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カリキュラムの作成モデル

ドキュメント内 思春期における美術教育の一考察 (ページ 45-55)

第3章  思春期の美術教育カリキュラムの作成

第1節  カリキュラムの作成モデル

 第2章の「これからの思春期の美術教育の視点」をもとにして、

「思春期の美術教育カリキュラム」を作成するためには、まずそれ らの視点を総合的に捉える基本モデルを考える必要がある。

 従来のカリキュラムは、基本的には、子どもの造形的発達段階に そって、その発達段階にふさわしい教材と教授法を考案したもので

ある。

 その発達段階の捉え方は、一般的には子どもの造形的発達段階と して、幼児期の絵における無意識のなぐりがきから形態の意味づけ

(象徴期、図式期)へ、そして写実期へと進むすべての人間に共通 した発達段階と捉えられていることが基本となっている。そこには、

運動能力の発達や言語能力や知覚認識の発達のなどが絡み合うが、

美術教育カリキュラムに必要なものは、美術教育としての造形的・

視覚的発達段階の捉え方である。この造形的・視覚的発達段階の捉 え方にそってそれにふさわしい教材や教授法が考えられてきたので

ある。

 ところがこの写実期にかかり、子どもたちは大きな抵抗感を持ち 揺れる。ローウエンフエルドはこの時期の子どもたちについて「視 覚型」と「触覚型」をあげ説明しているが、ある意味においてはこ の時期、 すべての子どもに共通 の概念が分化してくると言える。

とすれば、発達段階の捉え方はこのような単線系カリキュラムでは 捉えきれないと考える。

 そこで、この発達段階の捉え方を 人間すべてに共通する発達段 階 とそれぞれの段階において すべての人がかかわる造形要素

に分けて考えてみる。

  人間すべてに共通する発達段階 は、第1章で考察したE.H.

エリクソンのライフサイクル理論[図1]をもとにした発達段階が 考えられる。なぜなら思春期においては、  過去とのつながり つ まり自分の内的な歴史の「一貫性」を意識する事によって自己のア イデンティティが獲得されるからである。

[図1] r個体発達分化の図式』

     1 2 3 4

5 6 7 8

冊 老年期 統合性

対 絶 望

壮年期 世代性

w 成人期 親離 対 停滞性

孤 立

V 思春期 アイデンティティ

宵年期 1

アイデンティティ肱散

w 学童期 勤勉性

対 劣等感

児童期 窃発性

対 罪葱感

II 幼児期 薗樺性

恥・疑惑

1 乳児期 信頼感

対 不偲感

 このエリクソンのライフサイクル論r個体発達文化の図式』に対

応して、

人間の幼児期から思春期までの発達段階を時間軸(垂直軸)とし、

それに対応する造形要素を水平軸として表すと次の[図2]のよう

になる。

 これによって、その発達のヴィジョンは、幼児期の自律性、児童 期の自発性、学童期の勤勉性、思春期のアイデンティティへとつな がり、思春期の危機に際しても、それまでのいくつかの発達の危機 をのりこえてきた時間的な流れをつかみ、そのような道を歩んだ自 分がいることを肯定し、受け入れ、大事にしながら、これから先の ことを考えることができる 自分の位置 を明確にすることが出来 る。つまり、造形的発達段階にこだわらないで本来の「人間形成」

を考えることになる。 (注1)

[図2] 発達段階

アイデンティティ   勤勉性

  自発性   自律性

造形要素 形 色 空間

 ところが、この平面空間だけでは捉えきれないものがある。つま り、それに加えて、第2章で考察した潜在的カリキュラムの存在と コミュニケーションによる学習環境を明確にする必要がある。

 潜在的カリキュラムは、 [図2]の平面の背後に隠れて見えない 部分であるが、学校における集団、賞賛、機能という三つの要素に

よる大きな影響力を持っている。つまり、その子どもの属する学級 集団の状態や生活環境、学校の教育目標に添った教師の指導や賞賛 のあり方などの権力的機能が顕在的カリキュラムに影響を与えると いうことである。たとえば、学級集団の状態が学級づくりの初期の 段階にあり、まだ互いに信頼の置けない状態であるか、かなり学級 づくりが進み、互いを認め励まし合う人間関係が出来ているかどう かによって、授業の内容は大きく左右されるであろう。また、学年 の違いによって指導されるその集団が自治的、主体的であるかどう かによって、それぞれの発達段階における行動様式が変わってくる であろう。そうすると、 [図2]の発達段階の自律性に対応する幼 児期における集団、賞賛、機能の三つの要素は、次の段階の自発性 に対応する児童期において、前段階とは変化した形で子どもの成長 に影響を与える。従って、それに続く勤勉性に対応する学童期、ア イデンティティに対応する思春期においても変化した形での影響が

考えられる。

 このように潜在的カリキュラムは、学校の隠れた権力的機能も持 っているが、逆に他の教科とのかかわりや学校の文化的な活動によ る民主的、自治的、文化的集団を作ることによって、総合的に子ど もの活動の全体性が捉えられるところであり、それによって、 [図 2]の平面にダイナミックな動きを与えるものと考える。つまり、

