ここでは結び目図式Dのひずみ多項式WD(t)の性質を紹介する. Dの交点数を c(D)で表す. 次が成り立つ:
命題 2. 1つ以上交差点を持つ結び目図式Dにおいて, ( i ) WD(1) = 2c(D),
(ii) WD(−1) = 0.
証明. ( i )定義より,WD(1)はDの辺の数を表す. すなわち, Dの交点数の2倍を 表す.
(ii) 命題1より, ひずみ度ラベリングの値は偶数と奇数を交互に繰り返す. よっ て, ひずみ度ラベリングにおいて偶数の値を持つ辺の本数と奇数の値を持つ辺の 本数は等しい. ゆえに, ひずみ多項式において偶数次数の係数の和と奇数次数の 係数の和は等しいからWD(−1) = 0が成り立つ. !
Dを結び目図式とする. Dの向きを逆向きにして得られる図式を−D, Dの鏡像 をD∗で表す. Dのある基点bに対し, Dの交差点pが, Dbのひずみ交差点である ことと, −Dbのひずみ交差点でないことは同値である. それは, pにおいて上道と 下道を通る順番が逆になるからである. また, Dのある交差点が, Dbのひずみ交 差点であることと, Db∗のひずみ交差点でないことは同値である. それは,pにおい て上下の情報が逆になるからである. よって, d(−Db) = d(Db∗) =c(D)−d(Db)で あるから, 次の命題が成り立つ:
命題 3. 結び目図式Dにおいて, ( i ) W−D(t) = tcWD(t−1),
(ii) WD∗(t) = tcWD(t−1), ただし, c=c(D).
命題1から, 次も成り立つ:
命題 4. Dを結び目図式, WD(t) = nktk + nk+1tk+1 + · · ·+ nl−1tl−1 + nltl を Dのひずみ多項式とする (0 ≤ k ≤ l ≤ c(D)). このとき, nk, nl $= 0ならば,
nk+1, nk+2, . . . , nl−1 $= 0である. 命題2,命題4から次を得る:
系 5. Dを, 交点数c≥ 1, ひずみ度dの結び目図式とする. このときDのひずみ 多項式は,
WD(t) =ndtd+nd+1td+1+nd+2td+2+· · ·+nete
であり, !
m:偶数
nm = !
m: 奇数
nm =c,
nm $= 0 (d≤m ≤e)を満たす. ただし, eはWD(t)の最高次数とする.
ひずみ多項式WD(t)の最高次数と最低次数の差を幅(span)といい, spanWD(t)で 表す. 幅が1, 2, 3のひずみ多項式においては, 系5に加えて次が成り立つ:
定理 6. f(t)を多項式, a, b, c, dを整数とする. このとき,
( i ) f(t)が幅1のひずみ多項式であることの必要十分条件は,
f(t) = ctd+ctd+1, 1≤c, 1≤d≤c−1である.
(ii) f(t)が幅2のひずみ多項式であることの必要十分条件は, f(t) =atd+ctd+1+ (c−a)td+2,
2≤c, 1≤a≤c−1, 0≤d≤c−2である.
(iii) f(t)が幅3のひずみ多項式であることの必要十分条件は,
f(t) = atd+btd+1+ (c−a)td+2+ (c−b)td+3, 3≤c, 1≤a < b≤c−1, 0≤d≤c−3である.
本稿では(iii)を示す. その前に, 補題を用意する:
補題 7. 任意の整数3 ≤ c, 1 ≤ a < b ≤ c−1に対して, 多項式f(t) = a+bt+ (c−a)t2+ (c−b)t3はある結び目図式のひずみ多項式である.
証明. 図5の結び目図式Dのひずみ多項式はWD(t) = a+bt+ (c−a)t2+ (c−b)t3
である. !
もう1つ補題を用意する. 向き付けられた結び目図式のライデマイスター移動に 関する補題である:
D
a-
1b-a-
1c-b
1 1 1 3 3 3 3
1
1 1 1 1 1 1
0 0 0
0
2 2 2 2 2
2 2 2 2 2
図 5:
補題 8. Dを結び目図式, D$ (resp. D$$ )を, Dのひずみ度ラベリングの値がiの 辺で図6のように1回ライデマイスター移動Ω1a (resp. Ω1b )を行って得られる図 式とする. このとき, 次の等式が成り立つ.
WD"(t) = WD(t) +ti(1 +t),
WD""(t) = tWD(t) +ti(1 +t).
i i+1
D D'
i ,
i
i i
D D''
i+1 i+1
1a 1b
図 6:
これらの補題を使って定理6 (iii)を示す.
