本章は,次章の熱力学形式論を扱うのに必要となる力学系を準備する.本章以降扱う力学 系は,クッキー・カッター系と呼ばれるものである.前半では,このクッキー・カッター系 を定義し,クッキー・カッター集合と呼ばれる反発子(repeller)の導入をおこなう.これ は,反復関数系で述べたアトラクターに相当するものであり,フラクタル集合となる,後半 では,このクッキー・カッター集合上定義されたりプシッツ関数を用いて,有界変動原理を 述べる.更に,この有界変動原理を利用して,有界歪曲原理を導き出す.この有界歪曲原理 は,ある集合における十分小さな任意の近傍が,過度な歪曲を受けることなく変換されるこ
とによって,その集合のより大きな部分へと写される 概自己相似 な集合の考えを導くも のである,
2.1 クッキー・カッター集合
簡単のために,反復関数系は2つの写像からなるものを扱い,更に,Rの部分集合X上で
考えることにする.とはいえ,これから述べる内容は,Rηの部分集合上へ一般化できるものである.
xを空でない有界な閉区間とし,X1, X2はXの部分集合で互いに素であるとする.ま
た,写像∫:XIUX2→Xは, X1, X2をそれぞれXへ全単射に写すものとする.更に,!は連続導関数をもち,拡大していると仮定する.すなわち,すべてのの∈XIUX2に対して げ (剛>1を仮定する.この!を使って,点を反復することによって与えられる力学系を 扱っていく.特に,興味を示すべきは,升を∫のん回反復を表すとして,
E二⑫∈X:すべての鳶=0,1,2,..に対してノん(勾∈XIUX2} (2。1)
となる集合である.すなわち,Eは∫の反復下でXIUX2の中に残った点の集合である. E
は,升の逆像を考えることで,E=∩!一た(X)と表せる.従って, Eはコンパクト集合か たニリ
らなる減少列の共通集合として表せることより,集合Eはコンパクト集合であり,空集合で はない.明らかに,¢∈Eとノ(の∈Eは同値であることより,
∫(E)=E=∫一1(E) (2。2)
28
一 、 m 、 、
、
、
、
1
i 1 ヂ
1 1
8 1
x2 X2
0
④ 1
1
8
輯 ●, 口 E 鱒 一 ●. 囎 覧亀
8 覧
1 、
8 覧
図2・1・関数∫に対する反発子Eの例
となり,Eは∫の下で不変である.更に, Eは次の意味で反発子でもある:どんなにEの近くに ある点であってもEの元でない点は,∫の反復下において,いずれX1uX2の外へ写されてしま
う性質をもつ.実際,図2.1の例では関数∫:XIUX2→[0,1]に対して,集合E=∩ノーん[0,1]
たニつ
は,ノに対する反発子となり,すべての¢≠Eに対して∫ん(の→一〇〇(ん→oO)となる.
この状態を観察する方法に,反復関数の逆像による考え方がある.いま,F1,凡:x→X
を∫の逆対応による2本の枝として定義する.すなわち,nと凡は, XをX1とX2にそれ
ぞれ全単射に写す,
F、(勾=がω∩X1,瑞ω=∫一1(勾∩X、
で定義されるものとする.このとき,
∫ω一儲謝ll:糊 (2.3)
となる4は,コンパクト集合XIUX2上で1/1(z)1>!となる連続導関数をもつので,すべての
。∈X、UX、に対して,1<⊥≦1! (。)1≦⊥.<。。を満足する蜘く。m、。<。m。xく1が
じじ の ロ
存在する.また,逆関数、F1,瑞は微分可能で,¢∈Xに対してCmi.≦lFl(の1,1罵(釧≦Cm。。
となることが導かれる.平均値の定理より,ゼ=1,2に対して,
Cm三n挺一yi≦i瓦(勾一1弓ω)1≦Cmax挺一訓 (¢,㌢∈X) (2.4)
となる.(2.1)から,∫の反発子Eは,
E=E(E)U」ら(E) (2.5)
2.クッキー・カッターと有界歪曲
30
を満足する.なぜなら,nと瑞はX上の縮小写像であるので,定理L8.3より,等式(2.5)を満足する唯一空でないコンパクト集合Eが存在するからである.従って,∫の反発子Eは IFS{凡1㌔}のアトラクタ「である.
1.8節と同じように,反復関数系と結びつけて考えられる区間を,1と2からなる列1ん=
{(嘱¢2,...,勾:ら=1又は2}で表示し,更に,∬=UIたとする.特に,各i=(嘱¢2,...,毎)
たニむ
に対して,Xi=&、,62,_4た=瓦、 o瓦、 o…oへ(X)と書く.従って,弛:溜→Xは逆写像
瓦、0瓦、0…oEんによる閉区間とXの間で全単射となる.更に,一般には,各ん≦mに対
して,井:&玉,ピ、,_編→X秘+、隔2,_嗣も全単射となる.XIUX2⊂Xは互いに素な集合より,すべてのiに対してX{,1UXI,2⊂瓦も互いに素な集合からなる.従って,疎≡UXi
i∈1鳶とすれば,列{疎}鴇。はコンパクト集合の減少列で,琢は2欄の互いに素な閉区間からな
る.(L38)E=∩疎よりEは演者連結であり,カントール集合と位相同値である.なお,
んコ
全不連結とは,どの連結成分も1点からなる位相空間をいう.
