第 2 章 資産価格変動のコピュラとポートフォリオの信用リスク 39
2.6 コピュラを用いた CDO の評価
2.6.3 コピュラの違いが CDO の評価に及ぼす影響
コピュラの違いがCDOの評価に与える影響を考察するため,2.2節で示した(1)正規,(2)t, (3)反転ガンベル,(4)クレイトン,(5)フランクの5つのコピュラを比較する.等質なCDOを 評価するため,(1),(2)の正規コピュラ,tコピュラでは相関行列のすべての非対角要素が一定 のρであるとする.(2)のtコピュラでは自由度については先験的に与え,具体的には20,6, 3の3種類を考える.したがって,対象とするコピュラはすべて1パラメータとなる.
資産価格のヒストリカルデータを用いて価格変動間のコピュラのパラメータを決定すること を考えると,パラメータは2.5.2, 2.5.3 節で考察したように対象となる観測期間全てのデータ を用いて最尤推計等により求めたり,あるいは,パラメータが1つだけであれば順位相関に合
わせてパラメータを求めることができる.ここでは,順位相関としてケンドールのタウに合わ せてパラメータを求めることとする.
考察する等質なCDOの具体的な設定は,稲村・白塚 [2008]と同様に参照債務数:n=100, 満期:T =5(年)とし,各債務については一般的な回収率の設定(40%一定)と比較的高め なデフォルト確率(5年で5%)を考える.典型的な正規コピュラのρとしては0.15を考える.
このとき,ケンドールのタウτKは0.096であり,この順位相関を持つ各コピュラのパラメー タはクレイトンコピュラ:α = 0.21,反転ガンベルコピュラ:γ = 1.11,フランクコピュラ:
δ= 0.87で与えられる49.トランシェの分け方は,典型的なρ= 0.15の正規コピュラを想定し た場合にスーパーシニアがAAA格以上,シニアがAA〜AAA格程度,メザニンがBBB〜A格 程度を確保できるよう表2.9のようにトランチングする.
表2.9: CDOのトランチング
トランシェ エクイティ メザニン シニア スーパーシニア アタッチメント 0% 6% 18% 36%
デタッチメント 6% 18% 36% 100%
このとき,各トランシェの期待損失率から計算される(2.96)式のスプレッドは表2.10のよう になる.以下すべてのシミュレーションは100万回のパスで評価している.tコピュラについ ては自由度20,6,3での結果が,それぞれt(20),t(6),t(3)の行に示されている.表2.10よ り,下側裾依存性の弱いフランク,正規コピュラではエクイティのスプレッドを高めに推定す るものの,シニア,スーパーシニアといった上位トランシェのスプレッドについては低めに推 定してしまうことがわかる.例えば,シニアのスプレッドは正規コピュラでは0.65であるのに 対し,自由度3のtコピュラでは21.81,反転ガンベルコピュラでは19.04となっており,裾依 存性の認識の差が上位トランシェのリスク認識に大きな違いを生じさせることがわかる50.
図2.5は,CDOの各トランシェについて,想定するコピュラの種類ごとに,参照資産の順位 相関を変えた場合にスプレッドの評価値がどのように変化していくかを図示したものである.
横軸は順位相関を正規コピュラの相関ρに換算して表示しており,縦軸は各コピュラに基づき 計算されたスプレッドを表している.
図2.5より,エクイティでは裾依存性の弱いフランクや正規コピュラでのスプレッドが高い が,シニアでは裾依存性の弱いフランクや正規コピュラでのスプレッドは低く見積もられるこ とがわかる.相関ρに対する感応度の観点では,エクイティではどのコピュラでも相関の上昇に 伴いスプレッドは下落している一方,上位のトランシェでは相関の上昇に伴いスプレッドは上 昇している51.仔細にみると,メザニントランシェでは相関ρが0.05と低いときに正規コピュ
49tコピュラのケンドールのタウτKは,表2.2で示しているように自由度νに依存せず,正規コピュラと同じ形 式で表現される.このため,t(20),t(6),t(3)ともにρ= 0.15のケースがτK= 0.096に対応する.
