の過 激な人たちの運動といった印象を与える報道により,運動の広がりや成長を妨げられたとも言え,そ の後も日本の大手メディアにおいて,女性運動やフェミニズムと言った話題は,政治・経済のように 広く関心を持たれる話題として取り上げられることが殆どない。対して,ドイツでは,その状況は異 なり,女性に関する政治的な要求や話題は一般紙においても日常的に取り上げられている。ドイツの 大手新聞のインターネットサイトには,「フェミニズム」といった分類の記事も載り,フェミニスト として有名なアリス・シュヴァルツァーという女性も登場する。彼女はドイツのウーマン・リブ運動 の初期からセンセーショナルなアクションを行ない続けた人物で,運動が非常に熱かった70〜80年代 を過ぎてからもなお,著作や新聞・雑誌への寄稿,テレビ出演もこなし,現在に至る。ドイツにおい て彼女を知らない者はないと言うほどの存在である。また,アリス・シュヴァルツァーが創刊し,現 在も発刊され続けている『EMMA(エマ)』というフェミニスト雑誌の存在も注目に値する。「女性 の政治マガジン」という表現の通り,女性の「政治」的な内容を扱った雑誌で,1977年の創刊当初か らさまざまな女性に関連する話題を取り上げ,女性のエンパワーメントや社会に対しての議論の投げ 掛けを続けてきている。彼女と雑誌『EMMA(エマ)』の存在はドイツ社会に「フェミニズム」や「女 性問題」を浸透させ,社会における女性に対する制限や抑圧の仕組みを改善する必要があること,そ れを訴え続ける女性たちがいることを常に世間一般に知らしめていると言えるだろう。

現在のドイツ社会において,「フェミニズム」や女性の地位,ジェンダー平等がどのように捉えら れているかを知るため,最近のドイツのメディアをにぎわせた記事をふたつ取り上げる。2010年には,

「フェミニズム論争」と題した記事が載り,現家族省大臣クリスティーナ・シュレーダーと,アリス・

シュヴァルツァーや他フェミニストたちの間での論争が紙面を賑わせた。若くして大臣になったシュ レーダーが雑誌のインタビューにおいて,フェミニズムを批判する発言を行なったことに対し,アリ ス・シュヴァルツァーを始め野党の女性政治家たちからは,「シュレーダー氏はフェミニズムを全く わかっていない」といった厳しい非難が相次いだ。シュレーダーと同じ与党CDU(キリスト教民主 同盟)のアンゲラ・メルケル首相や,現労働大臣のウルズラ・フォン・デア・ライエンも,フェミニ

ズムに対してはやはり非常に評価すると言った姿勢を取っており,この論争からは,世界的に同じ潮 流として存在する若い世代のフェミニズム離れが顕著に表れている。現在の女性たちが当たり前のよ うに手にしている権利や地位はフェミニズム運動や理論があってこそのものであり,そういった意識 の継承という課題が見受けられるとともに,このような論争が紙面をにぎわすということ自体がドイ ツにおける「フェミニズム」に対する一定の認識度を表していると言える。

また,2011年には,「民間部門への法的なクオータ制導入」が非常に話題となった。これはノル ウェーやフランス,オランダ,スペインなどの隣国の動きとともにEUによる圧力も高まるなか,ド イツにおいても企業の指導的地位の女性の比率を高めることが重要であり,それを法律で規定するこ とに大いに意義があるとして,現労働大臣フォン・デア・ライエンによって提起された。ドイツにお ける取締役会や監査役会の女性比率は非常に低く,また10年前より企業の自由意思による努力につ いての協定が結ばれていたにもかかわらず,ほとんどその比率に変化がなかったことを受けてのライ エンの主張であったが,経済界からの強い反発を中心とした非常に大きな議論を巻き起こした。結果 として,現政権には反対意見も多く,また先述の家族省大臣シュレーダーの「フレキシブル・クオー タ」という代替案(企業の自由意思に基づく段階的実施案)によっても成立がはばまれることとなり,

2011年度中の法制案成立は実現しなかった。このようにドイツ社会においてはフェミニズムといった 話題や女性の社会参画についての真剣な議論がメディアによって日常的に報道されると言う現実が認 められ,こういった一連の議論からは1970年代の「新しい女性運動」以降,着実に社会がジェンダー 平等へ向けて少しずつ動いてきた様子が見て取れる。

以上,ドイツでは女性運動の確固たる地位の確立とアリス・シュヴァルツァーや『EMMA』の存 在が象徴するように,女性たち自身のエンパワーメントや社会への働きかけが絶えず続いてきたこと が,女性の地位向上やジェンダーギャップの縮小に重要な役割を果たしてきたことが明らかになった。

女性の側からの異議申し立てがあってこそ,まず問題の存在が認識され,社会で多様な議論が発生し,

そこから解決や変革の道が始まる。女性たち自身が常に問題意識を持ち,それを社会に発信して行く ことにより,社会に与えてきた影響は大きい。日本においても女性による働きかけなどは行われてい るが,より多くの女性たちひとりひとりが問題意識を持ち,自身の権利を主張することは重要であろ う。今後の課題として,ドイツのジェンダー平等政策の推進事情とその背景を,アリス・シュヴァル ツァーの個々の活動と関係付けながら,さらに詳細に分析していくこととしたい。また,ドイツとの 比較を通して,日本の政策や女性運動にどのような示唆が与えられるのかを検討することも課題であ る。

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