(2.4)を使用することで,すべてのi∈Ia=1,2に対して,
Cmin lXi l≦lXi訓≦Cmax lXi l (2.6)
となる.
最も騨な駄写像∫・[・,1]U[1,1]→[・,1]に対応する(1・34)カ・らなるIFS{脇}で
ある・従っ飯発刊はカントール3進集合となり溜・は長さが艶小区間2・個からな
る.しかしながら,本論文で扱っていくのは,171,乃が必ずしも相似な写像でない場合である.
この節で述べてきた型の力学系∫:X1 u X2→X又は同義となるX上のIFS{F1,凡}は,
(本論文の題目に現れる)クッキー・カッター系と称され,集合Eはクッキー・カッター集 合と呼ばれる.一般に,写像F1とF2は相似変換ではなく, Eは 歪められた カントール 集合となる.それにもかかわらず集合Eは おおよそ自己相似 となる.
2.2 有界変動原理と有界歪曲原理
∫:X1 U X2→Xを,前節で述べたIFS{F1, F2}と反発子Eに対応したクッキー・カッ
ター系とする.また,φ:XIUX2→Rはりプシッツ関数とする.すなわち,ある数α>0
が存在して,
1φ(諮)一φω)i≦α1¢一yl (ω,y∈X1uX2) (2.7)
を満足するとする.本論では,ノによる点の連続した反復でのφの値に着目していく.特に,
ん=1,2,..。に対して,
3・φωrφ@)+φ(!@))+φ(∫2@))+…+φ(押(・))
た ユ
=Σφ(ノゴ(勾) (2.8)
ゴニ0
と書き,これを評価していく.なお,亀φ(勾は,あるi∈1鳶に対して準備された謬∈Xiで 定義されている.もし,切∈Xに対してω=E、。瓦、。…。1㌦(切ならば,
ゐ
3・φ(瓦1Q瓦、・…。へ(ω))一Σφ@・君、+、・・…へ(ω)) (2・9)
ゴ=1
となる.
命題2.2.1 (有界変動原理)
φ:X→Rを,αをリプシッツ定数に持つリプシッツ関数とする.
1)すべての焉=1,2,_とすべての④,乞2,_擁)∈1たに対して,コじ,〃∈X歪1,2、,_,2んならば
i3鳶φ(ω)_5鳶φ(〃)1≦δ (2.10)
を満足する数6が存在する.・
2)更に,一般にすべてのg≧んとすべての(Z1,Z2,。・・ラZq)∈Igに対して,¢, y∈X¢、,ゼ、,_4,な
6らば
1θ鯛一勒)1≦画IX・・+1…+・・…副 (2・11)
を満足する.
【証明】(1)の証明) (2.4)を繰り返し用いることで,すべての(乞1,ち,...,勾∈∫に対して,
lX熊、,_,2」=1瓦10瓦20…。へ(X)1≦C盆axlXlを得る.もし,ω, y∈X11,ゴ2,_4彦ならば,
ブ=0,1,_み一1に対して,∫ゴ(の,ノゴ(の∈Xl、+恥+2,_,唇鳶である.よって,
iφ(爾)一φ(!ゴω)1≦・1爾イゴω1 ≦・1茂+。ら+、,…副
=α1瓦、+、○瓦フ+、o…oへ(X)1 ≦ αc塩蔓lxi
となる.従って,
ん ユ た ユ
13・φ@)一5・φω}一1Σφ(!」(・))一Σφ(細)i ゴニ0 ゴ篇0
ん エ
≦Σ1φ(∫ゴ@))一φ(∫ゴω)1
ご
≦Σ・・認IXI
トむαCmax lXl ≦
1−Cmax
2.クッキー・カッターと有界歪曲
32
αCmax lX 1
とおくことで,(2.10)が得られる.となる.ここで,6=
1−Cm砥
(2)の証明) ¢,ツ∈Xlf,ゴ2,…,歪ん,_,ゴ,ならば,ブ=0,1,_汐一1に対して・∫ゴ(勾,!ゴ(y)∈
凡フ+1,ら+2,_,毎,...ゆすとなる.更に,
1φ(∫ゴ@))一φ(∫ゴ(シ))1≦αC塩讃X2k+、擁+2,_,ぎql
より,
・・_IX幅づ、+、,…,馨,I l5鳶φ(躍)一3たφ(ン)1 ≦
1−Cmax b
=画IX幅・隔・,…初1
が得られる. E]
ここで,(2.10)を変形した式
き≦il鵠;≦♂ (2・12)
が,しばしば役立つことがあることを注意しておく.
