3.3 性能確認のための要素実験
3.3.1 ジベル押抜き試験
(1) 実験目的
UFCプレキャスト床版と鋼桁との接合用ジベルの設置方法は,鋼桁のウェブに,事前に製作 したアングルPBLを高力ボルトで接合する方法とした.本接合構造は,一般的に用いられてい る鋼桁に頭付きスタットを溶植する方法とは異なるため,この接合構造に対する耐荷性および 終局時の変状等を確認するために押抜き試験を実施した.
(2) 検証事項
実験における耐荷性の検証事項と判定方法について,表-3.3に示す.なお,下表に示す「設 計せん断力」および「設計せん断耐力」は,以下の通りである.
設計せん断力
格子解析の結果から,合成後死荷重,活荷重,温度差(鋼桁より床版が高温の場合)に よって生じる支間部から端支点部方向へのせん断力の最大値に対して,鋼桁-床版間のず れ止め構造(橋軸方向に800mmピッチで配置)で抵抗する場合,1対のアングルPBLあ
たり310kNのせん断力が作用する.さらに,ジベル押抜き試験が2面せん断試験であるこ
とを考慮し,試験時の全載荷荷重が2倍の620kNとなる時点で設計せん断力に相当する.
設計せん断耐力
研究当初は,複合標準(2014年版)[5]の発刊前であり,同示方書(2009年版)[6]に基 づいてせん断耐力を算出した.よって,『2.4(2)孔あき鋼板ジベル』における式(2.8)
により算出した.ここに,式中のパラメーターは,孔径d=52(mm),鋼板の板厚t=32(mm),
コンクリートの設計基準強度 f’cd=50(N/mm2),部材係数γb=1.3とし,せん断耐力 Vpsud
=246(kN/孔)と算定した.よって,1対のアングルPBL(4孔)での設計せん断耐力は985(kN/1 対のアングルPBL),さらに, 2面せん断試験であるため,試験時の全載荷荷重は2倍の Vpsud=1,970(kN)に相当する.
表-3.3 ジベル押抜き試験における検証事項
No 検証事項 判定基準・測定事項 等
1 設計荷重作用時の変状 設計せん断力〔1対当たり310kN ,試験時の全載荷荷重 620kN〕作用時に大きな変状は生じないこと
2 押抜きせん断耐力 試験時最大荷重が,設計せん断耐力〔1対当たり
985kN ,試験時の全載荷荷重1,970kN〕を上回ること
3 接合部の破壊に至る 挙動・変状
ひび割れ発生荷重,発生部位,進展状況
せん断剛性および残留変位
破壊形態および変形性能
58 (3) 試験ケース
孔あき鋼板ジベルの設計せん断耐力の算定式を,『2.4(2)孔あき鋼板ジベル』に示してい る.国内規準では,本実験実施時点での最新版の複合標準(2009年版)[6],ならびに,その後 に改定された複合標準(2014年版)[5]があるが,いずれの耐力式においても PBL鋼板の端面 でのコンクリートの支圧抵抗の効果が含まれていない.一方,海外のせん断耐力の算定式では,
支圧抵抗の効果も考慮したせん断耐力となっている.そこで,図-3.4に示すように,提案する アングルPBLにせん断力を作用させた際に,上述の支圧抵抗がある場合とない場合の挙動や影 響を確認するため2つのケースを行った.試験ケースは表-3.4に示す.なお,支圧抵抗が作用 しないケースには,PBL鋼板の背面に緩衝材として発泡スチロールを配置している.
表-3.4 試験ケース
CASE 試験内容 備考
ケース① PBL鋼板の端面に 支圧抵抗が作用しない
PBL端面に 緩衝材を配置
ケース② PBL鋼板の端面に 支圧抵抗が作用する
図-3.4 試験ケースの概要
(i)ケース①:PBL 端面に支圧抵抗が作用しない
(ⅱ)ケース②:PBL 端面に支圧抵抗が作用する
59 (4) 試験体
図-3.5に試験体の概要を示す.試験体における模擬鋼桁の仕様は,フランジ幅は対象橋梁と
同じ250mmとし,フランジ厚ならびにウェブ厚はそれぞれ対象橋梁の12mm,9mmから19mm,
16mmに増やし,試験時に模擬鋼桁が先行破壊することを防止した.また,アングルPBLと鋼 桁の高力ボルト接合部の先行破壊を防ぐため,アングルPBLが模擬鋼桁と接する箇所の外周を 3辺にわたり溶接を施した.アングルPBLの仕様は,ジベルの板厚を32mmとし,孔径52mm の孔を1枚あたり2つ設けた.
