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アサジョーリのサイコシンセシス(精神統合)

である。

 マスローは、至高経験にある人の「つながり」について次のように述べてい る。「至高経験にある人は、他の場合以上に精神の統一(合一、全体、一体)を 感ずる。かれはまた(観察者から見ても)いろいろのかたちで(以下にのべる

ように)一段と統合しているようにみえる。たとえば、分離分裂が少なく、自 分に対して闘うよりもむしろ平和な状態にあり、経験する自己と観る自己との 間にずれが少なく、かれのすべての部分機能がたがいに巧妙に、台臨なく体制 化され、それが集中的、調和的、効率的である」16「かれが一段と純粋で単一の 存在になるにつれ、世界と渾然一体に深くっながることができるようになり以 前には自己でないものとも融合するようになる。たとえば、恋人たちは、たが いに緊密になって、二人の人間というよりむしろ一体となり、八一汝の一元論 が可能になり、創造者は創造している作品と一つになる。母親も子どもと一体 であることを感じ、鑑賞家は音楽や絵やダンスになりきる(そして音楽、絵、

ダンスもまたかれになる)のである。天文学者は(望遠鏡の孔を通じて、一つ の分離体が深淵をはさんで別の分離体をのぞくというのではなく)星に『夢中 になる』のである。」17

 このように至高経験にある人は、個を越えた深い「つながり」や「一体感」

を経験することになるのである。

 マスローが研究において注目したのは人間の「可能性」、特に精神的成長の「可 能性」であった。そしてその可能性の実現が進めば進むほど、人間の全体性や 個を越えたつながりの中で人間を見ていくことの重要性を指摘しているのであ

る。

間の可能性や、精神の深さ、高さには、目を向けていなかった」182.「フロイ トの体系は人格をバラバラに分解するだけで、分析されたものを統合する方法 を患者に与えていない」19という点であった。

 そこでアサジョーリは、サイコアナリシス(Psychoanalysis)=精神分析に対し て、サイ灘シンセシス(Psychosynthesis)=精神統合をつくりだしたのである。

 サイコシンセシスは「アサジョーリが1910年に発表し、60年代のアメ リカの人問性心理学やヒューマン・ポテンシャル・ムーヴメントと影響し合い ながら発展してきた、トランスパーソナル心理学の最初の枠組みともいえるも ので、人間を病的側面のみでなく、自己実現などの健全な側面からも探究して とらえ、東西の思想を統合し、宇宙の原理を踏まえた世界観・人間観に基づい た人間へのアプローチである。包括的、肯定的、統合的、実践的であり、魂、

愛、意志を取り戻した心理学ともいわれる。」20

 アサジョーリはこのサイコシンセシス(精神統合)を説明するために、,次の ような心の構造図式を用いている。21

図4 アサジョーリの心の構造図式    /帯ミ1

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1下位無意識 2 中位無意識

3上位無意識あるいは超意識(トランス  パーソナルの領域)

4 モ識の領野

5意識の中心のセルフあるいは「私」

6 トランスパーソナル・セルフ 7 集合無意識

18ダイアナ・ホイットモア著 手塚郁恵訳『喜びの教育一サイコシンセシス教

 育入門』春秋社(1990)p.i五

19トーマス・アームストロング著 中川吉晴訳『光を放つ子どもたち一トラン  スパーソナル発達心理学入門』日本三文社(1996)p.58

20ダイアナ・ホイットモア前掲書p.381

21R・アサジョーリ『サイねシンセシスー統合的な人間観と実践のマニュアル』

 誠信書房(1997)p22

1.下位無意識

(a)身体的生命を方向づけるところの基本的な心理的活動一身体的機能にお    ける賢明な調整の働き。

(b)基本的な衝動(ドライヴ)と原初的な衝動。

(c)激しい情動で充電された多くの観念複合体(コンプレックス)。

(d)下等な種類の夢と空想。

(e)下位の制御されないパラサイコロジー過程。

(f)恐怖症や強迫観念、パラノイア的妄想など、さまざまな病的症状の発現。

   フロイトの無意識に該当。

2.中位無意識

 覚醒状態にある意識領野における心理的要素と類似した構成要素から成り立 っており、意識領野への移行も容易な部分。私たちのさまざまな体験は、内側 のこの世界で同化されている。通常の精神活動や想像活動も、意識領野におい て脚光を浴びる前にこの部分で練り上げられ、一種の心理的創案の形へと発展 させられている。

3.上位無意識あるいは超意識(トランスパーソナルの領域)

