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2.3 結果および考察

2.3.2 コーティング膜の組成

0 10000 20000 30000 40000 50000 60000

0 200 400

600 800

1000

Binding energy, eV

Intensity (cps)

0 20000 40000 60000

0 200 400

600 800

1000

Binding energy, eV

Intensity (cps)

(a) Open air

(b) Semi-closed

O1s

C1s

O1s

C1s

Fig. 2-11 XPS spectra of coatings obtained in different deposition atmosphere.

0 10 20 30 40 50

Semi-closed Open-air

O xy ge n e c on te nt s ( at .% )

Fig. 2-12 Comparison of oxygen content.

そこで次に酸素と炭素の化学結合状態を確認するために、XPSナロースキャンで得られたC1s ピークの波形分離を行った。Figure 2-13に異なる成膜雰囲気で得られたコーティング膜のC1sピー ク分離結果を示す。半密閉雰囲気で得られたコーティング膜のC1sピークはシャープな形状をして おり,炭素と酸素の結合に由来する成分はわずかであることが分かった。これに対し開放雰囲気 で得られたコーティング膜のC1sピークは高結合エネルギー側に広がったピーク形状を示してお り、波形分離の結果からC-O、C=O、COOといった炭素と酸素の結合状態が多く存在することが 確認できた。この結果は先に示したFTIRの結果と一致する。これらの結果から、開放雰囲気中の 成膜ではプラズマにより活性化されたアセチレンと雰囲気空気中の酸素が反応し、酸素と結合し た炭素を多く含んだコーティング膜となることが明らかになった。また半密閉雰囲気で得られる コーティング膜は主に炭素、酸素、水素から構成されていることからアモルファスカーボンであ ると推測される。

0 1000 2000 3000 4000 5000

280 285

290 Binding energy (eV)

In te ns it y ( c ps )

0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600

280 285

290

Binding energy (eV)

In te n si ty ( cp s)

(b) Semi-closed (a) Open air

COO C=O

C-O

C-C

Fig. 2-13 Comparison of C1s spectra.

そこで、XRDを用いてコーティング膜中の結晶構造の有無を確認した。Figure 2-14に半密閉雰 囲気で得られたコーティング膜のX線回折パターンを示す。得られた回折パターンはアモルファ ス構造に基くブロードなピークのみを示しており、結晶構造に起因する回折ピークは見られなか った。このことから、半密閉雰囲気で得られたコーティング膜は水素化アモルファスカーボン

(a-C:H)と考えられる。

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

10 20 30 40 50 60 70 80 90 2θ (degree)

In te ns it y

Fig. 2-14 X-Ray diffraction pattern of coating deposited in semi-closed atmosphere.

Figure 2-15に異なる成膜雰囲気で得られたコーティング膜のラマンスペクトルを示す。半密閉

雰囲気で得られたコーティング膜ではsp2炭素同士の結合における伸縮振動に起因するGバンドが

1600 cm-1付近にわずかに見られたが、1350 cm-1付近のDバンドは確認できなかった。Gバンドは

グラファイト構造以外に、鎖状に連なったsp2炭素同士の結合によってもピークを示す[5]。一方、

1350 cm-1付近に現れるDバンドはグラファイト構造六員環のブレッシングモードによる。Gバンド のみが見られたことから、半密閉雰囲気で得られたコーティング膜は明瞭なグラファイト構造を 持たず、鎖状炭化水素のネットワークから成るポリマーライクなアモルファスカーボンと考えら れる。開放雰囲気で得られたコーティング膜についてはいかなるピークも観察されなかった。ま

た、どちらのコーティング膜も高いベースライン強度を示している。アモルファスカーボンのラ マン分析において、ベースラインの強度とアモルファスカーボン中の炭素と結合した水素量に正 の相関があることが多くの研究者により明らかにされている[28,31-32]。特に比較的水素量が多い a-C:Hでは、高いベースラインのためにアモルファスカーボンで特徴的なピークであるGバンドや Dバンドが見られないことが知られている[32]。本実験において半密閉雰囲気で得られたコーティ ング膜のラマンスペクトルは、典型的な高水素含有量a-C:Hのスペクトルと言える。つまり半密閉 雰囲気で得られたコーティング膜は水素を多く含んでいると推測される。そこでGD-OESにより半 密閉雰囲気で得られたコーティング膜の水素含有量を測定した。その結果、水素含有量は45 atm%

であることが分かった。アモルファスカーボンの水素含有量は最も多いもので 50 atm%程度であ ることから[32]、本実験で得られた水素含有量はa-C:H膜としても高い値と言える。これらの結果 から、半密閉雰囲気で得られたコーティング膜は、RobertsonとFerrariらが提唱したアモルファス カーボンの三元状態図(Fig. 1-1-5)におけるポリマーライク水素化アモルファスカーボン(HC polymers)に相当すると考えられる。

0 100 200 300 400 500

1000 1200

1400 1600

1800 2000

Raman shift (cm

-1

)

In te n si ty

(a) Open air (b) Semi-closed

Fig. 2-15 Raman spectra of coatings obtained in different deposition atmosphere.

成膜雰囲気の違いによりコーティング膜の化学構造に大きな差が生じていることが明らかとな ったが、このことはコーティング膜の機械的特性にも影響を与えていると考えられる。Figure 2-16 にそれぞれのコーティング膜のインデンテーションカーブを示す。これを見ると成膜雰囲気の違 いによりコーティング膜の機械的特性が異なっていることが分かる。インデンテーションにより 得られた表面硬さおよびヒステリシスロスの比較をFig. 2-17に示す。半密閉雰囲気で得られたコ ーティング膜のほうが硬く、その値は1.3 GPaであった。これは従来のいわゆるDLCの硬さよりも 一桁小さい値であり、アモルファスカーボンとしては非常に表面硬さが低いと言える。またヒス テリシスロスについては、開放雰囲気で得られたコーティング膜で92 %と高い値を示した。この ようなコーティング膜の硬さや粘性の差は、トライボロジー特性にも大きな影響を与えると考え られる。

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

0 0.05 0.1

Displacement (µm)

Load (mN)

Hysterisis loss

(b) Semi-closed

0

0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

0 0.05 0.1

Displacement (µm) Load (mN) Hysterisis loss

(a) Open air

Fig. 2-16 Comparison of indentation curves.

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2

Semi-closed Open air

S ur fa ce h a rd ne ss ( G P a )

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

H y s te re si s lo s s (% )

Fig. 2-17 Comparison of surface hardness and hysteresis loss.