∫:XluX2→Xは,02級であるとする.そうすれば,逆関数F1と凡もまた02級であ
る.このとき,¢∈X1UX2に対して,φ(ω)ニー一logげ (卯)1 (2.13)
を選ぶ■∫ (コ6)1>0であることより,関数φはXIUX2で有界連続な第1導関数をもつ.平 均値の定理によって,φはりプシッツ条件を満足する.すなわち,(2.13)によって選んだφは
りプシッツ関数となる.
関数の合成語の導関数に対して連鎖律(chain rule)を用いることで,
(∫た) (の=∫ (!ト1@))×∫ (∫鳶一2(・))×…×∫ @)
を得る.この両辺の絶対値の対数を取ることで,
一1・gl(ハ @)}=一1・9}ノ (ノ厨(・))・ノ (ノ鳶㌔))×…×ノ (・)i
ん
=Σ一1・glノ (∫ゴ(勾)1
ご
=Σφ(∫ゴ(・))
ゴ=0 =3たφ@)
(2.14)
(2.15)
(2.16)
を得る(これは,ブ=0,1,_四一1で∫ゴ(の∈X、UX、,すなわちの∈U渇のとき成り
立っている).従って,穐φは似回反復の導関数という点から,熱説明をつける
ことができる.
命題2.2.2 (有界歪曲原理)
すべてのん=1,2,_とすべての@,¢2,...,勾∈姦に対して,¢∈X謬、,ゴ、,_4kならば
よ≦ix−ll(鯛1≦6・ (2・17)
を満足する数60が存在する.更に,升:X茗、,2、,..4k→Xは,すべてのン, Z∈X耽,..。 廊に対 して
1午1≦i細一鋼ix−1≦6・ly一・1 (2ユ8)
を満足する.
【証明】 瓦、,歪、,..4ん=瓦1。瓦、Q…。君ん(X)とする.このとき,升:濁、,乞2,_ゆ海→xは微分可能 で全単射である.跳に平均値の定理を利用すると,y, Z∈Xぎ、,ピ、,_4、に対して,ω∈&、冨、,..4ん が存在し,
ノた(y)一∫ゐ(之)=(2ノーz)(ノん)ノ(ω) (2,19)
を満足する.
今,凡、,客、,_,ぜたの端点としてシと之を選ぶことで,∫ん(ッ),∫鳶(のはXの端点となる.従って,
あるω0∈Xづ1,ピ2,..4んに対して,
IXHx、、,、、,…,秘il(∫り (ω。)1 (2.20)
となる.(2.16)を用いて(2.12)の形で有界変動原理を利用すれば,すべての¢∈X師、,..4海に 対して,
き≦}鵠!l留1≦♂ (221)
を得る.この結果に,(220)を組み合わせることで,
⊥<lx肋,…㍊(∫り (釧くeう
θゐ『 IXI 一
となり(2.17)を得る.
次に,(2.21)でω=ω∈X乞、,ゴ2,_,毎とおくことで,
歩≦1総収ト・
となり,
尋≦Kノリ @川x、1ぬ,_姦1≦IXIθ・
e
を得る.従って,
學レ。1≦陶イ・(。川x、1翻≦回IXI。・
θ
2.クッキー・カッターと有界歪曲
34
となり(2.18)が得られる.なお,60はIXIと6のみに依存している. 口
(2.17)を次のように表現することもある:すべてのω∈Xに対して,
よ≦1(馬。讃警畿γ(、,)1≦妬・
特別な場合として,瓦,馬が相似比C1, C2の相似変換であるとすれば,∫ (¢)はXl・、4、,...4ん 上で一定である.しかも,変数はXl、ぬ,_4み=C 、q、…QたIXIで減少する.この結果は,反 発子Eが自己相似集合になることを期待させるものである.
有界歪曲原理の有用な点の1つは,各iに対して,Xi,1とx圭,2が,瓦の中で分別よく分 離されていることである.おまけに,Xiはある決まった方法で,次の系で述べられる球(区 間)と比較可能である.
系22.3 Eをクッキー・カッター集合とする.また,4=d説(X1,X2)とする.
1)すべてのi∈1に対して,
d
蘇IX・1≦劃X・・1,X…)≦IX・1 (2・22)
を満足する.
2)λ一泰とする・すべてのiに対して・薦㈱咽≦・<豊であるならば
β(∬,λr)∩1ヨ⊂Xi∩五1⊂β(必,γう (2。23)
を満足する.
【証明】(1)の証明) 写像井:Xi→Xは,微分可能で全単射であり,(2.18)を満足する.
ノ鳶(の∈X1,ノた(の∈X2が1∫た(の一井(z)}=4を満足するように,シ∈Xi,1, z∈X葦,2を取 れば,(2.18)の右側の不等式より,
響4≦畷脳・)
となり,(2.22)の左側の不等式を得る・更に,Xi⊃Xi,1 U XI,2だから,明らかに(2.22)の右 側の不等式は成り立つ.
(2)の証明)λ一器・酬x汐く鵯より・
4 4
死ix・1・m・・≦λ「<死IX・i≦4ピ蝋・・X・・)
となり,λr<d麟(Xi,、,Xi,2)を得る.¢∈Xi∩E,j≠iとなるすべてのj∈1んに対して,
この結果を利用すると,