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デートDV防止教育の現状とこれから

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橋 本 一 委

近年,DVの中でも,特にデートDVへの関心が高まり,防止活動が盛んになってきている。若者の 間でDV被害が深刻になってきたためである。DVは「配偶者間の暴力」と言われてきたように,成人 の間で起こる問題とされてきたが,大学生や高校生,さらには中学生などにまでDVの問題が生じて いることが分かってきたのである。DV問題は身近なところにあり,決して自分と無関係な問題では ないということを,幅広い世代に向けて発信していく必要性が出てきた。

我が国において,デートDVに関心が向けられるようになったのは旧いことではない。『デートDV 防止プログラム実践者向けワークブック』(山口のり子著)で,初めて「dating  DV(デイティング DV)」という言葉が使われたのが2003年のことであった。そこから「デートDV」として広く用いら れるようになり,現代の若者たちが抱える深刻な問題として注目されるに至った。

だが日本におけるデートDVに対する社会的認識は,依然として低いものであると言わざるをえな い。これはデートDVの研究の歴史が浅いことも関係している。DV研究に比べデートDV問題に特化 して調査・研究されたものが極めて少なく,DV問題の延長線上にデートDVの問題が起きていること を紹介する程度で終わってしまっている。日本において充分に論じられてこなかったデートDVを実 践的活動と絡めて論じるという点で,本研究を行う意義は認められるであろう。

本論では,デートDVに着目し,防止対策としての活動の在り方を検討すると同時に,現状として の問題点を見ながら,今後のデート防止教育により現場に即した教育の在り方を提案することを目的 とする。中高生や大学生にとって,デートDVが身近な問題であることを実感してもらうために,何 ができるのか,この視点から論じていく。

第1章ではDVとデートDVの概要を説明し,定義づけを行っている。そもそもDVは「家庭内暴力」

「配偶者間暴力」とも呼ばれてきたため,意味の混同も起きている。これらと区別し,本論で扱う「DV」

が何を指すのかについて明確にすることからはじめた。

デートDVは,「若者」に関わるが,具体的にはどの年齢層を対象とするのか,またDV被害がはじ まる年齢はどこからなのか等を明らかとする。ここでは,婚姻関係にない10代から20代で,「彼氏/

彼女」などの恋人としてのつきあいが始まる年齢からを範囲とする。つまり小学生をはじめ中学生,

高校生,大学生など,社会的・経済的自立が困難で保護者の存在が必要な世代を指すとした。

更に,デートDVに関する法律について取り上げた。日本におけるDV関連の法律は,「配偶者から の暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(DV防止法)であるが,ここで「配偶者」とされるのは,

結婚の形態は問わないが,現時点で夫婦として暮らす相手のことである。一方,恋人間の暴力には適 応されておらず,日本にはデートDVを扱う法律は無い。現状では,デートDVの被害にはストーカー

防止法などで対応するものとなっているが,これでは完全な対応策とはなっていない。こうした問題 を考えるために,ある事件を紹介しながら,デートDVやDVの被害に対する警察の対応と現状を見て いった。それは「宮城県石巻市殺傷事件」である。この事件は宮城県石巻市の民家で3人が刺され2 人が死亡した事件で,逮捕された少年(当時18歳)が元交際相手の少女(当時18歳)に対し,DV行 為を繰り返し行っていたことが注目された。本論では,この事件の経過とともに,10代のカップル間 で起きたDVに対し,警察や裁判所がどのようにDV防止法とストーカー規制法によって対応できる,

またはできたのかを見るために注目した。この事件と法律の限界について考察することで,DVに関 わる法の問題点を明らかにする。

第2章では,デートDVに携わる活動をしている団体や,国や自治体の施策を取り上げた。デート DVという問題に,早くから危険意識を持った人びとにより,これまでにさまざまなアプローチが行 われてきている。本論では,自治体の施策として「DVを考える若者フォーラムinちば」の活動,国のデー トDVに対する施策や立案,NPO団体の中でも興味深い活動をしているNPO団体の3つを取り上げて いる。

まず,筆者自身が携わってきた「DVを考える若者フォーラムinちば」の活動を紹介していく。こ れは千葉県の主催によるもので,デートDVに興味のある学生や社会人を有志で募集し実行委員会を 構成し,勉強会を重ねることでフォーラムを開催するという活動である。2011年3月に起きた東日本 大震災の影響で,惜しくも活動の援助金が中止,そして打ち切りが決定したのだが,7年間続いた,

若者によるデートDV防止のための活動であった。本論では「若者」が実際に「若者」に向けて行っ た啓発活動の内容をまとめ,実行委員がデートDVをテーマとするにあたって,突き当たった壁がど のようなものだったかを検証する。

