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第4章 アルミニウム合金/鋼/鋼3枚重ね継手の摩擦アンカー接合

4.3 実験結果と考察

4.3.2 ツール押し込み量と引張せん断強度の関係

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表面から深さ約200μmの領域(光学顕微鏡写真中の領域A)を,ツール押し込み量 1.4mm では,鋼表面から深さ約200μm及び約400μmの領域(光学顕微鏡写真中の領域B,C)の EBSDマップをそれぞれ示している.一般に,アルミニウム合金の摩擦攪拌接合においては,

接合ツールによる攪拌部で金属の流動に伴う再結晶によって結晶粒が微細化することが知 られているが,鋼においても同様に微細化することが報告されている25-28).中間SPCCと最 下SPCCが接合されなかった押し込み量 1.3mmの場合は,接合ツール直下の SPCCの流動 に起因する結晶粒の微細化は150~200μm深さまでとなっており,最下のSPCCには達して いない.一方,中間SPCCと最下SPCCが接合された押し込み量 1.4mmの場合は,接合ツ ール直下のSPCCの流動に伴う結晶粒の微細化は約400μm深さまで認められ,最下のSPCC まで金属流動している.つまり,ツール押し込み量1.3mm以下では最下 SPCCは接合ツー ル直下の流動の影響を受けないが,1.4mm以上では影響を受け,最下SPCCも十分な流動を 起こすことで中間SPCCと接合されることが分かった.

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次に,ツール押し込み量を1.4~2.4mmと変化させた際の,引張せん断試験後の断面光学 顕微鏡写真をFig.4-10に示す.図中の矢印は,A5052を右方向に,最下のSPCCを左方向に 引張ったことを示している.3枚接合が可能な条件であるツール押し込み量1.4mm以上では,

いずれも,最上の A5052と中間の SPCCの間で破断が起こった.また,引張せん断試験時 の亀裂は,ツール押し込み量 1.4mmでは突起部近傍のアルミニウム部を進行し,ツール押

し込み量 1.8mm 以上では突起部接合界面を進行して破壊に至っていることが分かる.

Fig.4-11にはツール押し込み量を 1.4~2.4mmと変化させた際の,ツール押し込み量と引張

せん断強度の関係を示す.引張せん断強度はツール押し込み量 2.2mmまでは,ツール押し 込み量が大きいほど大きくなり最大で約3.8kN/点に達するが,ツール押し込み量2.4mmで は低下した.これらの結果については,以下のように考察した.まず,ツール押し込み量

1.4mm では,突起部ルート界面が接合されているため,突起部ルート界面の接合端部から

亀裂が発生し,アルミニウム合金内部を貫通して破壊に至る.しかし,ツール押し込み量 が大きくなると,突起部ルート界面は接合されていないため,突起部の底部から亀裂が発 生し突起部接合界面に沿って亀裂が進行する.また,ツール押し込み量の増大に伴い,突 起部高さが大きくなるため,せん断荷重に対する強度が大きくなり,突起部接合界面の面 積も大きくなるため,継手の引張せん断強度は大きくなる.そして,ツール押し込み量2.4mm では,Fig.4-6 に示したように鋼突起先端とアルミニウム合金が剥離を起こしており,突起 部接合界面の面積が小さくなるため引張せん断強度は低下する.

第3章の3.3.5項で述べたように,アルミニウム合金と鋼の固相接合において,接合界面

の金属間化合物層が数μm以上になると十分な接合強度が得られないとの報告が数多くあ Fig.4-9 Schematic illustrations of the initial crack occurrence in the tensile shear test.

(a) Tensile shear test image, (b) Compression side, (c) Tension side.

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Fig.4-10 Cross-sectional OM images of the specimens after the tensile shear tests with various plunge depths. (Left images: compression side. Right images: tension side.)

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29-37).一方,摩擦アンカー接合で作製したA5052/SPCC/SPCCの3枚重ね継手では,突起

部接合界面に金属間化合物層が2~5μm形成されており,これらの報告から,接合強度への 影響が懸念されたが,引張せん断強度約3.8kN/点を達成した.