第4章 ティーム保育に見る教師の協働性と若手教師の育成
第4節 ティーム保育における若手教師の育成
Ⅰ.ティーム保育における教師間の学び合いと若手教師の育成
これまで見てきたように、ティーム保育とは「協働」の下で保育実践を行う集団であり、
いわゆる「ティームワーク」と呼ばれるティームの構成員間の協力体制が保育のシステムと して推進される。ここで注目したいのは、そうした「協働」や「ティームワーク」を特色と する環境が、若手教師の職能発達や先輩教師による若手育成の方法に大きな影響を及ぼす ことである。すなわち、若手教師は、ティーム内で連携や協働を強く意識して保育する日々 の中で、周囲との密接な対人関係の構築に迫られながら、教師としての成長を遂げていく。
また、新たなティームメンバーを迎え入れる側の先輩教師もまた、保育経験の浅い若手教師 と協力して働くには、単に保育実践を行う際に行動を共にするだけでなく、そこに後輩を指 導し育てるという教育的配慮を伴わざるを得ない。このような、ティームを単位として保育 する日々の積み重ねは、ティーム保育特有の職能発達や若手育成の様相を形作ると推測で きる。
この問題に関する先行研究は、第1章第2節(本論の 35~36 頁)における「(3)新任 教師や若手教師の実践力向上」の項目で取り上げた。新任教師や若手教師の実践力を向上さ せる必要性を挙げながら、教師同士が協働する場面の多いティーム保育では、先輩教師によ る若手教師の育成が重要であることを述べた。しかし、若手教師が先輩教師のティームに入 って働くことの難しさや、逆に、先輩教師が若手教師を育てる上での苦労や葛藤に関する先 行研究がある。さらに、ティーム保育のシステムは、若手育成機能の側面を強く持っている が、若手教師の職能発達にとって熟練教師の存在が重要視されることが示唆された。
それでは、若手教師は、ティーム内の熟練教師と協働する中で、教師としてどのような学 びや成長を遂げるのであろうか。また、熟練教師は、若手教師にどのような指導や教育を行 い、その育成を担うのであろうか。ティーム保育の環境の中で、若手教師の職能発達や熟練 教師の若手育成はどのように実践されるのかについて、ティーム保育を園の保育方法とし て長く踏襲している幼稚園の教師に対するインタビュー調査を取り上げて考察する。
Ⅱ.方法
- 160 - 1.調査の協力者・方法・期間・倫理的配慮
ティーム保育の実践園で勤務する教師に対するインタビュー調査を行った。調査の協力 者、方法、期間、倫理的配慮等に関する説明は、第1章第3節(本論の55~57頁)で述べ た通りである。
2.調査内容
インタビュー調査は、まず、熟練教師A・Bには「ティーム保育における若手教師の育成 について、あなたの考えを教えてください」と尋ねた。次に、熟練教師A・B及び若手教師 C・Dに対し「ティーム保育における教師としての成長について、あなたの考えを教えてく ださい」と尋ね、調査対象者の回答内容に即して、適宜、質問を追加した。熟練教師に関し ては、質問に対して若手教師だった頃の回想も含めて回答を依頼し、ティーム保育の実践者 としての成長過程も参考とした。
3.分析方法
まず、録音データから逐語録を作成し、筆者らの判断で、内容の趣旨を損なわないよう方 言等を修正した。逐語録は、面接者の発話も含めて19,212語が対象となった。次に、逐語 録の内容に対する質的な分析として、KJ法に準じた方法を採用して、類似する見解を統合 しながら全体像のカテゴリー化を図った。若手教師の職能発達について述べられた語りと、
熟練教師による若手育成について述べられた語りに大別され、さらに8つの項目に整理し まとめられた。そこで、項目ごとにそれぞれ考察を加えた。また、本考察の妥当性を保障す るための手続きとして、20 年以上の保育経験を有する現場の教師2名による検討を行い、
内容の加筆・修正を行った。
分析には、現在の教師A~Dの他に、若手教師だった頃の過去の熟練教師A・Bも設定し た。熟練教師に見る専門職としての経歴を分析することで、ティーム保育に携わる者の成長 過程も参考とする。そこで、熟練教師A・Bには、注意深く過去を回想してもらうと共に、
記憶に基づく内容であるため分析には十分留意しながら、考察に含むこととした。
Ⅲ.ティーム保育における若手教師の育成
逐語録の精査によって判明した8つの項目とその考察内容は、次に示す通りである。表1
第4章 第4節
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~表8において、各項目の内容について典型的に述べられた教師 A~D の代表的な語を示 した。罫線内の語りの一部分を論述中に引用しており、その箇所について、熟練教師の場合 は波線、若手教師の場合は下線を付して明示した。本文中の①~㊹の数字は、罫線内の①~
㊹の数字と対応している。
1.ティーム保育における若手教師の職能発達
(1)モデリング学習の場として機能するティーム保育
