VLSI
4.5 コモンモードノイズの見積り
コモンモードノイズは、複数のチャンネルが同じ位相で揺れるノイズのことである。多チャン ネルのアナログ VLSIでは、1イベントごとに、信号が入力されていないチャンネルの波高値の 平均値をとり、信号が入力されたチャンネルの波高値から差し引くことで、この影響を低減する とともに、コモンモードノイズ以外の成分を調べることが可能である[25]。
ここでは、コモンモードノイズを中心に評価するために、データ取得のタイミングを変更した。
本VLSIの基本的な動作モードでは、信号を待ち受ける間はピークホールドゲートが開いており、
その中で最も高かった波高値が記録される。これは、回路の簡素化を狙って、コンパレータ入力を
4.5. コモンモードノイズの見積り 43
図4.8: 入力容量と入力換算ノイズの測定結果とシミュレーション結果
ピークホールド入力と共用したために、トリガーを受けてからピークホールドゲートを開くモー ドでは、特に低い波高値の信号を正しく取得できないためである。これではコモンモードノイズ 測定が困難なので、図4.9のようにセットアップを変更した。具体的には、テストパルス入力と 同期して、ピーキングタイム後にサンプルホールドだけかけることにした。
測定は、13 ke− 相当のテストパルスを入力して行ない、CSAの帰還容量は0.05 pFとした。ま た、CSAの減衰時定数を 12 µs、波形整形回路のピーキングタイムを 2.1 µs にそれぞれ設定し た。読み込んだ8チャンネルのうち、テストパルスを入力した1チャンネルを基準とした。1チャ ンネルはノイズが他のチャンネルと著しく異なっていたため、残りの6 チャンネルの平均をコモ ンモードノイズだと考えた。コモンモードノイズを差し引く前のスペクトルが、図4.11であり、
差し引いた後のスペクトルが図4.12である。ピークの位置が移動しているのは、DCオフセット の違いである。この測定の結果、コモンモード差し引きで、ノイズレベルが425 e− から365 e− に低減できることが分かった。
この測定を用いて、本セットアップでのノイズ成分を考察した。各チャンネルのノイズ成分が、
コモンモードノイズe2cmd と、チャンネル固有のノーマルモードノイズe2nml の和であるとし、全 チャンネルでこの値が同じだと仮定する。この時、N チャンネルを用いてコモンモードノイズの 差し引きをした時の、あるチャンネルのノイズレベルederived は、
ederived = s
e2nml+
N
X enml
N 2
(4.1) と与えられる。ederived は、ecmd がNの関数であることを用いて、実験結果を計算したところ、
enml = 340e− と求まった。これによりこの測定におけるコモンモードノイズは、 217 e− と求 まる。
本節の冒頭で述べたように、本アナログVLSIでは基本的にピークホールドゲートを開き続け る運用を考えてきたため、コモンモードノイズ差し引きの効果が出にくい。次のアナログVLSI を設計する時には、コモンモードノイズ差し引きがよりやりやすい工夫が必要である。一方で、
コモンモードノイズは外来ノイズに由来することが多いため、このようなノイズをより減らせる ように評価基板やセットアップを工夫すると同時に、外来ノイズの影響をより受けにくいVLSI 設計に工夫が必要であろう。この詳細については、第4.7節で述べる。
44 第4章 製作したアナログVLSIの検証と評価
generatorGate
generatorGate
VLSI
Register
set P/H gate S/H gate Trigger
P/H out
ADC
ADC start
input
DAQ board
Digital I/O
Test pulse
8ch
CPU
PCI bus differential current
TTL Pulse
generator
Trigger out
Trigger inhibit
8ch
8ch MUX
図4.9: 変更後のセットアップ。
TP
10us
trigger out
S/H P/H
ADC start Pulse generator
Trigger inhibit
図 4.10: 変更後のタイミングチャート。