次に国がデートDVに対して現在どのような防止対策を行っているのかを見ていく。取り上げたの は,防止教育専用の教科書であった。この教科書は全国の男女共同参画関係機関や教育機関に配布さ れている。実際に授業内に取り入れるかどうかは学校の判断に委ねられるが,国が行ったデートDV 防止教育の1つとして取り上げた。第56回女性に対する暴力に関する専門調査会の議事録から,佐賀 県の中学校で年間プログラムとして予防教育事業が実施されていることがわかった。現在は高校や大 学で行うことが多いのだが,中学校で行うのは非常に珍しい。ここでは国のDV問題に対する施策の 中でも,今後に期待できるものとして取り上げている。

最後に,デートDV防止教育として実際の高校や大学に出前授業を行っているNPO団体から,他団 体からも注目されている3団体を紹介していく。これらの団体は,実際に学校の授業時間をもらって 中高生に講義を行っているものである。このような活動は,今後デートDV防止教育の内容を,現場 に即したものにするために大きく貢献することであろう。さらに,これらの出前授業の内容を見てい くと,共通してアサーティブなコミュニケーションの紹介をしていることがわかった。アサーティブ とは,お互いの間で納得がいく結論を導き出すための手段を見つける方法を探す,という考え方であ り,これをデートDV防止教育へ盛り込んでいる。このような点に着目しながら,デートDV防止教育 の現状を見ていく。

しかし一方で,現在のデートDV防止教育のままでは至らない点も出てきている。実際にデートDV 防止教育の現場では,どのような障害や改善点や反省があるのか。ここでは,デートDV講座の教壇 に立つ講師の話と,「DVを考える若者フォーラムinちば」のフォーラム開催後の反省点を見ていく。

これらからわかるのは,従来のアプローチだけでは複雑な問題体系の一部にしか対応できておらず,

デートDVの表面的な問題だけしか触れられないという現状があることである。今後は内容の充実・

豊富化・改善が求められていることを示したい。本論文では対象とする世代へ合わせたそれぞれのデー トDV防止教育の新たなアプローチが必要であることを提示し,これを今後の課題とする。

第3章では,今後のデートDV防止教育に必要なものを考察していく。第2章で今後の課題とした,

デートDV防止教育の新たなアプローチを提案する。本論では,現在の若者が持つ「恋愛論」に着目 して考察を行った。これは現在の中高生や大学生などの若い人たちの間で「恋愛すること」を最重要 視する,恋愛至上主義が存在していることに注目したためである。現在の若者の恋愛観を検討するこ とで,デートDVが起こる理由のひとつの視点を示すことが出来る。恋愛観の分析は,中高生や大学 生にとって興味を持ちやすいテーマであるため,この点からデートDVの問題を,より身近に感じて もらうことが期待できる。つまり,デートDVに遭っている現代の若者たちが持つ恋愛観を知ること で,よりセンシティブな防止教育が可能となると考えられる。これはデートDVの根源である「性差 別に寛容な社会」の存在を,再確認するものにもなる。

これまでのDV防止教育の授業や講座には,ジェンダーの視点を必要としたテーマがあるにも拘わ らず,性の問題は取り上げにくいテーマであるという社会風潮に押され,なかなか触れられないもの であった。教育現場ではさらに,性教育はタブーとされる風潮があるため,若い人たちにとって人生 を左右するような情報であるにもかかわらず,抜け落ちたままとなっている。そこで,近年世間から 注目されはじめているデートDVの防止教育の一環に,性教育に触れることができる場をつくってい くことを提案したい。教育現場では講師として堂々と性教育を掲げたものを持って入っていくことは なかなかできないが,デートDV防止教育の授業の一部として,性教育の情報を提供できるようにな れば,中高生などの若い世代にも,このような情報が届けられるようになる。このようなジェンダー 視点を踏まえたデートDV防止教育の必要性を示し,デートDV防止教育をより充実させたものにする 提案を行った。

今回デートDVをテーマに調査することで,「DV」という社会問題の深刻さが浮き彫りになった。

DVに関する資料や情報の多くは,被害者の声を集めたものを展開しており,文献や講演会などでも,

被害者たちが経験した暴力の苦しさ,深刻さが強く伝えられていた。このような現実を,若い世代も 経験していること,そしてこの暴力は恋愛関係から結婚まで繋がっており,「夫婦間の暴力」として 続いていくのかもしれない恐ろしさが,「デートDV」に内在している。

そして,デートDVの最も特徴的で危険な点であるのが,被害者も加害者もそれがDVという「犯罪」

であるということに気づかないところである。この背景にあるものは,男尊女卑の思想をもとにした 社会風潮にある。これに警鐘を鳴らす役目を担っているのが,女性学やジェンダー学であり,これか らのデートDV防止教育に取り組まれていくべきものである。

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