• 検索結果がありません。

第 6 章 韓国

第1節 育児休業制度

1.導入経緯と歴史的変遷

韓国政府は 1961 年から出産を抑制する政策を採択してきたが、少子化により国民年金 の財政が枯渇する恐れがあるとの危機感から、1996 年 7 月、従来の人口増加抑制政策を 中止した。2001 年合計特殊出生率が 1.3 人以下で超少子化国になり、2002 年 1.17 人ま で下がると、少子高齢化社会の対策として、女性の仕事と育児の両立を支援するための 諸制度を整え始めた。

育児休業制度(父母育児休職制度)は、1987 年男女雇用平等法制定と共に導入したが、

当時は生後 1 歳未満の乳児をもつ女性労働者が対象であった。1995 年法改正とともに、

女性労働者の配偶者である男性労働者も選択的に育児休業が取れるようになった。2001 年 8 月、女性雇用者の母性保護関連 3 法(勤労基準法、男女雇用平等法、雇用保険法)

を改正し、2001 年 11 月から、産前・産後休暇期間を 60 日から 90 日と拡大するとともに

(勤労基準法第 72 条 1 項)、延長した 30 日分に関しては雇用保険から給付金を支給し始 めた。また企業の育児休業制度導入を義務化するとともに、育児休業後の復職を保障し、

雇用保険から育児休業給付金を支給するなど、関連規定を強化した。

1987 年制定された男女雇用平等法(1988 年施行)は、2007 年に「男女雇用平等と仕事・

家庭両立支援に関する法律」へと改名し、仕事と育児の両立支援政策をさらに強化した。

2008 年 6 月、育児期の労働者が仕事をしながら子育てができるように、育児期労働時間 短縮制度を導入した。しかし、制度導入が事業主の義務ではなく、育児休業と違って所 得減少分に対する補てんが一切ないとの理由で実際活性化するには限界があったため、

2011 年 10 月から、短縮した時間に関しては雇用保険から給付金を支給し始めた。

引き続き、政府は「男女雇用平等と仕事•家庭両立支援に対する法律」を改正し(2012 年 2 月公布、8 月施行)、育児休業が申請できる労働者が労働時間短縮を申請する場合、

経営上特別な理由がない限り認めるよう義務付けた。また父親の育児休業利用率を高め るため、雇用保険施行令を 2014 年改正し、育児休業制度の名称を 2014 年 3 月から「父 母育児休業制度」と改名(本文では、育児休業と称する)すると共に、2014 年 10 月から

「パパの月」を実施している1

しかし、2016 年の合計特殊出生率は 1.172 で、政府が育児休業の有給化を施行した 2002 年の 1.17 人と比べて改善がほとんどみられない。様々な政府主導の少子化対策は功を奏して いないと判断した政府は、2017 年 12 月 27 日、女性の仕事と育児の支援策を発表し、2018

1 裵海善『韓国の少子化と女性雇用』明石書店、2015年、第6、8、9章参考。

年下半期から実施することにした。主な対策として、現在の出産直後から利用可能な女性の 育児休業を2018 年下半期からは「出産前の妊娠期間から1年間」(2018 年男女雇用平等法 改正推進)となり、2番目の育児休業者(90%が男性)の給付金の月上限額を現在の 150 万 ウォンから月 200 万ウォンと高めた。なお、男性の配偶者出産休暇を現在有給3日から 2022 年まで段階的に拡大し有給 10 日にする予定である。

図表 6-1 仕事と育児の両立支 援にかかる諸政策と関連法(労働者支援)

内容 関連法律

妊娠・出産 による労働 者保護

妊娠期間中の勤労時間短縮

(1 日勤労時間が 8 時間以上の労働者基準) 勤労基準法第 74 条 8 項(妊婦の保護)

