第 3 章 窓ガラスの汚れ検出 49
3.2 窓ガラス汚れ検出方法
本節では,小型窓ガラス清掃ロボットへの搭載を考慮して,汚れをオンラインで 検出するための方法を提案する.
客観的な窓ガラスの汚れ検出手法としては,光を利用した方法が簡便で現実的で あり,汚れの程度によって窓ガラスを透過する光量が変化することを利用した透過 型の汚れ検出方法[19]が提案されている.この透過型の汚れ検出方法では,窓ガラ スを挟んで発光部と受光部を常に対向させる必要がある.しかし,本研究で汚れ検 出センサの搭載を想定しているロボットは,汚れや水の影響を減らして安定して移 動する必要があるために,図2.12に構造を示す磁石吸着方式を採用している.この ため,清掃ユニット側のスポンジとスクイジによる摩擦抵抗によって,スティック スリップが生じ,駆動ユニット側の発光部と清掃ユニット側の受光部の位置がずれ て,透過光の受光が不安定になる.したがって,透過型の汚れ検出方法は適用でき ない.
そこで,窓ガラスから反射される光量が汚れの程度によって変化することを利用 して,発光部と受光部を用いて窓ガラスからの反射光量を測定して汚れを検出する 方法を提案する(図3.5参照).実線が発光部からの入射光を,破線が窓ガラスから の反射光を,一点鎖線が透過光を示している.駆動ユニット側に発光部と受光部の 両方を配置可能なため,スティックスリップの影響を受けずに安定して反射光を受 光できる.
提案する窓ガラス汚れ検出方法において,清掃ユニット側の汚れの程度によって
窓ガラスからの反射光量が変化する理由を以下で議論する.
物体に入射する光は,その一部が反射され,一部が吸収され,一部が透過される.
光の反射とは,光が屈折率の異なる物質間の境界面で跳ね返る現象である.また,光 の吸収とは,光のエネルギーが物体に取り込まれる現象であり,光の透過とは,光 が物体を通過する現象である.ここで,入射光に対する反射光の割合である反射率 をRR,入射光に対する吸収光の割合である吸光率をRA,透過光の割合である透過 率をRT とすると,エネルギー保存則より,
RR+RA+RT = 1 (3.1)
が成り立つ[37].すなわち,物体に光が入射する時に反射・吸収されない光が物体 を透過する.
ガラスは可視光の波長約0.36µm∼0.83µmに近い大きさの界面,孔,含有物をも たない.このため,ガラス内で反射・吸収される光は非常に少なく,ほとんど透過 される.また,波長が約0.7µm∼2.5µmの近赤外線も可視光と同様に,ガラス内で 反射・吸収される光は非常に少なく,ほとんど透過される.これに対して,波長が 約0.01µm∼0.4µmの紫外線と波長が約4µm∼1000µmの遠赤外線は,非常に多く吸 収されるため,ほとんど透過しない.図3.5に示す提案手法において,清掃ユニット 側の汚れによる反射光を検出するためには,発光部から入射される光がガラス内を 透過する必要がある.したがって,入射光には,ガラス内をよく透過する可視光ま たは赤外線を用いる.
提案する窓ガラス汚れ検出方法において,汚れがない場合と,窓ガラスの清掃ユ ニット側に汚れとして指紋とほこり,粒子径が小さい砂A,粒子径が大きい砂Bが それぞれある場合に,発光部から入射される光がどのように反射されてから受光部 で受光されるかを以下に順に示す.
3.2.1 汚れがない場合
光の反射とは,屈折率の異なる物質間の境界面で生じる現象である.空気の屈折
率nairは1.0[38]であり,窓ガラスとして一般的に用いられているフロートガラスの
Glass (Clean)
nair=1.0 nglass=1.52 nair=1.0
Rglass-air=0.043 Rglass-air=0.043
Fig. 3.6 Light reflection from a clean glass
Specular reflection Diffused reflection Uneven surface Even surface
Fig. 3.7 Specular reflection and diffused reflection
屈折率nglassは1.52[39]である.空気とガラスの屈折率が異なるため,空気とガラス
の境界面では反射が生じる.
そこで,提案する窓ガラス汚れ検出方法において,汚れがない場合は図3.5の左側 に示すように,まず,発光部からの入射光の一部が駆動ユニット側の空気とガラス の境界面において反射される.実線が入射光を,破線が反射光を,一点鎖線が透過 光を示している.次に,残りの反射されない光は,入射光として可視光または赤外 線を用いるため,ほとんど反射・吸収されずにガラス内をそのまま透過する.その 透過光の一部が清掃ユニット側のガラスと空気の境界面において反射される.残り の反射されない光は空気中を透過する.したがって,駆動ユニット側と清掃ユニッ ト側の空気とガラスの境界面における反射光が,受光部で受光される.
空気とガラスは共に絶縁体であり,絶縁体間の境界面における光の反射率RRは,
以下のフレネルの式より求められる[38].
RR =
(n1−n2 n1+n2
)2
(3.2) ただし,n1,n2は,それぞれ境界面をつくる物質の屈折率である.図3.6に示すよう に,窓ガラスに汚れがない場合は,n1 =nglass = 1.52, n2 =nair = 1.00であるので,
式(3.2)よりガラスと空気の境界面における光の反射率はRglass−air = 0.043と計算 される.この反射率をもとに汚れがある場合との比較を行う.