ここに現れる動きは、それぞれの発達段階にプラスにもマイナスに も働き、エリクソンのライフサイクル論『個体発達文化の図式』に 示された各発達段階における対立概念(勤勉性と劣等感、アイデン ティティとアイデンティティの拡散というような)の様相を呈する

のである。

 これを図に表せば、 [図3]のような空間となる。

 さらに、エリクソンのライフサイクル論の中心を成すアイデンテ ィティの捉え方には、 過去とのつながり つまり自分の内的な歴

[図3]

発達段

アイデンティティ

     勤勉性      自発性      自律性

的カリキュ

@集団 賞賛

ム機能

形 色 空間

造形要

どの 他者との交わり の中での自分の位置づけと、自分と社会と の関係の中での自分の位置づけを「空間的」に捉えるという側面が ある。 (注2)これは、次のエリクソンの『個体発達分化の諸領 域』 [図4]の中に示されている。

[図4] r個体発達分化の諸領域』

段階 心理・社会的

?機 所 産 人格的

?ヘ(徳) 重要な対入

ヨ係の範囲 糠極雛 心理・社会的s 動 様 式 儀式化の

ツ体発生 心  理・

ォ的段階

1 信頼:不信 望 み 母および母性的入間 宇宙的秩序 得る,見返りに与え

相互的認知 口唇期

Il 白律性:恥,疑惑 意 志 両親的人間 法と秩序瞬 つかまえ.はなす 着悪の区別 昭.【門期

111 ド1発性:,F悪感 目的感 核家族的人間 理想的原型

ものにする(まね 驕j,ちしく振る舞う i遊ぶ)

1寅劇的 エディプス期

1V 勤勉性:劣等憾 右能感 近隣,学校内の人間 伎術的要素

ものを准る(完成す 驕j,ものを粗み合わ ケ因み立てる

遂行のルール 満伏期

V 同.・牲:岡.・性扮:散 忠誠心

仲闘グループ,グル [プ対グループ・り 黹̲ 一一シップのモデ

知的,思想的な ォ来の展劇

1 1分になり切る(あ 驍「はなれない},他 ェが白分になり切る アとを認め合う

儒念の共同一一致 宵年期

親密性:孤立 養 情

友情における柑乎意 ッ,異性,競争・協 ヘの相手

いろいろな型の ヲ力と競争

他人の中に自己を見 oす,見失う

世代性:停滞性 r」ζ  {ゐP層塾 話 分業ともち肖liを生か キ家族

教育と伝統の種

存在を生む,世話を

キる 世代継承的認可 性器期

統創生:絶耀 知 恵 鵠人類輔 私のような 烽フ (自分らしさ) 知 恵

一『tした存在を通し ト得られる実存,非 カ在への直面

 このエリクソンの『個体発達分化の諸領域』の中の、それぞれの 発達段階に於ける「重要な対人関係の範囲」を見れば、信頼に対す

る 母および母性的人間 、自律性に対する 両親的人間 、自発 性に対する 核家族的人間 、勤勉性に対する 近隣、学校内の人 間 、アイデンティティ(同一性)に対する 仲間グループ とい うように「他者との交わり」の段階が示されている。つまり、これ は人間のコミュニケーションの発達段階である。

 乳児期に於いては、母親と子どもとの身体的な愛の信頼関係(基 本的信頼)にコミュニケーションの原初的形態が見られる。幼児期 期に於いては、両親的人間と子どもとの間の「しつけ」等によるコ ミュニケーションから自律心が育ってくるというように、 「他者と の交わり」の段階という、それぞれの発達段階に於けるコミュニケ ーションの形態の違いが示されているのである。

 コミュニケーションの本来の意味は、 「二人以上の人間が意味を 伝達し、その意味を通じて互いに共通な意味を有するようになる過 程」、つまり人間関係のコミュニケーションを指しているのである が、もう一つ重要なコミュニケーションが存在する。外界とのコミ ュニケーションである。すなわち、 「他者二外界との交わり」であ る。つまり、子どもが行動を通して外界を捉える過程で、彼をとり まく世界が「もの」と「ひと」に分化し、具体的世界から離れたイ メージの世界、記号による世界を持つようになるということである。

これは、幼児期に於ける象徴記号の獲得や、言語の獲得によりさら に内面的世界のコミュニケーションを可能にする。それによって、

子どもは感覚運動的段階(注3)に於いて獲得してきた外界把握形 式によって、それらを現実の中で「表出」する。そして「表出」さ れ現実化されたものはフィードバックされ、現実との結合の中で安 定したものとなり、またそれを基礎として新しいイメージが生み出

され「表現」として発展していくのである。 (注4)

 この過程はすでに美術教育に於いては「表現」領域であり、 [図 3]の空間から分化し発展した美術の顕在的カリキュラムの領域と して表す必要がある。すなわち、 「他者との交わり」という人間関

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