50Burtschell, Gregory and Laurent [2009]でも,同じようにコピュラを用いたCDO評価法の比較を行ってい る.ただし,Burtschell, Gregory and Laurent [2009]ではコピュラ間の比較に際して順位相関を一致させるので はなく,1パラメータのコピュラについてエクイティのスプレッドが等しくなるようにパラメータを設定し,上位 トランシェの市場価格を説明できるモデルを考察している.すなわち,1つのパラメータで全てのトランシェの市 場価格を説明できるコピュラモデルはどのモデルかを検討している.一方,本節の分析はトランシェの市場価格を 所与とするのではなく,各債務の状態を表す資産状態変数の順位相関が株価の過去の変動などに基づいて推定され るような場合に,コピュラによってトランシェの市場価格がどのように変化するかという観点から考察している.
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小宮[2003]でも指摘されているように,相関に対する感応度の観点では,相関を強めることに伴い上位のトラ
ンシェに損失リスクがより多く配分される結果として,エクイティのスプレッドは下落する.一方,シニアでは,相 関を強めると損失リスクがより大きく及ぶこととなりスプレッドは上昇する.
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
050010001500
(bp)
ρ
(a)エクイティ
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
050100150200
(bp)
ρ
(b) メザニン
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
020406080
(bp)
ρ
(c)シニア
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
0246810
(bp)
ρ
(d)スーパーシニア
1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0
0.00.20.40.60.81.0
Index
x
正規
反転ガンベル
t(20) クレイトン
t(6) フランク
t(3)
図2.5: 相関に応じたスプレッド
備考: 横軸は順位相関を正規コピュラの相関ρに換算して表示したもの.縦軸は対応する各 コピュラに基づくスプレッドの評価値(単位:bp)
表 2.10: 各トランシェのスプレッド(ρ= 0.15)単位:bp コピュラ エクイティ メザニン シニア スーパーシニア
正規 1,147.43 63.38 0.65 0.000
t(20) 1,061.07 86.94 2.33 0.002
t(6) 899.52 127.82 9.11 0.043
t(3) 735.55 165.40 21.81 0.196
反転ガンベル 1,018.34 59.01 19.04 2.685 クレイトン 860.61 135.77 12.65 0.099
フランク 1,324.02 15.54 0.00 0.000
ラではほぼ0のスプレッドを算出してしまうが,下側裾依存性の強い自由度3のtコピュラで
は150bp程度と非常に高いスプレッドを算出する52.シニアトランシェでは自由度の低いtコ
ピュラや反転ガンベルではスプレッドが高く見積もられ,相関ρの高まりに対してほぼ線形に スプレッドが上昇するが,正規コピュラや自由度の高いtコピュラでは下に凸の形状となって おり,相関ρの高まりに対して期待損失率の認識が急激に高まることを示唆している53.
ここで,各トランシェを期待損失が一定の金額になるように保有することを考える.スプレッ ドが小さいときにはそのトランシェについて多額の元本を保有することになる.このとき,相 関ρが変化したときのスプレッド変化率が大きいと,元本が多額であることから期待損失額の 見積もりも大きくなる.そうした状況で当該トランシェを保有し続けるには,多額の資金を調 達する必要が生じてしまう.そこで,図2.5の結果を用いて相関ρを0.05上昇させた際のメザ ニンおよびシニアにおけるスプレッドの変化率をフランク以外のコピュラについてみると,表 2.11のとおりとなる54.例えば,シニアのρ = 0.15での正規コピュラの値7.74は,ρ = 0.15 のスプレッドとρ= 0.10のスプレッドとの比である.この表から,正規コピュラに基づくスプ レッド変化率が相対的に大きいことがわかる.すなわち,正規コピュラモデルが他のt,反転 ガンベル,クレイトンといった下側依存性の強いコピュラに基づくモデルに比べて相関ρの変 化に対して脆弱な判断を導きやすいと考えられる55.