 私たちが感じる高次の直観やインスピレーションの数々一芸術的、哲学的あ るいは科学的、倫理的な「命令」、および人道的な、あるいは英雄的行動へと駆

り立てる衝動などは、この部分から送られてくる。この領域は利他的な愛など の高次元の感情や、天賦の才、観想や啓示あるいは1光惚状態などの源泉である。

4.意識の領野

 私たちが自らの人格のなかで直接気づいている部分を表わす。そのなかには 感覚やイメージ、思考、感情、欲望、衝動などの絶え間ない流れが含まれるが、

私たちはこれらについて観察し、分析し、判断を下すことができる。

5.意識の中心のセルフあるいは「私」

 純粋な自己への気づきの中心点であるところ「セルフ」。ふつう自我と呼ばれ

る部分。

6.トランスパーソナル・セルフ

 5の上方に存在する永久的な中心、真実のセルフ。上方に存在し、心の流れ や身体的な条件によって左右されることはない。総合的中枢。

7.集合無意識

 ユングの集合的無意識に該当。

 「サイコシンセシスは、人間を花の種のように限りない可能性を内在させる もの、より次元の高い全体的存在へと成長し続けるものととらえ、その可能性 の開花=自己実現の促進を目指しており、そのためには、意識だけでなく無意 識の領域も含む自己の全体性に気づくことが必要であるとする。そしてその場 合、フロイトのいうような下位無意識だけでなく、〈上位(トランスパーソナ ル)無意識〉の存在をも認めたこと、さらに気づくだけでは不十分であり、気 づいたものを統合して方向づけ、日常に根づかせることを重要視したところに 特徴がある。」22

 よって上の構造図式の中で特に重要なのは、6.トランスパーソナル・セル フと3.上位無意識あるいは超意識(トランスパーソナルの領域)である。ホ リスティック教育で重視される「自己とのつながり」(第2章第12節)の「自 己」とはこの6.トランスパーソナル・セルフまたは3.上位無意識あるいは 超意識(トランスパーソナルの領域)に該当するといえる。

 「この『トランスパーソナルの領域』とは、宗教、哲学に接点をもつ部分で あり、人生の意味、成長、真善美、愛、創造性、潜在的可能性、慈しみ、英知、

無条件の愛、許しなど、生きがいや感動の根源などがあり、誰もが共感し合え、

真に触れ合える場である。真に自己実現するためには、この領域に触れる必要 があるとされ、サイコシンセシスでは、そのためのさまざまな技法が開発され

ている。」23

 以上からすると、サイコシンセシスにおいて最も重要なのは、アサジョーリ が心の構造図式に示したような心の全体性に気づき、特にトランスパーソナル な領域を探究し、つながり、パーソナリティへと統合していく過程であるとい

える。

 我々は通常5.意識の中心のセルフ(私・自我)の部分だけに目を向けてい るが、人間の精神的成長の可能性を見出そうとすれば、どうしても6.トラン スパーソナル・セルフの部分を想定する必要があるのではないだろうか。

 サイコシンセシスにおいて、トランスパーソナルな領域とつながる技法は多 種多様なものがあるが、そのうちの1つを紹介する。

22ダイアナ・ホイットモア前掲書pp.381−382 23同上書p.382

〈ダイヤモンドのイメージワーク>24

 一つのダイヤモンドを、生き生きとイメージしてみましょう。

 一つの面が、みんなキラキラと輝いて、みごとに一つの全体にまとまってい るのを見てください。

 その完壁な形を見てください。

 イメージのなかで、そのダイヤモンドを目の前において、その透明な美しさ をからだのすみずみにまで染み込ませてください。

 「ダイヤモンド」という言葉は、「アダムス」というギリシア語からきていま す。それは決して壊されることのないものという意味です。あなたのなかにも、

ダイヤモンドと同じように、決して壊されることのない部分、つまりあなたの 真の〈自己〉があります。ダイヤモンドと一つになって、自分が本来のく自己

〉とつながっていくのを感じてみてください。

 あなたの真のく自己〉は、恐れたり、落ち込んだり、日々の生活に振り回さ れたりすることによって、押し潰されてしまうことはありません。また、自分 につきまとう過去の暗い影や、襲いかかってくる悩み、将来への思いわずらい、

尽きることのない欲望、あれこれ指示する世間のしきたり、こういつたものに よっても左右されず、びくともしません。それはまさに、あなたがあなたであ るかぎり変わらないものであり、限りなくたくさんの面の輝きをもち、しかも 一つなのです。あなたがそのような真の自己であることを実感しましょう。ダ イヤモンドのイメージが薄れていくにつれて、この〈自己〉感覚が強くなり、

あなたのなかでさらにはっきりしてくるのを感じてください。

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