第 4 章 若材齢・長期挙動による初期応力を考慮した高強度 RC 柱の短期挙動解析
4.3 弾塑性構成則の定式化
4.3.1 ひずみ分解モデルの誘導とひび割れのモデル化
分散ひび割れモデルの基本特性は,全ひずみ 𝜀 を弾性ひずみ𝜀𝑒とクラックひずみ𝜀𝑐𝑟 に分解することであり,増分形式で次式のように表される。
∆𝜀 = ∆𝜀
𝑒+ ∆𝜀
𝑐𝑟(4.17) 式(4.17)の本質は,コンクリートのひび割れ部分とソリッド部分を完全に分離し,離 散ひび割れの概念に近づかせる試みと言われている[4.8]。この定式化はLitton[4.9]に より始められたとされ,多くの研究者によりその定式化が適用されている。
図-4.2 コンクリートのひび割れのモデル化方法[4.6]
(b)分散ひび割れモデル (a)離散ひび割れモデル
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ひび割れ面における応力とクラックひずみを考慮するためには,図-4.3に示すよう に,ひび割れ方向と一致する局所n, t, s座標系を設定するのが一般的である。局所座標 系における局所クラックひずみベクトル∆𝑒𝑐𝑟を次式のように定義する。
∆𝑒
𝑐𝑟= [∆𝜀
𝑛𝑛𝑐𝑟, ∆𝛾
𝑛𝑡𝑐𝑟, ∆𝛾
𝑛𝑠𝑐𝑟]
T(4.18) ここで,∆𝜀𝑛𝑛𝑐𝑟はモードⅠのクラックひずみ増分,∆𝛾𝑛𝑡𝑐𝑟, ∆𝛾𝑛𝑠𝑐𝑟はそれぞれモードⅡおよび モードⅢに対応するクラックひずみ増分である。ここでは,図-4.3に示すひび割れ面 を考慮しているので,第3の成分は物理的意味を持たず省略される。局所クラックひず み∆𝑒𝑐𝑟は,全体座標系へ次式により変換される。
∆𝜀
𝑐𝑟= N∆𝑒
𝑐𝑟(4.19) ここで,Nはひび割れ方向を反映する変換マトリクスである。同様に,各ひび割れに対 する増分クラック応力∆𝑠𝑐𝑟は次式となる。
∆𝑠
𝑐𝑟= [∆𝑠
𝑛𝑐𝑟, ∆𝑠
𝑠𝑐𝑟, ∆𝑠
𝑡𝑐𝑟]
T(4.20) ここで,∆𝑠𝑛𝑐𝑟はモードⅠ,∆𝑠𝑡𝑐𝑟はモードⅡ,∆𝑠𝑠𝑐𝑟はモードⅢのひずみ増分に対応するひ び割れ面の応力(表面応力)増分である。全応力増分と局所表面応力増分の関係は次式 となる。
∆𝑠
𝑐𝑟= N
T∆𝜎
(4.21) ここで,Nは変換マトリクスであり,式(4.19)と同様に定義される。ここで,クラック 応力∆𝑠𝑐𝑟とクラックひずみ∆𝑒𝑐𝑟は次式により関係づけられると仮定する。図-4.3 局所座標系とひび割れを横切る表面応力[4.8]
ひび割れ面
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∆𝑠
𝑐𝑟= 𝐷
𝑐𝑟∆𝑒
𝑐𝑟(4.22) ただし,𝐷𝑐𝑟は次式により与えられる。
𝐷
𝑐𝑟= [ 𝐷
Ⅰ0 0
0 𝐷
Ⅱ0
0 0 𝐷
Ⅲ]
(4.23)ここで,𝐷Ⅰ, 𝐷Ⅱ, 𝐷Ⅲは,それぞれモードⅠ,モードⅡ,モードⅢに対応する局所座標 系における剛性係数である。一般に,せん断成分と垂直成分の非対角項は,非対称にな ることや実験データが不足しているなどの理由から0と仮定されることが多い。さらに,
弾性コンクリートの構成方程式を次式として表現する。
∆𝜎 = 𝐷
𝑐𝑜∆𝜀
𝑐𝑜(4.24) ここで,𝐷𝑐𝑜, ∆𝜀𝑐𝑜は,コンクリート要素のそれぞれソリッド部分の弾性材料剛性およ びひずみ増分である。