ところで,光の反射は,境界面の形状により2つに分けられる.1つは,図3.7の
左側に示す,滑らかな境界面における反射である鏡面反射であり,もう1つは,図 3.7の右側に示す,凹凸があり滑らかでない境界面における反射である拡散反射であ る.実線が入射光を,破線が反射光を,一点鎖線が透過光を示している.拡散反射 では,鏡面反射と異なり,入射光は,様々な方向に反射される.このため,提案す る窓ガラス汚れ検出方法において,同じ反射率であっても,拡散反射する割合が多 いほど受光部における受光量は減る.空気とガラスの境界面は比較的滑らかなため,
鏡面反射が主である.これに対して,汚れによっては拡散反射が主となることがあ るため,汚れの表面性状は重要な要素である.そこで,汚れの表面性状も考慮した 物体間における光の反射率を等価反射率RR′ とする.等価反射率R′Rは拡散反射す る割合が多いほど小さくなる.以降では,この等価反射率R′Rを用いて汚れがある 場合との比較を行う.
3.2.2 指紋がある場合
提案する窓ガラス汚れ検出方法においては,ガラス内を光が透過するまでは,汚 れがある場合は汚れがない場合と同じである.
しかし,指紋がある場合は,図3.5の右側に示すように,まず,その透過光の一 部が清掃ユニット側のガラスと指紋の境界面において反射される.次に,その透過 光の一部が指紋と空気の境界面において反射される.そして,残りの反射されない 光は空気中を透過していく.したがって,駆動ユニット側の空気とガラスの境界面 と,ガラスと指紋の境界面,指紋と空気の境界面における反射光が,受光部で受光 される.
指紋は皮脂[40]であり,その主成分は共に絶縁体であるグリセリン脂肪酸エステ ルの一種であるトリグリセリドと脂肪酸である[41].指紋も絶縁体であるため,空 気とガラスと同様に式(3.2)のフレネルの式により,各境界面における反射率を求め ることができる
トリグリセリドの屈折率は1.44∼1.47[42]であり,脂肪酸の屈折率は1.37∼1.43[42]
であるため,指紋の屈折率はnsebum = 1.37 ∼ 1.47と想定される.指紋の屈折率
nsebumが1.37から1.47までに変化するときの,ガラスと指紋の境界面における光の
1.36 RR
0.03
1.38 1.40
nsebum
Rglass-air
Rsebum-air
Rglass-sebum
1.42 1.44 1.46 1.48 0.035
0.04 0.045 0.05
0.025 0.02 0.015 0.01 0.005 0.0
Fig. 3.8 Light reflectance between sebum and air
反射率Rglass−sebumと指紋と空気の境界面における光の反射率Rsebum−airを図3.8に 示す.横軸は指紋の屈折率nsebumを,縦軸は各境界面における光の反射率RRを表 す.青色の破線でRglass−sebumを,赤色の実線でRsebum−airを,黒色の一転鎖線でガ ラスと空気の境界面における光の反射率Rglass−air = 0.043を示している.
汚れがない場合と指紋がある場合の比較を行う.図3.8よりRglass−sebumがRglass−air,
Rsebum−airと比較して十分に小さいため,ガラスと指紋の境界面において光はほとんど
反射されず,そのまま透過されると考えてよい.ゆえに,ガラスと指紋の境界面におけ る反射はほとんど考えなくてよい.そこで,指紋と空気の境界面における光の反射率
Rsebum−airと,汚れがない場合のガラスと空気の境界面における光の反射率Rglass−air
を比較すると,指紋の屈折率nsebumの値によらず常にRsebum−air < Rglass−airである.
また,指紋と空気の境界面は空気とガラスの境界面よりも滑らかでないため,拡 散反射の割合が増える.したがって,指紋と空気の境界面おける光の等価反射率 R′sebum−airがRsebum′ −air < Rglass−airであるため,指紋が多いほど受光量は減る.
Glass Dust Light emitting
section
Light receiving section
Enlarging
Fiber Light
Fig. 3.9 Light reflection from a glass with dust
3.2.3 ほこりがある場合
ほこりは,白い紙や布と同様に無色透明な繊維で構成されている.このため,ガ ラスや指紋とは異なり,ほこりや白い紙,布の内部には内部に多数の隙間があるの で,繊維と空気の境界面が多数存在する.
白い紙や布への入射光は,繊維と空気の境界面において反射と透過を多数繰り返 すことによって,最終的にはほとんどが拡散反射光として出てくる.これにより白 い紙や布全体としては,高い反射率を示し,その結果白く見える[37].したがって,
無色透明な繊維で構成されていて内部に多数の隙間をもつほこりも,白い紙や布と 同じ現象によって光を反射すると考えられる.
結局,図3.9に示すようにほこりがある場合の窓ガラスの清掃ユニット側では,ガ ラスを透過した光がほこり内部で反射と透過を多数繰り返すことにより,ほこり全 体と空気の境界面おける光の等価反射率R′dust−airが高くなり,R′dust−air > Rglass−air である.このため,図3.10に示すようにほこりが多いほど受光量は増える.赤い矢 印が光の等価反射率による反射光であり,太さによってその光量を示している.
3.2.4 粒子径が大きい砂がある場合
提案する窓ガラス汚れ検出方法において,窓ガラスの汚れとして粒子径が大きい 砂Bがある場合を検討する.砂Bの主成分は石英や長石等の鉱物の粒子であり,こ れらの粒子は一般に無色透明である.砂Bはほこりと同様に,内部に多数の隙間を