教師の語りを見ると、ティームの一員として日々の保育を実践することが、若手教師にと ってモデリング学習の場であると示された(表1)。若手教師 C は、「他の先生の保育を見 られるところが勉強になって、自分に生かしていける(①の下線部分、以下数字のみ記載)」
「先輩の先生方を見させていただいて、良いところをしっかり取り入れ(②)」られると述 べており、若手教師Dも、「色々な先輩の先生方の保育を見て、どのような仕事や活動をす れば良いか分かった上で、保育をすることができた(③)」と述べている。これらの発言は、
ティーム内の先輩教師と継続的に協働する環境が、若手教師にとって模倣行為による学習 過程を可能にすることを示している。独力による保育とその失敗体験の積み重ねから1つ ずつ学びを得るのではなく、手本となる先輩教師の成功例を見て学ぶ方法だと言えよう。た だ、現場の若手教師は、先輩教師の保育実践を真似する難しさも感じているようである。例
表1.モデリング学習の場として機能するティーム保育に関する代表的回答
若手教師C:ティーム保育は、製作とか絵画指導の時とかでも、①他の先生の保育を見られるところが
勉強になって、自分に生かしていけるので、それが良いところだなと思います。②先輩の先生方を見さ せていただいて、良いところをしっかり取り入れて差が出ないように努力しています。
若手教師D:ここの園に就職していいなと思ったのは、③色々な先輩の先生方の保育を見て、どのよう
な仕事や活動をすれば良いか分かった上で、保育をすることができたところです。その反面、④先輩が されていることをそのまま真似したところで上手くはいかなくて、どこを盗んでどこを自分のものにす ればよいかを判断する必要があることは、今でも感じています。
熟練教師B:⑤ティーム保育は、先輩の先生の保育を見させてもらい、一緒に入って実践してみて、分 からないことは、その場でもすぐに聞いて教えてもらえる。自分でやってみて、ここがちょっとおかし かったとか、こうすれば良かったということもすぐに教えてもらえるのが、良いところだと思います。
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えば、若手教師Dは、「先輩がされていることをそのまま真似したところで上手くはいかな
(④)」いという課題を指摘している。先輩教師の保育や言葉掛けを外見的に真似するだけ では、その裏に隠れたねらい等の真意を測れない、という意味と推察されよう。この課題に 関連して、熟練教師B は、教師同士の言語によるコミュニケーションの有効性に言及して いる。「ティーム保育は、先輩の先生の保育を見させてもらい、一緒に入って実践してみて、
分からないことは、その場でもすぐに聞いて教えてもらえる(⑤)」という語りには、先輩 教師の保育する姿を単に見るだけでなく、実践の場で疑問点を質問したり、助言をもらった りすることが有益であることを示している。
このように、ティーム内の先輩教師を身近で観察できること、保育を共に実践しながら言 葉を介して指導を受けられることは、学習効率を促進させたり学びを深めたりする効果が あり、ティーム保育の若手教師に与えられた特典であると言える。ティーム保育とは、若手 教師にとって、モデリング学習の場であるであろう。経験豊かな先輩教師の実践モデルを見 て、自分のものと比較し、良い点や悪い点について吟味する機会が与えられており、言い換 えれば、毎日の保育実践が研修としての役割を果たしていると言えよう。
(2)若手教師に見る段階的な学び
ティーム保育は、若手教師に段階的な学びの機会を与え得ると考えられる(表2)。若手 教師Dは、「この園では、保育を色々な他の先生と一緒にやっていくという形態です(⑥)」
「1年目の時の私にとって、毎日の色々な活動の中で自分にできることから始められた
(⑦)」と述べ、全ての保育業務を急に任されるのではなく、「できること」から徐々に仕事 を覚えられた経緯を説明した。そして、「これからは、私が主となって、子ども全体を見て 回していかなければならない(⑧)」「ティームの中での役割の変化に順応していきたい(⑨)」 と述べ、自分自身に課せられた次の段階の課題や展望を述べている。熟練教師A も、同様 に、「若い頃は、能力以上のことはしなくても、先輩の先生に混ざって色々なことを見なが ら、その中から自分に合った方法や得意なことを見つけてじっくりできる。それが、ティー ム保育の良いところの1つ(⑩)」と言及している。これらの経験談は、若手教師が比較的 簡単な業務から始めて、順に難易度を上げながら学習と経験蓄積を進めていることを示す と共に、若手教師の実力と経験では難しいと判断された保育業務が先輩教師によって行わ れている実態を明らかにしている。ここに、若手教師Dが、「一人担任制の園で働いていて、
学級の担任をする場合、教材研究から始まって、全部自分の力で考えていかなければならな い(⑪)」と指摘する一学級一人担任制とは異なる、ティーム保育独自の職能発達の特色を