最後に,全体座標系における増分応力ベクトル∆𝜎と増分ひずみベクトル∆𝜀の関係を 考える。式(4.17)を考慮すると,式(4.24)は次式となる。
∆𝜎 = 𝐷
𝑐𝑜[∆𝜀 − ∆𝜀
𝑐𝑟]
(4.25) 式(4.25)に式(4.19)を代入すると次式となる。∆𝜎 = 𝐷
𝑐𝑜[∆𝜀 − 𝑁∆𝑒
𝑐𝑟]
(4.26) 式(4.26)について前方から𝑁𝑇を乗じ,式(4.21)を左辺に代入すると次式を得る。∆𝑠
𝑐𝑟= 𝑁
𝑇𝐷
𝑐𝑜[∆𝜀 − 𝑁∆𝑒
𝑐𝑟]
(4.27) 式(4.27)の左辺に式(4.22)を代入し,∆𝑒𝑐𝑟について整理すると次式を得る。∆𝑒
𝑐𝑟= [𝐷
𝑐𝑟+ 𝑁
𝑇𝐷
𝑐𝑜𝑁]
−1𝑁
𝑇𝐷
𝑐𝑜∆𝜀
(4.28)第4章 若材齢・長期挙動による初期応力を考慮した高強度RC柱の短期解析
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式(4.28)により局所クラックひずみ増分∆𝑒𝑐𝑟と全体ひずみ増分∆𝜀の関係が誘導された。
これを式(4.26)に代入すると,次式に示す全体座標系における弾塑性構成方程式が導か れる。
∆𝜎 = [𝐷
𝑐𝑜− 𝐷
𝑐𝑜𝑁[𝐷
𝑐𝑟+ 𝑁
𝑇𝐷
𝑐𝑜𝑁]
−1𝑁
𝑇𝐷
𝑐𝑜]∆𝜀
(4 .29) ここまで,本論文で採用する分散ひび割れモデルのうち,ひずみ分解モデルに基づく 定式化を示した。次に,このモデルの特徴であるクラック応力とひずみを関係づける材 料剛性 𝐷𝑐𝑟の定式化について述べる。今度は,単純化のため図-4.4に示すn, t座標系 に関するひび割れ挙動のモデル化について考察する。つまり,式(4.23)のモードⅢを無 視すると,構成方程式は次式となる[4.10]。{ ∆𝜎
𝑛𝑛𝑐𝑟∆𝜏
𝑛𝑡𝑐𝑟} = [𝐷
Ⅰ0
0 𝐷
Ⅱ] { ∆ 𝛿
𝑛⁄ 𝑆
∆ 𝛿
𝑡⁄ } = [ 𝑆 𝐷
Ⅰ0
0 𝐷
Ⅱ] { ∆𝜀
𝑛𝑛𝑐𝑟∆𝛾
𝑛𝑡𝑐𝑟}
(4.30)ここで,Δ𝜎𝑛𝑛𝑐 は垂直応力増分,Δ𝜏𝑛𝑡𝑐 はせん断応力増分,Δ𝜀𝑛𝑛𝑐𝑟は開口変位増分Δ𝛿𝑛𝑐𝑟に対す る要素内の平均垂直ひずみ増分,Δ𝛾𝑛𝑡𝑐𝑟は相対すべり変位Δ𝛿𝑡𝑐𝑟に対する要素内の平均せん 断ひずみ増分,𝐷は材料剛性,Sは平均ひび割れ間隔を表している。なお,式(4.23)と同 様に非対角項は0と仮定している。
式(4.30)の𝐷Ⅰと𝐷Ⅱは,図-4.5に示す割線クラック剛性を表している。図からも分か るように,割線剛性を求めるためには,各応力-ひずみ関係の軟化曲線のモデル化が重 要であると言える。一般的に,𝐷Ⅰは破壊エネルギー試験に基づく引張軟化曲線より決 定されることから,パラメータとしては明快である。しかし,𝐷Ⅱの決定方法は実験的 な検証は少なく,ひずみ分解モデルでは弾性せん断剛性Gに低減率βを乗じることに より,次式のように仮定されている。
図-4.4 ひび割れ界面の応力と変形の定義[4.10]
n t
δt
δn
σcnt σcnn σcnn
σcnt
S
y x
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𝐷
Ⅱ=
1−𝛽𝛽𝐺
(4.31)ここで,𝛽はせん断剛性低下率,𝐺は弾性せん断係数である。一方,全ひずみモデルに 基づく共軸応力-ひずみ概念では,𝐷Ⅱの定式化はひずみ分解モデルと大きく異なる。
次節では,この定式化について詳細に述べることとする。