胎児健診時間 勤労基準法第 74 条 2、母子保健法 10 条1 時間外勤労禁止及び勤労転換 勤労基準法第 74 条 2

夜間勤労と休日勤労制限 勤労基準法第 70 条 2 有害・有害業種勤務禁止 勤労基準法第 65 条

配偶者出産休暇 男女雇用平等と仕事・家庭両立支援に関する法 律第 18 条 2

出産前後休暇給与制度

勤労基準法第 74 条、男女雇用平等と仕事・家 庭両立支援に関する法律第 18 条、雇用保険法 第 75~77 条 、雇用保険法 施行令第 100~104

育児・

保育支援

育児(授乳)時間(1 日 2 回、各 30 分) 勤労基準法第 75 条

父母育児休職制度

男女雇用平等と仕事・家庭両立支援に関する法 律第 19 条、雇用保険法第 70~74 条、雇用保険 法施行令第 94~99 条

パパの月

男女雇用平等と仕事・家庭両立支援に関する法 律第 19 条、雇用保険法第 70~74 条、雇用保険 法施行令第 94~99 条

育児期勤労時間短縮制度 男女雇用平等と仕事・家庭両立支援に関する法 律第 19 条の 2

家族看護休職制度 男女雇用平等と仕事・家庭両立支援に関する法 律第 22 条 2

保育料・養育手当支援

(0〜5 歳児の無償教育、所得制限なし) 乳幼児教育法第 34 条

注:勤労基準法は常時労働者 5 人以上の事業所が適用対象で、常時 4 人以下の労働者を使用する事業所の 場 合 は 、 大 統 領 令 の 定 め に よ り 一 部 の 規 定 を 適 用 す る こ と が で き る 。「 男 女 雇 用 平 等 法 」2018 年改正 により、5人未満の事業所も適用対象になる予定である。

2.現行制度概要

(1)出産休暇制度(制度名:出産前後休暇制度)

① 休暇期間

出産 休 暇制 度は、妊娠 中の女性の健康を保 護 し、出産による女性 労働者の離 職 を防止する のが目的である。使用者は、妊娠中の女性に出産前と出産後を通じて

90

日の出産前後休暇を

与えなければならない。休暇期間の配分は、出産前

44

日、出産日

1

日、出産後

45

日(義務)と しなければならない(勤労基準法

74

条1項)。出産が予定より遅れて出産前休暇が

45

日を超え た場合も出産後休暇は

45

日以上を与えなければならない。

② 取得要件

休暇期間中に給付金を受給するためには、「妊娠中の女性は事業主から出産前後休暇(又は 流産、死産 休暇)」を得 て、「出産前 後休 暇の終 了日 以前に、雇用保険 の被保険 期 間が通算し て

180

日以上」、「出産前後休暇開始

1

カ月から休暇終了後

12

カ月以内」に申請しなければな らない。

③ 出産前後休暇給与

出産休暇制度(出産前後休暇制度)は、1953年勤労基準法制定と共に、60日の休暇制度が 導入されたが、産休期間中の賃金は全額事業主負担であった。2001年

11

月から、出産休暇期 間は

60

日から

90

日へと拡大され、延長した

30

日分に関しては雇用保険から給付金が支給さ れるようになった。しかし、休暇期間中の給与は、60 日分は企業が負担し、雇用保険からの給付 金負担が

30

日分にすぎなかったため(上限

135

万ウォン)、企業側が女性の雇用を忌避する要 因になった。

2005

5

月、母性保護関連

3

法の改正により、優先支援対象企業(中小企業)2の場合、勤 労基準法上の通常賃金3相当額の給与が

90

日分の給付金として雇用保険から支給されるので

(限度額は

480

万ウォン、1 度に

2

人以上の子どもの場合

120

日分の

640

万ウォン)、事業主 の賃金支給の義務は免れる。大規模企業の場合は従来通り、最初

60

日分に関しては(1 度に

2

人以上の子どもの場合

75

日)事業主が支給し(義務)、その後の

30

日(45日)は雇用保険から 支給される。期間制労働者の場合、2018 年からは出産・育児支援が強化され、期間制労働者 の出産休暇期間中(90 日)契約期間が満了する場合も出産休暇給付金が支給されるよう(通常

賃金の

100%、月上限額 160

万ウォン)雇用保険法の改正を推進中である。

申請時期は、優先支援対象企業は、休暇開始

1

カ月から休暇終了後

12

カ月以内(休暇期間 中、30日単位で申請可能)、大企業は、休暇開始

60

日経過後

1

カ月から休暇を終えてから

12

カ月以内である。

④ 産前産後休暇分割使用

2012

年からは、勤労基準法改正(2012年

2

月公布、8月施行)により、「産前・産後休暇分割

2 優先支援対象企業は、雇用保険法施行令第12条により、「製造業500人以下の事業所」、「鉱業、建設業 、 運輸業、映像、放送通信及び情報サービス業、事業施設管理及び事業支援サービス業、専門・科学及び 技術サービス業、保険業及び社会福祉サービス業などの300人以下事業所」「卸売り及び小売り、宿泊及 び飲食業、金融及び保険業、芸術、スポーツ業及び余暇連関サービス業の200人以下事業所」、「その他 100人以下の事業所」、「中小企業法第2条1項および3項の基準に該当する企業」である。

3 韓国の給与体系は複雑で、大きく平均賃金と通常賃金にわかれる。「平均賃金」とは、これを算定しな ければならない理由が発生した日以前の3カ月の間にその労働者に支給された賃金の総額をその期間の 総日数で除して得られる金額をいう。労働者が就職した日が3 カ月未満の場合にあってもこれに準ずる

(勤労基準法第2条)。「通 常賃金」とは、勤労基準法施行令第6条により定期的に支給される所定勤労時

間に対する給与で、基本金と各種手当が含まれる。定期賞与は含まれない。

関連したドキュメント