試験体両側のコンクリートブロックは床版を模擬しているため,ブロックの形状および厚さ を設計床版と同等にし,局所的に切り出した形状とした.なお,コンクリート材料はUFCを使 用している.
試験体の床版ブロックの箱抜きおよび床版ブロックと模擬鋼桁との接合部には,無収縮モル タルを充填する.充填作業は,実施工と同条件にするため,模擬鋼桁を下に,床版ブロックを 上に配置した状態で行った.接合部の間詰め材の養生完了後に,両側の床版ブロックを建て起 こし,模擬鋼桁同士を,添接板を介して高力ボルトにて接合した.
試験体の設置は,床版ブロックの底面に石膏を敷設し不陸を調整した.
図-3.5 試験体の概要
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次に,床版ブロックおよび無収縮モルタル,アングルPBLの材料特性を表-3.5に示す.
表-3.5 材料特性
(ⅰ)セメント系材料 圧縮強度
(N/mm2)
引張強度
(N/mm2)
割裂引張強度
(N/mm2)
弾性係数
(kN/mm2) 床版ブロック(UFC) 218 14.0 9.1 53.0
無収縮モルタル 63.2 - - -
(ⅱ)鋼材 降伏点
(N/mm2)
引張強さ
(N/mm2) PBL鋼板(SM490) 357 533
(5) 試験方法
載荷は10MN試験機にて行う.このときの載荷状況を図-3.6に示す.
図-3.6 載荷状況図
載荷方法は日本鋼構造協会「頭付きスタッドの押抜き試験方法(案)」[7]に準じて行うこととし,
模擬鋼桁と床版ブロックとの鉛直方向の相対ずれ変位を指標として,変位制御による漸増繰返 し載荷とする.図-3.7に載荷ルールを示す.相対ずれ変位が1.0mmまでの範囲では0.2mm増 すごとに,それ以後の 4.0mmまでの範囲では 0.5mmごとに載荷・除荷の漸増繰返し載荷を行 った.それ以降の4.0mmを超えた時点で破壊まで単調載荷とした.
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図-3.7 載荷ルール
押抜き試験では,載荷荷重,床版ブロックと模擬鋼桁の鉛直方向の相対ずれ変位ならびに水 平方向の相対目開き変位,PBL鋼板のひずみを計測した.
計測機器の配置図を図-3.8に示す.床版ブロックと模擬鋼桁の鉛直方向の相対ずれ変位は,
PBL鋼板の中央の高さの相対ずれ変位を対象に変位計を用いて計測した.計測箇所は各PBLに 対して1箇所として,計4箇所行った.床版ブロックと模擬鋼桁の水平方向の相対目開き変位 は,PBL鋼板のアングルの上下面の高さでアングル部材と床版ブロックの間を変位計にて計測 した.計測箇所は各PBLに対して上下2箇所として,計8箇所行った.PBL鋼板のひずみ計測 は,PBL鋼板のダブル孔の中央部であり,1対の正対するジベルの外側に,3軸ひずみを計測し た.計測箇所はPBL1枚あたりに1箇所で計4箇所とした.
図-3.8 計測機器の配置
1 2 3 4
0 全荷重P(kN)
ずれ変位δ(mm)
(A-A断面)
B B
C C
A A
(B-B断面) (C-C断面)
200200
目開き量(水平方向)×8点
3軸ひずみゲージ×4点 ずれ変位(鉛直方向)×4点
目開き量(水平方向)×8点 3軸ひずみゲージ×4点
ずれ変位(鉛直方向)×4点
62 (6) 試験結果と考察
1) ひび割れ発生状況
ケース①においては,模擬床版部分ならびに無収縮モルタル打設部ともに,試験体表面での ひび割れ発生はほとんど見られなかった.一方,ケース②では,床版ブロックならびに無収縮 モルタル部において,PBL支圧面から下方に押抜くような方向にひび割れが発生した.
2) せん断力-鉛直方向の相対ずれ変位
せん断力と鉛直方向の相対ずれ変位の関係を図-3.9に示す.縦軸は,試験では載荷荷重を2 対のアングルPBLで抵抗しているため,1対あたりのせん断力に換算したものを,横軸は,前 述の4箇所で計測した鉛直方向の相対ずれ変位の平均値を示した.
図-3.9 せん断力と鉛直方向の相対ずれ変位
対象橋梁において軸方向800mmピッチでずれ止め構造を設けた場合, 1対のジベルに対す る設計せん断力310kNであったが,実験におけるせん断耐力はケース①で668kN,ケース②で 1,281kNであった.
ケース①では,設計せん断力に相当する310kN載荷時まではジベル周辺の損傷は見られなか ったが,668kN(設計せん断力の2.16倍)に至った後でせん断力が低下した.よって,1対あた りの設計せん断耐力985kNには至らなかった.ただし,最大荷重を超えても急激な耐力低下は 確認されず,相対ずれ変位が10mmになるまで載荷を継続しても550kN程度のせん断力は保持 した.なお,PBL鋼板の端部には支圧抵抗を排除するために緩衝材を設けているが,緩衝材の 高さは41mmあることから,PBL鋼板が床版ブロックに接するまでは至っていない.したがっ て,PBLの孔部分のUFCが円形断面でせん断に抵抗し,せん断ひび割れ発生後もせん断面での ずれ抵抗によりせん断耐力をある程度維持した状態で変位したものと考えられる.
0 300 600 900 1,200 1,500
0 2 4 6 8 10 12
せん断力(kN)
鉛直方向の相対ずれ変位(mm)
ケース① ケース② 設計せん断耐力
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一方,ケース②は,①と同様に設計せん断力相当の310kN載荷時には全く損傷はなく,その 後の繰返し載荷においてもせん断力は増加し続けた.1対あたりの設計せん断耐力985kNに相 当する載荷荷重を超え,さらに,相対ずれ変位が 10mmに至った時点(せん断力1,281kN:設 計せん断力の4.13倍)で,写真-3.2に示すようにアングルPBL自体の変形量が大きくなって きたことから試験を終了した.
写真-3.2 アングルPBLの変形,回転
アングルPBLが大きく回転変形 し,
64 3) せん断力-水平方向の相対目開き量
せん断力と水平方向の相対目開き量の関係を図-3.10 に示す.縦軸は,前述と同様,1 対あ たりせん断力,横軸には相対目開き量を示す.なお,ケース①,ケース②ともに,片側の模擬 床版の計測結果を用いて,ジベル上方ならびに下方の変位計2個ずつの平均値を示した.
図-3.10 せん断力と水平方向の相対目開き量
ケース①,ケース②に共通して,上方の目開き量の方が下方より大きいことがわかる.これ は,載荷荷重の増加と共にアングルPBLのアングル部分が内側へねじれ変形したためと考えら れる.なお,床版ブロックに大きな回転が生じた場合,ジベルの耐荷力評価に影響を与えると の報告[8]があるが,本試験の場合,載荷中に床版ブロック自体は概ね鉛直性を保っていたこと,
また,アングル部分のねじれ変形は実現象でも想定されることから変形モードとしては妥当と 考えられた.試験後にアングルPBL 脇で切断した内部の状態を写真-3.3に示す.ケース①で は,2 つの孔が同じように下方に向けてせん断破壊していることを確認した.一方,ケース② では,2つの孔のうち,上方の孔は完全にPBL鋼板の面で内側に移動(回転)するようにせん 断破壊しているが,下方の孔は試験体の切断前の時点でせん断破壊に至っていなかった.
0 300 600 900 1,200 1,500
0 2 4 6
せん断力(kN)
水平方向の相対目開き変位(mm)
ケース②上面 ケース②下面 0
300 600 900 1,200 1,500
0 2
せん断力(kN)
水平方向の 相対目開き変位(mm)
ケース①上面 ケース①下面
(ⅰ)ケース① (ⅱ)ケース②