定理6 (iii)の証明. • c≥5,1≤a < b≤c−1, d≤c−5のとき. 図5のDに対し て,図7のような変形を考える. 図5のDには,ひずみ度ラベリングの値が規則的 に繰り返される部分が3つあるが, それらの一部分における変形である. 図7にお いて, 各矢印は, 交差点を減らすΩ1aの変形1回と, 交差点を増やすΩ1bの変形1
回を行うことを表す. すなわち,この矢印の変形は,ひずみ多項式の次数のみを変 え,各次数を1ずつ上げるような変形である. 図5のDに対して, この矢印の変形 を行うことのできる回数は,{(a−1)−1}+{(b−a−1)−1}+{(c−b)−1}=c−5 回である. よって, c≥5,1≤a < b≤c−1, d ≤c−5を満たすa, b, c, dにおいて, f(t) = atd+btd+1+ (c−a)td+2+ (c−b)td+3をひずみ多項式に持つような結び目 図式が存在する.
i i i i i
i
+1i
+1i
+1i
+1i
+1i
+1i
+1i
+1i
+1i
+2i
+2i
+2i
+2i
+2i
+2i
+2i
+2i
+2i
+3i
+3i
+3i
+3図 7:
• c≥5,1≤a < b≤c−1, d=c−3のとき.図5のDの向きを逆向きにして得ら れる図式−Dによって実現される.
• c≥5,1≤a < b ≤c−1, d=c−4のとき.図5の−Dに対して,図8のような変 形を1回行って得られる図式によって実現される.
図 8:
• c= 3, 1≤a < b≤c−1, 0≤d≤c−3のとき. 1 ≤ a < b ≤ c−1 = 2より, a = 1, b= 2. 0≤d≤c−3 = 0より, d= 0である. 図9の結び目図式Eのひずみ 多項式はWE(t) = 1 + 2t+ 2t2+t3であり,条件を満たす.
• c= 4, 1≤a < b≤c−1, 0≤d≤c−3のとき. 1 ≤ a < b ≤ c−1 = 3より, (a, b) = (1,2),(1,3),(2,3). 0 ≤d ≤c−3 = 1より, d = 0,1である. 図10の6つ の結び目図式によって上の条件を満たす全てのひずみ多項式が実現される. 以上より, c≥3, 1 ≤a < b≤c−1, 0≤d≤c−3を満たす全てのa, b, c, dに対し て, f(t) =atd+btd+1+ (c−a)td+2+ (c−b)td+3をひずみ多項式に持つ結び目図
0
2 2
3 1 1 E
図 9:
0
2 2
2 3
3 1 1
1
3 3
3 4 2 2
2
4
2
2 2 1
1 3 3
0
2
2 2 3
1 1 1
0 0
2 2
3
1 1
1
1
3 4
4 3 2 3
2
(a,b,d)=(1,2,0) (a,b,d)=(1,3,0) (a,b,d)=(2,3,0)
(a,b,d)=(1,2,1) (a,b,d)=(1,3,1) (a,b,d)=(2,3,1) 図 10:
式が存在する. !
補題8に関連して, 向き付けられた結び目図式のライデマイスター移動における ひずみ多項式の振る舞いについて述べる.
次の定理は向き付けられた絡み目図式のライデマイスター移動に関するものであ り, Polyakにより[6]の中で示されている:
定理 9. ([6]) D, D$を, 向き付けられた絡み目Lの図式とする. このとき, DとD$
は平面のイソトピーと図11の4つのライデマイスター移動Ω1a, Ω1b, Ω2a, Ω3aの 有限列によって互いに移り合う.
1a 1b
2
a
, , ,
3
a
図 11:
Ω1aとΩ1bにおけるひずみ多項式の振る舞いについては補題8で既に述べた. Ω2a
とΩ3aについては,次が成り立つ:
命題 10. Dを結び目図式, D$を, Dのひずみ度ラベリングの値がiとjの辺で図 12のように1回ライデマイスター移動Ω2aを行って得られる図式とする. このと き, 次の等式が成り立つ.
WD"(t) =WD(t) + (−1 +t2)WE(t) + (1 +t)(ti+tj),
ただし, Eは図12に示されたDの部分のことであり, WE(t)とは, Eの全ての辺e におけるti(e)の和のことである. ここで, i(e)とは辺eにおけるひずみ度ラベリン グの値のことである.
j+1
i j+2
i+1 i
i+2 j
j
D E
E
D'
2 a
図 12:
命題 11. Dを結び目図式, D$を, Dから図13のように1回のライデマイスター 移動Ω3aによって得られる図式とする. このとき, 次の等式が成り立つ.
WD"(t) = WD(t) +ti−1(1−t2).
i i
i i i+1
i-1
D D'
3
a
図 13: